
<画像はテレビアニメ版『けいおん!』最終話より引用>
※ この記事は2009年に旧ブログに書かれたものを幾つか手直しして2025年に移行した記事です
※ この記事はアニメ版『けいおん!(1期)』全編及び、原作漫画版『けいおん!』第2巻までのネタバレを含みます。閲覧にはご注意下さい。まだまだ『けいおん!』話を続けますよ!
先月に『けいおん!』アニメが放送終了してしまったので、その虚無感を埋めるべく、原作漫画版を購入して読みました。これがかなりの衝撃。
「うんたん」とか「萌え萌えきゅーん」とか「あったかあったかー」とかはもちろん、アニメ版の1本の線になっていた“それぞれが軽音部の仲間になっていく過程”がほとんどアニメ版オリジナルだったことに驚きました。バイトも花火も梓の涙も、原作にはないのですよ!
なるほど……
「アニメが面白かったから原作買ってみたけどイマイチだった」みたいな話をアニメ放送中から目にしていましたが、そういうアニメ版オリジナルの要素が好きだった人からするとそう感じてしまうのも仕方ないですかね。原作は4コマ漫画なので、描写が淡白に見えてしまうところはあります。
個人的には原作も大好きで、既に10回くらい読み返している程なんですけどね。
自分は「原作漫画→アニメ」という順で観ると「俺の好きだったシーンが削られている!」「余計な演出足すんじゃねえよ!」と悪いところを探してしまうので、好きな漫画がアニメ化されても観ないのですが。
逆に「アニメ→原作漫画」という順で観ると、「この素材をあんな風に料理したのか!」「このシーンはアニメでは使われなかったけど好きだ!」と良いところ探しが出来るのです。なので『けいおん!』は原作も楽しいです。律が澪に勉強教えてもらう話が好きでした。
さて……ここからが本題。
アニメ版の『けいおん!』を観てから原作漫画の『けいおん!』を読むと、「え?あのシーンもあのシーンもアニメ版オリジナルだったの!?」と驚いてしまう―――と、先ほど僕は書きました。
しかし、裏を返して考えてみれば。
アニメオリジナルで付け足されたシーンにこそ、アニメスタッフがこのアニメで描きたかった“何か”があったのではないかとも思うのです。
そこで今日はこのテーマですよ。
琴吹 紬―――彼女こそが、『けいおん!』アニメにおいて“視聴者目線”の役割を担っていたキャラだったのではないでしょうか。
『けいおん!』は、回によってシーンによって“視聴者目線”を切り替える手法のアニメでした。
1~2話では、音楽素人の唯が“軽音部の仲間”になっていく様を描き。4~6話では、澪が葛藤を乗り越えて“軽音部の仲間”になっていく様を描き。9~10話では、軽音部の中身に失望した梓がそれでも“軽音部の仲間”になっていく様を描いた―――
といったカンジで、視聴者が感情移入できる対象を切り替えながら物語を紡いでいきました。
それぞれのキャラに「メインの回」があったと言い換えた方が分かりやすいですかね。そうした回を通じて、軽音部の絆が描かれていったワケです。
でも、紬にはメインの回がありませんでした。
憂にすらあったというのに!(7話のことね)
5話「顧問!」で「実は紬はさわ子先生のことが……?」と描かれた時は「紬メイン回キター!」と思ったのですが、それはフェイクで。実は紬はさわちゃんと唯がイチャイチャしている様を眺めながらハアハアしているだけで、物語の焦点としてはそれに戸惑う澪とそうして生まれた『ふわふわ時間』の歌詞に当たっていました。
(関連記事:『けいおん!』こそ、自分が求めていた百合アニメなのかも)
そうした視点で見ると「紬って冷遇されていたんじゃ…?」と思われかねませんが、僕はそう思わないよというのが今日の記事。
唯・澪・梓にはメインの回が用意されていて、“軽音部の仲間”になっていく過程が描かれていた―――というのは先ほど書きました。紬にはこれがなかったと思うんですけど、逆に言うと最初から紬は“軽音部の仲間”になっていたんですよね。
律澪の漫才を見た時か、3人でファーストフードに行った時か、唯のギターのためにバイトをした時かは分かりませんが(全部という気もする)。早い段階から、紬は誰よりも軽音部のことを想い、誰よりも“軽音部の仲間”を大事にしているように描かれていました。
今思えば、第4話「合宿!」の回―――
ちっとも練習しない唯と律にイラだち、澪が合宿を提案。でも、合宿に来たはずなのに早速遊びに出かけてしまう唯と律を見て、「こんなんで大丈夫なのか……」と途方に暮れる澪、そこに紬の「大丈夫だよ、私たちなら…」の台詞。
最初このシーンを見た時は、すげー違和感があったのですよ。
何せこの回は澪が視聴者目線になっていたので、自分も澪と一緒になって「唯も律も練習しなくてけしからん!」と思っていたもので(笑)。紬に「大丈夫」と言われても、「ホントかよ。いい加減なこと言うなよ」とまで思ったのですが。
でも多分、紬はこの時点で既に分かっていたんでしょうね。“軽音部の仲間”の可能性を。
ちなみに。この後の花火のシーンから文化祭のステージまでで澪は“軽音部の仲間”となっていき―――その澪が、後々の9話で梓を導くワケです。つまり、紬がいたからこそ二人は“軽音部の仲間”になれたんだよ!!(ナンダッテー)
続いて11話―――
澪と律がケンカをしたことで律が部活に来なくなった(と思われていた)シーンで、さわちゃんが「律っちゃんの代わり」を探すことを提案。すると、即座に紬が「律っちゃんの代わりなんていません!」と反対する場面があります。
これも最初は驚いたのですよ。「この台詞、紬に言わせるんだ??」と。
というのも……この前の9~10話は梓メインの回で、「なんだこのやる気のない部活は」と幻滅していた梓が次第に“軽音部の仲間”になっていく過程を描いていたので。ここで「律先輩の代わりなんていません!」と梓に言わせることで梓物語を完結させるのかな、と思ったのです。
まー、実際にはそれは12話(最終話)の「唯先輩がいないのなら辞退するべきです!」に取っておかれたワケなんですが。11話の時点ではそれを知らなかったので驚いたのです。梓でも唯でもなく、紬にそれを言わせるのかと。
と、ここらでようやく自分は「紬こそがこのアニメの“視聴者目線”だったのかもなー」と考えるようになったのです。思えばずっと紬は軽音部の仲間を“見る”役割でしたからね。律と澪がケンカをし始めたのも、梓が心を開きつつあったのも、唯がレスポールを欲しがっているのも、ずっと紬が見てきたんですものね。
そして、極めつけが12話(最終話)―――
作中最後のステージが終わり、「終わってしまう」寂しさを、視聴者も登場人物も感じた時。紬が演奏を始め、仲間も続き、「もう1回!」と最後のライブを始めるという。まぁ、今考えるとキーボードだからその役割だったという気もしますけど(笑)。
軽音部の一員として、一番近いところで軽音部の仲間を見つめ、軽音部のために行動し続けた紬こそが―――このアニメの“視聴者目線”だったのかなぁと思いました。
“視聴者目線”という言葉が合わないのなら、“語り部”でも良いかな。
アニメ『けいおん!』は琴吹紬が紡いでいた物語だった―――と言われても自分には違和感がありません。
「実はアニメ『けいおん!』は琴吹紬が病院のベッドの中で、もしも元気に高校に通えていたらと夢見て妄想した話だったんだよ!」と言われても、違和感はないけど哀しいです。
ちなみにこの3つのシーン―――
・紬が澪に「大丈夫だよ」と言うシーン
・紬が「律っちゃんの代わりなんていません!」と反対するシーン
・文化祭のステージ終了後に、紬が演奏を始めてしまうシーン
全部アニメオリジナルなんですよ。原作にはこれらのシーンはないんです。
だから、原作漫画を読んだ時、紬の立ち位置に一番驚きました。原作の彼女は「お嬢様」で「百合が好き」で「怒ると怖い」、どっちかというとマンガマンガしたキャラで。アニメではどっちかというと等身大に描こうとしていたんだなと思ったのです。
「怒ると怖い」部分も、「もう一声!」とか「お船もいらなーい!」とか可愛らしいキャラに改変されていましたし。
で。
『けいおん!』アニメの“視聴者目線”が紬だったのではないかとか、『けいおん!』アニメの語り部は紬だったのではないかとか―――ということから考えると。13話(番外編)で、紬がバイトを始めるというのは凄く意味深だなぁと思ったのです。
もちろんそれは律の「ムギも成長したなー」の言葉のように、自己主張をするようになった紬の成長物語だったと思うのですが。
“軽音部の仲間”として、軽音部を誰よりも大事にしてきた紬が……最終回後の後日譚として、軽音部ではない外の世界に旅立とうとしている様を描かれたのは。『けいおん!』という作品が「永遠には続かないキラキラした時間」を描いていたことの、アニメスタッフなりの終わらせ方だったのかなーと感じました。
余談。
紬が軽音部の仲間達を“見る”役割だったという話からもう一つ―――
「8人のキャラに色んな組み合わせが存在する」のが『けいおん!』の魅力でして。
「百合」なのか「友情」なのかはさておき、『けいおん!』で人気のカプを考えると……「唯・憂」とか「律・澪」とか「唯・梓」とかが上位に来るんじゃないかと思うのですが。(「唯・憂」を最初に挙げたのは信念です)
紬って、イマイチ誰とも組み合わさっていない気がしてしまうんですよね……
それはもちろん彼女が「女のコとイチャイチャするのが好き」というよりも「イチャイチャしている女のコ同士を眺めるのが好き」な人間だからなんですけど、ちょっと寂しい気もするなぁ……と。いやでも、これはあくまで自分が思っているだけか??……うーん。
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