『ブレス オブ ザ ワイルド』は、どの「ゼルダのアタリマエ」を見直したのか

<画像はNintendo Switch用ソフト『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』より引用>

※ この記事は2017年に旧ブログに書かれたものを幾つか手直しして2025年に移行した記事です



 発売から3ヶ月半、約85時間かけてようやく『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』をクリアしました!


<画像はNintendo Switch用ソフト『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』より引用>

 達成率は20.26%でした。
 自分の性格を考えると、「コンプリートを目指して遊ぶ」とこのゲームのことを嫌いになるだろうと思います。なので、コログはもちろん、祠もサブクエストも多数残っていますけど、自分が一番「あー、このゲーム最高に面白かった!」と思えるタイミングでクリアして終わりにすることは決めていました。だから、私の『ブレス オブ ザ ワイルド』はここで終了です。



 さて、3月にこのゲームを始めて、チュートリアルが終わった辺りで私は「今回の『ブレス オブ ザ ワイルド』の肝はここだな!」と考えていたことがあります。実際、ブログの「下書」記事を検索してみたところ、3月11日の時点で“新作『ゼルダ』は「どのアタリマエ」を見直したか”という記事を1stインプレッションとして書き始めていたのです。
 ただ、「チュートリアルが終わったところまでしかプレイしていないのに、ゲームを総括するようなことを書いて、その後の展開が間違っていたらどうしよう?」と不安になって一旦お蔵入りにしていました。そのため、3ヶ月遅れになってしまいましたが……この話はウチのブログでは絶対に触れないワケにはいかない話なので思う存分語ってしまおうと思います。



◇ 「ゼルダのアタリマエ」と「オープンワールド」と
 まず、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の情報が初めて公開されたのは、確か2013年1月のニンテンドーダイレクトだったと思います。
 当時はWii U発売直後だったにも関わらずソフトの発売スケジュールがスッカスカだったため、後に『ヨッシーウールワールド』や『幻影異聞録 #FE』として発売されるソフトの情報を「こんなソフトも作っているんですよ」と前倒しで発表していましたし(その2作の発売は2015年)。この『ブレス オブ ザ ワイルド』も、まだ開発が始まったばかりの時期でしたが、開発コンセプトが発表されたのでした。

 それが、「ゼルダのアタリマエを見直す」です。




 そして、翌年の2014年E3にて映像がお披露目されます。
 この年の任天堂のE3映像は、とにかく『Splatoon』初披露が衝撃的すぎて話題沸騰しまくっていたのですが、「新作『ゼルダ』がオープンワールドのゲームになる」ことが正式発表されたのも話題になっていましたね。




 ついでに、2014年12月に公開された映像も載せておきます。



 色んなところが完成版と変わっていて、「Wii Uゲームパッドの二画面を活かしたUI」が確認できるのが面白いですね。しかし、一番面白いのは、

宮本氏「来年(2015年)発売、大丈夫ですよね?」
青沼氏「大丈夫ですよ。それよりスターフォックスはどうなんですか?」
宮本氏「大丈夫ですよ。来年、ゼルダの前に発売できると思います」


のくだりですよ。どっちも2015年に出てねえじゃねえか!



 閑話休題。話を戻します。
 2013年に「ゼルダのアタリマエを見直す」という開発コンセプトが発表されて、2014年に初めて公開された映像で「オープンワールドのゲームになっていた」ことから―――「そうか、ゼルダのアタリマエを見直した結果、今流行りのオープンワールドのゲームになったのか」と考えちゃった人もいると思うんですね。私も2014年の頃はそう考えていました。

 しかし、実際に『ブレス オブ ザ ワイルド』を遊んでみると、その表現は的確ではなかったと思い直しました。「オープンワールドにした」のはあくまで「手段」であって、「オープンワールドにする」のが「目的」ではなかったんじゃないか?


 プロデューサーの青沼さんは4月のファミ通のインタビューでこう仰っています。

<以下、引用>
――改めて開発の経緯をうかがいたいのですが、本作を制作するにあたり、“『ゼルダ』のアタリマエを見直す”というキーワードがあったと思います。この言葉は、2013年1月の“Wii U Direct”で初めて公表されましたが、そもそもどんな経緯から生まれたキーワードだったのでしょうか?

青沼「“アタリマエを見直す”は、『風のタクト HD』を制作していたころに、新作についてのコメントを求められて出したキーワードです。
 当時『スカイウォードソード』を遊んでくれたユーザーの意見を見たときに、『ゼルダ』がゲームとして少し行き詰まってきた感じがしたんです。こういう作りかたでは、もうダメなのではないかと。そこで、藤林とふたりで「いままでの当たり前を壊していかないとダメなんだよな!」ということを言い始めたんです。『風のタクトHD』を作ったときは、すでに『ブレス オブ ザ ワイルド』の母体となる世界を作り始めていたので、この世界でどんなことができるのか、“アタリマエを見直す”をキーワードにして考えていこうと。自然とそうなりましたね。」

</ここまで>
※ 改行など、一部引用者が手を加えました



 『ブレス オブ ザ ワイルド』を語る人は、発売直後は特に「この部分が『○○』という他のオープンワールドゲームに似ている」「様々なオープンワールドゲームの影響を受けているように思われる」みたいに語る人が多かったです。中には「他のオープンワールドゲームも碌に知らないヤツにはゼルダを褒める資格はない」みたいなことを言う人までいました。

 しかし、私は『ブレス オブ ザ ワイルド』を語るなら、“『スカイウォードソード』までのゼルダシリーズ”との比較の方が大事だと思うんですね。プロデューサー自ら「ゲームとして行き詰まっていた」とまで言っていて、そこから「ゼルダのアタリマエを見直す」というコンセプトで開発が始まったのですから……
 言ってしまえば『ブレス オブ ザ ワイルド』というゲームは、今までのゼルダシリーズが抱えていた「構造的な欠陥」を分析して、それを徹底的に取り除いて出来上がったゲームだと思うんです。



 青沼さんは先のインタビューでこうも仰っています。

<以下、引用>
青沼「開発するにあたって、“決められた道筋で解く『ゼルダ』”ではないものを作りたい、という考えがあったからこそ、“広い世界”が必要でした。
</ここまで>

 つまり、「広い世界を作ろう」ありきで始まったのではなく、「道筋に縛られないものを作ろう」という考えがあったからこそ「広い世界を作ろう」となっていったみたいなのです。


 2月の4gamerのインタビューで、ディレクターの藤林さんはこう仰っていますね。

<以下、引用>
4Gamer「解法が複数あるということと,オープンエアであることは,非常に密接に結びついていると思うんですが,企画段階ではどちらが先にあったんでしょう?」

藤林氏「どちらが先かというと,ちょっと難しいですね。
 どうやったらゼルダの“当たり前”じゃないものを作れるか? というところからスタートして,「広い世界を作ろう」「いきなりボスのところに行けるようにしよう」「何でもできるようにしたい」といった感じで,実現方法を考えずに夢を語っていきました。プログラマーは渋い顔をするんですけど(笑)。」

</ここまで>
※ 改行・強調など一部引用者が手を加えました

 こちらでも、「広い世界を作ろう」ありきで始まったのではなく、「広い世界を作ろう」と「いきなりボスのところに行けるようにしよう=道筋に縛られないものを作ろう」と「何でもできるようにしたい」という考えが同時期にあったと言われていますね。


 共通するのは「道筋に縛られないもの」
 旧ブログに書いたことがあるのですが、オープンワールドのゲームと一言で言っても「ストーリーは一本道」「ストーリーに関係しない横道に逸れるサブクエストもあるよ」みたいなオープンワールドのゲームもたくさんあります。しかし、『ブレス オブ ザ ワイルド』は単にオープンワールドにしただけではなく、「ストーリーにすら道筋がない」ことを最初に決めていたみたいなんですね。


 では、何故「道筋に縛られない」ゲームにしようとしたのか?
 どうして「ゼルダのアタリマエ」を見直すというコンセプトで、まずそこから考え始めたのか?


 そここそが、“今までのゼルダシリーズが抱えていた「構造的な欠陥」”だと思うのです。どうしてゼルダシリーズはプロデューサー自ら「ゲームとして行き詰っている」とまで言うソフトになってしまったのか。全世界の売上だけを見れば前々作『トワイライトプリンセス』が歴代最高をたたき出していたにも関わらず、どうしてこのままではダメだと考えられたのか――――

 それが解消された『ブレス オブ ザ ワイルド』をプレイすれば、逆説的にそれが見えてくるのです。


 今までのゼルダって、構造的に「詰み」やすいゲームだったんですよ。



◇ どうして「一本道」ではダメだったのか?
 「ゼルダが一本道になったのはいつからか」を、私はずっとシリーズ3作目の『神々のトライフォース』以降の傾向なんだと思っていて、ブログにそう書いたことも何度かありました。しかし、この4月からシリーズ2作目『リンクの冒険』をニコニコ生放送で実況しながらプレイしたことで、実は『リンクの冒険』から始まっていたことを知りました。今まで間違っていました、ゴメンナサイ。



 ちょっと、『リンクの冒険』の序盤のネタバレを語ります。
 知りたくない人は数行読み飛ばしてくださいね。

 まず、リンクが最初に行けるダンジョンは「第一神殿」だけです。
 「第一神殿」の中にロウソクがあり、これがあると「北の洞窟」に灯りがともせて探索できるようになります。「北の洞窟」には女神像があって、それを「ルトの町」に持っていくと「取り返してくれてありがとう!」とジャンプの魔法を教えてくれます。その魔法があると「南の洞窟」を抜けられるようになって、ようやく南のエリアに進めるようになるのです。


<画像は『リンクの冒険』(Wii Uバーチャルコンソール版)より引用>

 つまり、「○○に行けば××が手に入って」「××があると△△に行けるようになってそこで◇◇が手に入って」「◇◇があると★★に行くために必要な●●をもらえる」―――といったカンジの一本道になっているのです。

 一部例外もありますが、基本的にはゼルダシリーズというのは以後こういった一本道ゲームの路線を踏襲していきます。『時のオカリナ』で3Dになったり、『トワイライトプリンセス』でWiiリモコンを振ったり、『夢幻の砂時計』でタッチペン操作になったりはしましたが、ゲームとしては一本の道筋を進むゲームなのは変わりませんでした。
 この路線の何が優秀だったかというと、「ゲームを進めている」というカタルシスが感じやすかったんですね。今は行けない場所がある→ ダンジョンで新しいアイテムを手に入れた→ こないだ行けなかったあそこに行けるようになったんじゃないか?→ 行けた!こうして行動できるエリアが広がっていくのが気持ち良かったのです。だから、この路線がずっと支持されてきたんですね。


 しかし、こうした「一本道」路線だとどうしようもないことが一つあります。
 それは一か所でもクリア出来ないところがあると、もうゲームを進められくなってしまうということです。「○○」に行けなかったら「××」が手に入らないので、「△△」にも行けないから「◇◇」が手に入らず、「●●」がもらえないから「★★」にも行けないのです。

 そんなの『ドラクエ』だって『FF』だってそうだし、『ゼルダ』に限った話ではないだろうと思う人もいらっしゃるかも知れません。それは確かにそうなんですが、『ドラクエ』のようなゲームならば「じゃあ、レベル上げをしよう」という解決策がありますし、『ゼルダ』の場合は更に特殊なことに「ゼルダって色んなジャンルの要素を持った総合デパートのようなゲーム」なんですね。






 昔とある記事で、何故『ゼルダ』は日本で売れないのかという話を書いていました。
 そちらの記事は新ブログに移行するつもりがないので、その部分だけ抜粋して載せておきます。


 自分が『ゼルダ』を好きな理由は、『ゼルダ』を1本遊ぶだけで色んなゲームを遊んだかのような満足感を得られるというところにあります。

・広大なフィールドを冒険し、ダンジョンを探索するRPG的な側面
・多彩な武器を駆使して敵をやっつけるアクションゲームの側面
・頭を使って考えないとダンジョンのギミックを突破できないパズルゲームの側面
・周辺を観察することでヒントが隠されているアドベンチャーゲームの側面
・膨大なミニゲームと、やりこみ要素
・任天堂らしくブラックユーモアに溢れている登場人物達の言動



 しかし、これは裏表なんだと思います。
 色んな要素があるからこそ、その一つ一つが苦手な人からすると取っ付きにくさにひっくり返るのです。

・時間のない人は広大なフィールドに尻込みして
・アクションゲームが苦手な人は敵との戦闘が辛くて
・パズル嫌いな人はダンジョン内で挫折してしまって
・サクサク進みたい人は周辺を観察するのが面倒くさくて
・ミニゲームやりたいなら他のゲームやるわとか思われちゃって
・アンチだから任天堂色が強いのはイヤだとか言われちゃって



 むしろ、何にも気にせず『ゼルダ』を楽しめる人ってすごく限られているんじゃないかって思いますね。(かく言う自分もミニゲームは好きじゃないですし、やりこみ要素もガン無視して進めます。)



 これまでの『ゼルダ』シリーズは、「一つ解けないパズルがある」だけでもうゲームは進められませんでしたし、「一人勝てない敵がいる」だけでもうゲームは進められませんでしたし、「一つ攻略できない部屋がある」だけでゲームは進められませんでしたし、ところどころに特殊操作のミニゲームなんかも入ってそれがクリア出来ないとアウトみたいなこともありました。
 「とりあえずレベル上げをしよう」で何とかなる『ドラクエ』とちがって、『ゼルダ』はパズルもアクションもRPGもアドベンチャーもミニゲームも出来ないと詰んじゃうんです。


 実際に私、初代『ゼルダ』は1回途中でクリア出来ないと挫折していますし(その後ニコ生での実況プレイでリベンジしましたが)、『夢をみる島』では「オオワシのとう」のある仕掛けが分からなくて一週間動けませんでしたし、『トワイライトプリンセス』も「馬車防衛」のイベント戦がクリア出来なくて1回挫折していますし、リベンジしようと再度最初からプレイした2周目も「雪山の廃墟」のある仕掛けが分からなくて一週間動けませんでしたし、『夢幻の砂時計』はステルスで進まなくてはならないダンジョンが本当に嫌で嫌で何度も吐きそうになりながらプレイしていて何度「このゲームもうやめたい」と思ったことか分かりませんでしたし――――


 そういう苦しい状況を突破できたときにこそ大きな喜びが得られるのも確かなんですが……一週間全くゲームを進められなくても諦めずに「何とか頑張ろう!」と思える人と、「もうこのゲームはやめよう」と思っちゃう人のどっちが多いかを考えると、残念ながら後者の方が多いんじゃないかと思うんですね。




 もちろんそんなことは『ゼルダ』を開発している人達だって分かっていますから、歴代『ゼルダ』シリーズは(特に謎解き部分において)「詰む」人が出ないようにヒント機能を充実させてきました。
 『神々のトライフォース2』では「ヒントおばけ」、『時のオカリナ3D』ではナビィの呼びかけやシーカーストーンによる「ヒント映像」、『スカイウォードソード』でもファイのヒントやシーカーストーンによる「ヒント映像」が用意されているだけでなく、どの作品の公式サイトにもわざわざ「謎解きに詰まってもこういう救済措置があるので大丈夫ですよ!」と書かれていたんですね。


<画像はニンテンドー3DS用ソフト『ゼルダの伝説 神々のトライフォース2』より引用>


 しかし、こうしたヒント機能があると「困った時にはすぐにヒント」となってしまって、詰まることが少なくなる反面、ヒントに頼りっきりになってしまうということもありました。
 私、『トワイライトプリンセス』を遊んだ時は3Dアクションに不慣れだったこともあって、新しい場所に行ったらまずミドナにヒントを聞き、新しい敵が出てきたらまずミドナにヒントを聞き―――とプレイしていたので、エンディングまで到達しても全くハイラルを救った気がしなくて、ミドナの言いなりになって彼女の敷いたレールの上を進んだだけのような気がしてしまいました。



 「一本道ゼルダ」は、その構造上「一つでも解けないところがあると詰んでしまう」という欠点があったので、ヒント機能を充実させて「詰み」が起こらないようにした結果、ヒントに頼りっきりで自分で解いている感がなくなってしまうこともあって――――


 「海外のゲームはオープンワールドで自由度が高くて自分の遊びたいように遊べるのが素晴らしい」「日本のゲームは一本道のレールに沿ってストーリーを追わされているだけでつまらない」みたいな論調は、抽象的かつ「ただの好き嫌いじゃねえかよ」としか思えなくて私は大嫌いです。一本道でも面白いゲームなんてたくさんありますしね。

 ただ、『ゼルダ』シリーズに関しては、「好き嫌い」とかではなくて、構造上どうしても「一本道だとクリア出来ない人が多くなってしまう」という欠陥を抱えていたんですね。それが「ゲームとして行き詰まっていた」理由だろうと思うのです。



 ということで、ようやくここから本題ですよ(笑)。
 『ブレス オブ ザ ワイルド』はこの構造をぶっ壊したのです。

 『ブレス オブ ザ ワイルド』は、『ゼルダ』シリーズの中で最も「詰み」が起こりにくいゲームだったと私は思います。


<画像はNintendo Switch用ソフト『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』より引用>


◇ 「自由度」とは、何のためにあるのか

 ここからは『ブレス オブ ザ ワイルド』の大ざっぱなネタバレを含みます。

 『ブレス オブ ザ ワイルド』というゲームは、「エンディングを迎えるために“絶対にやらなければならないこと”」が極端に少ないゲームです。チュートリアルとラスボス戦くらいで、あとは「やれば有利になるけどやらなくても別にいいこと」なのです。

 「○○族」の拠点にある「大きなダンジョン」は、クリアするとラスボス戦が有利になる上に、強力な武器や強力な特殊能力を得ることが出来るのですが―――別にクリアしなくてもエンディングは迎えられます。
 各地に点在する「試練の祠」は、見つけるとワープ地点として登録できる上に、クリアすると「最大LIFE数」か「がんばりゲージの上限」を増やすために必要な証がもらえますが―――チュートリアルの祠を除けば、エンディングのためにクリア必須の祠はありません。
 「シーカータワー」にたどり着いて起動すると、ここもワープ地点として登録できる上に、マップが手に入るのですが―――これもチュートリアルのタワー以外は一つも起動しなくてもエンディングを迎えることは出来ますし。
 「コログ」を探すのも、見つければ所持できる武器や盾の数が増えるのですが―――別に初期の所持数でも問題なくラスボスは撃破できますし。  「サブクエスト」もクリアすれば報酬はもらえますが、無視してもクリア出来ますし。「マイホーム」も「自分の馬」も「装備」も「装備の色変え」も「アイテムの強化」も、エンディングのために必須なことではありません。

 「マスターソード」ですら、手に入れば確かにラスボス戦などで活躍してくれますが、なくてもラスボスは倒せます。



 ディレクターの藤林さんが「いきなりボスのところに行けるようにしよう」が最初のコンセプトの一つだったと仰っていたように。インターネット上に多数投稿されている「最速クリア」の動画を観てみたら、そういう人達はチュートリアルが終わったら真っ先にラスボスのところに向かっているんですね。それでもクリア出来てしまうのです。防御力もLIFE数も初期値なので、一撃でも喰らったらゲームオーバーですけど(笑)。


 さて、ここで前段で語った「今までのゼルダシリーズの構造的欠陥」の話を思い出してください。
 今までのゼルダシリーズは「一本道」だったが故に“一か所でもクリア出来ないところがあると、もうゲームを進められくなってしまう”ゲームでした。一つのパズルが解けない、一つの敵が倒せない、一つの部屋が攻略できない、クリア必須のミニゲームがクリアできない―――それだけで「もうこのゲームは進められないや」と諦めるしかありませんでした。

 『ブレス オブ ザ ワイルド』は、違います。
 チュートリアルとラスボス戦以外には、クリア必須なものはありませんから。解けないパズルは後回しにして、倒せない敵との戦闘は避けて、攻略できない部屋は諦めて、ミニゲームも難しかったら後回しにして―――“クリア出来ないところが何か所あっても、そこ以外を進めればイイや”というゲームになっているのです。

 例えば私、見つけたけどクリアの仕方が分からなかった「試練の祠」がありました。今までのゼルダだったら、一週間そこから動けずにうんうん唸るか、ヒントを見るか、攻略サイトを見るかってカンジだったと思うのですが、今回のゼルダなら「後回しにしよう」とスルーして他のことが出来るんです。
 敵との戦闘が嫌いなので、敵の拠点はほとんど襲撃しませんでしたし、ライネルにも空中ガーディアンにも勝てたことはありません。基本はずっと逃げです。それでエンディングは迎えられます。

 ステルス面だけは本当にキツかったのでYoutubeLiveでみんなから励ましとアドバイスをもらいながら、何度も何度もコンティニューしてやっとの思いでクリアしましたが。あの放送時間中にクリア出来なかったら、もうあそこは諦めようと開き直っていました。アソコをクリア出来なくても、別にエンディングは迎えられたし。



 『ブレス オブ ザ ワイルド』の「自由度」は、「何をしてもいい自由」だけではないのです。「やりたくないこと・やれないことはしなくてもいい自由」なのです。


 これは間違いなくスタッフは意識していたはずです。
 今までのゼルダシリーズの中でも、初代『ゼルダ』や『神々のトライフォース2』は「ダンジョンの攻略順を自分で選べる」比較的自由度の高いゼルダだと言われていました。しかし、それらのソフトであっても、ラストダンジョンに入るためには「その他のダンジョンを全てクリアする」必要があったのです。つまり、“一か所でもクリア出来ないところがあると、エンディングを迎えることは出来なかった”んですね。


<画像は『ゼルダの伝説』(Wii Uバーチャルコンソール版)より引用>


 『ブレス オブ ザ ワイルド』も、何も考えずに今までのゼルダシリーズを踏襲しただけなら、“「○○族」の拠点にある「大きなダンジョン」を全てクリアしなければラストダンジョンに入れない”とか“「試練の祠」を幾つ以上クリアしていないとラストダンジョンに入れない”みたいにしちゃっていたんじゃないかと思います。
 しかし、『ブレス オブ ザ ワイルド』のスタッフは「こういう作りかたでは、もうダメなのではないか」と、一つのダンジョンもクリアしていなくても、(チュートリアル以外では)一つの祠もクリアしていなくても、ラストダンジョンに入れるしラスボスも(理論上は)倒せるようにしたのです。



 それを裏付けることに……近年のゼルダシリーズでは「アタリマエ」のようにあったヒント機能が、今作にはないんですね。それっぽいのは「大きなダンジョン」のボスをいつまでも倒せないと、ヒントのようなものを教えてくれるところくらいで……ダンジョンの仕掛けや、試練の祠の謎解きなどには、一切ヒントが出ませんでした。

 今までのゼルダシリーズは「解けなかったらもうゲームを進めることが出来なくなってしまう」ためにヒント機能を充実させてきましたが、『ブレス オブ ザ ワイルド』は「解けなかったとしてもそこを諦めてもエンディングを迎えることはできる」ためにヒント機能を入れる必要がなくなったんです。おかげで、自分の力だけで解いていることを実感できるゲームになっていました。




 2010年の私はゼルダシリーズをこう語っていました。


 『ゼルダ』が好きな人は「こんなに素晴らしいソフトがどうして売れないんだ?」と不思議で仕方がないのですけど、それは「楽しめる人」の意見であって、「楽しめない人」にとっては物凄くハードルの高いソフトなのかも知れませんね。難易度の問題ではなく、ゲームの方向性そのものが。

 『ゼルダ』は海外では超キラータイトルですし、“ハードを牽引するソフト”なので、任天堂としても路線変更する気はないでしょうしするべきではないのでしょうが……こういったブランド力のない(ゼルダではない)新規ソフトが「あの要素もこの要素もたくさん入ってるよ!」と言っちゃうと、逆効果なのかも知れませんね。




 ゼルダシリーズについていけない人はたくさんいるけれど、それでも海外では超売れているソフトなので路線変更はしないだろうと書いていたんですね。しかし、その後『ブレス オブ ザ ワイルド』は「ゼルダのアタリマエを見直す」と大胆な路線変更をしました。

 今までのゼルダシリーズをクリアできずに詰んできた人達のためにどうすればイイのか―――「ゼルダのアタリマエ」を見直して、“クリア出来ないところが何か所あっても、そこ以外を進めればイイや”というゲームにしようとした結果。フィールドがひたすら広い「オープンワールドのゲーム」になり、道に沿わなくても進めるように「崖」や「壁」に登れるようになり、降りる時は「パラセール」で好きなところに降りられるようになっていったんじゃないかと思うのです。
 「オープンワールドにした」のはあくまで“「詰む」人を少なくする”ための「手段」であって、「オープンワールドにする」こと自体が「目的」ではなかったんだと思うのです。



 なので、私は「今までのゼルダシリーズをクリア出来なくて挫折してきたような人達」にも、この『ブレス オブ ザ ワイルド』を強くオススメしたいです。

 「自由度」というのは、決して「ゲームが上手い人」を喜ばせるためだけのものではありません。「ゲームが下手な人」のために、苦手なことはやらなくてもイイんだとしてくれる側面もあるのです。

 まぁ、エンディングを迎えるために倒さなきゃならないラスボスは強いですけどね!(笑)
 誰だよ、「今度のラスボス弱すぎwww」とか「拍子抜けするほど楽に倒せたwww」とか言っていた連中は!マスターソード持ってて、「大きなダンジョン」も全部クリアして、回復アイテムも「完全回復+最大値アップ」の料理を山ほど作って持っていったのに、私はラスボス倒すのに45分かかりましたよ!最速クリアの人が40分ちょっとで最初から最後までプレイ出来るのに、私はラスボス戦だけで45分かかりましたよ!



<画像はNintendo Switch用ソフト『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』より引用>



 また、今日の記事の主題とはちょっとズレる話かも知れませんが……
 今回の『ブレス オブ ザ ワイルド』は、「解法が複数ある」というのも特徴です。4月のファミ通のインタビュー後半で、スタッフの方々はこう仰っています。

<以下、引用>
――いままでの『ゼルダ』の謎解きは、“目玉があったら弓矢で射る”などの様式美的なものがありましたが、今回はどんな形でもクリアーできる自由さがあるように感じました。ここも“アタリマエ”を見直した結果ですか?

藤林「“見直す”というより、そのほうがおもしろいな、と気づいたんです。“解法がひとつだけ”というのはやめようと思っていたので、ダンジョンや試練の祠を作るときに、プランナーに「解法は絶対に3つ作ってね」とお願いしました。
 ですので、祠のネタを決めるときに解法を聞いて、サッと3つ出てこないものはボツにしています。ただ、そこで完全にボツになるわけではなく、地形担当デザイナーに相談しにいって、新しいアイデアをもらって完成したりと、プランナーとデザイナーの連携プレイで生まれた謎解きも多いですね。」

――ということは、すべての祠に3つ以上の解法があるわけですか!?

藤林「いま正確にお答えはできませんが、基本的にそういう方針で作っています。」

滝澤「3つ作ると、副次的に4つ目の解法ができちゃったりもするんですよね。」

青沼「いままでの『ゼルダ』のダンジョンだと、答えをひとつだけ用意して、「これを解いてね」という形で作っていたので、バグが起きて、それじゃない方法で解けてしまうと、制作側としては非常に困るんです。ですので、ダンジョンの謎解きは、ほかの解法を全部ふさぐ形で設計していました。
 でも、ちょっとバグっぽいことができたときのほうが、ユーザーとしては絶対うれしいじゃないですか。「俺、こんなやりかたを見つけちゃったよ!」みたいな(笑)。」

藤林「ズルするのって楽しいですからね(笑)。」

滝澤「ズルをやると、謎を解いたときや、敵を倒したときの『ゼルダ』ならではの“してやったり感”がいつもより高い、ということに気づいてからは、だいぶおおらかになりましたよね。」

藤林「そうすると、つぎはプランナーが裏をかかれたように見せかける仕掛けを張っておいたりするんですよ。「ほらいま、してやったと思ったでしょう?」みたいな(笑)。そんなふうに、いろいろな場所や謎解きに、プランナーや地形デザイナーの仕込んだ意思が隠されています。」

</ここまで>
※ 改行や強調など、一部引用者が手を加えました

 これもある意味では「道筋に縛られない」「自由度」の話に通じるのかも知れませんが……今までのゼルダシリーズは基本的に「解法が一つ」でした。謎解きはこのアイテムを使うと解ける、この敵にはこの武器を使うと倒せる、そういった「スタッフが想定しているたった一つの答え」を考えるゲームだったんですね。

 しかし、『ブレス オブ ザ ワイルド』は、謎解きの解法も敵の倒し方も複数のものが用意されていますし、ラストダンジョンに入るルートも複数用意されていたみたいです。そうすると、毎回「この解法を考えたのはオレだけなんじゃないか」とか「一応クリアになったけど、絶対この解き方は模範解答ではないぞw」といったカンジに、自分で考えた“自分だけの答え”というカンジがするんですよ。

 「解法が一つしか用意されていない」のと、「解法が三つ以上用意されている」というだけのちがいなのに。




 ネタバレですが、例えばコレ。
 この宝箱の取り方が分からなくて、いろんな方法を試してようやくたまたま取れたのですが……「他の人はどうやって取ったんだろう?」というのが気になったので、Youtubeに動画を投稿して「私はこうやりましたがみなさんはどうやりました?」と聞くことにしました。
 ネタバレになるので、文字色を反転させておきますが……いただいたコメントによると「ビタロックで宝箱を空中に固定→ その間に弓矢でロープを切り、ビタロックが切れて落下するタイミングに合わせてマグネキャッチでキャッチ」とか、「ロープに火をつけて完全に燃え尽きる前にマグネキャッチを宝箱に撃つ→ ロープが燃え尽きればそのままマグネキャッチで宝箱を引き寄せられる」といったものがありました。

 これで、私の取った方法と合わせて解法3つですよね。
 恐らく一番スマートな取り方は「ロープに火をつけて完全に燃え尽きる前にマグネキャッチを宝箱に撃つ→ ロープが燃え尽きればそのままマグネキャッチで宝箱を引き寄せられる」という方法だと思うのですが、それが思いつかなかったとしても、他の方法でも宝箱が取れるというのが今作の特徴だと思うんですね。


 「自由度」が上がると、どうゲームが面白くなるのか――――  それをしっかり考えたのが、この『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』というゲームだと思うのです。



◇ 余談
 しかし、ですね。
 こういった「苦手なことはしなくてイイ」という方向性に「自由度」を使っているゲームは、別に『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』が初めてというワケではありません。


 というか、私はずーーーーーっとずーーーーーっと「どうして任天堂はあのゲームのやり方を踏襲しなかったんだろう?」というのが疑問でした。25年以上も前に任天堂はその領域に達していたはずなのに、何故かあのゲームの路線を引き継いだゲームはこの『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』までなかったように思うのです。



 それは、このゲーム。


<画像は『スーパーマリオワールド』(Wii Uバーチャルコンソール版)より引用>

 スーパーファミコンの『スーパーマリオワールド』です。
 このゲームを遊んだことのある人にとっては常識でしょうから書いてしまいますが、このゲームも『ブレス オブ ザ ワイルド』同様に「やろうと思えば序盤から最終面に行くことが出来る」のです。正攻法で進むと途中途中かなり難しい面もたくさんあるのですが、隠しルートを知っているとそういう面は無視してエンディングを迎えることが出来ちゃうのです。


<画像は『スーパーマリオワールド』(Wii Uバーチャルコンソール版)より引用>


 しかし、後に続くマリオシリーズは3Dにしても2Dにしてもこの路線には進みませんでした。完全な一本道ではありませんが「必ずクリアしなければならないステージ」があったり、「幾つ以上クリアしていないとここから先は進めない」という条件があったりします。では、難しい面に対して初心者救済措置をどうしたかというと「同じステージで何度も死ぬと、自力でクリアできなくてもステージを進むことが出来る」という方向に進んだのです。
 『NewスーパーマリオブラザーズWii』は「おてほんプレイ」で、ルイージに代わりにクリアしてもらうことが出来ましたし。『スーパーマリオギャラクシー2』は「おたすけウィッチ」で、パワースター手前までワープしてもらえましたし。『スーパーマリオ3Dランド』は「アシストブロック」で、道中ずっと無敵になったりゴール手前までワープしてもらったり。『Newスーパーマリオブラザーズ2』は「無敵このは」で、道中ずっと無敵になれますし。『NewスーパーマリオブラザーズU』も「おてほんプレイ」で、ルイージに代わりにクリアしてもらうことが出来ましたし。『スーパーマリオ3Dワールド』も「無敵このは」で、道中ずっと無敵になれます。

 これらの救済措置は「初めてマリオを遊ぶ人でも安心ですよ!」と公式サイトに書いてあるのですが……正直、ゼルダシリーズにおけるヒント機能と似たようなものを感じるのです。

 「一本道マリオ」は、その構造上「クリア出来ない面があると詰んでしまう」という欠点があったので、「代わりにクリアしてあげる機能」を充実させて「詰み」が起こらないようにした結果、アシストに頼りっきりで自分でクリアしている感がなくなってしまった――――
 こういう路線にするのなら、『スーパーマリオワールド』のように複数のルートを用意して「いきなり最終面に行ける」みたいなルートも作っておく方が「自分で攻略している」感覚が味わえるんじゃないかと思うんですけどねぇ。


 ただ、『ブレス オブ ザ ワイルド』も「最速クリア」が40分ちょっとだという情報だけを聞いて、「すぐにクリア出来る内容スカスカなゲームだ」みたいに叩く人もいて(※1)。『スーパーマリオワールド』の路線が引き継がれなかったことを考えると、同じように「すぐにクリア出来ちゃうヌルイゲーム」みたいに叩く人も多かったのかも知れませんね。

(※1:一応言っておきますが、40分ちょっとでのクリアというのは、膨大な時間を使ってこのゲームのあらゆる要素を分析・研究して、何度も何度も何度もプレイして鍛錬して1ダメージも喰らわずにラスボスを倒せるように血のにじむような努力をした結果の「最速クリア」ですからね。)

 自分はやっぱり「自力でクリア出来なくてもクリアした扱いになる救済措置」よりも、『スーパーマリオワールド』や『ブレス オブ ザ ワイルド』のような「苦手なことはやらなくてイイ自由度」の方がゲームデザインとして美しいと思いますし、そういうゲームが増えて欲しいなぁと思います。

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