『鈍色のバタフライ』レビュー/傑作KEMCOノベルアドベンチャーの原点!


<画像はiOS版『鈍色のバタフライ』より引用>

※ この記事は2018年に旧ブログに書かれたものを幾つか手直しして2025年に移行した記事です

【三つのオススメポイント】
1作目だからこそ、オーソドックスに「首謀者は誰だ?」と推理を楽しめる
以降の作品達とは一線を画す“ギャルゲー”風のキャラクター達
『トガビトノセンリツ』につながるシステムとストーリーの原点


『鈍色のバタフライ』
 携帯電話用アプリ:2010年8月18日発売
 Android版:2012年9月13日発売
 iOS版:2013年2月12日発売
 ※ 現在は、Android版・iOS版ともに配信停止しているそうです
・アドベンチャー


 プレイ時間は1周目エンディングまでで約 7時間でした
 2周目の隠しモードまで全て読んで約16時間
 ※ネタバレ防止のため、読みたい人だけ反転させて読んでください

【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
※ 苦手な人もいそうなNG項目があるかないかを、リスト化しています。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番「その要素がある」で、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。
・シリアス展開:◎(『トガビト』ほど暗くはないけど、ガンガン仲間が死ぬので)
・恥をかく&嘲笑シーン:×
・寝取られ:×
・極端な男性蔑視・女性蔑視:×
・動物が死ぬ:×
・人体欠損などのグロ描写:×(『トガビト』とちがって死体はキレイに死ぬ)
・人が食われるグロ描写:×
・グロ表現としての虫:×
・百合要素:×
・BL要素:×
・ラッキースケベ:△(恩恵を受けるのは主人公じゃないけど…w)
・セックスシーン:×(イチャイチャするシーンはあります)
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◇ 1作目だからこそ、オーソドックスに「首謀者は誰だ?」と推理を楽しめる
 KEMCOという会社名はファミコン・スーファミ時代を知っている人達には、「なんか変なゲームを出していた会社」という印象で覚えられているんじゃないかと思われます。
 『ダウボーイ』『スパイvsスパイ』『シャドウゲイト』『ドラッケン』などなど……しかし、これらのソフトは海外のPCゲームのローカライズなので、今にして思うと「変なゲームを作る会社」というよりかは「海外から変なゲームを拾ってくる会社」だったんですよね。そういう意味では、今でいうテヨンジャパンとかレイニーフロッグみたいな立ち位置の会社だったのかもって思います。



 元々KEMCOとは「コトブキシステム」という会社のブランド名で、当時の親会社コトブキ技研工業株式会社「Kotobuki Engineering & Manufacturing Co., Ltd.」の頭文字をとったものでした。そこから、2004年の寿グループ再編によってゲーム事業が「コトブキソリューション」に分社化し、KEMCOというブランド名を引き継いだ形になります。

 この2000年代前半という時期のゲーム業界は、開発費が高騰していてかなり厳しい時期でした。大手ソフトメーカーでも合併だったり消滅だったりが続いていましたからね。

 スクウェアとエニックスは2003年に合併。
 タイトーは2005年からそのスクエニの子会社に(連結子会社→完全子会社)。
 ナムコは2005年にバンダイと経営統合。
 ハドソンは2001年からコナミの資本下に入って後に完全子会社→ブランド消滅。
 セガは2004年にセガサミーのグループの一員になり。
 SNKは2001年に倒産、その後は1行で書ききれないくらいいろんなことになってて。
 データイーストは2003年に自己破産。
 コンパイルも2003年に破産。
 ヒューマンは2000年に破産。
 テクノスジャパンにいたっては1996年に倒産。


 ファミコン・スーファミ時代に大人気だったテクノスジャパンやデータイーストすら潰れていく中、分社化したKEMCOがどうやって生き延びていったかというと「携帯電話用のゲームアプリ」の道でした。2000年代前半にはもちろんスマホはまだありませんから、今でいうガラケーです。
 スーファミ時代のような2DコマンドRPGを特に多く出していて、それらは後に3DSのようなゲーム機にも移植されているので「やたらたくさんRPGを出すKEMCO」というのはゲーム機でゲームを遊ぶ人達にも知られているんじゃないかなと思います。


 つまり、開発費が高騰して小さなメーカーではパッケージソフトを出せなくなっていく時期にいちはやく「ダウンロード販売」の道に舵を向けようとして、その当時の「ゲームのダウンロード販売」の選択肢はまだ携帯電話一択しかなかったということなんですね。この路線は成功を収め、メインのプラットフォームを携帯電話からスマホ(後にゲーム機への移植)に変えて今でも続いています。
 これ……あと数年ズレていたらちがった展開をしたかも知れませんよね。2005年くらいから『脳トレ』などによるDSブーム、2008年からはWiiウェアがスタート……と、選択肢が増えていたワケですからね。事実、KEMCOは2008年に『ソーサリーブレイド』というWiiウェアオリジナルの3DRPGを出しています(2010年に2D化して携帯電話版も発売)。


 アレだけのハイペースで「コマンドRPG」を発売するのだから、当然自社ですべてを作っているワケではなくて、「コマンドRPG」についてのノウハウのある開発会社にKEMCOからディレクターを付けて共同制作をしているそうです。

 お待たせしました。ようやくこのゲーム『鈍色のバタフライ』の話にまでたどり着きました。
 実はこの『鈍色のバタフライ』というゲーム、KEMCOの「デスゲームもの」「ノベルアドベンチャー」1作目という立ち位置の作品ながら、そうした「コマンドRPG」などの開発を行っていた会社(恐らくマジテックという会社)から出てきた企画なんですね。その時にディレクターの下の手伝いのような形でKEMCO側から入った野吹氏が「人狼ゲーム」に詳しかったため、入社2年目の若手ながらamphibianというペンネームでシナリオを全部書くことになったという……

 そうした経緯で作られた『鈍色のバタフライ』が好評だったため、今度はamphibian氏が企画から立てたのが『トガビトノセンリツ』で、そこから『D.M.L.C. デスマッチラブコメ』や『レイジングループ』といったKEMCOノベルアドベンチャーにつながっていくのです(こうした事情は電ファミのインタビューで書かれているので、どうぞ)


・『鈍色のバタフライ』(2010年)
 <ガラケー、スマホ>
・『トガビトノセンリツ』(2011年)
 <ガラケー、スマホWii U
・『D.M.L.C. デスマッチラブコメ』(2013年)
 <スマホWii U
・『黒のコマンドメント』(2014年)
 <スマホ
・『レイジングループ』(2015年)
 <スマホPS Vita&PS4Nintendo SwitchPC

 『鈍色のバタフライ』が、『トガビトノセンリツ』や『D.M.L.C. デスマッチラブコメ』とちがってゲーム機に移植されなかったのはこの辺の権利的な事情があったんですかねぇ。『トガビトノセンリツ』や『D.M.L.C. デスマッチラブコメ』が遊べるWii Uももはや現役機ではないので、『レイジングループ』以前の4作品をまとめてNintendo Switchあたりに移植してくれたら嬉しいのになあなんて思ったりもします。


 私がKEMCOのアドベンチャーゲームにハマるきっかけになったのは『D.M.L.C. デスマッチラブコメ』からで、後に『トガビトノセンリツ』を遊んで「今まで遊んだすべてのアドベンチャーゲームの中で一番」というくらいにハマり、『レイジングループ』は既に購入しているのだけどその前に『鈍色のバタフライ』と『黒のコマンドメント』も遊んでおこうと思って今回『鈍色のバタフライ』をプレイしました。
 
 リリース順と逆の順番でプレイしたことになり、大体のゲームはこうやって遡る形でプレイしていくと「昔の作品ほどしょぼく見える」とか「昔の作品は遊びづらく感じる」ことが多いので……『鈍色のバタフライ』も、正直言って『トガビトノセンリツ』と比べれば見劣りするところはありました。なんせあっちは「今まで遊んだすべてのアドベンチャーゲームの中で一番」「すべてのゲームの中でも人生ベスト10に入る」というくらいに大好きなゲームですからね。

 ただ、逆に言うと……私が大好きな『トガビトノセンリツ』が生まれるにあたって、その原型はここにあるのかと思わされる作品になっていました。
 『トガビトノセンリツ』って「デスゲームもの」としてはかなりひねくれたストーリー展開をしていくんですけど、それはいきなり突拍子もないものが生まれたのではなく、比較的オーソドックスな『鈍色のバタフライ』があって、そこからの意外性&差別化を図るためだったんですね。



 このゲームの主人公達は、とある高校に通う仲の良い9人組―――
 彼らが突如「拉致」をされて連れていかれたのは『バタフライゲーム』という閉鎖空間での「デスゲーム」でした。

 この『バタフライゲーム』では9人それぞれに「○○者」という役割が与えられ、「首謀者」は自分以外の全員を皆殺しにしなければならず、「首謀者」以外は殺される前に「首謀者」を告発して殺さなければなりません。しかし、告発した相手が「首謀者」でなかったら、間違った相手を告発したペナルティで自分が死んでしまいます。

◇ 首謀者
 8本の毒入り注射を与えられる。
 一晩に1人ずつターゲットを選んで殺しに行かなくてはならない。

 「造反者」に5つまで絶対遵守の命令を出すことができる。

◇ 共有者
 この役割だけ2人いて、もう1人の「共有者」が誰だかを知ることができる。
 自室の鍵がかかった時のみ、ノートPCのチャットで情報交換ができる。

◇ 診断者
 ゲーム中に1回だけ、生存しているプレイヤー1人の「役割」を調べられる。

◇ 守護者
 一晩に1人、「首謀者に殺されない人」を選ぶことができる。

◇ 交換者
 「首謀者のターゲットを強制的に自分に変更できる」or「自分が首謀者のターゲットになった際、指定したプレイヤーにそのターゲットを押しつけることができる」という能力を、一晩に1回ずつ使える。

◇ 造反者
 「首謀者」からの命令を5つまで守らなければならない。その命令は1日効果を発する。
 守れなかった場合は「造反者」は死ぬ。
 自分が「造反者」であることを名乗っても死ぬ。

 造反者には首謀者を「告発」する権利がない。

◇ 隠遁者
 首謀者が持つのと同じ毒入り注射を1本、それを打たれても無効化できる薬入り注射を1本与えられる。そのどちらかを使った状態で生存者4人まで生き延びていれば、「隠遁者」だけゲームから抜けることができる。

 ゲーム中1回のみ「首謀者がターゲットに選んだ部屋」に、代わりに行くことができる。

◇ 犠牲者
 1日目の夜に、「首謀者によって殺されることが決まっている」役。
 その様子は他プレイヤーのPCに中継される。


 大まかに説明するとこんなカンジ。
 細かい部分はちがいますが、『人狼ゲーム』にものすごく似たルールですよね。作品内でも「バタフライゲームに似たゲームを知っている」と『人狼ゲーム』が紹介されて、そのちがいが説明される場面があります。


<画像はiOS版『鈍色のバタフライ』より引用>


 学園ラブコメの皮をかぶっていた『D.M.L.C. デスマッチラブコメ』や、「看守」と「囚人」に分けられる『トガビトノセンリツ』の「プリズナーゲーム」に比べるとシンプルで分かりやすいルールだと言えます。
 そのため、ストーリーも「誰が首謀者なのか」「誰が嘘をついているのか」という部分に集中できて、「デスゲームもの」に慣れていない人にも分かりやすい話になっているんじゃないかなと思います。


 『鈍色のバタフライ』と『トガビトノセンリツ』のスマートデバイス版が発売される際に公開されたWEBスペシャルコンテンツによれば――――『鈍色のバタフライ』のストーリーは「バタフライゲームをどう攻略していくのか」という“知略やダマシ、ロジック、交渉、プレイヤー同士の駆け引き”の部分が主で、『トガビトノセンリツ』のストーリーはゆがんだ登場人物の二面性を描くことで「仲間達との真の人間関係の構築」が主だといった風に書かれています。

 そのため“『鈍色』は明るくて『トガビト』は暗い”みたいに言われることもあるんですけど、ライトに&オーソドックスに「デスゲームもの」を楽しみたい人には『鈍色のバタフライ』の方が向いているという考え方も出来るんですね。
 まぁ、それでも『トガビトノセンリツ』が大好きだった私としては、「『鈍色』が面白かったら『トガビト』もやろう!」と言いたくなっちゃうのですが(笑)。

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◇ 以降の作品達とは一線を画す“ギャルゲー”風のキャラクター達
 さてさて、「オススメ作品」として紹介してきたこの作品ですが……実は、ある一点だけどうしても私には乗り切れない箇所がありました。みなさんにオススメするにあたって、ここはやはり触れておかないといけないかなと思ったので書いておきます。気にしない人は気にしないんでしょうけどね。


 ……


 ………その乗り切れない箇所とは!




 バン!



<画像はiOS版『鈍色のバタフライ』より引用>

 メインヒロインの名前が俺と一緒ーーーーー!

 あ……いや、別に普段はまったく気にしないし漫画とかアニメで同じ名前が出てきてもそれにすら気づかないんですが、このペンネームを自分につけてからゲームを遊ぶ際には「やまなし」か「レイ」を主人公の名前につけることが多いので、どうしても「レイ」というキャラのセリフは主人公のセリフだと思って読んでしまうんですよ(笑)。でも、実際には主人公は大介で、ヒロインがレイだという。

 みなさん的には全然関係ないことかと思われるかも知れませんが、「レイ」という名前に黒髪ロングのセーラー服がよく似合う年下美少女の印象を持ってしまうと、今後私のことを黒髪ロングのセーラー服がよく似合う年下美少女と思ってしまうかも知れないじゃないですか!本当の私は黒髪ショートのセーラー服がよく似合う年下美少女なのに!!!



 ということで、ここからはキャラ紹介です。
 画像はすべてiOS版『鈍色のバタフライ』より引用です。


 まずはWヒロインの一角:鷹瀬レイ
 主人公が死に別れた妹に似た、1つ下の後輩です。
 とある事情で声を発することができず、会話はスケッチブックに筆談することで行います。

 KEMCOのノベルアドベンチャーでは「ヒンヌーのコが人気になる」とか「読みが二文字の女子が人気になる」というジンクスがあるそうなんですが、その原点にあたる人気キャラです。私もこのゲームで一番好きなのはこのコです!同じ名前だけど!



 Wヒロインのもう一角:鷺ノ宮桜
 主人公にとって幼馴染の一人で、資産家の家で育ったお嬢様です。
 金髪・ツインテール・お嬢様・そしてツンデレ……!清々しいまでの数え役満じゃないですか!

 知的ゲームに強く、メンバーの中で唯一『人狼ゲーム』を知っていました。



 筋肉バカ:清原祐二
 主人公と桜の幼馴染で、運動神経抜群でスポーツ万能です。その分だけ考えるのが苦手なので、仲間からは「脳まで筋肉でできている」なんて言われたりするほど。



 軽薄バカ:桐生つばさ
 バカ・スケベ・成金―――と、ギャルゲーにおける親友ポジションにあたるキャラです(実際の親友は付き合いの長さで祐二だろうけど)。セクハラ発言で女子をドン引きさせたりもするけど、場の雰囲気をしっかり見ているムードメーカーです。



 もう一人のムードメーカー:水無瀬まい
 ショートカットの元気っ娘で、他の仲間を独特なニックネームで呼びます。このコが喋るとどうしてもCV.吉田有里さんで脳内再生されるのは、きっと同じオレンジ色のショートカットで仲間を独特なニックネームで呼ぶ元気っ娘なこのコのせいだな……!



 巨乳:森野璃々子
 おっとりしていて、家事全般をこなして、タレ目で、おっぱいが大きくて、いわゆる「おっとりおっぱい」ポジションですね。KEMCOノベルアドベンチャー歴代キャラのおっぱいランキングで、『D.M.L.C. デスマッチラブコメ』の美弥様を差し置いて1位になったこともあるたわわなおっぱいです。おっぱいおっぱい。



 天才飛び級ロリクオーター病弱帰国子女ぼくっこ:ルナ・エカルラート・月島
 ちょっと設定を盛りすぎなのでは……と言いたくなるロリ担当です。海外で飛び級をしていたため、日本では小学校6年生に籍を置きながら、主人公達と同じ高校2年生として通っています。難病を患っているのだけど、海外では治療費が払えずに日本にやってきたとか。



 姉御肌:神崎巴
 姉妹のように、かいがいしくルナの世話をやいているコです。厳しい口調な時もあるけれど、冷静に状況を見て判断できる頼れる存在と言えます。『D.M.L.C. デスマッチラブコメ』の志乃歌さんの原型なのかなぁと思わなくもないです。同じポニーテールだし。



 主人公:鳴河大介
 小さいころに両親と妹を続けて亡くしている苦労人で、そのせいか仲間のことを第一に守ろうとしてしまう主人公です。桜曰く「熱血バカ」。プレイヤーが自己を投影させる鏡像型主人公なため、立ち絵がありません。



 以上の9人です。
 amphibian氏の作品は「キャラが魅力的」というより「キャラ同士の関係性が魅力的」だと私は思っていて、それはこの1作目から発揮されています。わちゃわちゃした会話が楽しいので「誰も死ななければイイのに……」とついつい思ってしまうんですよね。


 さてさて……『トガビトノセンリツ』のレビュー記事にも各キャラクターの紹介をしているので見比べてもらうと分かりやすいのですが、『鈍色のバタフライ』のキャラクター達ってとても「ギャルゲーのテンプレらしいキャラクター」達なんですね。

 「(妹属性の)後輩」「ツンデレお嬢様」「悪友(筋肉)」「悪友(女好き)」「元気っ娘」「おっとりおっぱい」「天才ロリ」「姉御肌」……髪の毛の色がそれぞれちがってカラフルなのも、現実にありそうな髪色に収まっていた『トガビトノセンリツ』とは対照的です。

 また、主人公の鳴河大介が没個性的で「ギャルゲーの主人公っぽい主人公」なんです。
 例えば、『トガビトノセンリツ』の主人公:竹井和馬にも同じように立ち絵は用意されていませんでしたが、「顔が怖い」といった外面的な特徴が描写されていました。『D.M.L.C. デスマッチラブコメ』になると主人公にもイラストが用意されていて……主人公の立ち位置が、後の作品になるほど「プレイヤーが自己を投影する先」から「一人のキャラクターとしてしっかりと立たせていく」と変化していることが分かります。

 そういう意味で『鈍色のバタフライ』は、ノベルアドベンチャー1作目だからなのか、マジテックからの企画だからなのかは分かりませんが……KEMCOのノベルアドベンチャーの中ではオンリーワンな作品になっていると思うんですね。オーソドックスなギャルゲーのテンプレで「デスゲーム」をやるというか。
 逆に考えると、これが「始まりの1作」だったからこそ、そこからの差別化で『トガビトノセンリツ』や『D.M.L.C. デスマッチラブコメ』がひねくれた作品になったと言えるし、それが「世界中のどこにもない、その作品だからこその魅力を持った傑作」になっていった要因なのかなぁとも思うんですね。


 なので、KEMCOのノベルアドベンチャーが好きな人は是非「その原点」を見てください!

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◇ 『トガビトノセンリツ』につながるシステムとストーリーの原点
 ゲームのシステムは『トガビトノセンリツ』とほぼ一緒です。
 基本は一本道のストーリーが展開して、たまに「二択」を選ぶ場面が出てきます。正解を選べばそのまま話が進み、不正解を選べばバッドエンドでタイトル画面に戻されます。なので、「二択」が出るところでセーブしておくのが良いでしょう。


<画像はiOS版『鈍色のバタフライ』より引用>

 「『トガビトノセンリツ』と見比べて見劣りするところがあった」一つはここで、『鈍色のバタフライ』はこの「二択」を選ぶ場面があまり多くないんですね。主人公:大介が決断をする場面でも、プレイヤーが選ぶことなく大介が勝手に判断して選んでしまうところが多々ありました。単なる「二択」であっても、選ぶことで「主人公への没入度」が変わるのは『ドラゴンクエスト』でも使われている手法なのでちょっともったいないかなーと思いました。

 逆に考えると、「選択肢など要らない」「ストーリーだけ読めればイイ」という人にとってはこれで構わないとは思うんですけど。


 『トガビトノセンリツ』や『D.M.L.C. デスマッチラブコメ』にあった「バッドエンドを選んだら連れていかれる説教部屋」や「バッドエンド収集」はありません。そもそも「二択」が少ないので、バッドエンド自体が少ないですからね。
 後の作品では有料DLCで販売された「各キャラクターの過去エピソード」もこの頃にはまだなく、恐らくあまりバックボーンが描かれずに死んでいってしまったキャラ達をもっと見たかったという要望が『鈍色のバタフライ』では多かったため、『トガビトノセンリツ』や『D.M.L.C. デスマッチラブコメ』では「各キャラクターの過去エピソード」が販売されたのかなぁと思います。

 個人的には「各キャラクターの過去エピソード」はそこまで好きじゃなかったので別にイイんですけど、『トガビトノセンリツ』の有料DLCであった「彼らがプリズナーゲームに巻き込まれなかったifの世界」は、『鈍色のバタフライ』のWEBスペシャルコンテンツが元になっているのかなぁと思います。「後日行く予定だったプールなのか」という表現があるので。


 『鈍色のバタフライ』のWEBスペシャルコンテンツ

 『トガビトノセンリツ』にもあった、各キャラクターの座談会です。決定的なネタバレはしないように気を付けられてはいますが、本編を2周クリアした上で読むことをオススメします。本編での結末がにおわされている表現も多いので。

 わちゃわちゃした会話がすごく楽しいのですが、その中でも特に初期プロットを蔵出しして各キャラが「なんじゃこりゃあ!」と言い合う回がムチャクチャ面白いです。ストーリーが全くの別物だったとか、鷹瀬さんの設定がギリギリのところで変更したことに鷹瀬さん自身が叫ぶとか、大介は初期プロットからは変更されていないところがほとんどなく唯一残ったのが「あっちぃな」というセリフだけとか(何故それは残った!?)、必ず本編をクリアした後に読むべきですが、クリアした人は必読の面白さです。
 ここを読むと「あー、この没案が後の作品で使われたアレかなー」と思えるところもありますね。


 『トガビトノセンリツ』webスペシャルコンテンツ 第三回(&『鈍色』第四回)

 そしてそして、ガラケーのゲームだった『鈍色のバタフライ』と『トガビトノセンリツ』がめでたくスマホ用に移植された2012年に、各作品の人気投票上位5人ずつ計10人で行われた座談会がこちら。これは販促の意味も強いので、『トガビト』のキャラが『鈍色』を紹介したり、『鈍色』のキャラが『トガビト』を紹介したり。各作品の人気投票上位5人が意外だったり納得だったり。こう見ると、ガラケーアプリの市場の特性なのか「女性比率も低くない」って分かりますね。

 こちらもすごく面白いので、両作品をクリアした人は是非お読みください。




<画像はiOS版『鈍色のバタフライ』より引用>

 さてさて、「システム」については一つ大きなことを説明していないのですが、その前に「ストーリー」についても語っておこうと思います。『鈍色のバタフライ』というゲーム、アドベンチャーゲームでありながら「主人公:大介の目線で進む一人称の物語」ではありません。時折「大介以外の目線に切り替わって進行するシーン」が出てきます。

 特に『トガビトノセンリツ』と比較すると分かりやすいと思うのですが、あちらはほぼ「主人公:和馬の目線で進む一人称の物語」となっています。例外のシーンはなくはないですけどね。
 ただし、それは「1周目」の話であって、「1周目」をクリアすると解禁される「隠しモードをONにした2周目」だと「和馬以外のキャラクターが何を考えて行動していたのか」が分かる群像劇に変わるのです。「1周目」では和馬目線ゆえにどうしてこうなったのかさっぱり分からなかったことが、「2周目」ではみんなの思惑が分かるので「こういうことだったのか!」が見えてくるのが面白くて。これこそが、私が『トガビトノセンリツ』を「今まで遊んだすべてのアドベンチャーゲームの中で一番」「すべてのゲームの中でも人生ベスト10に入る」というくらいに好きになった理由なのですが……



<画像はiOS版『鈍色のバタフライ』より引用>

 先ほど説明していなかった「システム」とは、この「2周目」についてです。
 『鈍色のバタフライ』にも同様の「隠しモード」があります。「隠しモード」をONにすると、1周目にはなかった赤いセリフやモノローグが追加されて各キャラの思惑が分かるようになっているのですが。

 実はこのシステム、『鈍色のバタフライ』の制作が始まってから出てきたものらしくて、『鈍色のバタフライ』ではあくまでオマケモードの範疇なんですね。「1周目」の時点で「大介以外の目線で進行するシーン」が読めるので、「1周目」を遊べばどういう話だか大体は分かるようになっているんですね。

 『トガビトノセンリツ』はその反省からか、プロットの段階から「2周目を遊んでようやくすべての真実が分かる」ことを目指して作っていて、1周目は「主人公:和馬の目線で進む一人称の物語」となっているのです。


 文章では上手く説明できたか分からなかったので、まとめてみました。

【鈍色のバタフライ 1周目】
・基本は主人公:大介の一人称視点で進む
・が、ところどころで他のキャラの目線にも切り替わる

・ので、1周遊べば大体の真実は分かる

【鈍色のバタフライ 2周目】 
・主人公:大介の一人称視点に、他のキャラのモノローグが追加される
・1周目では切り替わらなかった犯人視点の目線にも切り替わる

・でも、あくまでオマケ程度で2周目で明らかになる真実はあまり多くない


【トガビトノセンリツ 1周目】
・主人公:和馬の一人称視点で進む
・他のキャラの考えや思惑は分からない

・ので、1周遊んでも「どうしてこうなったのか」が分からない

【トガビトノセンリツ 2周目】
・主人公:和馬の一人称視点に、他のキャラのモノローグが追加される
・1周目では切り替わらなかった残り全員の目線にも切り替わる

・2周目で明らかになる真実が多い



 なので、私は“『トガビトノセンリツ』と比べれば見劣りする”と書いたのですが……
 『鈍色のバタフライ』1周目の「他のキャラの目線にも切り替わる」仕様が、『トガビトノセンリツ』2周目の「他のキャラの視点で明らかになる真実が多い」仕様につながったと思いますし。
 2周プレイしないとその真価が分からない『トガビトノセンリツ』に比べて、1周で面白さが十分にわかる『鈍色のバタフライ』はこれはこれで「ライトにオーソドックスに楽しめるデスゲームもの」としてしっかりとした価値があるのかなぁと思うのです。



◇ 結局、どういう人にオススメ?

<画像はiOS版『鈍色のバタフライ』より引用>

 買ったゲームが「最低のゲーム」だったときに使えるスクショが撮れました。
 これは多用できそうだぜ!


 という戯言はさておき。
 KEMCOのノベルアドベンチャー1作目として、粗さだったり未完成な部分だったりはあるのだけど、2作目以降にはない魅力を持った作品なのは間違いないし、後にこのジャンルで花開いていくのも納得な光る部分も多い作品でした。

 他作品でKEMCOのノベルアドベンチャーのファンになっている人には、是非「その原点をどうぞ!」とオススメしたいですし。
 話題になっているからこれからKEMCOのノベルアドベンチャー全作プレイしようかと悩んでいるという人にも、「1作目から遊ぶと進化していく様が分かりますよ!」とオススメしたいです。


 権利的な問題で「非公式」ということなんですが、『鈍色のバタフライ』→『トガビトノセンリツ』には実はつながっているところもあるみたいですからね。逆の順番でプレイした自分はもちろん気づきませんでしたが、あーまた『トガビトノセンリツ』をやり直したくなってくる。


 個人的にも、夢中になって遊んで満足の作品でした。
 例によって「デスゲームもの」をプレイし終えるとものすごく消耗してしまうんで、次は『黒のコマンドメント』ですけど、これもプレイするのは半年後くらいにしますかねぇ。なかなか最新作に追いつきません(笑)。


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