※ この記事は2022年に旧ブログに書かれたものを幾つか手直しして2025年に移行した記事です

<画像はスーパーファミコン用ソフト『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』より引用>
【これさえ押さえておけば知ったかぶれる三つのポイント】
・『ドラクエ』とは別の系譜で育っていた「ローグライク」というジャンル
・ただ『ドラクエ』のガワを着せただけでない、日本人の口に合わせた様々な変更点
・『ローグ』の一番面白いところを敢えて削って、クリア後までお預けにした英断
『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』
・発売・開発:チュンソフト
スーパーファミコン用ソフト:1993年9月19日発売
・ローグライクRPG
・セーブスロット3つ、自ターンならいつでも中断可能
私がエンディングまでにかかった時間は約13時間でした
「もっと不思議のダンジョン」クリアまでかかった時間は約45時間でした
※ネタバレ防止のため、読みたい人だけ反転させて読んでください
↓1↓
◇ 『ドラクエ』とは別の系譜で育っていた「ローグライク」というジャンル

<画像はスーパーファミコン用ソフト『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』より引用>
このゲームは1993年に発売されたスーパーファミコン用のソフトで、「日本で初めてのローグライクゲーム」ではありませんが、「日本にローグライクというジャンルを認識・定着させたゲーム」と言って過言ではないでしょう。
パッと見で「アクションRPG」に見えるかも知れませんが、こちらが「1マス動く」「攻撃をする」などをすると、全モンスターも「1マス動く」「攻撃をする」などの動きをするターン制のゲームです。こちらが動くまでモンスターの動きも止まるので、アクションゲームの腕前は必要ありません。誰が操作しても、トルネコは1/8の確率で攻撃を外します。
「そもそもローグライクって何?」とお思いの方もいらっしゃるでしょうから、そこから説明をしますね。
1970年代、アメリカで『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(1974年)に代表される「テーブルトークRPG」が流行します(この呼び方は和製英語ね)。複数人が集まってキャラクターを「演じる(role-playing)」アナログゲームで、これを「コンピューター上で」「1人でも遊べるように」と考えられてコンピューターゲームのRPGは誕生します。
最初期はパソコン用のソフトですらなく、メインフレームという大学などで用いられた組織共有のコンピューターに書き込まれたプログラムです。商品として流通していたというより、アメリカの大学で学生達が仲間内で開発して、改良していったのでしょう。
そのため、発表された年数はどれも「と言われている」レベルですが、1974年『m199h』、1975年『pedit5』、『ザ・ダンジョン』、『dnd』、1977年『ウブリエット』などなどなどが生まれています。『ウブリエット』は、後の『ウィザードリィ』に思いっきり影響を与えた作品と言われていますね。
そして、1980年にカリフォルニア大学バークレー校の学生2人の手によって『Rogue(ローグ)』は生まれます。同校のUNIX上に書き込まれたこの『ローグ』はやがてカリフォルニア大学のすべてのキャンパスで遊ばれるようになり、改良を重ねて、1983~4年頃には世界中の大学や研究機関でプレイ出来るようになっていったそうです。
一方、Apple IIが1977年に発売されると「パソコン用のRPG」も作られるようになり、1978年には「商用として発売されたRPG」は既にあったみたいです。1979年には、後に『ウルティマ』を作るリチャード・ギャリオットの『アカラベス』が3万本を売り上げています。
そして、1981年になると『ウィザードリィ』と『ウルティマ』が大ヒットをして、日本にも知られるようになって、それらを遊んだ日本人達もRPGを開発するようになって、1986年にファミコン用に『ドラゴンクエスト』が発売されてRPGが日本の国民的ジャンルになる―――という経緯のため。
RPG=『ドラクエ』的なゲームだと思っていると、『ローグ』って「これってRPGなのか?」と驚くシステムなんですよね。
『ウルティマ』や『ウィザードリィ』とはちがう系譜の作品ですし、当時のアメリカのRPGにはあったけど『ドラクエ』などの日本のRPGが削った要素も多いので。

<画像はSteam版『Rogue』より引用>
この画像は現在でもSteamで買える『ローグ』で、改良を重ねた『ローグ』を最終的に商用で発売した1985年の「最終バージョン」らしいです。
『ドラクエ』などのRPGとちがうところを列挙していきましょう。
・「世界を冒険する」のではなく、「1つのダンジョンだけを潜る」
(これは当時のRPGとしては普通だと思います)(『ウルティマ』が異端)
・そのダンジョンは「ランダム生成」されて、毎回構造が変わる
(これは1978年の『Beneath Apple Manor』が先駆けています)(『ローグ』がパクったのではなく、「長く遊べるように」「開発者自身でも楽しめるように」と考えた結果2作品が同じアイディアに行き着いたのだと言われています)
・アイテムを入手しても、使うまではどのアイテムなのかが分からない
(これも『ウィザードリィ』などにもある要素です)
・「空腹」の概念がある
(これも『ウルティマ』などにはあるし、日本のRPGにも採用したものは結構あったみたい)
・HPが自動回復する
・ゲームオーバーになると、レべル1に戻って最初から
「ローグライク」の定義では、「ダンジョンがランダム生成される」のと「ゲームオーバーになると、レべル1に戻って最初から」の部分が重要らしいのですが……その部分は、RPGとしては確かに異端に思えるけど、アーケードライクのゲームと考えるならそこまで変とも思わないんですね。シューティングゲームとかだってゲームオーバーになると最初からやり直させられるし。
個人的には、このゲームの肝は「アイテムを入手しても、使うまではどのアイテムなのかが分からない」のと「HPが自動回復するが空腹になる」部分だと思っています。要は、限られたアイテムのやりくりをする、リソース管理のゲームだと思うんですね。
さてさて、1980年に『ローグ』が発表されて以降、様々な「ローグのようなゲーム」が生まれます。説明すると長くなるので簡単に端折ると、『ローグ』をプレイしたいけどプレイ出来ない環境になってしまった人達が自前で「ローグのようなゲーム」を作ったりしたんですね。例えば、1980年に発表されて後に様々な人の手によって改良された『Hack』や、1983年の『Moria』、1987年の『NetHack』などなどなど、「ローグのようなゲーム」が日々生まれて改良される時期だったそうです。「ローグライクゲーム」という言葉はここで生まれたんですね。
ここまでは海外の話でしたが、ここからは日本の話をします。
日本に『ローグ』や「ローグのようなゲーム」がやってきたのは、1985~6年頃みたいです。1986年にアスキーからPC-88シリーズ用に『ローグ』が発売されていて、そのためアスキーから発行されていたパソコンゲームの雑誌『ログイン』で特集されていたそうです。
そこからちょっと経って1990年前後になると、パソコンでしか遊べなかった『ローグ』の要素を含んだゲームをゲーム機用に持ちこもうとする流れが出てきます。
1990年12月にはセガがゲームギア用ソフト『ドラゴンクリスタル ツラニの迷宮』を発売、そのシステムを流用して1991年にメガドライブ用の「ゲーム図書館」でダウンロードして遊べた『死の迷宮』なんかもありました。『ドラゴンクリスタル ツラニの迷宮』は3DSのバーチャルコンソールで遊べて(※2025年追記:現在は販売終了しました)、『死の迷宮』はメガドラミニに収録されています。
「セガはいち早くローグライクゲームを出していた!」といういつものやつですが、これらのゲームは「クリアまで4~5時間かかるのに途中セーブ(中断セーブ)が出来ない」という致命的な欠陥を抱えていたので流行らなかったのも仕方ない……
私は『死の迷宮』はプレイしたのですが、全体マップが見られないのと、拾うアイテムが同じようなものばかりなのがちょっとイマイチかなと思いました。あと、死んでもレベルが下がって中間ポイントとなる階からの復活です。セガなりに「死んだら最初から」なのはハードルが高いと思ったのかも知れませんが、その気遣いが出来たなら途中セーブ(中断セーブ)出来ないことも考えて欲しかったですね。

<画像はメガドライブミニ収録『ゲームのかんづめ お徳用』内の『死の迷宮』より引用>
1991年4月にはコナミがゲームボーイ用ソフト『カーブノア』を発売しています。これはレベルアップの要素がなく、空腹の概念はないけどHPが自動回復をしないため、如何に敵との戦闘を避けるかの「パズルゲーム」っぽい調整になっているとか。
そして、1992年3月には「ローグライク」の要素を含んだ協力アクションゲーム『トージャム&アール』が日本でも発売されます。
しかし、これらのゲームは日本でのスタンダードになりませんでした。
『トルネコの大冒険』を企画したチュンソフトの長畑成一郎さんは、電ファミニコゲーマーのインタビューでこう仰っています。
<以下、引用>
私は中村と同じ大学にいたのですが、そこの研究室で『ローグ』にハマってたんです(笑)。
当時は、ちょうどRPGの元祖である『ウィザードリィ』や『ウルティマ』、そしてまさにチュンソフトの『ドラゴンクエスト』がようやく出てきた頃でした。でも、あれはグラフィックが特になくてアスキー文字だけで全てが表現されていて、そういう中を歩きまわってダンジョンに入ってモンスターと戦うわけですよ。その見た目が何よりもまず新しく映り、やがてゲームとしての面白さに夢中になりました。
ところが、卒業後にゲームと関係のない業界でしばらく働いたあとでチュンソフトに入社してみたら、まだ『ローグ』がコンシューマーで出ていないと気づいたんです。そんな最中に先の社内募集があったものだから、真っ先に『ローグ』を提案しました。
</ここまで>
※ 改行や強調など、引用者が手を加えました
えっ、『ドラゴンクリスタル』や『死の迷宮』や『カーブノア』や『トージャム&アール』の立場は……と思いましたが、この言い方だと「まだ『ローグ(そのものの移植)』がコンシューマーで出ていないから、真っ先に『ローグ(のようなゲーム)』を提案した」とも読めるか。
とにかく、当時の感覚では「ローグのようなゲーム」は、まだゲーム機用に受け入れられていなかったという認識だったと思います。何せ、RPG=「ドラクエみたいなゲーム」という時代なので、『ドラクエ』とちがう系譜の「ローグのようなゲーム」はどう遊んでイイか分からなかったと思うんですね。『トージャム&アール』なんて、今でもよく分からないなんて言われてますし。
『トルネコの大冒険』は、そこから「日本人にもローグのようなゲーム」を受け入れてもらえるようにありとあらゆる工夫をして作られたゲームなんですね。
↓2↓
◇ ただ『ドラクエ』のガワを着せただけでない、日本人の口に合わせた様々な変更点

<画像はスーパーファミコン用ソフト『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』より引用>
日本ではまだ受け入れられていない&認識すらされていなかった「ローグのようなゲーム」を、日本人にも取っつきやすくする様々な工夫をしたのですが―――その1つが、言うまでもなく『ドラゴンクエスト』のキャラを使ったことです。
主人公は『ドラゴンクエストIV』のトルネコで、武器や魔法の名前も大部分が『ドラゴンクエスト』シリーズのものを使っていて、敵キャラクターは全て『ドラゴンクエスト』シリーズのモンスターとなっています。当時の『ドラクエ』本編のモンスターは、正面からの絵しかなくてアニメーションもしなかったので、『ドラクエ』のモンスターがゲーム内で動きまくること自体が新鮮でした(漫画とかアニメとかはありましたけど)。それらの動きも一応、堀井雄二さんや鳥山明さんの確認を取っているそうです。
これは賛否両論ありそうですが、本作は「ローグの魅力を日本人にも分かりやすく伝えよう」と考えられているためか、例えばモンスターの役割や能力は『ローグ』そのもので、それを『ドラクエ』のモンスターに置き換えていると言えます。多分こんなカンジ。
・E(エミュー)=スライム…最弱のモンスター
・K(ケストレル)=ゴースト…移動が速い
・B(バット、こうもり)=ドラキー…不規則な動きをする
・S(スネーク、蛇)=おおなめくじ…特に能力は持たないが、経験値がちょっとだけ高い
・H(ホブゴブリン)=ももんじゃ…特に能力は持たないが、ちょっとだけ強い
・I(アイスモンスター)=まどうし…こちらの動きを数ターン封じ込める、寝てる
・R(ラトルスネーク)=おばけキノコ…毒でこちらの「ちから」を下げる
・Z(ゾンビ)=ミイラおとこ…序盤の強敵
・L(レプラコーン)=わらいぶくろ…大金を持ってるがこちらの金も盗む、寝てる
・Q(クアッガ)=キメラ…特に能力は持たないが、なかなか強い
・C(ケンタウロス)=さまようよろい…特に能力は持たないが、かなり強い
・A(アクエイター)=くさったしたい…こちらの防具を錆びさせる、通常攻撃はしない
・N(ニンフ)=ベビーサタン…こちらのアイテムを盗む、寝てる
・F(ヴィーナス・フライトラップ)=マドハンド…掴まれると移動が出来なくなる、動かない
・T(トロール)=ゴーレム…中盤の強敵
・W(レイス)=どろ人形…こちらのレベルを下げる
・P(ファントム)=シャドー…アイテムを使わないと姿が見えない、不規則な動きをする
・X(ゼロック)=ミミック…落ちているアイテムに化けている
・U(ブラック・ユニコーン)=ギガンテス…特に能力は持たないが、うんと強い
・M(メデューサ)=おおめだま…部屋全体に混乱攻撃をしてくる
・V(バンパイア)=ミステリードール…こちらの最大HPや「ちから」を下げる
・G(グリフィン)=シルバーデビル…移動が速い
・J(ジャバウォック)=アークデーモン…特に能力は持たないが、半端なく強い
・D(ドラゴン)=ドラゴン…ムチャクチャ強く、直線上だと炎攻撃を撃ってくる
ビックリするくらい原作に「同じ能力のモンスター」がいます。例えばマドハンドみたいに「ドラクエだとこんな動きしなくない?」という能力を持たされているモンスターも、『ローグ』を知ると謎が解けますね。アークデーモンは『ダイの大冒険』でヒュンケルに瞬殺されてたイメージしかなかったので「このゲームだとこんなに強いの!?」と思ったけど、元ネタが「ジャバウォック」ならそりゃ強いわ!
『ローグ』の方にはいるけど『トルネコの大冒険』には当てはまりそうにないのは、わらいぶくろと能力が統合されたっぽい「O:オーク」と、名前は同じモンスターがいるけど能力が全然ちがう「Y:イェッティ」あたりですかね。
逆に、『ローグ』の方にはそれっぽいキャラがいないけど『トルネコの大冒険』にいるキャラを見ると、このゲームオリジナルで選んだモンスターなので「チュンソフトなりの調整」が分かって面白いですね。
・リリパット…直線上だと矢を撃ってくる
・きめんどうし…バシルーラでこちらを別の場所にワープさせる
・はぐれメタル…倍速で逃げ回り倒しづらい、倒すと必ず「しあわせの種」を落とす
・イエティ…4匹かたまった状態で寝ていて、1匹起こすと全員が倍速で襲ってくる
・うごくせきぞう…オブジェクトかと思ったら、隣接してくると攻撃してくる
・爆弾岩…HPが一定以下になると動きが止まり、一桁になると大爆発する
・マネマネ…他の強敵に化けている
追加されたキャラは、どれもアクセントになっていて「なるほどなー」と思いますね。
はぐれメタルがいなかったら別ゲーになっていたことでしょう!
この調子でアイテムも「ローグにあるもの」「ローグにないもの」をザっとまとめておきますか。興味ない人は読み飛ばしてくださいな。
<Potion→ 草>
・Potion of Healing(回復薬)→ 薬草
・Potion of Extra Healing(高回復薬)→ 弟切草
・Potion of Confusion(混乱の薬)→ メダパニ草
・Potion of Hallucination(幻覚の薬)→ まどわし草
・Potion of Poison(毒薬)→ 毒草
・Potion of Restore Strength(力を回復する薬)→ 毒消し草
・Potion of Gain Strength(力が増す薬)→ ちからの種
・Potion of Blindness (盲目の薬)→ 目つぶし草
・Potion of See Invisible(見えないものが見える薬)→ 目薬草
・Potion of Haste Self(素早くなる薬)→ すばやさの種
・Posion of Raise Level(レベルアップの薬)→ しあわせの種
・Potion of Monster Detection(遠くのモンスターが分かる薬)→ 草ではなく、地獄耳の巻物?
・Potion of Magic Detection(魔法を検出する薬)→ 草ではなく、千里眼の巻物?
※ 『ローグ』にあって『トルネコ』にない
・Potion of Levitation(浮遊の薬)…しばらくの間、アイテムも拾えないし階段も使えなくなる
※ 『ローグ』になくて『トルネコ』にある
・火炎草…飲むと、目の前の敵に大ダメージを与える
<scroll → 巻物>
・Scroll of Magic Mapping(魔法の地図)→ レミーラの巻物
・Scroll of Hold Monster (モンスターを動けなくする巻物)→ かなしばりの巻物
・Scroll of Enchant Weapon(武器強化の巻物)→ バイキルトの巻物
・Scroll of Enhant Armor(鎧強化の巻物)→ スカラの巻物
・Scroll of Protect Armor(鎧を守る巻物)→ メッキの巻物
・Scroll of Identify(識別の巻物)→ インパスの巻物
・Scroll of Remove Curse(呪いを解く巻物)→ シャナクの巻物
・Scroll of Scare Monster(モンスターを怖がらせる巻物)→ 聖域の巻物
・Scroll of Teleportation(テレポートの巻物)→ 巻物ではなく、ルーラ草?
・Scroll of Sleep(眠りの巻物)→ 巻物ではなく、ラリホー草?
・Scroll of Aggravate Monster(モンスターを目覚めさせる巻物)→ 巻物ではなく、ザメハの指輪?
※ 『ローグ』にあって『トルネコ』にない
・scroll of blank paper(白紙の巻物)…何も起きない
・Scroll of Monster Confusion(魔物混乱の巻物)…次に直接攻撃を命中させた怪物を混乱させる
・Scroll of Food Detection(食糧検知の巻物)…食料を検知する
・Scroll of Create Monster(モンスターをつくる巻物)…目の前に怪物が出現する
※ 『ローグ』になくて『トルネコ』にある
・イオの巻物…周囲のモンスターに一斉にダメージを与える
・パンの巻物…指定したアイテムをパンに変える
・祈りの巻物…指定した杖の使用回数を増やす
・時の砂の巻物…その階のスタート時に戻る
・リレミトの巻物…地上に戻る
・くちなしの巻物…読んだ階では、何も食べられないし、巻物も読めなくなる
・ワナの巻物…読んだ階に、ワナが30個増える
・パルプンテの巻物…8つある効果の内のどれかが起こる
<wand/staff→ 杖>
・Wand/Staff of Invisibility(モンスターを見えなくする杖)→ レムオルの杖
・Wand/Staff of Polymorph Monster(モンスター変化の杖)→ 変化の杖
・Wand/Staff of Magic Missile(魔法のミサイルの杖)→ いかずちの杖
・Wand/Staff of Haste Monster(モンスターを素早くさせる杖)→ ピオリムの杖
・Wand/Staff of Slow Monster(モンスターを遅くさせる杖)→ ボミオスの杖
・Wand/Staff of Drain Life(自分のライフポイントで攻撃する杖)→ もろ刃の杖っぽいが、それより弱い
・Wand/Staff of Teleport Away(テレポートさせる杖)→ バシルーラの杖
・Wand/Staff of Cancelation(特殊能力を無効化させる杖)→ 封印の杖
※ 『ローグ』にあって『トルネコ』にない
・Wand/Staff of Nothing(ただの棒)…何も起きない
・Wand/Staff of Light(明かりの杖)…部屋を明るくする
・Wand/Staff of Lightning/Fire/Cold(雷の杖、炎の杖、冷気の杖)…電撃・炎・氷で攻撃する
・Wand/Staff of Teleport To(テレポートさせてくる杖)…モンスターが隣にワープしてくる
※ 『ローグ』になくて『トルネコ』にある
・大損の杖…こちらのHPをモンスターに与える
・分裂の杖…モンスターを分裂させる
・転ばぬ先の杖…持っていると転ばなくなる
・ザキの杖…モンスターを殺す
・メダパニの杖(※ポーションはある)
・ラリホーの杖(※巻物はある)
<Ring→ 指輪>
・ring of add strength(力強化の指輪)→ ちからの指輪
・ring of sustain strength(力維持の指輪)→ 毒けしの指輪
・ring of see invisible(見えないものが見える指輪)→ シャドーの指輪
・ring of adornment(何もない指輪)→ きれいな指輪っぽいが、こちらは安価
・ring of aggravate monster(モンスターを起こす指輪)→ ザメハの指輪より強力
・ring of slow digestion(消化を遅くする指輪)→ ハラヘラズの指輪というより皮の盾
・ring of maintain armor(鎧を維持する指輪)→ 指輪というよりみかがみの盾
・ring of teleportation(テレポートの指輪)→ ルーラの指輪
・ring of stealth(ステルスの指輪)→ とうぞくの指輪
※ 『ローグ』にあって『トルネコ』にない
・ring of increase damage(ダメージ増加の指輪)…攻撃力が上がる?
・ring of protection(守りの指輪)…守備力が上がる?
・ring of dexterity(器用さの指輪)…命中率が上がる?
・ring of regeneration(再生の指輪)…HP回復スピードが上がる
・ring of searching(探索の指輪)…周囲がよく見える?
※ 『ローグ』になくて『トルネコ』にある
・眠らずの指輪…眠らなくなる
・人形よけの指輪…レベルダウンや最大HP減少などの特殊攻撃を防ぐ
・ワナ抜けの指輪…ワナにかからなくなる
・ハラペコの指輪(※『ローグ』はほとんどの指輪が空腹スピードが上がる)
過半数が最初の『ローグ』からあるものを名前だけ変えて使っていることに驚きますが、ただ実際に『トルネコの大冒険』を遊んでみると「重要な組み合わせは『ローグ』にはなく、『トルネコ』が独自に入れたもの」が多いことに気付きます。「はぐれメタル+分裂の杖」とか、「祈りの巻物+ザキの杖」とか。
また、『ローグ』にはなくて『トルネコ』にはある重要なアイテムが、「リレミトの巻物」です。
元ネタの『ローグ』は、ゲームを始めたら「死んでゲームオーバーになる」か「クリアする」かしかありません。昔のアーケードゲームのようなプレイ感覚を想像すれば分かりやすいでしょう。そこに、『トルネコ』は「帰還」の概念を加えたのです。
リレミトの巻物を読んで探索の途中で「帰還」すると、ゴールドは失われず、持っていたアイテムを売ってお金にすることが出来るし、それで店が大きくなると「持ち帰ったアイテムを倉庫に入れて、次の探索に持ちこめる」ようになります。その持ちこんだアイテムも死ねばロストしてしまうので恒常的な成長とはちがいますが、前回の探索での成長を、一部次の探索に持ちこせるようにしたんですね。
また、死んでしまったとしても所持金の半分は持ち帰るので、「帰還」できなかったとしても徐々に店が大きくなって機能が増えていくんですね。

<画像はスーパーファミコン用ソフト『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』より引用>
そもそも、『ドラゴンクエスト』のシステムが「死ぬと所持金が半分になって拠点に戻らされるが、経験値は引き継ぐ」となっていて、下手くそな人でも繰り返しプレイしていれば経験値が蓄積されて徐々に楽にプレイできるようになったんですね(このシステム自体は『ドラクエ』が編み出したのではなく、『ウルティマIV』なんかにも採用されていたそうですが)。
『トルネコの大冒険』もそのシステムを限定的に「ローグのようなゲーム」に取り入れたことで、経験値とレベルは毎回1に戻ってしまいますが、遊べば遊ぶほど「店」が大きくなってプレイヤーの有利になるシステムになったのです。
また、店が大きくなると人々のセリフも変わって、町の人々一人一人のストーリーが進んでいくのもイイですね。段階的に店を大きくせずに一気にクリアしちゃうと、ストーリーがすっ飛ばされてしまって意味不明になったりもしますが……
また、詳しくは次の項に書きますが、元ネタの『ローグ』と同じような仕様のダンジョンはクリア後の「もっと不思議のダンジョン」にしておいて、「チュートリアルのちょっと不思議のダンジョン」→ 「本編の不思議のダンジョン」→ 「エンディング後のおまけのもっと不思議のダンジョン」と3段階に難しくしてあるんですね。
クリアは相当難しくて、どちらかというと「ハイスコアを競うゲーム」だった『ローグ』を、なるべく多くの人がエンディングを見られるゲームにしたのが『トルネコの大冒険』だったのです。
私は未プレイなんで聞いた話でしかありませんが、『NetHack』のような「ローグライクゲーム」はかなりシステムが複雑で難しくなっていたそうなんですね。日本で作られた『ドラゴンクリスタル ツラニの迷宮』や『死の迷宮』も、『トルネコ』で言う「もっと不思議のダンジョン」から始まるゲームと言えます。
取っつきにくいジャンルになっていた「ローグライクゲーム」のシステムをシンプルなものにして、難易度も下げて、誰でも遊べるジャンルにしようとしたのはそれこそ初代の『ドラゴンクエスト』に通じるものがありますし―――更に、そこに「クリア後には『ローグ』同様の高難度ダンジョン」を用意しているのも抜かりがありませんね。
↓3↓
◇ 『ローグ』の一番面白いところを敢えて削って、クリア後までお預けにした英断
ということで、このゲームのダンジョンは、「チュートリアルのちょっと不思議のダンジョン」→ 「本編の不思議のダンジョン」→ 「エンディング後のおまけのもっと不思議のダンジョン」の3つがあります。その違いをここに書いてしまいましょう。
【ちょっと不思議のダンジョン】
・罠はあるけど、「呪われたアイテム」は出ない
・草や巻物は識別済で手に入り、指輪は出てこない
・装備品の強化値と、杖のみが未識別で出てくる
・マイナス効果のあるアイテムはほとんどない
・目標となる階は浅く(10階)、出てくる敵の種類も少ない
・モンスターハウスなし
【不思議のダンジョン】
・罠はあるし、「呪われたアイテム」も出る
・草や巻物は識別済で手に入る
・装備品の強化値と、杖、指輪も未識別で出てくる
・マイナス効果のあるアイテムは少しだけある
・目標となる階は深く(27階)、全ての敵が出てくる
・モンスターハウスあり
・帰還した際のお金で店を拡張していくと、アイテムの持ち込みが可能に
【もっと不思議のダンジョン】
・罠はあるし、「呪われたアイテム」も出る
・草や巻物も未識別で手に入る
・装備品の強化値と、杖、指輪も未識別で出てくる
・マイナス効果のあるアイテムがうんとある
・目標となる階は更に深く(30階)、全ての敵が出てくる
・モンスターハウスあり
・アイテムの持ち込みは不可(大きいパン1つのみ)
元ネタの『ローグ』に一番近い仕様なのは「もっと不思議のダンジョン」なのですが、ではそれ以前の「不思議のダンジョン」「ちょっと不思議のダンジョン」は『ローグ』からどこを削っているのかというと……手に入るアイテムが未識別で、使ってみたらマイナス効果でしたー、という要素を極力削っているんですね。
これって「ローグのようなゲーム」の歴史からするとかなり異質で、例えば『トージャム&アール』なんかは「ここが一番面白いでしょ」とヘンテコな効果のアイテムをうんと用意して未識別でそれを使ったら大変なことになってしまうのをみんなでゲラゲラ笑おうって調整になっていました。
実際「もっと不思議のダンジョン」をプレイして、一番ワクワクする瞬間は「アイテムを識別していく」時だし、一番ドヤ顔になれるのは「まだ出ていない草は○○だけだから、これは○○にちがいない」と自分の力で識別できた時なんですね。
要は、『ローグ』の一番面白いところを敢えて削っているんです。

<画像はスーパーファミコン用ソフト『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』より引用>
先に紹介した電ファミのインタビューによると、この提案をしたのは堀井雄二さんだそうです。流石、ゲーム業界のレジェンドは凄い……実際に、そのおかげでムチャクチャ遊びやすくなりました。
というのも、Steam版の『ローグ』や『死の迷宮』や『トージャム&アール』をプレイして私が思ったのは、そもそもこのゲームにどんなアイテムがあるのかを知らない段階で「未識別」のアイテムに出てこられると、とりあえず不安なまま使うしかなくて、それでマイナスアイテムでしたーと窮地に陥っても―――ただただ腹が立つだけなんですよ。うかつに使った自分のせいだなんて思えないんです。
それらのゲームは説明書なりなんなりでアイテムリストを眺めながらプレイしろよってことだったと思いますし、アイテムリストがあると面白さが俄然増すのですが……
堀井さんは恐らく「ゲームプレイヤーの大半は説明書なんて読まない」と思ってゲームを作っている人だと思います。実際ファミコン~スーファミ時代って「中古ショップで説明書なしの裸ソフトを買う」文化があったし、それで遊び方が分からなくてクソだって言われてたゲームもたくさんあったんですね。
だから、「ちょっと不思議のダンジョン」→ 「不思議のダンジョン」でこのゲームに出てくるアイテムを覚えてもらって、それらをちゃんと把握してエンディングを迎えられた人しか、アイテムが未識別で出てくる「もっと不思議のダンジョン」に入れないようになっているんです。そして、そこにはマイナス効果のアイテムが追加されている―――という調整にしているのでしょう。
杖だけは「ちょっと不思議のダンジョン」から未識別で出てくるのですが、そのため町の人々に「杖の効果」について繰り返し教えてくれる人がいるんですね。

<画像はスーパーファミコン用ソフト『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』より引用>
そうしてエンディングを迎えた後に出てくる「もっと不思議のダンジョン」は、ここからが本番だとばかりに、本家『ローグ』同様に草や巻物も未識別で出てきますし、ここでしか登場しないアイテムもあります。ムチャクチャ難易度が高いし、クリアのためにはどうしても運が必要になると思いますが(おおめだまが登場する21階以降にモンスターハウスが出現するか次第というか……)、だからこそ中毒のように遊び続けてしまうのも分かります!
今でこそ「クリア後が本番」なんてゲームは珍しくないでしょうが、1990年代は「ラストステージより難しいステージ」や「ラスボスより強いボス」なんかがチラホラ出てきた時代です。『スーパーマリオワールド』(1990年)、『ドラゴンクエストV』、『ファイナルファンタジーV』(1992年)などなど……
要は、「クリア後も遊べるゲーム」が増えてきたタイミングで、クリア後に本編と同じボリュームのダンジョンが現れて、しかもそれが「製作者が一番遊んでもらいたい『ローグ』に近いシステム」というのは衝撃でした。
思えば『ローグ』の生まれた1980年前後なんて、ゲームは「クリアできなくて当然」「そもそもクリアなどなくて永遠にステージが続く」時代だったでしょう。ダンジョンをランダム生成にしたのも、作者自身が遊んでも容易にはクリアできないようにしたからでしょうし。
しかし、1986年以降の『ドラゴンクエスト』ブーム辺りから、日本では「ゲームはクリアしてエンディングを見るもの」という認識が広がっていきます。そして、先に書いたように1990年代になると「エンディングまでは多くの人がたどり着けるようにして、その後は果てしなく難しい」というゲームが出てきます。
『トルネコの大冒険』はまさにその「エンディングまでは多くの人がたどり着けるようにして、その後は果てしなく難しい」というゲームですが、その「クリア後の要素」が「ゲームはクリアできなくて当然」という1980年前後の『ローグ』に準ずるものなんだから……時代の変遷の象徴みたいなゲームで面白いなぁと。
◆ 結局、どういう人にオススメ?

<画像はスーパーファミコン用ソフト『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』より引用>
アクション要素のないRPGではありますが、プレイ感覚は「クリアまで進み続ける」タイプのゲームではなくて、「毎日ちょっとずつちょっとずつ上手くなっていく」タイプのゲームなんですね。ゲームの歴史の順序としてはあべこべですが、シューティングゲームとか、レースゲームとか、リズムゲームみたいな、アーケードライクのプレイスタイルをアクション要素のないRPGに持ちこんだ作品だと言えます。
(関連記事:ずっと気付いていなかった、ゲームってジャンルによっては「クリアまで進み続ける」ものではないってことを)
なので、ゲームオーバーになっても、その失敗から学んで「次こそは」と立ち上がれる人にオススメですし、シューティングゲームとか、レースゲームとか、リズムゲームとかとちがってアクションゲームが苦手な人にもオススメできます! ムチャクチャ楽しかった!
・Wand/Staff of Teleport To(テレポートさせてくる杖)…モンスターが隣にワープしてくる
※ 『ローグ』になくて『トルネコ』にある
・大損の杖…こちらのHPをモンスターに与える
・分裂の杖…モンスターを分裂させる
・転ばぬ先の杖…持っていると転ばなくなる
・ザキの杖…モンスターを殺す
・メダパニの杖(※ポーションはある)
・ラリホーの杖(※巻物はある)
<Ring→ 指輪>
・ring of add strength(力強化の指輪)→ ちからの指輪
・ring of sustain strength(力維持の指輪)→ 毒けしの指輪
・ring of see invisible(見えないものが見える指輪)→ シャドーの指輪
・ring of adornment(何もない指輪)→ きれいな指輪っぽいが、こちらは安価
・ring of aggravate monster(モンスターを起こす指輪)→ ザメハの指輪より強力
・ring of slow digestion(消化を遅くする指輪)→ ハラヘラズの指輪というより皮の盾
・ring of maintain armor(鎧を維持する指輪)→ 指輪というよりみかがみの盾
・ring of teleportation(テレポートの指輪)→ ルーラの指輪
・ring of stealth(ステルスの指輪)→ とうぞくの指輪
※ 『ローグ』にあって『トルネコ』にない
・ring of increase damage(ダメージ増加の指輪)…攻撃力が上がる?
・ring of protection(守りの指輪)…守備力が上がる?
・ring of dexterity(器用さの指輪)…命中率が上がる?
・ring of regeneration(再生の指輪)…HP回復スピードが上がる
・ring of searching(探索の指輪)…周囲がよく見える?
※ 『ローグ』になくて『トルネコ』にある
・眠らずの指輪…眠らなくなる
・人形よけの指輪…レベルダウンや最大HP減少などの特殊攻撃を防ぐ
・ワナ抜けの指輪…ワナにかからなくなる
・ハラペコの指輪(※『ローグ』はほとんどの指輪が空腹スピードが上がる)
過半数が最初の『ローグ』からあるものを名前だけ変えて使っていることに驚きますが、ただ実際に『トルネコの大冒険』を遊んでみると「重要な組み合わせは『ローグ』にはなく、『トルネコ』が独自に入れたもの」が多いことに気付きます。「はぐれメタル+分裂の杖」とか、「祈りの巻物+ザキの杖」とか。
また、『ローグ』にはなくて『トルネコ』にはある重要なアイテムが、「リレミトの巻物」です。
元ネタの『ローグ』は、ゲームを始めたら「死んでゲームオーバーになる」か「クリアする」かしかありません。昔のアーケードゲームのようなプレイ感覚を想像すれば分かりやすいでしょう。そこに、『トルネコ』は「帰還」の概念を加えたのです。
リレミトの巻物を読んで探索の途中で「帰還」すると、ゴールドは失われず、持っていたアイテムを売ってお金にすることが出来るし、それで店が大きくなると「持ち帰ったアイテムを倉庫に入れて、次の探索に持ちこめる」ようになります。その持ちこんだアイテムも死ねばロストしてしまうので恒常的な成長とはちがいますが、前回の探索での成長を、一部次の探索に持ちこせるようにしたんですね。
また、死んでしまったとしても所持金の半分は持ち帰るので、「帰還」できなかったとしても徐々に店が大きくなって機能が増えていくんですね。

<画像はスーパーファミコン用ソフト『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』より引用>
そもそも、『ドラゴンクエスト』のシステムが「死ぬと所持金が半分になって拠点に戻らされるが、経験値は引き継ぐ」となっていて、下手くそな人でも繰り返しプレイしていれば経験値が蓄積されて徐々に楽にプレイできるようになったんですね(このシステム自体は『ドラクエ』が編み出したのではなく、『ウルティマIV』なんかにも採用されていたそうですが)。
『トルネコの大冒険』もそのシステムを限定的に「ローグのようなゲーム」に取り入れたことで、経験値とレベルは毎回1に戻ってしまいますが、遊べば遊ぶほど「店」が大きくなってプレイヤーの有利になるシステムになったのです。
また、店が大きくなると人々のセリフも変わって、町の人々一人一人のストーリーが進んでいくのもイイですね。段階的に店を大きくせずに一気にクリアしちゃうと、ストーリーがすっ飛ばされてしまって意味不明になったりもしますが……
また、詳しくは次の項に書きますが、元ネタの『ローグ』と同じような仕様のダンジョンはクリア後の「もっと不思議のダンジョン」にしておいて、「チュートリアルのちょっと不思議のダンジョン」→ 「本編の不思議のダンジョン」→ 「エンディング後のおまけのもっと不思議のダンジョン」と3段階に難しくしてあるんですね。
クリアは相当難しくて、どちらかというと「ハイスコアを競うゲーム」だった『ローグ』を、なるべく多くの人がエンディングを見られるゲームにしたのが『トルネコの大冒険』だったのです。
私は未プレイなんで聞いた話でしかありませんが、『NetHack』のような「ローグライクゲーム」はかなりシステムが複雑で難しくなっていたそうなんですね。日本で作られた『ドラゴンクリスタル ツラニの迷宮』や『死の迷宮』も、『トルネコ』で言う「もっと不思議のダンジョン」から始まるゲームと言えます。
取っつきにくいジャンルになっていた「ローグライクゲーム」のシステムをシンプルなものにして、難易度も下げて、誰でも遊べるジャンルにしようとしたのはそれこそ初代の『ドラゴンクエスト』に通じるものがありますし―――更に、そこに「クリア後には『ローグ』同様の高難度ダンジョン」を用意しているのも抜かりがありませんね。
↓3↓
◇ 『ローグ』の一番面白いところを敢えて削って、クリア後までお預けにした英断
ということで、このゲームのダンジョンは、「チュートリアルのちょっと不思議のダンジョン」→ 「本編の不思議のダンジョン」→ 「エンディング後のおまけのもっと不思議のダンジョン」の3つがあります。その違いをここに書いてしまいましょう。
【ちょっと不思議のダンジョン】
・罠はあるけど、「呪われたアイテム」は出ない
・草や巻物は識別済で手に入り、指輪は出てこない
・装備品の強化値と、杖のみが未識別で出てくる
・マイナス効果のあるアイテムはほとんどない
・目標となる階は浅く(10階)、出てくる敵の種類も少ない
・モンスターハウスなし
【不思議のダンジョン】
・罠はあるし、「呪われたアイテム」も出る
・草や巻物は識別済で手に入る
・装備品の強化値と、杖、指輪も未識別で出てくる
・マイナス効果のあるアイテムは少しだけある
・目標となる階は深く(27階)、全ての敵が出てくる
・モンスターハウスあり
・帰還した際のお金で店を拡張していくと、アイテムの持ち込みが可能に
【もっと不思議のダンジョン】
・罠はあるし、「呪われたアイテム」も出る
・草や巻物も未識別で手に入る
・装備品の強化値と、杖、指輪も未識別で出てくる
・マイナス効果のあるアイテムがうんとある
・目標となる階は更に深く(30階)、全ての敵が出てくる
・モンスターハウスあり
・アイテムの持ち込みは不可(大きいパン1つのみ)
元ネタの『ローグ』に一番近い仕様なのは「もっと不思議のダンジョン」なのですが、ではそれ以前の「不思議のダンジョン」「ちょっと不思議のダンジョン」は『ローグ』からどこを削っているのかというと……手に入るアイテムが未識別で、使ってみたらマイナス効果でしたー、という要素を極力削っているんですね。
これって「ローグのようなゲーム」の歴史からするとかなり異質で、例えば『トージャム&アール』なんかは「ここが一番面白いでしょ」とヘンテコな効果のアイテムをうんと用意して未識別でそれを使ったら大変なことになってしまうのをみんなでゲラゲラ笑おうって調整になっていました。
実際「もっと不思議のダンジョン」をプレイして、一番ワクワクする瞬間は「アイテムを識別していく」時だし、一番ドヤ顔になれるのは「まだ出ていない草は○○だけだから、これは○○にちがいない」と自分の力で識別できた時なんですね。
要は、『ローグ』の一番面白いところを敢えて削っているんです。

<画像はスーパーファミコン用ソフト『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』より引用>
先に紹介した電ファミのインタビューによると、この提案をしたのは堀井雄二さんだそうです。流石、ゲーム業界のレジェンドは凄い……実際に、そのおかげでムチャクチャ遊びやすくなりました。
というのも、Steam版の『ローグ』や『死の迷宮』や『トージャム&アール』をプレイして私が思ったのは、そもそもこのゲームにどんなアイテムがあるのかを知らない段階で「未識別」のアイテムに出てこられると、とりあえず不安なまま使うしかなくて、それでマイナスアイテムでしたーと窮地に陥っても―――ただただ腹が立つだけなんですよ。うかつに使った自分のせいだなんて思えないんです。
それらのゲームは説明書なりなんなりでアイテムリストを眺めながらプレイしろよってことだったと思いますし、アイテムリストがあると面白さが俄然増すのですが……
堀井さんは恐らく「ゲームプレイヤーの大半は説明書なんて読まない」と思ってゲームを作っている人だと思います。実際ファミコン~スーファミ時代って「中古ショップで説明書なしの裸ソフトを買う」文化があったし、それで遊び方が分からなくてクソだって言われてたゲームもたくさんあったんですね。
だから、「ちょっと不思議のダンジョン」→ 「不思議のダンジョン」でこのゲームに出てくるアイテムを覚えてもらって、それらをちゃんと把握してエンディングを迎えられた人しか、アイテムが未識別で出てくる「もっと不思議のダンジョン」に入れないようになっているんです。そして、そこにはマイナス効果のアイテムが追加されている―――という調整にしているのでしょう。
杖だけは「ちょっと不思議のダンジョン」から未識別で出てくるのですが、そのため町の人々に「杖の効果」について繰り返し教えてくれる人がいるんですね。

<画像はスーパーファミコン用ソフト『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』より引用>
そうしてエンディングを迎えた後に出てくる「もっと不思議のダンジョン」は、ここからが本番だとばかりに、本家『ローグ』同様に草や巻物も未識別で出てきますし、ここでしか登場しないアイテムもあります。ムチャクチャ難易度が高いし、クリアのためにはどうしても運が必要になると思いますが(おおめだまが登場する21階以降にモンスターハウスが出現するか次第というか……)、だからこそ中毒のように遊び続けてしまうのも分かります!
今でこそ「クリア後が本番」なんてゲームは珍しくないでしょうが、1990年代は「ラストステージより難しいステージ」や「ラスボスより強いボス」なんかがチラホラ出てきた時代です。『スーパーマリオワールド』(1990年)、『ドラゴンクエストV』、『ファイナルファンタジーV』(1992年)などなど……
要は、「クリア後も遊べるゲーム」が増えてきたタイミングで、クリア後に本編と同じボリュームのダンジョンが現れて、しかもそれが「製作者が一番遊んでもらいたい『ローグ』に近いシステム」というのは衝撃でした。
思えば『ローグ』の生まれた1980年前後なんて、ゲームは「クリアできなくて当然」「そもそもクリアなどなくて永遠にステージが続く」時代だったでしょう。ダンジョンをランダム生成にしたのも、作者自身が遊んでも容易にはクリアできないようにしたからでしょうし。
しかし、1986年以降の『ドラゴンクエスト』ブーム辺りから、日本では「ゲームはクリアしてエンディングを見るもの」という認識が広がっていきます。そして、先に書いたように1990年代になると「エンディングまでは多くの人がたどり着けるようにして、その後は果てしなく難しい」というゲームが出てきます。
『トルネコの大冒険』はまさにその「エンディングまでは多くの人がたどり着けるようにして、その後は果てしなく難しい」というゲームですが、その「クリア後の要素」が「ゲームはクリアできなくて当然」という1980年前後の『ローグ』に準ずるものなんだから……時代の変遷の象徴みたいなゲームで面白いなぁと。
◆ 結局、どういう人にオススメ?

<画像はスーパーファミコン用ソフト『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』より引用>
アクション要素のないRPGではありますが、プレイ感覚は「クリアまで進み続ける」タイプのゲームではなくて、「毎日ちょっとずつちょっとずつ上手くなっていく」タイプのゲームなんですね。ゲームの歴史の順序としてはあべこべですが、シューティングゲームとか、レースゲームとか、リズムゲームみたいな、アーケードライクのプレイスタイルをアクション要素のないRPGに持ちこんだ作品だと言えます。
(関連記事:ずっと気付いていなかった、ゲームってジャンルによっては「クリアまで進み続ける」ものではないってことを)
なので、ゲームオーバーになっても、その失敗から学んで「次こそは」と立ち上がれる人にオススメですし、シューティングゲームとか、レースゲームとか、リズムゲームとかとちがってアクションゲームが苦手な人にもオススメできます! ムチャクチャ楽しかった!
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