『けいおん!』アニメで、律っちゃんには何故に弟がいたのか?


<画像はテレビアニメ版『けいおん!』番外編より引用>

※ この記事は2009年に旧ブログに書かれたものを幾つか手直しして2025年に移行した記事です

※ この記事はアニメ版『けいおん!(1期)』全編及び、原作漫画版『けいおん!』第2巻までのネタバレを含みます。閲覧にはご注意下さい。


 今日は律っちゃんネタです。
 13話(番外編)にて唐突に「弟を映画に連れて行かなきゃならないから」と発言し、「弟いたんかーい!」と度肝を抜いた律っちゃん。「何故に弟がいたのか?」と言われても、そりゃお父さんとお母さんが頑張ったからだよとしか言いようもないのですが―――そういうことではなくて、何故わざわざ番外編で弟を出したのかということですね。


 とりあえず、原作漫画2巻までには律っちゃんの弟の話題はありません。
 「原作者からそういう設定を教えられたので、この話を考えた」のか、「この話を描きたいから原作者に了承とってそういう設定を入れた」のかは分かりませんけど―――あの話を描くためには、律っちゃんの弟を登場させる必要があったということですよね。

 番外編での律っちゃんのテーマは、「男から告白されて自分が女であることを意識してしまう」高校2年女子という極めて萌え萌えきゅんな話でした。
 でも、オチを知ってから逆算して思い出してみると、別に「男から」という明確な描写はしていなかったんですよね。それを暗示させるよう唯達に「ムギちゃんに彼氏が?」みたいな話をさせたり、弟との会話で「クラスメイトの女子」を仕込んだり―――視聴者を誤解させようとする罠が沢山張ってあっただけで。

 舞台が女子校なんだし、「ラブレターをもらったということは相手は女のコ?」と思われそうなところですし、律っちゃんリアルに女子校だったら女のコからモテるんじゃないかとか思ったりするところ―――弟との会話によって、律っちゃんに「異性の目」と「未成熟な自分(=これから大人になっていく自分)」を突きつける意図があったのかなーと思います。

 小学生男子(推定)との対比で、高校生女子である律っちゃんの現状を際立たせた―――と言いますか。



 ここまでは、わりかし“健全なアニメの楽しみ方”な話。
 もう一歩踏み込んで、では何故その役を律っちゃんにさせたのでしょうか??

 番外編での各キャラの立ち回りは、唯を除けば「本編12話での成長物語の延長線」でした。
 澪は文化祭~新歓ライブで「仲間のために自分をさらけ出す」殻を破ったので、番外編では一人作詞の旅に出ます。これは第1話時点での澪では出来なかったことですよね。
 紬は軽音部に入ったことで「新しい世界」を知り、自分を主張できるようになりました。なので、番外編では新しくバイトを始め、“軽音部”以外の新しい世界に一歩踏み出すことになります。これも第1話時点での紬には出来なかったことですよね。
 梓は一度は幻滅した軽音部と向き合うことで、「他者を理解する」ことが出来るようになりました。だからこその「唯先輩がいないなら辞退するべきです」ですよね。なので番外編では、新たな他者として猫と触れ合う話でした。これも、梓初登場時の第8話では出来なかったこと……でもないか(笑)。


 まぁ……猫に関しては微妙というか、梓に「あずにゃん2号」と言わせたかっただけな気もしますが。
 基本的に皆、「本編での成長物語の延長線」な話だったんですよね。


 そう考えると、律っちゃんは??
 それまでの律っちゃんに男の話なんてなかったし、そもそも律っちゃん物語って何だったのよ?という根本の疑問があります。
 他の4人は明らかに成長物語が描かれていたのに、律っちゃんだけは最初から最後まで首尾一貫してあんなカンジでしたよね。悪く言えば変わらない、良く言えば最初から一番大人だったというか。


 『けいおん!』アニメにおいて律っちゃんとは何だったのか―――
 今日は、それを考えてみようと思います。



 紬の時と同じように、まずは「原作にはないアニメオリジナルのエピソード」を思い出してみましょう。


● 第2話で「(唯のギター買うために)みんなでバイトをしようぜ!」と提案
● 第6話で、緊張しまくる澪を仮想MCでリラックスさせる
● 第11話で、和と仲良くする澪を見てスネる


 うん、あんまりないな!
 無人島ごっこのようなギャグパートとか、太ももがやたらエロかったりとかは覚えているんですけど……本編の軸になるようなオリジナルシーンはあんまり記憶にないんですよね。他のキャラに比べて、律っちゃんは原作のまんまというかね。

 で、足されているシーンを振り返ると。
 やっぱり印象的なのは、第6話の仮想MCですかねー。アレで律っちゃんを好きになったという人も多いんじゃないでしょうか。その後にオイシイところは唯に持っていかれる、というのも律っちゃんらしいと言えば律っちゃんらしいですよね(笑)。


 律っちゃんは“気遣い”の出来るコですよね。
 しかも、それを相手に気付かせないようにさり気なく出来るコ。バイトの話もそうだし、仮想MCの話もそう。原作にもあるエピソードですけど、2年目の合宿で梓を挑発して一緒に遊ばせて、最終的に一番ハシャいでいたのは梓だった―――みたいに、さり気なく皆を笑顔にさせているコなんですよね。流石、部長!

 そう考えると……11話のあのエピソードの意味も分かるってもんです。
 あれを最初に観た時には「なーんか『けいおん!』っぽくないシリアスな話だなぁ」と思ったんですけど、逆に言うと、『けいおん!』がシリアスにならずに済んだのは律っちゃんがいたからなんですよね。あの回のBパートは「律っちゃんのいない軽音部」を描くためにあったと思うのです。

 律っちゃんのいない軽音部の寂しさと言ったら!
 寂しいだけじゃなく、残った4人にはビックリするくらい「決断力」もなかったものね。律っちゃんが来ないことに対して何も出来なくて、さわちゃんに「律っちゃんの代わりを探す」ことを提案されるまで、律っちゃんが如何に大切な存在だったかも分かっていなかったという。



 律っちゃん物語って。彼女自身が成長した物語というよりは。
 自ら軽音部という場所を作った彼女が、常に仲間を気遣ってみんなを笑顔にしてきたその先に、その仲間達が律っちゃんのことを想い律っちゃんを笑顔に戻し、またあの軽音部に戻ってくる―――という物語だったのかなぁと。

 「(みんなは)怒ってない?」
 「お前のドラムがないと私は―――」という、11話での澪との会話はその集約だったんですね。律っちゃんの戻る場所は、そう簡単になくなりやしないという。全話観終わった上で11話のことを考えると、実はあの回は『けいおん!』を語る上で欠かせない大事な回だったのかもと思いました。



 梓の物語が「他者を理解すること」だったのとは逆に、
 律っちゃんの物語は「他者から理解されること」にあったのかも知れませんね。


 そー言えば。
 うろ覚えなので記憶違いかも知れませんが……

 10話「また合宿!」は、梓&憂の会話→夏合宿→梓&憂の会話という構成になっていて。
 最初の会話で語られた梓の「先輩の印象」と、最後の会話で語られた梓の「先輩の印象」が変わるという話でした。澪は「頼りがいのある先輩」だったけど「実は怖がり」だとか、紬は「お嬢様」だけど「実は子どもっぽいところがある」とか、唯は「ちっとも練習しなくて変なあだ名をつけてきてしょっちゅう抱きついてきて困る」だったのに「実はギターが大好きだ」とか―――

 あれ?律っちゃんは?
 でも、全話終わった後で振り返ってみると、11話に「律がみんなから理解される話」を描くために、10話の時点では「梓は律を理解していない」ように敢えて描いていたのかなーと思いました。





 話を番外編に戻します。
 律っちゃんの本編での物語が「他者から理解されること」だと考えると、あの恋文に書かれていた「前髪を下ろした姿」に律っちゃんがドギマギしていたのも分かるというものです。自分すら気付かなかった一面を他者から理解されていることの小っ恥ずかしさというか。

 小学生男子(推定)の弟との会話の後、
 ガラスに映る高校生女子な自分の姿を見て、無邪気な時間はいつしか終わって否応なく大人になってしまう寂しさを感じていたのかも知れませんね。


 そういう寂しさをBパートの唯がまとめて無化していくというのが番外編の肝なんですけど。
 「実はあの恋文は澪が書いたものだった」というトホホなオチも、よくよく考えれば律っちゃんを一番理解していたのは澪だったということであって。『けいおん!』アニメが終わって、彼女達もいずれ高校を卒業しなければならなくなるだろうけれど、その先の未来も変わらない絆を築けたんだというエンディングだったのかと思います。


 だから、僕は番外編(13話)がトップ3に入るくらい好きな回です。


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 一番好きな回は7話(クリスマスの回)ですけどね!

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