じゃあ、実際にマンガを描いてみよう!その5~ネーム編~



※ この記事は2015年に旧ブログに書かれたものを幾つか手直しして2025年に移行した記事です

 今週は割と余裕があって、木曜の段階で大体の作業は終わっていました。
 というのも……日曜の夜から下描きの作画を始めないと来週の日曜までに終わるワケがないスケジュールなので、この土日の朝には背景用の写真を撮りに行かなきゃならなかったんですね。そのため、最悪でも金曜日までにはネームが終わってなくてはならず、今週は前倒しで作業を進めました。
 ほら、私『Splatoon』でもアリ派でしたし!しっかり準備して行動する派なんですよ!(先週のことはすっかり忘れた)


マンガは描ける!絵が描けない人でも


1.企画を立てる
2.プロットを考える&シナリオを書く
3.コンテに起こす
4.キャラクターをデザインする
5.ネームを描く←今週はココ!
6.下描きをする
7.ペン入れをする(前編)
8.ペン入れをする(後編)
9.消しゴムをかける&修正する
10.ベタを塗る
11.トーンを貼る
12.スキャンしてセリフを入れて完成!



 この連続企画記事では「過去に自分が描いてきた作品」を例として見せて、その後に「リアルタイムに自分が作っている『おっぱい泥棒vs.うんこマン(仮題)』の現在状況」を見せるというテンプレで書いてきました。
 しかし、今週のお題となっている「ネーム」は今までの記事にもチョコチョコと載せてきちゃいましたし、私「ネームの描き方」だけはマンガを描き始めた頃からずっと変わっていないんですね。過去と今の変化みたいなのがほとんどありませんし、更に言うと私の「ネーム」って「完成原稿」とほぼ同じなんで「ここが変わったんだ」みたいな面白みはあんまないんですね。


 それは私の“「ネーム」の描き方”の特徴でもあるんですけど……
 なので、今週は「ネーム」が出来上がっていく過程を見せていけれたらなって思います。


 今回は5週目の「ネームを描く」です。

【使用する道具】
・A4のコピー用紙
・鉛筆、消しゴム、大きめの定規
・描き終わったネームを入れるファイル


 「ネーム」はノートなどにササッと描いてしまう人もいるのですが、私の場合は1枚1枚コピー用紙に描きます。
 その理由は二つあって。一つ目は、こうすることによって例えば「12ページ目だけ丸々描き直そう」と1ページごとに差し替えることが可能という理由。もう一つは、原稿用紙と同じ大きさに描くことで「フキダシの大きさ」「フキダシの位置」「キャラの位置」などのレイアウトを厳密に決められるという理由です。



 まずは、本番で使う原稿用紙のサイズの話からしましょうか。



 ちょっとややこしいのですが……
 マンガの原稿用紙には大きく分けて2種類あって、A4版とB4版があります。この「A4」と「B4」というのは「紙の大きさ」で、コピーをする時とかファイルに収納する時にはこのサイズのものを選ぶ必要があります。
 ただ、この「A4」や「B4」の紙の「描ける部分=基本枠」はその中の一部なので、例えば「A4版」の原稿用紙には「B5原寸本用」という表記があって、A4なのかB5なのかどっちなんだよ!!と混乱の原因になったりするのです(笑)。


 これから初めてマンガを描く人は「どっちを手に取ればイイのか分からない」でしょうから、用途とかメリット・デメリットを簡単に書いておきましょうか。

【A4版】
○ 同人誌などで印刷所に出すのはこちら(らしい)
○ 一般的な家庭用のスキャナーでもスキャンできる
○ ちょっとだけ安いので、ペン入れの練習用などにも向いている
× 小さいので細かい絵を描くのが難しくなる(から私は苦手)

【B4版】
○ 出版社などに投稿・持込をする時にはこちらに描く
○ 大きいので画面いっぱいに描ける
× 一般的な家庭用のスキャナーでは、そのままではスキャンできない
× ちょっと高い


 私は今回、最終的には「B4の原稿用紙」に描くつもりです。



 ちょっと見えづらいかと思いますが……「B4の原稿用紙」の中で、マンガを描ける「基本枠」は鉛筆で囲ったこの部分だけなのです。これより外側は“タチキリ”という部分で、そこは印刷した際にバッサリぶった切られるかも知れないから重要な絵やセリフは描いてはならないと言われています。

 例えば、ジャンプで読んでいた時には膝までしか載っていなかったものが、単行本では足首まで載っていた―――みたいなこともあります。「基本枠」の外側はどこで切られるのか分からないので、しっかりと描かなきゃならないのだけど、重要なものは描いてはならないのです。


 他の人の作品を具体例で見せると色々アレなんで、私の作品を“例え”として使います。


 これが実際の「B4の原稿用紙に描かれた」姿です。
 「基本枠」の中にフキダシなどは収めていること、その外側にも絵を描いてはいるけど重要なものは描かないようにしていることが分かるかと思います。

 投稿や持込はこのままでイイのですが……
 WEBにアップロードする際、我が家のスキャナーはB4の原稿用紙はスキャンできないので「コンビニでB4のコピー用紙にコピー」→「裁断機でA4に裁断」→「A4でスキャン」しました(※1)

(※1:今書きながら思ったんですけど、最近のコンビニにはスキャン機能もあるはずなのでSDカードを持っていってそこでスキャンした方がイイんじゃないかと今更ながらに気付きました。今度試すかも……)



 そうしてスキャンしたのがこちら。
 B4→A4に裁断されたので、この時点で描いた絵も随分と削られちゃったことが分かると思います。



 しかし、実際に電子書籍として使われたファイルは更に下部が削られています。こちらはパブー版。「必要な絵は基本枠の中に収まっているんだから基本枠が大きく表示された方が文字も読みやすいだろう」と考えて、私がそうしたのですが。



 キンドル版は更に縦が狭いです(笑)。
 これは、2013年当時の私が色々あって先にキンドル版を作ったことに理由があります。「キンドル端末で読むのに一番しっくり来た縦横比率」を考えてこうしたのだけど、キンドル版は当時出版できず。そこから出版しようとしたパブーは縦横比率があちらで決まっているため、それに合わせて縦を広げたという。


 これは極端な例かも知れませんし、そもそも自分でスキャンして自分でタチキリ部分をぶった切っているのですが……紙で印刷される本の場合は、印刷所の判断で「雑誌」と「単行本」でどこで切られているのかが違っているケースはあると思います。「雑誌」→「単行本」と読み比べて「こっちの方が広くまで載っている!」と思ったこともありますし、作者は外側までしっかり描いているのにいずれにせよぶった切られちゃうもんなんだなーと思ったこともあります。




 話を戻しましょう。
 「B4の原稿用紙」と言っても全部が載るわけではなくて、載るのは基本的に「基本枠の中だけ」なんです。だから、私は「ネーム」を描く際に「B4の原稿用紙の基本枠」と同じサイズの枠をA4のコピー用紙に描いて、その中に「ネーム」を描くことにしているのです。


 こんなカンジ。




 トレース台で見てみると、こんなカンジ。


 ここに「ネーム」を描けば原稿用紙と同じ大きさになるので、下描き時にネームを原稿用紙にトレースすれば「フキダシの大きさ」「フキダシの位置」「キャラの位置」などのレイアウトをそのまま原稿用紙に移せるのです。



 先々週に描いたコンテの1ページ目です。
 基本的にはこれを大きくコピー用紙に描いていくだけなのですが……実際のセリフを載せてみてフキダシがどのくらいの大きさになるのか、右のコマをこれくらいに描くと左のコマはこれくらい小さくなるけど大丈夫か、ここにキャラの顔を置くと読者の視線はこう動くからフキダシの位置を5mm下げた方がイイんじゃないか、などなど、実際と同じ大きさに描いてみて画面に収まるかどうかを調整していく作業になります。



 『マンガは描ける!』を読んでくださった方なら分かると思いますが、私は絵が描けません。なので、ネーム時点の絵なんてこんなもんです。何度も描いては消して、位置を調整し直してまた描いてを繰り返すのですから、1つ1つの絵を真剣に描いている余裕はありません。絵は来週の自分がちゃんと描いてくれるはずだ!と思ってササッとラフに描いただけのネームになっています。

 ただ、表情だけはデフォルメされていてもちゃんと描くようにしています。
 これは来週の自分のため。詳しくは来週描きます。

 コマ自体は定規を使って描いてはいませんし、コマ間の余白もテキトーに描いていますが……本番だと、私は「横に並んだコマ間の余白」は4mm、「縦に並んだコマ間の余白」は8mmで描くので、それを意識してこの時点でも縦の方を広くとっています。






 時間がないので手短に済ませますが、「視線誘導」についても。

 「視線をどう動かすのか」は読者によって違いますし、もっと言うと「読者がどのくらい時間をかけて読んでくれるのか」によって違います。
 持込をした時の編集者さんに言われたことがあるんですけど……週刊誌の編集者さんには「ウチの雑誌は電車の中なんかでササッと読まれる雑誌なので、読者はフキダシを読まないものだと思ってください」と言われ、月刊誌の編集者さんには「ウチの読者は年齢層が高いのでセリフで説明するのもこのくらいなら大丈夫です」と言われ、どこに載るかによって読者は変わるし、読者によって読み方は変わることを知りました。

 だから、WEBで発表すると言っても、「電子書籍で発売する」のならじっくりと読んでくれる人が多いでしょうが(買ってくれるまでのハードルが高いですけどね)、「Twitterに載せる」とか「ブログに載せる」とかならササッと読まれてしまって思ったように視線を誘導できないということもあるのかなと思います。


 ここがマンガの難しいところでもあるし、面白いところでもあります。




 私が勝手に考えている理論なんですが……
 私は、読者は「まずフキダシを見る」「そのセリフを喋ったキャラを見る」「そのキャラがどこを見ているのか見る」と考えています。“キャラの視線”に“読者の視線”も引っ張られるというのが、私流の“視線誘導”の考え方です。

 なので、まずこの1コマ目は、「私……怖いです」のセリフ→それを喋った女のコ→その女のコの視線、と読者の視線を縦に動かしているのです。
 んで、そこから視線を上にあげて警部の顔にたどり着くまでに“間”が生まれ、女のコのセリフに対する警部の返事が遅い=女のコの不安がその分だけ煽られることを狙っています。

 次に警部の顔を見てもらって、視線のすぐ先に「ハイ」というセリフ→その下の「そろそろ犯行予告時間ですね」のセリフと、ここは“間”を作らずに視線をスムーズに下にさげておいて―――2コマ目に向けて視線が縦に動いたところで、「予告状 ドーン」のコマで視線をここに留めさせてこのコマに“強調”を感じさせることを狙っています。



 この調子で全部のコマの演出意図を書いていくのもそれはそれで面白そうですが、時間が足りないのでこの辺で(笑)。
 読者の視線をどう動かすのかがマンガというメディアの一番面白いところで、これによって“間”も生まれるし、“スピード感”も生まれます。映画と違って“時間”の概念がないマンガなのに、1枚の紙にどう絵やセリフを配置するかだけでこうしたものが演出できるなんて、すごいことだと思いませんか!だから私、マンガを描くのが大好きなんです。

 だから、例えばさっきの1コマ目で言えば、警部の「ハイ」のフキダシの位置はここに置くか、やっぱりこっちか、いやいやこっちがイイだろうと二転三転しました。
 コンテを見てもらえれば分かると思いますが、コンテにはこのフキダシなかったんです。読者の視線をどう動かすのかという演出のためにネームの段階で足したのです。たかが「ハイ」というセリフなんですが、ここにこんな作者の狙いが込められているんですね。




 次に「見開き」の描き方。
 1ページ目は1ページ目単体ですが、2ページ目以降は「見開き」で読まれることを一応想定して描いています。ブログに載せる分には関係ないんですけどねー。

 そのため、ネームの時点で2枚のコピー用紙をセロハンテープでくっつけて描くようにしています。





 これが2ページ目・3ページ目の「コンテ」です。
 「コンテ」を「ネーム」に変換する際に、まずとっかかりにするのは「描かなければならないものを優先して置いていく」ことです。例えば、セリフは「これを削ったら話が通じなくなる」ものが多いでしょうからそこから置いていくとか、このページはキャラの絵を大ゴマでドカッと見せたいんだという時はそこから置いていくとか。

 「ネーム」は1コマ目から順番に描いていくんじゃなくて、「1ページごと」「見開きごと」の全体のバランスを考えながら、トータルで描いていくものなんです。




 ちょっと分かりづらいかも知れませんが、2ページ目はコマ割が「コンテ」の段階から変更になっています。これは「1ページ目とコマ割が似ている」ため、視線の動きが似たようなものになってしまうことを危惧したのです。
 んで、変更にあたって最優先にしたのは2ページ目の最後のコマ。読者の視線の動きと、おっぱいを掴む腕の動きが一致することで出る“スピード感”は大事にしたかったので、2ページ目の「ネーム」はまず最後のコマから描きました。その次に、その前のコマ。

 んで、残りを考えたら、1コマ目と2コマ目の位置を変えれば、女のコの視線をタチキリ方向に持ってくることで“間”を作れるな―――ということで、このような形になりました。

 3ページ目は「コンテ」のまんまなんですけど、「コンテ」に書かれている「コマの横幅を広げる/狭める」という指示は無視しました。実際にセリフを載せてみるとそんな余裕はなかったですし、このページで大事なのは3コマ目のパンプキンパイが壁を昇っているシーンで、ここで読者の視線を上方向に持ってくることだと思い、3コマ目の大きさはそのままにしました。



 狙っている視線誘導としては、こんなカンジ。
 1ページ目は「縦の動き」で“間”を作ることを目指したのに対して、2ページ目は「横の動き」で“緩急”を付けることを目指した配置になっています。それは単にコマ割が違うというだけでなく、「フキダシの位置」「キャラの位置」「キャラの視線」などでそう演出しているのです。

 2ページ目の最後のコマから3ページ目の最初のコマに移る時にも視線は縦に動くので、ここにも“時間経過”が生まれます。ページをまたいだ演出は「ページめくり」が基本ですけど、ここのように「見開きのページをまたぐ際の視線が縦方向に動く時間」も演出に使えるのです。



 マンガの「視線誘導」については、以前このブログで記事に書いたことがあって。
 その際に自分が用意した画像が、とある中学だかの美術の授業で使われていた―――という話を人づてに聞いたことがあります。漫画家は肌感覚でこれが出来ちゃうので理論立てて「ここにこういう演出意図があるんだよ!」なんて説明を自分でしたりはしないのですが、マンガを描いたことがない人・これから描こうとしている人にとっては役立つ情報かも知れないなと思い、今回また「視線誘導」についての話を描かせてもらいました。

 今回の記事も、またどこかの学校の授業で使われたら嬉しいですね。
 「ここのコマとここのコマのつながりは、読者の視線の動きとおっぱいを掴む腕の動きを一致させることで“スピード感”が生まれているんです!」みたいな。うん、ごめん。もうちょっとマトモなマンガを描けば良かったです(笑)。



 出来上がったネームは、100円ショップなんかで買ってきたファイルに入れて終了。


 ということで、来週が間違いなく一番大変な「下描き」です。
 大人になったら夏休みの宿題なんてなくなるのだと信じていたのに!!

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