
<画像はテレビアニメ『たまこまーけっと』最終話より引用>
※ この記事は2013年に旧ブログに書かれたものを幾つか手直しして2025年に移行した記事です
※ この記事はテレビアニメ『たまこまーけっと』全12話のネタバレを含みます。閲覧にはご注意下さい。今日の記事は『たまこまーけっと』のストーリーの核心部分、“結末”についてまで語るつもりです。「まだ最終回観てないよー」という人はもちろん、「作品自体観たことがないのだけど今から観ようか迷っています」という人も今日の記事は読まない方がイイと思います。推理小説の犯人を知ってから読むようなものですからね。
さて、『けいおん!』アニメのメインスタッフが再集結して作った完全新作オリジナルアニメーション『たまこまーけっと』ですが……最終回まで終わって、自分の感想としては「自分は大好きです!」が「分かりやすいカタルシスが少ないから『けいおん!』ほど万人にオススメってワケでもないかなぁ」というところです。
まぁ……『けいおん!』もね、別に分かりやすいアニメだったワケじゃなくて。
あの物語の中に「成長物語」を読み取る人もいれば、「何も起こらない日常アニメ」と受け取った人もいて。“分かる人はより深く、分からない人でも何となく”楽しめる路線ではあって。
『たまこまーけっと』はそこから更に“分かる人は『けいおん!』の先にあるものが見えて、分からない人には『けいおん!』の劣化コピーにしか見えなかった”のかなぁとは思うんですね。より難度が上がってしまったというか。
ネタバレ防止のための行数は稼いだんで、そろそろ本題を書きます。
『たまこまーけっと』の主題は「恋愛」です。
エブリバディ・ラブズ・サムバディ。『けいおん!』では決して描かれなかった(描くことが許されなかった)「恋愛」を描くことに挑戦したのでしょう。
そもそものスタートが、デラが「この娘は私に惚れている」と勘違いするところから始まるスタートですし。登場人物の多くが「誰かに片思いをしている」ように配置されています。もち蔵はたまこのことが好きで、みどりちゃんもたまこのことが好きで、あんこは柚季くんのことが好きで、デラは史織さんのことが好きで、チョイは王子のことが好きで、清水屋さんはさゆりさんのことが好きで―――――
みんな、誰かに恋をして楽しそうで、そしてちょっと苦しそうで……
言ってしまえば「報われない恋」の甘さと苦さを描いていた作品なんです。『けいおん!』のキャラクター達が紅茶を飲んでいたのに対して、『たまこまーけっと』のキャラクター達がコーヒーを飲んで「苦っ」と言っていたのもその象徴なのかなと思うのです。
苦しいけれど、私達は誰かに恋をしてしまう――――
(関連記事:「誰かを好きになるって楽しいね!」――『たまこまーけっと』が描いているもの)
しかし、たまこだけは違うんです。
この作品世界において、北白川たまこだけは特別な存在なんです。
それは別に最終回で取ってつけたような設定だったワケでもなくて、4話の時点であんこやみどりちゃんから「(恋愛に対して)とてつもなく鈍い」と指摘を受けていましたし、2話の時点でみどりちゃんに「(誰かを好きになってバレンタインチョコを渡すことは)一生ムリかもね!」と言われていました。
「エブリバディ・ラブズ・サムバディ。誰かが誰かを好きになる。いつか誰でも恋をする」というこの作品世界の中で、唯一“恋愛至上主義を超越したキャラクター”としてたまこは描かれていたんです。
「娘よ。王子の妃と言われる方が普通は喜ばしいことなのだぞ」
「うん……でも、そんな降って湧いた話。
このメダルはね、私が小学生の頃からコツコツ貯めたカードでもらったものなんだよ。
私にとっては、こっちの方が嬉しいことだよ。」
たまこが“何”を大切に生きているのか――――
たまこがポイントカードと金メダルに執着するこの話、一見すると「このアホの娘は変なものを大切にしてんなー」としか思えないかもですが。「小学生の頃から」というのは多分、「お母さんが死んでから」という意味なんです。
毎朝5時に起きて、もち作りを手伝って、朝ごはんを作って、学校に行って、部活をして、帰りに商店街で夕飯の買い物をして、店番をして、夕飯を作って、妹の面倒も見て―――母親が死んでから、色んなものを背負って、それでも笑顔で楽しく毎日を生きてきた、そんな彼女の自分への御褒美が“あの金メダル”なのだから。
彼女にとって一番大事なものはそんな風に「今まで過ごした毎日」で、「恋愛」よりも「王子の妃になること」よりももっともっと大事なことなんです。
「この商店街ね、毎日がお祭りみたいに賑やかで。
だから私、全然寂しいなんて思わずに済んだんだ。
ここで良かった、って。
ここに生まれて。育って。だから、私……」
たまこ以外のキャラクターで「恋愛」を描いてきたこのアニメなのに、
いや、たまこ以外のキャラクターで「恋愛」を描いてきたこのアニメだからこそ、
最後に「恋愛以上に大切なものがある」というたまこを描くことで―――それまで頭の中が浮ついたことばかりで「恋愛至上主義」を突き進んでいたデラが、最後の最後に「恋愛以上に大切なものがある」と走り出すのが熱いんですよ!!
このアニメの中で、少しずつだけどみんなちょっと変わりました。
みどりちゃんも、史織さんも、あんこも、もち蔵も、チョイも。
役立たずで賑やかしにしかなっていない回も多かったけど、みんなが成長した裏にはデラの存在があったはず。
でも、一番変わったのはデラでした。
最後の最後に、自分の立場も使命も恋愛も全部ブン投げて、たまこの幸せのために走り出すあの姿はやっぱりカッコ良かったし、グッと来るものがありました。デラは「俺達」だったから。情けなくて役立たずな「俺達」が誰かのために走り出すのは、やっぱりグッと来るんですよ!
第1話では「旅立つ」と言いながら旅立たなかったデラが、最終話で旅立つ―――ということからも分かるように、デラはこの1年間で変わったんです。それはたまこを始めとする、この商店街の人々との物語があったから。
(関連記事:脱『けいおん!』―――『たまこまーけっと』の“鳥”が担う役割とは)
そういう意味では、『けいおん!』アニメ1期最終話の「あなたにもきっと見つかるから」に負けず劣らない素晴らしい最終回だったと思うし。心の底から『たまこまーけっと』大好きだーーーー!と叫びたいのですが。
ただ、「こういう角度で観ると『たまこまーけっと』が何を描いていた作品かが分かるよ」と書かなくてはならないのも仕方ないと言ってしまうくらい、ちょっと………キャラ配置に失敗している感があったのも確かです。せっかくのオリジナル作品なのにその辺の徹底っぷりに欠けていたのは勿体ないと思いました。
うん……あんまりこういう表現をするべきじゃないかも知れませんが。
遠まわしに書いても仕方ないんで、思い切って書きますよ。
かんなちゃんって何のためにいたの?
誤解なきように断っておきますと、「かんなちゃんは魅力のないキャラクターだった」という意味じゃないですよ。
むしろ逆で、ものすごく個性的で、ものすごく魅力的なキャラクターだったと思います。
シニカルでマイペースで冷静なツッコミができて面白いことが好きで、そして実は誰よりも友達想い―――一見すると綾波レイ系列のテンプレキャラに見えそうで、全然違う、「かんなちゃんしかいないキャラクター」になっていたと思いますし。私も『たまこまーけっと』の全キャラクターの中で、一番かんなちゃんが好きでした。
だから、「きっと終盤にかんなちゃんが重要な役割を担うに違いないぞ!」と思いながら観ていて、何もなくて、ズコーッとしてしまったのです。
「好きなキャラに見せ場がなかったから文句を言っている」ワケではなくてね……
たまこ以外のキャラクターがみんな「恋愛」をしているからこそ、最終回にたまこが「恋愛以外」を選ぶことにカタルシスが生まれるという論理から言うと―――かんなちゃんの存在ってちょっとマズイのですよ。だって、かんなちゃんもたまこ同様に「恋愛」をしていないのだから。
WEBラジオやブルーレイ特典になっているラジオドラマで、バレンタイン回の後日譚としてかんなちゃんは「バレンタインチョコは父親にあげた」と言うシーンがあります。たまこと一緒ですよね。つまり、かんなちゃんもまた“恋愛至上主義を超越したキャラクター”だったんです。
だから自分は、これは終盤に「かんなちゃんが誰かを好きになるエピソード」か「かんなちゃんが誰かを好きになった過去のエピソード」が入るに違いないな!と思っていました。
そうすれば、たまこだけが「恋愛以外」を選ぶという一層のカタルシスが際立ち、デラの激走ももっともっともっと熱いものになったと思いますもの。
もちろんそういうエピソードはありませんでした。
いやいや、「かんなちゃんが誰かを好きになるエピソード」や「かんなちゃんが誰かを好きになった過去のエピソード」は置いておくとしても―――かんなちゃんがどういうキャラクターかというと、「誰が誰を好きになってもイイんだよ」のセリフに集約されるワケですよ。
恋愛に無頓着で激鈍チンなたまこと違って、その辺の感受性は鋭く、みどりちゃんがたまこのことを好きだと分かっていながら何も言わずに傍にいてあげるようなキャラだったのだから。
もうちょっとこの辺も活かして欲しかったなーと思うのです。それこそ、チョイが何故あんな行動を取ったのかを説明するのに、かんなちゃんというキャラを使うのも手だったと思うんですけどねー。
こういうサブキャラの使い方を比較しちゃうと。
『けいおん!』1期のラストでムギちゃんに見せ場を作って、「あー、このアニメはムギちゃんの物語だったんだ……」と思わせてくれたのって、やっぱり凄かったんだなと思います。
(関連記事:『けいおん!』アニメで琴吹紬が担っていた役割を想う)
ということで……自分としてはキャラクター達のことをすっかり好きになってしまったし、このアニメが描こうとしたものにグッと来たし、何よりも『けいおん!』スタッフが『けいおん!』よりも先にあるものを目指そうとしてくれたことが嬉しかったし。大好きなアニメでした!と、心の底から叫べるのだけど。
それ故に、「惜しい!」とか「ここがこうだったら……」と思わずにはいられないところも多かったアニメでした。「人気が出たら2期をやるつもり」の作品だったんですかね、かんなちゃんとかチョイの描写には「続き」を感じなくもないですし。
……と思ったら、ノベライズが出るのか!
しかも、4月8日って来週月曜日かよ!
絶対買うけど、この発売日の近さ……エイプリルフールのネタじゃないよね(笑)。
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