『スーパーマリオワールド』レビュー/プレイヤーに“ズル”を許す、最高の遊び場


<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

革新性:「セーブ可能になった」ことで、クリアだけではない様々な遊びが生まれる
許容性:プレイヤーがやりたい放題できる、27年早かった『ブレス オブ ザ ワイルド』
総括

『スーパーマリオワールド』
・任天堂
 スーパーファミコン用ソフト:1990年11月21日発売
――移植版――
 Wiiバーチャルコンソール版:2006年12月2日配信開始
 Wii Uバーチャルコンソール版:2013年4月27日配信開始
 Nintendo Switch Online(Classics)版:2019年9月6日配信開始
――リメイク版『スーパーマリオアドバンス2』――
 ゲームボーイアドバンス版:2000年12月9日発売
 Wii Uバーチャルコンソール版:2014年4月3日配信開始
 Nintendo Switch Online(Classics)版:2023年5月26日配信開始
・2D横スクロールアクション
・セーブスロット3つ(城・砦・お化け屋敷などをクリアした際にセーブ可能)
 リメイク版:(いつでもセーブ可能)

※ PVはNintendo Switch Online版のものです


◇ 革新性:「セーブ可能になった」ことで、クリアだけではない様々な遊びが生まれる

 このゲームは1990年11月21日にスーパーファミコン本体との同時発売ソフトとして発売され、全世界で2000万本以上を売り上げる大ヒットとなりました。


 「マリオシリーズ」としては、1988年10月発売の『スーパーマリオブラザーズ3』に続く「正統続編」を、新ハードとなるスーパーファミコンの性能をお披露目する形で世に出したというカンジですね。
 比較として、2年前のファミコンソフト『スーパーマリオブラザーズ3』の画面写真といっしょに並べてみましょう。


<ファミリーコンピュータNintendo Switch Online版『スーパーマリオブラザーズ3』より引用>


<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 ファミコン時代は、52色の中から1キャラ4色までしか使えなかったのを。
 スーファミ時代になると、32768色の中から1キャラ16色まで使えるようになりました。

 色鮮やかな画面! どデカい敵キャラクター! 多重スクロールする背景!

 恐らくは性能的にムチャなことやってたファミコン末期と比べて、いろんなことが楽にできるようになったんだろうなーとこどもながらに思わせるゲームになっていました。「これと同じものはファミコンじゃ出せないぞ」と。



 しかし、「マリオシリーズの到達点」としての完成度の高さは語られるものの、ゲームとしての目新しさみたいなものが過小評価されている作品じゃないのかと私は常々思っています。

 2D横スクロールアクションとしての「ゲームデザイン」を形作った初代『スーパーマリオブラザーズ』や、それをどうやって遊ばせるのかという「ゲームの構造」を指し示した『スーパーマリオブラザーズ3』に比べて、「前作をキレイにしただけだよね」「言っちゃえば前作の焼き直しだよね」くらいにネット上だと言われがちじゃないですか。
 スーパーファミコンの性能が衝撃的だった時代はともかく、現代から見ると「ファミコンの性能」も「スーパーファミコンの性能」も誤差みたいにしか思えない世代も多いから仕方ないとは思うのだけど……



 だから、今日は思い切って記事に書きます。
 『スーパーマリオワールド』と『スーパーマリオブラザーズ3』には大きな違いがあって、後のシリーズはもちろん、『スーパードンキーコング』シリーズなど他のアクションゲームのシリーズにも大きな影響を与えたと私は思っています。

 しかし、それが全然語られていない……!
 だから……今日は、『スーパーマリオワールド』の凄さを語るぞ……!



 『スーパーマリオワールド』の革新性、それは―――


<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 セーブが可能になったところから始まります。

 
 あぁ……! 今、ものすごい石を投げられている気がする……!
 「そんなの当たり前だろうが!」って言われている気がする。


 そうなんです、当たり前なんです。
 1990年11月の時点で「セーブができるゲーム」は珍しくもなんともありません。アクションゲームではそこまで出てなかったかと思いますが、この時期のファミコンはRPGとシミュレーションゲームが山ほど出ていたので、当然のようにみなバッテリーバックアップ搭載でセーブして続きから遊べるようになっていました。


 しかし、「マリオ」シリーズでステージの進行状況をセーブできる作品は、『スーパーマリオワールド』以前には出ていませんでした。
 初代『スーパーマリオブラザーズ』(1985年9月)の頃のファミコンにはバッテリーバックアップがありませんでしたし、ディスクシステムになった『スーパーマリオブラザーズ2』(1986年5月)でもセーブしてくれるのは「何周クリアしたか」の回数だけです。

 『スーパーマリオUSA』の元となったディスクシステムの『夢工場ドキドキパニック』(1987年7月)は4人のキャラ全員でクリアしなければ真のエンディングが見られないためセーブが出来ましたが、『スーパーマリオUSA』(海外だと1988年10月発売)になった際にはROMカセットだからかセーブ機能が削除されてしまいました。

 そして、前作と言える『スーパーマリオブラザーズ3』(1988年10月)も、全ステージをクリアしようとするとむちゃくちゃ長いゲームのくせにセーブができないため、道中のワールドを笛を使ってショートカットすることが推奨されていました。
 ミニファミコンなどに移植される際、宮本さんですら「今回はセーブできるんで活用してください」と仰っていたくらいですからね。当時色々言われたんだろうなーと思いますね。


 それでは、何故『スーパーマリオブラザーズ3』にセーブ機能がつかなかったのでしょう?

 これ、マリオの歴史においてかなーーり重要な話だと思うのにあまり語っている人を見ません。
 ファミコンで初めてバッテリーバックアップを採用したゲームは1987年4月の『森田将棋』で、これを受けて1987年末くらいからバッテリーバックアップ可能なRPGがたくさん発売されます。『ファイナルファンタジー』1作目や『ウィザードリィ』の移植がそうですし、翌年2月になると『ドラゴンクエストIII』などが出てきます。

 『スーパーマリオブラザーズ3』が発売されたのは1988年10月ですから、ファミコンキッズ達も『ドラクエIII』で「セーブ機能」を既に知っていて、「どうしてマリオ3にはついていないのか」と不満を抱いていました。

 私もずっとそう思っていました。「任天堂としては、セーブ可能なディスクシステムを切ってROMカセットに戻ったから、ROMカセットにセーブ機能を付けたくなかったのかな」なんて思っていました。
 でも、2ヶ月前に発売された『ファミコンウォーズ』にはセーブ機能が付いているんですね。それではなぜ『マリオ3』には付けてくれなかったのか。



 その謎は、近年のインタビューからある程度は推測できるようになりました。

 まず、『スーパーマリオブラザーズ3』は「開発期間が2年半」という当時としては超難産のゲームでした。『ファイナルファンタジー』1作目の開発期間が4ヶ月らしいみたいなのは特異な例だとしても、当時のゲームの開発期間は平均しても数ヶ月程度でしょう。


<以下、引用>
―――じゃあ、開発期間はけっこう長かったんですね。

手塚「けっこう、というか、かなり長かったです。」

宮本「『スーパーマリオ2』が終わってからですから、1986年の春からはじめて、次の年・・・にはまだできていなくって、その次の年の春から仕上げに入って・・・。」

手塚「なんか、そういう感じでした。」

宮本「だから2年くらいは・・・いや、もっとです。1988年の春に発売しようとしていたんですけど、それでもできなくて、そこから半年延ばしたんです(笑)。(手塚さんに)ねっ!」

手塚「・・・(黙ってうなずく)」
</ここまで>

 開発が始まった1986年春の時点では、任天堂はまだまだディスクシステムで戦う予定だったのでしょうから……恐らくは、ディスクシステムでの発売を想定して『スーパーマリオブラザーズ3』は開発が始まったはずです。
 そして、任天堂が出すディスクシステムのゲームは、その特性を活かすために「セーブ可能」にしているものがほとんどです。『ゼルダの伝説』や『メトロイド』はもちろん、『謎の村雨城』や『新パルテナ』、『夢工場ドキドキパニック』もそうですし、先に紹介した『スーパーマリオブラザーズ2』は恐らくクリア回数だけを記録する意味を持たせるため「8周クリアすると解禁される要素」を入れてありました。

 もし、『スーパーマリオブラザーズ3』がディスクシステムで発売されていたならセーブ可能になっていたはずなんですね。セーブ可能になったとして、何を記録してくれるのかは分かりませんが……何ワールドまでクリアしたかだけなのか、アイテムも保存してくれるのか、それとも『2』同様に何周クリアしたかだけなのか。

 しかし、『スーパーマリオブラザーズ3』は開発が長期化していき、その間に任天堂はディスクシステムからは撤退傾向に入っていきます。そのため、『マリオ3』もディスクシステムではなくROMカセットの発売になった……
 と、当時から最近まで私は考えていたのですが、『FF1』のレビュー記事を書いた際に気付いたことがあったのです。


<以下、セルフ引用>
 また、ディスクシステムにはソフト全体の容量問題があります。
 ROMカセットは時を経るごとにどんどん大容量化していったのに対して、ディスクシステムはずっと同じ容量で戦わなくちゃならなかったんですね。

 主なタイトルを並べてみます。容量の単位は「ビット」であって、現在一般的に使われる「バイト」の約8分の1なことに注意してください。

・1985年7月『ドンキーコング』192Kb
・1984年11月『ゼビウス』320Kb
・1985年6月『FLAPPY』512Kb
・1985年9月『スーパーマリオブラザーズ』320Kb
――1986年2月:ディスクシステムの登場―――
 ※ ディスクシステムのソフトは両面合わせて896Kb
・1986年3月『ハイドライド・スペシャル』320Kb
・1986年4月『グラディウス』512Kb
・1986年5月『ドラゴンクエスト』512Kb
・1986年6月『魔界村』1Mb
・1986年7月『がんばれゴエモン!からくり道中』2Mb
・1986年8月『機動戦士Zガンダム・ホットスクランブル』1.25Mb
・1987年1月『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』1Mb

 ディスクシステム以前のファミコンROMカセットは320Kbのものが多く、パズルゲームなどに稀に512Kbのものがあるという状況で……両面合わせて896Kb(片面だと半分)のディスクシステムが出た当初では確かに大容量のように思えるのですが。

 その4ヶ月後には1Mb=約1048Kbの『魔界村』が、その1ヶ月後にはその倍の2Mbの『がんばれゴエモン!』が発売されます。流石に1986年の時点で2MbのROMカセットを採用したソフトは多くありませんが、「大容量のゲームを作る」ならディスクシステムよりROMカセットの方がファーストチョイスになってしまったんですね。
</ここまで>




 1988年10月に発売された『スーパーマリオブラザーズ3』のROMカセットの容量は3Mbitで、説明書にも書いてあったほどです。とてもじゃないですが、ディスクシステムの容量には収まり切りません。
 もし『マリオ3』をディスクシステムで発売していたら、ワールドを進むごとにディスクを抜き差しして切り替える4枚組くらいのゲームになっていたのかもしれません。『同級生』か!


 要は、『スーパーマリオブラザーズ3』でやりたいことを詰め込むためにはディスクシステムでの発売は諦めて、大容量化したROMカセットでの発売にするしかなかったのだと思うんですね。
 そして、その際に「セーブ機能」を削除しているとも推測できます。その名残が「道中でアイテムを取得してストックできるシステム」じゃないかとも思いますし、セーブ機能がなくなった救済措置で入れられたのが「笛」なのだろうと思います。


 しかし、1988年2月に『ドラクエIII』が出てファミコンキッズ達にも「セーブ可能なゲーム」がスタンダードになってしまいます。
 その頃にはもう既にそれらの仕様をまとめている段階だったので、流石にもうちゃぶ台返しでセーブ機能を入れることも出来なかったってところなのかなぁ(その時点で開発期間が2年に達しようとしていたワケだし)(宮本さんの発言を見るに、1988年春にはもう仕上げに入っていたみたいですし)




 ということで、ここからようやく『スーパーマリオワールド』の話です。

 前作『スーパーマリオブラザーズ3』は、そういう意味でスタッフとしても「心残りな作品」だったんじゃないかと思います。『スーパーマリオワールド』は、開発初期から「次はセーブありで」と決まっていたのでしょう、「セーブ可能」なことが大前提のゲームになっているんですね。

<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 まず一つには「1度クリアしたステージを何回も遊べるようになった」仕様です(※1)

 『スーパーマリオブラザーズ3』までは、ゲームオーバーになったり、過去のワールドに戻ったりしない限り、1度クリアしたステージはもう遊べませんでした。それで問題がなかったんですね。セーブが出来ないから、次の日に遊ぶときにはまた全ステージ復活しているんでね。

 しかし、『スーパーマリオワールド』はセーブが可能になって、しかも「どのワールドまでクリアしたか」ではなく「どのステージをクリアしたか」が全ステージ記録されます。
 もし前作同様に「1度クリアしたステージはもう遊べない」仕様だった場合、最終ステージ手前でセーブしたから最終ステージ以外はもう遊べないセーブデータが生まれかねません。

 なので、同じステージを何度もクリア出来るようにしてあるんですね。




<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 そのため、1つのステージに複数のゴールが用意されていて、到達したゴールによって解放されるルートが変わるという要素が生まれました。何度も遊んで、隠しゴールを見つけてねということなんですね。これはこのゲームが「1度クリアしたステージを何度も遊べる仕様」だから成り立つことです。

 初代『スーパーマリオブラザーズ』にも一部に「ワープ土管のあるステージ」がありましたし、『スーパーマリオブラザーズ3』にも「隠しゴールのあるステージ」がありましたが、その「探索要素」が何度も同じステージが遊べるようになったことでゲーム全体に落とし込まれてより強化されたんですね。
 入口が赤いのステージには、すべて複数ゴールがあって、複数ルートに分かれていきます。更に、お化け屋敷の中にも複数ゴールがあるものもあります(ないものもある)。

(※1:ただし、城や砦などの「ストーリー上、何度もボスと戦うのはおかしい」ステージは1度クリアしたらもう遊べません。これは『Newマリオ』以降だと変更されている仕様で、『Newマリオ』は城や砦も何度も遊べて、城や砦にも複数ゴールがあるものがあります)



<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 また、『スーパーマリオブラザーズ3』とちがってどこにステージがあるのか予め全部表示されているワケではなく、ゴールに到達して初めて道が切り開かれたり、地形が大きく変わったりするところもあります。そのためにワールドとワールドが地続きにもなっているんですね。

 ここに「セーブが可能になった」ことが活きていて。
 例えば、友達の家に遊びに行って「オマエもマリオ買ったの? 遊ぼうぜー」となった際、起動してみたらウチと全然ちがう地形になっているのが一目で分かるようになっているのです。「何このルート知らない! 教えて」とか、「ここの隠しゴールまだ見つけてないの。俺知ってるぜ」といったコミュニケーションが生まれるようになっているんですね。


 宮本茂さんのゲームは、初代『ゼルダ』の「ミンナニナイショダヨ」が象徴するように「情報を友達と交換する遊び」を重視していて……それこそ『スーパーマリオ』シリーズだって、初代の1UPキノコの場所とか、『3』の笛の位置とかは、みんな「誰かから聞いた」人がほとんどだと思います。

 『スーパーマリオワールド』も同様に「友達同士でゲームの話題をしてもらう」ことを狙って作ってあって、「セーブ可能になった」「同じステージを何度も遊んで複数ゴールを見つける遊びが入った」「それによって地形が変化するので見つけたゴールが一目瞭然」の3つの新要素が三位一体になってコミュニケーションを生んでいるんですね。


 今思えば私、スーパーファミコン本体を買うのが遅かったので『スーパーマリオワールド』は当時友達の家で遊んだのがほとんどだったのですが、ありとあらゆる友達の家で『スーパーマリオワールド』を遊んでいたため、「ここをこっちに行くとスターロードが解放されるよ」「このカギはこうすると取れるよ」とみんなに情報を伝える歩く攻略Wikiみたいなことをやっていたことを思い出しました……

 歩くネタバレ野郎とも言う。



<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 また、「1度クリアしたステージを何度も遊ぶ」目的は「隠しゴールを見つける」だけではありません。

 ほとんどのステージに「ドラゴンコイン」なる大きなコインが5枚(一部のステージでは6枚)あるので、それを1プレイで5枚集めると1UPするという新要素が加わりました。
 1UPの機会が多いこのゲームにおいては1UPの価値は低いので、苦労の割に1UPするだけかーという気もするし、スーファミ版はコンプしたところで記録が残ったりはしないのですが(ゲームボーイアドバンスのリメイク版は記録される)。



<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 1プレイでドラゴンコインを5枚集めて1UPすると、同じステージを遊んでももうそのステージにはドラゴンコインが出てこなくなる仕様があるんですね。

 だからこれ、「ボーナス」ではなく「やりこみ要素」だと思います。
 現代の「やりこみ要素」みたいにリスト化されたり実績解除のアナウンスが出たりはしませんが、「やりこみ要素の走り」の一つだと思うんですね。極めたい人は全ステージのドラゴンコインを集めてみてねって開発者から提案された「遊びの一つ」だろうと。

 まぁ、スーファミ版のセーブにはこの記録が残らないので、電源を切っちゃうとまた復活しちゃうのですが……



 言うまでもなく、これは『Newマリオ』以降のスターコインの原型ですし、『スーパードンキーコング』の「KONGパネル」など「マリオ」シリーズ以外の様々なアクションゲームでも採用されている要素だと思います。『Splatoon』のミステリーファイルとかもそうか。
 これは、ステージクリア型のアクションゲームに「ステージをクリアする」だけではない、「探索要素」と「謎解き要素」と「高等テクニックが必要な場面」を追加できる発明なんです。

 『スーパーマリオワールド』のドラゴンコイン以前に、「全ステージに必ず配置されていて」「クリアには直接関係のない」「でも、全てを収集したかどうかが分かるようになっている」アイテムにあたるものって何かあったかなぁ……
 しばらく考えてみたけど思いつかなくて、Grokにも聞いてみたけど「パックマンのフルーツはどうですか?」と言われて「そうじゃないんだよなぁ……」となって。もし読者の方で、1990年11月以前にあった「ドラゴンコイン」や「スターコイン」に近いものを思いついた人がいらしたらコメントで教えてください。


 ともかく、こういう仕様も「セーブ可能になって」「同じステージを何度も遊べるようになった」からこその遊びだと思います。
 初代『ファイナルファンタジー』のレビューを書いた時にも思いましたが、ゲームのデザインって「セーブ機能」と密接な関係にあるんですよね。初代『ドラクエ』はあのパスワードの文字数で収まる冒険になるように設計されているし、初代『FF』はバッテリーバックアップが使えるようになったからこそ企画されたゲームでしょうし。



◇ 許容性:プレイヤーがやりたい放題できる、27年早かった『ブレス オブ ザ ワイルド』

 先の項では「後のマリオシリーズに引き継がれた要素」「後のアクションゲームに引き継がれた要素」について書きましたが、後半は「後のマリオシリーズには引き継がれなかった要素」について語ります。

 私は自分のことを「2Dマリオが好き」と思っていて、2Dスーパーマリオシリーズは8割くらい遊んできたと思うのですが……『スーパーマリオワールド』以前のマリオも、『スーパーマリオワールド』以後のマリオも遊んでみて、気付いたことがあります。


 私が大好きなのは『スーパーマリオワールド』であって、「2Dマリオ」全般が大好きなワケではないのかも知れない―――と。

 それは私がリアルタイム世代ゆえの懐古厨・老害・加齢臭と腐敗臭のする老人・古い価値観の時代に取り残された旧人類だからというワケではなく……『スーパーマリオワールド』って、後のシリーズに引き継がれなかったor 大幅に弱体化された「プレイヤーに有利な仕様」が山のようにあるんですね。



<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 まずは、新アクション「スピンジャンプ」から。
 「Aボタン」「Bボタン」の2つで操作していたファミコン時代のマリオから、「Yボタン」「Xボタン」が加わって4ボタンのスーファミ時代のマリオになったことで、新たに「Aボタン」に割り当てられたジャンプです。

 通常の「Bボタン」ジャンプに比べると高度は低いものの、踏んづけたときの威力が高く、2回踏まないと倒せない敵を1撃で倒したり、従来のシリーズでは残り続けた「ノコノコの甲羅」なども粉砕できるようになりました。

 更に、トゲゾーや回転ノコギリなど、従来のジャンプでは踏んづけようとすると逆にマリオがダメージを喰らってしまうようなものも、スピンジャンプなら「倒せはしないもののダメージを喰らわずに小さくバウンドする」ようになりました。ジャンプで飛び越える自信のない時は、スピンジャンプで敢えて上に乗る方が安全という。

 この攻防一体の新アクションが、ボタン1発で、特にパワーアップを必要とせずにいつでも出せるんですよ。


 これが、強すぎたので後のシリーズでは弱体化されます。

 『スーパーマリオランド2』(1992年)では、チビマリオ状態では出せなくなるし。
 『Newスーパーマリオブラザーズ』(2006年)では、任意では出せずにステージギミックを使った時にしか出せなくなりました。
 『NewスーパーマリオブラザーズWii』(2009年)では、Wiiリモコンを振ればいつでもスピンジャンプが出せるようになりましたが、踏めない敵を踏もうとするとダメージを喰らうようになりました。



<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 新パワーアップ「マントマリオ」も無茶苦茶強い。

 前作の「しっぽマリオ」と似たような性能ではあるんですが、「Yボタン」の回転攻撃は発生が早く、「ブル」のような耐久力の高い敵を1撃でやっつけられるだけでなく、土管の中のパックンフラワーまで倒してくれます。

 前述のスピンジャンプ時にも横方向への攻撃判定があるので、マントマリオでのスピンジャンプは横にも下にも強いと言えます。


 移動面でも性能がチート級です。
 ジャンプ時にゆっくり落ちることで「ジャンプの飛距離を伸ばす」「着地したいところにピッタリ降りれる」のはしっぽマリオも同様ですが、前作のしっぽマリオがジャンプボタンを連打しなければならなかったところ、今作のマントマリオはジャンプボタンを押しっぱなしにするだけでゆっくり降りることが出来ます。

 ダッシュジャンプで空を飛べるのもしっぽマリオと同じですが、前作のしっぽマリオがこれまたジャンプボタン連打する必要がある上に「飛べる時間」が決まっているのに対して、今作のマントマリオは降下と上昇を繰り返すことによってどこまででも飛び続けることができます。ちょっとアクションゲームの腕は必要になりましたが。

 初心者の救済と、上級者の求道の両方を兼ねた最強クラスの変身マリオだと思うのですが……


 当然、強すぎたので以降のシリーズでは出番なしです。
 しっぽマリオやタヌキマリオは3DS時代に復活したのに……マントマリオは『マリオメーカー』みたいなケースを除けば出てこなくなっちゃいました。



<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 今作からの新要素:「ヨッシー」も、どうかしているくらいに強い。

 ハテナブロックから卵の形で登場するこの恐竜は、ジャンプで乗ると自由に操ることが出来ます。降りるときはAボタンのスピンジャンプで、プレイヤーの好きな時に乗り降りができます。

 まず、マントマリオですら倒せない敵を食べることが出来て、通常のジャンプの高さはマリオと変わらないのに、踏みつけの性能がマリオのスピンジャンプ相当のものになっています。威力も高いし、スピンジャンプ同様にトゲゾーなどを踏んづけても上でバウンドするだけです。

 ノコノコの甲羅やPスイッチやジャンプ台など「マリオが持ち歩ける」ものは口に含んで持ち運びできるのですが、ノコノコの甲羅を口に含むと色によって様々な特殊効果が発生します。特に青コウラを口に含んだときは、ダッシュジャンプしなくてもジャンプボタン連打で前作のしっぽマリオのように飛び続けることが可能です。


 更には、敵に接触するなどしてダメージを喰らった際に、マリオはダメージを喰らわずにヨッシーがダメージを肩代わりしてくれて、なおかつヨッシーは痛みにビックリして走り出しちゃうだけなのでそれを追いかけてまた乗ればダメージがなかったことになります。
 「○発ダメージを喰らったらミスになる」マリオにおいて、ペナルティはあるものの「何回でもダメージを喰らっても大丈夫」はむちゃくちゃな性能すぎです。



<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 極めつけはコレ!
 ヨッシーに乗った状態でBボタンでジャンプして、空中でAボタンを押すと……Aボタンはヨッシーから降りるボタンなため、空中で2段ジャンプできるんですね。

 これにより本来は届かない位置までジャンプできるようになるし、穴に落下しそうになった時に、とっさにヨッシーをイケニエにしてマリオだけ助かるなんてことも出来ます。


 そして、このゲームのヨッシーの凄いところは……
 「城」「砦」「お化け屋敷」といった建物の中以外なら、すべてのステージにヨッシーを連れこむことが出来るんです。ヨッシーの卵が出ないステージも、他所でヨッシーを取ってくればヨッシーに乗ったままプレイすることが出来ます。

 この仕様は「ズルし放題」だと思われたのか、後の「ヨッシーに乗れるマリオシリーズ」ではヨッシーは登場したステージでしか乗れないようになっているのがほとんどだったと思います。『NewマリオWii』(2009年)ではそうだったし、『マリオギャラクシー2』(2010年)もそうだったはず。



 「スピンジャンプ」も「マントマリオ」も「ヨッシー」も、後のシリーズでは弱体化されてしまうか、そもそも出番すらなくなってしまうワケで……『Newマリオ』以降の「マリオ」に私がイマイチ乗り切れないのは、プレイヤー側に有利な要素がガッツリ削られてしまい、窮屈なゲームに思えてしまっているからなんですね。



<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 一例を挙げると……
 例えば、このステージは「階段状に配置されている4つのブロック」の一番上を叩くと「豆の木」が現れて、それを登るとカギがあるのですが……普通の方法では、一番上のブロックなんて届かないですよね。



<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 じゃあ、どうやってブロックを叩くのかと言うと……恐らく正規の解法は、これみよがしにその先に置かれている青コウラを持って、上に投げてブロックにぶつける―――だと思います(※2)

(※2:そう言えば、モノを上に投げられるのも『マリオワールド』くらいで、以降のシリーズではなくなりましたよね。これは別に「それが活かせる機会がなくなっただけ」だから弱体化だとは思っていませんでしたが)



<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 しかし、他の方法もあるのです。
 例えば、他のステージからヨッシーを連れてきて、先ほど紹介した「2段ジャンプ」を使えばこの高さのブロックにも届きますし……



<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 ヨッシーがいるなら青コウラを口に含んで空を飛ぶという方法もあります。
 ブロックを叩いて「豆の木」を出す必要もなし!



<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 更には、マントマリオならブロックを横から攻撃して「豆の木」を出すことも出来ます。スピンジャンプでも同じことができるので、故あってYボタンを押すと死ぬ呪いがかかっている人でも安心して隠しゴールに行けますね(カギが持てなくて死ぬ)。



 プレイヤーに「どのステージでも」多彩なアクションを許してくれることによって、1つの場面に複数の解法が生まれて、「正規の解法はあの青コウラを使うことなんだろうけど、別の方法でも行けたぜ」と遊びの幅を作っているんですね。

 これって『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』じゃないですか。
 1つの祠に必ず3つ以上の解法を用意して、どの解法を選んでもクリアは可能だから、プレイヤーは「用意された解法」ではない「俺だけが見つけたズルをしてやったぜ」と思いこむことが出来るという。


 後の「マリオ」シリーズだと、ステージごとに固有の特殊なアクションをさせてくれたりはするのだけど、例えばヨッシーを他のステージから連れてきたりみたいな「ズル」を許してくれないので、ずっと「開発者が考えた通りの動きをさせられている」気分になるんですよね……

 DS時代の『Newマリオ』はゲーム人口の拡大を目指していたから、スーファミ時代のような複雑な要素を削って、難しい操作はさせないようにしているんですよーってことなら、壁キックやヒップドロップをやらせるんじゃない!




<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 「ズル」と言えば、スターロードも忘れちゃいけません!
 初代『スーパーマリオブラザーズ』におけるワープ土管や、『スーパーマリオブラザーズ3』における笛と近いものですが……スターロードは「スターロードだけ」解放してもダメで、向こう側もクリアしないと「ただ先のステージが見れるだけ」なんですよね。



<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 砦は見えるが、そっちに行くことは出来ない……!
 要は、「ワープ土管」というより「ファストトラベル」に近いものだと思います。


<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 ただし、最終ステージだけは「スターロード」さえ開通すればすぐにでも挑むことが出来ます。

 これまでの「マリオ」もワープ土管や笛で「すぐに最終ワールドへ」行くことが出来ましたが、今作では更に「すぐに最終ステージへ」行くことが出来ます。

 その「スターロード」開通も、どこに隠しゴールがあるのかの知識は必要ですが、アクションの腕前はそれほど必要ありません。少なくとも、「まよいの森」や「チョコレー島」の城などに比べれば簡単だと思います。


 この「いきなり最終決戦に行ける」のは『ブレス オブ ザ ワイルド』っぽいし、『クロノ・トリガー』っぽいのですが、それらのゲームが「言うて初見の人がクリアできるようになっていない」のに対して、こちらは普通にクリアできます。マリオは別にレベル上げとかしなくてもイイからね。



 恐らくは、「友達とかから情報さえ得ていればアクションゲームが苦手な人も最後まで遊べる」ようにしたのだと思いますし、実際当時は「まよいの森」や「チョコレー島」はクリア出来ていなくてもスターロード経由でラスボスを倒してエンディングは見ているこども達はたくさんいました。

 私は、これこそが「初心者救済措置」だと思うんですよ。
 『NewマリオWii』の「同じステージで8回死ぬとルイージが代わりにクリアしてくれる」みたいなのよりも、よっぽど初心者が「自分でクリアしたった」と思えるじゃないですか。




 プレイヤー側に有利な「ズル」と言えば、このゲームは一度クリアしたステージを遊んでいる場合は「スタートボタン→ セレクトボタン」でステージから抜けることが出来るのですが……この際に得たパワーアップも、そのまま引き継ぐことが出来ます。

 序盤のステージに戻って、マントやヨッシーを手に入れたらすぐにステージを抜け出せば、強化された状態で今遊んでいるステージに戻ることが出来るんですね。


 この仕様は流石にプレイヤーに有利すぎたせいか、『Newマリオ』だと「ステージをクリアしないとパワーアップは引き継げない」ようにナーフされました。でも、1-1とかをクリア出来ないことはないんだから、ただ時間がかかってプレイヤーに面倒を強いているだけのナーフだろと思っています。



<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 この「過去ステージをやり直してパワーアップを手に入れてすぐに抜ける」を、更に効率化したのがこのステージです。
 どこにあるかはネタバレだから言いませんが、パワーアップアイテムを入手するだけの1画面だけのステージ(ゴールはない)まで用意してあるんですよ。わざわざパワーアップアイテムのためだけに、過去ステージを探して回るの面倒くさいよねと、こういうものを置いてくれているんです。

 後のシリーズだと、「キノピオハウス」の価値がなくなっちゃうからか、なくなっちゃいました。それはまぁ、そうか……




<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 そう言えば、パワーアップした状態でパワーアップアイテムを取ると画面上部にストックされて、ダメージを喰らった時 or 任意でそれを落とすことが出来るのもこの『スーパーマリオワールド』からです。

 これはナーフされたというより、DSの『Newマリオ』、3DSの『Newマリオ2』にはあって、Wiiの『Newマリオ』、Wii Uの『NewマリオU』にはなかったはずなので、多人数プレイとの兼ね合いでオミットされたのかなと思います。



 ということで、「プレイヤー側に超有利な要素」がごまんとある『スーパーマリオワールド』―――じゃあ、ヌルいゲームかというと別にそういうワケではなく、これらの要素を踏まえた上での難易度になっているので後半や隠しステージはしっかり難しいと思います。

 でも、「いつでもスピンジャンプできる」とか「マントマリオの万能感」とか「ヨッシーいるから安心だ」とかの要素のおかげで、難しくてもストレスなく遊べるんですよ。だから、マリオシリーズの中でも「唯一無二のゲーム」になっていると思うんですね。



◇ 総括

<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオワールド』より引用>

 2Dマリオシリーズを順当に進化させた「到達点」「完成形」でありながら、実は後のシリーズはこの路線を継承してくれなかったため20年後くらいにシリーズの中では「異端」となってしまった作品だと思います。

 個人的には「すべてのアクションゲームの中で一番好き」くらいのゲームなんですが、『スーパーマリオワールド』みたいなゲームって他にないんですよねぇ。マリオシリーズにはもちろんないし、任天堂の他のシリーズにもないし、他のメーカーやインディーゲームとかにも見かけません。


 いや、私が知らないだけという気もするから……
 『スーパーマリオワールド』みたいなゲームを探すため、「マリオ以外のアクションゲーム」をもっとたくさん遊んでいかないとなーと思いました。求ム、『スーパーマリオワールド』みたいなゲーム!


コメント