『境界の彼方』アニメでキャラを好きになった人達へ、原作小説その他のススメ

※ この記事は2013年に旧ブログに書かれたものを幾つか手直しして2025年に移行した記事です


 なるべくネタバレはしないで書こうと思います。
 自分は以前に書いたように「アニメ→原作」の順で観るのが好きなので、『境界の彼方』のアニメ全12話を観終わってようやく原作小説1巻を読みました。
 2~3巻はどうしようかと悩んだのですが、もしアニメ2期があった場合、ストーリーは全然違うものになるだろうけど会話劇なんかは踏襲されそうなので「まだ読まない」ことにしました。

(関連記事:アニメの後に原作を読むススメ


 『境界の彼方』のアニメは正直ストーリーは“難解”というか、1周観ただけでは意味不明なシーンも多いのであまり大きな声で「万人にオススメだよ!」とは言いづらいのですが。Twitterを見てると『境界の彼方』のアニメが好きな人達が、「とにかくキャラクターが好きだった」「もっと彼らの日常を見ていたかった」「2クールやって欲しかった」「2期やって欲しい」と言っているのをよく見かけます。

 私もすごくそう思います。『境界の彼方』の「すごいところ」を挙げると、構成とか演出とか作画のことをすごいと言うと思うのですが……実際に「何故好きか」を語ると「キャラクターが好きだったから」と言うと思いますもの。男のキャラも、女のキャラも、大人キャラも、みんな大好きでしたもの。


 ということで、アニメが終わってしまって寂しい想いをしている皆様に“延長戦”として、アニメ公式ガイドブックドラマCD原作小説の紹介記事を書きます。
 注意点を一つ。京都アニメーションが発行している本は取り扱い店舗が限られています。Amazonで買おうとすると「定価以上の値段+送料」と割増価格が提示されます。1500円の本を2800円とかで売ろうとする店もあったくらいです。

※ 2025年追記:この記事を書いてから11年が経って、公式サイトの「取り扱い店舗」を見たらかなり増えていました。私の家から行ける店舗も出来ている!



○ TVアニメ「境界の彼方」ガイドブック



 「アニメ開始と同時に発売されたガイドブック」なので、基本的には「これからアニメを観る人」に向けて作られた本です。ストーリー解説は4話までで、終盤の展開などには触れられていませんが、微妙に中盤のネタバレとかも入っています。
 サイズはA5版=「4コマ漫画の単行本」なんかと同じですね。フルカラーなのでページ数の割には1500円となかなかの価格で、「お布施用のファンアイテム」と言っちゃってもイイと思うのですが。


 このアニメが出来るまでの話が詳細に書かれていて、むしろアニメを観終わったファンの方が唸らされるんじゃないかと思います。石立監督や、キャラクターデザインの門脇さんのインタビューはボリュームもあって、かなりの読み応えです。門脇さんは「京アニの天使」と呼ばれているそうですけど、なるほど確かにインタビューを読むだけで女子力の高さを感じます(笑)。
 決定前のキャラクターのラフ画なんかも掲載されているので、「三つ編みの桜」とか「ロングヘアーの泉」とか髪型が決まる前の各キャラクターの絵も見られます。桜の鎌は初期設定では「唯の形見」だったんですね(原作には登場しない)。

 背景設定なんかも主要なところは載っていて「栗山さんの家の間取り」や「新堂写真館の間取り」なんかは、なるほど言われてみればそうなっていたなと思わされるところも多いです。
 また、各キャラクターの表情設定や小物の設定なんかも充実していて、アニメ本編では出てこないそういう設定絵もガシガシ載っています。「愛ちゃんのムスッとした表情」とか「弥勒が眼鏡を外した姿」とかは多分本編には出ていませんし、2話で戦った妖夢と栗山さんが並んでいる絵(身長差を見せる設定絵なので)なんかは決して本編には出てこないほのぼのとした絵になっています。


 私くらい重症のファンになると「『境界の彼方』……『境界の彼方』分が足りない……!」とシュークリームを食べるがごとく、このガイドブックを開いて「花野寺駅の改札」の背景設定画を見てニンマリしているくらいです。文章化してみると、自分でもどうかと思うな(笑)。



 ということで、ファン以外には何が面白いか分からないであろう「お布施用のファンアイテム」なのですが、ファンにとってはお布施を支払うありがたみはある1冊だと思います。値は張りますが、そこそこオススメ。



○ TVアニメ「境界の彼方」ドラマCD『スラップスティック文芸部』

 こちらは普通にAmazonでも買えます(Amazonアフィリエイトリンク)。

 私はこの国にあるあらゆる娯楽商品の中でも、トップクラスにコストパフォーマンスが悪い商品が「ドラマCD」だと思っています。この『境界の彼方』のドラマCDは全部で33分、価格は3000円で、描き下ろしの絵も商品情報から見られるジャケット絵だけですし、特典がたくさん付いてくるブルーレイ(もちろん絵が動く)に比べて何て気合の入っていない商品だろうって思うのです。


 ただまぁ、自分は『境界の彼方』にものすごく楽しませてもらったし、アニメが終わった今となっては「登場人物達がバカ話をしている」だけでも嬉しいし、お布施としての意味も込めて購入しました。結果を言うと、「お布施だったなー」というカンジでした(笑)。

 面白くないワケではないし、彼らが会話をしているだけでも嬉しいのですが……
 例えば博臣が栗山さんを呼ぶ時に「未来ちゃん」と呼ぶとか(原作では「未来ちゃん」だけどアニメでは一貫して「栗山さん」だった)、変にエロイ展開に行くとか、脚本担当が違うからかアニメとあまり繋がっていない印象を受けました。あと、序盤のような会話劇をもっとたっぷり聞かせて欲しかったかなーと。


 時間軸としては、アニメ版の8話前半辺り。
 文芸部の季刊誌「芝姫」でグラビアを撮ろうという話になって……というメインのストーリーと、幕間にはさまる「もしもシリーズ」という構成になっています。「もしもシリーズ」は結構面白かったので、もっと膨らませてくれれば良かったのに。「もしも美月がブラコンだったら」は、相当あざといなとは思いましたが(笑)。

 キャストはほぼ全員集合で(弥勒はいない)、彼らの声をまだまだ聴きたいファンに向けたアイテムというところ。価格が高いのでそれほどオススメはしませんが、お布施を納めたい人はどうぞー。





○ 原作小説『境界の彼方』1巻


 テレビアニメ版とは絵柄が違うので、原作小説のホームページや過去のTVCMと見比べてみるのも一興です。しかし、原作でもTVCMでもそれほどロリではない栗山さんを、「赤ちゃんっぽい感じにしました」とロリ化させた門脇さんの手腕には敬意を表したい!




 さて……ネタバレしないように原作小説の紹介を書きますが。
 まず大事なことを書きますと、現在は3巻まで発売されている原作小説ですが「アニメの製作が始まった時点では原作が1巻までしか出ていなかった」とのことです。
 普通ライトノベルを1クールのアニメにする場合は3冊程度が目安らしいのですが、なので「1巻」を「12話」に引き伸ばすんじゃなくて、「1巻」をやるのは「最初の数話」にして「中盤から終盤」にかけてはアニメオリジナル展開にした―――と、アニメ公式ガイドブックには花田先生のインタビューが載っていたのですが。

 原作を読んでみてビックリですよ。
 原作をそのままアニメ化したのはせいぜい第1話のAパートまでで、第1話のBパート以降はほぼ完全オリジナル展開ですよ!一応、“虚ろな影”や“凪”は出てくるのですがアニメとは違う描かれ方でした。
 前に番組ラジオで「原作は既に読んでいるのでストーリー展開は知っているのですが、あのシーンを皆さんがどう演じられるのかが楽しみです!」というメールが読まれて、種田さんがビミョーなリアクションをしているなとは思っていました。原作のシーンなんてほとんどアニメ化されていませんもの!(笑)


 というか……「アニメ→原作」の順で観た自分は驚いたのですが、根本的な設定も随分と変えているんですね。アニメ化に際して何を軸にアニメで語るのかを考えて、とてつもないリファインを行っているというか。
 ちょっと「アニメ」と「原作」で設定が違うところを書いていきますね。もちろん1巻の段階なので、2巻以降はどうかは分からないのですが。


◇ 栗山さんは原作だと最初から「凄腕の戦士」
 アニメ版の「妖夢をほぼ倒したことがない」「貧乏」「お腹が空いている」という設定は、アニメオリジナルで追加された設定。原作ではアニメのように秋人や美月を拒絶しない。
◇ 原作には桜はいない
 桜ポジションのキャラはいます。ただし、栗山さんの「幼馴染の男」。
◇ 美月は原作だと事務方の非戦闘要員
 恐らくヤキイモもアニメオリジナルキャラ。
◇ 泉さんは原作だと「名瀬家の次期当主」と言われている
 そもそも名瀬家の人間がいっぱいいるみたいなんですね。
◇ 原作には「妖夢を倒すと妖夢石が生まれる」「それを換金する」設定はない
 なので、彩華さんは普通に異界士。
◇ 原作には愛ちゃんがいない
 そもそも原作だと基本的に「妖夢=討伐対象」なのです。
◇ ニノさんは原作だと高校教師ではない
 アニメの設定だと「文芸部の顧問」はニノさんらしいのだけど、第1話で美月が「ニノさんに」ではなく「顧問に」と言っていたのはこういう理由か。


 「アニメ→原作」の順で観ることの何が面白いかと言うと、アニメ化の際に変えた部分にこそアニメスタッフが描きたいものがあることが分かることなのです。ということで、アニメ版の設定変更でどうなったのかをちょっと書いていきます。


1.アニメ版は「栗山未来の成長物語」
 原作は秋人という主人公の視点で世界を見ていく小説なので、「秋人と○○」の関係性がどう変化していくのかという物語なのですが……アニメ化に際しては、全12話の中で栗山さんがどう成長していくのかを軸に構成されていることが分かるのです。

 アニメの栗山さんは最初、最弱のところから始まります。
 能力はあっても実戦経験が皆無で「妖夢にトドメを刺せない」という致命的な欠陥を抱えています。でも、お金もなくて、お腹が空いて、生きるために妖夢を倒さなくてはならない―――というところから物語はスタートするのです。
 また、アニメ版の栗山さんは秋人のことも美月のことも最初拒絶して、その関係性が徐々に変わっていく様を描くのですが……

 原作の栗山さんは最初から超強くて、ガシガシ敵をやっつけますし、お金にも困っていないし、比較的序盤から秋人とも美月とも仲良くやっているんですね。「栗山さんの成長」がないワケでもないのですが、アニメ版は徹底的にここを描くために栗山さんの設定を「最初は最弱」のところに持ってきているのです。

 面白いのが美月の使い方で……
 アニメだと栗山さんの「先輩異界士」として助言したり一緒に戦ったりしていたのですが、原作では非戦闘要員なのです。栗山さんの「異界士としての未熟さ」を見せるために、アニメ版の美月は「先輩異界士」として戦うように設定変更されているのは上手いなぁと思いました。


 あと、原作では栗山さんと「幼馴染の男」の関係を秋人が考える場面があるんですが、アニメではここを桜に変えている辺り、京アニは分かっているな!と思いました(笑)。



2.アニメ版は、より「現実と地続き」の話に
 これはガイドブックのインタビューを読むと分かるのですが、石立監督は「ファンタジー作品だからと言って現実から離れてはいけない」と考えているらしいのですね。桜の髪型設定でツインテールを提案された際に、「アニメっぽい」と却下するやり取りなんかは顕著です。

 原作では結構メタ的な描写とか、「ツンデレ」「貧乳」「つるぺた」「百合」みたいな用語が出てくるのですが……軒並みその辺はカットされています。それでも「巨乳」を残している辺りは、どうしてか訊きたいのですが(笑)。


 「現実と地続き」にするための設定変更で一番大きいのは、「妖夢石の鑑定」をアニメオリジナル要素として加えたところです。原作だと異界士は依頼されて妖夢を退治して報酬を得るのですが、アニメ版は誰に迷惑をかけていなくても妖夢を倒すとお金に換えられるシステムが出来上がっていて、私達にも「妖夢を狩って生きていくこと」のイメージがしやすくなっているんですね。
 栗山さんがいつもお金に困っていて、いつもお腹を空かせているというのも、妖夢退治が生活に根付いていることを見せる効果があったと思いますし。この辺の見せ方はアニメ版は上手いなと思いますね。

 1話のファミレスで店員が料理を持ってくるところとかもアニメオリジナルのシーンで、「異界士」でも「妖夢」でもない「普通の人間」がそこに生きていることを徹底して描いているのもアニメ版の特徴です。
 博臣はあまり描かれませんでしたが、他のキャラは「普通のクラスメイト」と一緒にいるシーンも描かれていましたものね。ニノさんなんか先生になっちゃっていたし。



3.設定の簡略化と、秋人の孤独の緩和化
 アニメでも名瀬家と異界士協会の衝突が描かれていましたが、原作では「○○家」「△△家」「××家」と異界士同士の権力争いが描かれていますし。名瀬家の中も「博臣のいる部署と美月のいる部署が違う」といった組織の大きさを感じさせる描写がありました。アニメだと名瀬家って4人しか出ていないんだけど、実は結構な大組織だったのね(笑)。

 アニメ版もガイドブックによると「名瀬家の両親は健在」と書かれていて「どこにいるんだよ!」と思わずツッコんでしまったのですが、原作だと普通に両親が名瀬家の最高権力者で、泉はあくまで「次期当主」なんですね。

 原作は小説なのでやっぱり複雑な設定とか、“謎”を秋人が推理して右往左往するところがあるのですが……同じことをアニメでやると難しく見えてしまうので、なるべく登場人物を絞って簡略化させてあるなと思いました。その割にはストーリーが……というのは言ってはいけない。



 「アニメ→原作」で追加された要素こそアニメで描きたいものだ説で言えば、桜と愛ちゃんはアニメオリジナルキャラなので(弥勒もかな?)……桜は栗山さんの成長を描くために絶対必須のキャラだったと思うのですが、愛ちゃんは何のためにいたのかなーと原作を読む前は思っていました。

 でも、愛ちゃんって「妖夢でも学校に通って平穏な日々を過ごせる」象徴なんですよね。言ってしまえば秋人以上に危うい存在なワケで、そんな彼女でも学校に通って普通に毎日を暮らせているというのは、「妖夢なのは秋人だけじゃない」「妖夢がみんな悪いワケではないんだ」と視聴者に見せる効果があったのだと思います。


 まぁ……逆に言うと、愛ちゃんのいない原作にある「徹底された秋人の孤独」はアニメ版だと薄れちゃっているところはあるんですけどね。原作の秋人は定住することが許されず、妖夢であることがバレると町を去るような暮らしを続けていて、名瀬家の監視下に入ることで初めて特別に定住が許されて、それも許されない両親は常に逃亡中な上、「妖夢からも敵だと思われている」という設定で。本が好きなのも「友だちがいなかったから一人で楽しめるものを選んだんだ」とか泣けることを言うし。
 原作は秋人の一人称の物語だからそこが一番大事なところなんですが……アニメではこの辺の設定を多少マイルドにして、多少牧歌的なところがあって、ストーリーのメインは「栗山未来の成長物語」で――――と考えると、愛ちゃんの存在というのは必須だったんだなと痛感しました。





 ということで、「原作小説はアニメとは別物」なのですが。
 逆に言うと、原作未読者には「アニメとは違うルートに進む物語」がまだ残っているとも言えて。アニメとは全く違うからこそ、新しいストーリーを楽しむことが出来るよと強くオススメしたいです。


 アニメ公式ガイドブックのスタッフインタビューを読むと「原作の魅力は何と言っても会話劇」ということで、実はこれだけストーリーも設定も変えているアニメなのに「会話」の部分は踏襲されているところも多いんですね。原作では全然違うシチュエーションでなされた会話が、アニメでは別のところで使われるとか。

 もちろん「会話」の量は、アニメと小説では小説の方が圧倒的に多くなるので。アニメには入りきらなかった「会話」シーンもものすごくたくさんあります。秋人の眼鏡愛も、博臣の妹愛も、美月のサディストっぷりも、アニメには収まりきらなかったんだなと思うくらい、原作では更に大ボリュームで語られています。

 あんまり書いちゃうとネタバレになるのですが……私が一番好きなのは、秋人が「眼鏡をかけている人に「眼鏡」というニックネームを付けるのはナンセンスで、本来なら「眼鏡の置き台」と呼ぶべきだ」と熱弁するシーンです(笑)。
 その他にも、博臣が栗山さんを「義妹」と呼ぶところや、博臣が秋人の脇に栗山さんの手を入れさせようとするところなど、アニメの秋人・博臣・美月が好きだった人は更なる彼らを楽しめると思います。栗山さんは設定もアニメと違うし、出番もそれほど多いワケでもないので、アニメで栗山さんのファンになった人は物足りないかも。


 ストーリーはアニメとは違う展開で、アニメにはなかったようなチーム戦もありますし、原作だとちゃんと「芝姫」の選考作業をしているし(笑)、アニメを観ていても新鮮に楽しめます。自分は半日で一気に読み終えてしまいました。
 この記事の冒頭で「アニメ2期があるかも知れないから2~3巻はまだ読まない」と書きましたが、実を言うと「もったいないからすぐには読まないようにしよう」というのもあります。


 桜や愛ちゃんはいないし、栗山さんファンにとっても微妙かも知れませんが、秋人・博臣・美月のファンには是非オススメです。
 というか、これ……原作って「美月ルート」じゃないのかなぁ。栗山さんよりもよっぽど存在感あるし。秋人も結構満更でもないカンジだし……原作だと「頑張らないと……卒業式の日に私から告白されるという夢が適わないわよ?」の後に「それとも誰かほかに親密になりたい女の子でも現れたのかしら?」と言っていて、より“どちらのルートに進むのか”を秋人に提示しているように見えるんですよねぇ。



○ オマケ
 原作小説を読む前に書いたアニメ版の伏線まとめの記事には、「アニメ版だけではよく分からなかった描写」がたくさんあると書きました。しかし、特に「名瀬家の能力」については原作にしっかり書いてあるんですね。

 アニメ版も同じ設定なのかは分かりませんが、「原作を読んだら分かったアニメ版で“謎”だったところ」を一応書いておこうと思います。


◇ “檻”の能力
 原作1巻にはこう記述されています。

<以下、引用>
 この学校の敷地内は名瀬一族によって施された干渉結界で覆われている。普通の人間には無害だが妖夢や異能力者を認識すると即座に担当者へ知らされる仕組みが確立されていた。これによって僕は博臣と激闘を繰り広げることになったし、栗山さんはその存在を美月に捕捉されたのである。しかも警戒難易度を引き上げれば絶対不可侵の檻となる代物だ。
</ここまで>


 アニメではバトル描写での登場が主だったので、“警戒難易度を引き上げた”状態でのバリアー的な使い方が多かったのですが。元々の使い道としては、「対象範囲内に入った異能力者を認識する」能力なんですね。アニメではそこまでではなかったけど、原作では「町中に“檻”が張り巡らされているので、町中の異能力者の動きを名瀬家は把握している」と思われる描写もあります。

 1話での栗山さんの動きを博臣が知っていて9話で回想していたのも、4話では町中に“檻”や“結界”を張って“虚ろな影”を誘導しようとしていたために美月が博臣に「秋人の居場所」を訊いていたのも、9話では博臣には秋人の居場所が分からなかったのも、秋人の部屋に「誰か来たら分かるようにしておく」と博臣が何かを仕掛けたのも―――設定が分かってしまえば不思議なところはないですね。

 アニメでやっていた「ワープ」みたいな能力と、バレずに車の中の話を聞いていたのは、この能力では説明出来ないのですが……まぁ、原作でも秋人が名瀬家の能力を全て知っているワケではないでしょうしね。



◇ 3話で美月が部室の“檻”を解除させたのは?
 全く同じではないけど、原作にも同様のシーンがありました。

 アニメでは「人間と妖夢の戦い」がメインでしたが、原作では「人間同士」というか「異界士同士」の権力争いも大きく描かれているので……学校だからと言って、安心して情報を話せないんですね。
 原作では秋人は博臣に情報交換を求めて、他者に聞かれないために博臣は部室に秋人を呼び“檻”を張って盗み聞きを防いでいたのです。これが、“警戒難易度”を上げた状態なのかは分かりませんが、名瀬家の人間は“檻”を中和出来るので美月には侵入が出来たということですね。

 アニメのシーンを振り返ると、話している内容は原作とは違うのですが、一応これも「他者には聞かれてはいけない情報交換」だったんですよね。栗山さんの事情を博臣に訊こうとしている。しかし、話が脱線して眼鏡や妹について熱く語っているところに美月が来て“檻”を解除させる―――


 しかし、そうすると1話で美月が学食に秋人を呼びつけたのは何だったのだろう。
 原作にも同じようなシーンがある(話している内容は違う)ので、それをやりたかっただけなのか……
 アニメ公式ガイドブックによると、この高校には「本館」と「別館」があるそうで。教室や文芸部の部室や度々出てくる屋上は「本館」で、学食は「別館」とのことなので、博臣が“檻”を張ってあるのは「本館」だけだったということですかね。



◇ 美月は何故、“虚ろな影”対策に参加しなかったのか。
 アニメ版の3~4話で泉は町中の異界士を使って、“檻”や“結界”で“虚ろな影”を誘導させていました。しかし、美月は蚊帳の外で、一人部屋で塞ぎこんでいました。
 9話でも博臣に「美月は下がってろ」と言われていましたし、最終話では「いつも末っ子で留守番させられていた」と言っていました。美月は名瀬家の中では“非戦闘要員”扱いだったのです。


 アニメ版だと「妖夢を倒すと妖夢石が生まれてそれを換金してお金を稼ぐ」という設定があるため、名瀬家とは別のところで美月が勝手に戦っている姿が3話や6話で描かれていたので、全く気にしていなかったのですが……

 原作では異界士は「依頼された仕事をすることで報酬を得る」設定なので“組織に属していない”限りは戦闘すらさせてもらえないんですね。
 博臣は名瀬家の幹部クラスとして前線でバリバリ戦っているのだけど、美月は事務方の仕事しかさせてもらえていないんです。美月はほとんど実戦経験のない異界士なんです。そこに不満があるのです。


 原作でもアニメでも美月はコンプレックスを抱えたキャラなのですが、原作では「名瀬家なのに」戦うことが許されないコンプレックスで、アニメでは「名瀬家だから」普通のクラスメイトとは溶け込めないコンプレックスで。コンプレックスの出所が正反対だったんですね。


◇ どうして秋人は「巨乳好き」と言われたのか?
 アニメ版1話では美月に、3話では博臣に、秋人は「巨乳なら誰でもイイ節操のない人間」と言われます。アニメ版には特にそういう描写もないので「過去にそういうことがあった」という伏線なのかなと思っていたのですが、アニメ版ではそういう話にはなりませんでした。

 原作小説版を読むと、その辺が理解出来ました。
 原作の秋人は美月の巨乳に見惚れているんです。

 アニメの1話Aパートにも美月が“伸び”をして巨乳が強調されるシーンがあるのですが、原作だと秋人はその巨乳をマジマジと見つめ「視線がエロい」と怒られるのです。
 その後、アニメでも原作でも部室を出た秋人が栗山さんと一悶着あって、部室に戻って美月と「頑張らないと……卒業式の日に私から告白されるという夢が適わないわよ?」→「いつからそれが僕の夢になった」→「それは失礼したわ。秋人は巨乳なら誰でもいい節操のない変態だものね。私にこだわる必要は見当たらないというわけね。」という会話になるのです。あの“伸び”のシーンが伏線だったとは(笑)。


 美月に限らず、原作の秋人は秋人の一人称で進むだけあって、他の女性キャラにも結構ときめいているんですよね。彩華さんにもニノさんにも泉にも。博臣にも眼鏡をかけさせようとするシーンがあるし(笑)。
 アニメ化にあたってそういう「ハーレム構造」をやめて、「栗山さん一筋」に見えるように構成しているということを考えると―――前の記事に書いた「『境界の彼方』アニメ版は栗山さんルートだった」というのも、あながち間違ってはいないのかもなと。

 しかし、美月の罵倒だけは残したかったのか、唐突に秋人のことを「巨乳好き」呼ばわりするところだけ残って。原作では秋人のムッツリ助平っぷりを見せるシーンなのに、アニメだと美月のサディストっぷりを見せるシーンになっているというのは……やっぱりアニメ版の美月は可哀想だなぁと思いました(笑)。


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