アニメ『戦闘メカ ザブングル』レビュー/リアルロボットアニメの夜明け



<2025年10月28日現在『戦闘メカ ザブングル』が見放題になっているサブスク>
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<2025年10月28日現在『ザブングル グラフィティ』が見放題になっているサブスク>



『戦闘メカ ザブングル』
・形式:テレビアニメ(全50話で完結)
    1982年2月~1983年1月に放送
・原作なし:オリジナルアニメ

・制作:日本サンライズ
・総監督:富野由悠季
・キャラクターデザイン:湖川友謙
・メカニカルデザイン:大河原邦男


『ザブングル グラフィティ』
・形式:劇場用アニメ(84分)
    1983年7月に公開
・シリーズの中の立ち位置:テレビアニメの総集編+新規カットあり

・制作:日本サンライズ
・総監督:富野由悠季
・キャラクターデザイン:湖川友謙
・メカニカルデザイン:大河原邦男

【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
※ 苦手な人もいそうなNG項目があるかないかを、リスト化しています。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番「その要素がある」で、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:○(コメディではあるが、死ぬ人は死ぬ)
・恥をかく&嘲笑シーン:○(「3日の掟」を破るジロンはずっと笑われてる)
・寝取られ:○(ヒロインが一時的に「別の男」と暮らす展開がある)
・極端な男性蔑視・女性蔑視:◎(年増の女をバカにするくだりが続く)
・白人酋長もの:△(ジロンがいろんな人の価値観を変える話と言える)
・動物が死ぬ:△(トカゲを食ってるシーンがあったはず)
・人体欠損などのグロ描写:×
・人が食われるグロ描写:×
・グロ表現としての虫:×
・百合要素:×
・BL要素:×
・男女の恋愛:◎(主人公とWヒロインの三角関係を描き続けてるとも言える)
・ラッキースケベ:○(この時代なので、おっぱい見えるシーンもままある)
・セックスシーン:×



◇ 革新性:主人公機が「特別なロボット」ではなくなる1982~83年のロボットアニメ達
 『戦闘メカ ザブングル』は1982年~83年に放送されたロボットアニメで、総監督は『機動戦士ガンダム』の富野由悠季監督です(この作品以前は「富野喜幸」という本名で活動することが多かった)

 富野監督の作品の歴史の中では、1979年の『機動戦士ガンダム』~1985年の『機動戦士Zガンダム』の間に作られた作品の1つと説明したらイメージしやすいですかね。というワケで、『ザンボット3』の時に書いた「富野監督作品のリスト」に再び出てきてもらいましょう。


・1972年 テレビアニメ『海のトリトン』
 …手塚治虫先生の漫画が原作だけど、オリジナル要素が強くて別物
・1975年 テレビアニメ『勇者ライディーン』
 …ロボットアニメとオカルトブームの融合、色々あって後半は監督を下ろされる
・1975年 テレビアニメ『ラ・セーヌの星』
 …『ベルばら』風のオリジナルアニメ、こっちは後半から監督を任される
・1977~78年 テレビアニメ『無敵超人ザンボット3』
 …衝撃的な展開が続くロボットアニメ、大人でもトラウマになる

・1978~79年 テレビアニメ『無敵鋼人ダイターン3』
 …前作から一転、コミカルな作風になったロボットアニメ
・1979~80年 テレビアニメ『機動戦士ガンダム』
 …ロボットアニメで「人間同士の戦争」を描き、社会現象になった
・1980~81年 テレビアニメ『伝説巨神イデオン』
 …とてつもないスケールのロボットアニメ。打ち切りなので突然終わる
・1981~82年 劇場用アニメ『機動戦士ガンダム』三部作
 …基本的には総集編だけど、『III』は特に新規カットが多い
・1982~83年 テレビアニメ『戦闘メカ ザブングル』
 …今で言うポストアポカリプスの
ロボットアニメ、今日の記事で取り扱う
・1982年 劇場用アニメ『伝説巨神イデオン』二部作
 …前編は総集編、後編は打ち切りになった後を描く「真の完結編」。これも壮絶
・1983~84年 テレビアニメ『聖戦士ダンバイン』
 …異世界召喚から始まるファンタジー世界を舞台にしたロボットアニメ、革新的すぎる
・1983年 劇場用アニメ『ザブングル グラフィティ』
 …総集編+新規カットだけど、尺が短くて入りきらないのでメタ要素を入れている

・1984~85年 テレビアニメ『重戦機エルガイム』
 …新人:永野護さんをキャラ&メカ両方のデザインに抜擢したロボットアニメ
・1985~86年 テレビアニメ『機動戦士Ζガンダム』
 …『ガンダム』の7年後を舞台にした新作。政治や経済の要素を取り込んだ
・1986~87年 『機動戦士ガンダムΖΖ』
 …『Z』の最終決戦直後から始まる新作。こども向けの分かりやすい作風に
・1988年 劇場用アニメ『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』
 …完全新作で、『ガンダム』から続くキャラ達の最後の戦いを描く
・1991年 劇場用アニメ『機動戦士ガンダムF91』
 …『逆シャア』から30年後を舞台にして、キャラクターを一新した完全新作
・1993~94年 テレビアニメ『機動戦士Vガンダム』
 …『F91』から更に30年後を舞台にした新作。この後の『Gガン』以降は別監督になる
・1996~97年 OVA『バイストン・ウェル物語 ガーゼィの翼』
 …『ダンバイン』と同じ世界を描いた作品だけど、オーラバトラーは出ないらしい
・1998年 テレビアニメ『ブレンパワード』
 …5年ぶりに一線に復帰し「第二のデビュー作」と本人が言うロボットアニメ
・1999~00年 テレビアニメ『∀ガンダム』
 …ガンダム20周年で作られた、すべてのガンダムのうんと未来を描いた作品
・2002年 劇場用アニメ『劇場版∀ガンダム』二部作
 …総集編+新規カットの劇場版
・2002~03年 テレビアニメ『OVERMANキングゲイナー』
 …「戦争」ではなく「脱出」「逃避行」を描くロボットアニメ
・2005~06年 WEBアニメ『リーンの翼』
 …『ダンバイン』と同じ世界を描いた作品、小説版とは別物
・2005~06年 劇場用アニメ『機動戦士Ζガンダム A New Translation』
 …総集編+新規カットの劇場版だけど、監督なりの『新訳』と言える作品
・2009年 イベント公開用アニメ『リング・オブ・ガンダム』
 …ガンダム30周年で作られた、数分の短編アニメ
・2014~15年 テレビアニメ『ガンダム Gのレコンギスタ』
 …宇宙世紀の1000年以上後の世界で、宇宙を舞台にした少年少女のロードムービー
・2019~22年 劇場用アニメ『劇場版Gのレコンギスタ』五部作
 …詰め込み過ぎて難解になってしまったテレビ版の再編集・新訳


 1982年近辺は特にゴチャゴチャしていてよく分からないと思うので、『イデオン』テレビ版の終了後の時系列をもっと詳しく書きましょう。

・1981年1月30日:テレビアニメ『イデオン』放送終了
・1981年3月14日:劇場用アニメ『ガンダムI』封切
・1981年7月11日:劇場用アニメ『ガンダムII』封切
・1982年2月6日:テレビアニメ『ザブングル』放送開始
・1982年3月13日:劇場用アニメ『ガンダムIII』封切
・1982年7月10日:劇場用アニメ『イデオン』前後編の封切
・1983年1月29日:テレビアニメ『ザブングル』放送終了
・1983年2月5日:テレビアニメ『ダンバイン』放送開始
・1983年7月9日:劇場用アニメ『ザブングル』封切

 『ザブングル』のアニメを放送しながら、『ガンダム』の映画(3本目)と、『イデオン』の映画2本を作っていて。『ザブングル』のアニメが終了した翌週から『ダンバイン』が始まって、『ダンバイン』放送中に『ザブングル』の映画が公開されている……「働きすぎでは?」の次元を超えていますよ!

 「映画って言っても総集編でしょ?」と思われるかもですが、『ガンダム』の映画3本目は新規カットがものすごく多い「実質完全版」みたいなものですし、『イデオン』の映画の後編は「打ち切りになったテレビ版の後を描く新作」がほとんどです。


 どうしてこんなスケジュールで……と思うのですが、実は『ザブングル』のアニメは元々別の監督(※1)が予定されていたのだけど多忙のため降板することになったんですね。

(※1:『ルパンVS複製人間』や『星のカービィ』アニメの吉川惣司監督。『ザブングル』には脚本家として終盤まで関わっているので、ケンカ別れとかではないと思われます

 そこで白羽の矢が立ったのが富野監督だったのですが、その時点で放送4~5ヶ月前だったため、「自分の色」を入れる余裕はなく「既にあるものを使って仕事として割り切って完成させる」ことに挑戦したそうです。
 また前述したように『ガンダム』と『イデオン』の映画と並行しての作業になったため、ガッツリと関わることができなかったのか前半は「富野作品っぽくない」印象なんですよね。



 ということもあって、富野監督の作品の中では『イデオン』や『ダンバイン』ほど話題にならない作品だとは思うのですが……「ロボットアニメの歴史」の中では、大きな転機となった時期の作品だと思うんですね。

 この1980年代初頭は、ロボットアニメが「スーパーロボット」から「リアルロボット」に切り替わった時期なんです。

 この「スーパーロボットかリアルロボットか」の分類は、1990年代の『スーパーロボット大戦』による分類で認知されたと思うのですが……
 1980年前後の作り手達はしっかり意識していた概念みたいで、富野監督は『ガンダム』のことを「ハード・ロボットもの」と呼んでいたそうだし、『ダグラム』『ボトムズ』の高橋良輔監督は「リアルロボット路線」とズバリそのものの言葉を使っていたみたい。

 そのため、初期『スーパーロボット大戦』では、『ガンダム』以前かどうかで参戦した作品を分類していたのかなぁと思います。『ガンダム』シリーズだけ作品数・機体数がめちゃくちゃ多かったというのもある。

<スーパーロボット>
・『マジンガー』シリーズ(1972年~)
・『ゲッターロボ』シリーズ(1974年~)
・『ライディーン』(1975年~)
・『コン・バトラーV』(1976年~)
・『ダイターン3』(1978年~)

<リアルロボット>
・『ガンダム』シリーズ(1979年~)


 しかし、そもそも「ガンダムはリアルロボットアニメか?」というと、1982年以降のロボットアニメが確立した「リアルロボットアニメらしさ」には当てはまらない部分も結構あるんですね。



<画像はテレビアニメ『機動戦士ガンダム』第12話より引用>

 「リアルロボットアニメ」の定義の1つに、「ロボットが量産可能な兵器である」があると思います。例えば、この大量のザク! 「戦車」とか「戦闘機」と同じように、兵器工場で作られた工業製品なことが分かります。

 『ガンダム』の敵側(ジオン側)の描写は、まさしく「リアルロボットアニメ」なんですが。



<画像はテレビアニメ『機動戦士ガンダム』第6話より引用>

 その量産されたザク達を、無敵のガンダムがばったばったとなぎ倒す!

 ザクのマシンガンを受けてもビクともしないし、素手でザクのパイプを引きちぎるし、単独で大気圏に突入するし、敵側のシャアを「化物か!?」とドン引きさせる圧倒的な性能の「1体限りのスーパーロボット」なのです。


 一応設定では「ガンダムは3機作られた(でも、実際に運用されたのは1機のみ)」ではあるのだけど……画面に出てくるのは1機だけだし、主人公の父親が形見として遺したものみたいだし(テムレイが宇宙に放り出されたのはアムロのせいだけど……)、主人公側の描写は「スーパーロボットアニメ」で……

 『機動戦士ガンダム』は、「リアルロボットに乗って攻めてくる敵」を「スーパーロボットに乗った主人公」が撃退していくアニメと言えるのです。『アルドノア・ゼロ』の逆ね。

 後半はジオン側も「1話限りのビックリドッキリメカ」で攻めてくるからその構造も変わるのだけど、それは言ってしまえば敵側もスーパーロボットアニメの文脈に戻ったと言えて、より一層「それ以前のスーパーロボットアニメ」に戻った構造なんですよね。




<画像は劇場用アニメ『伝説巨神イデオン 発動篇』より引用>

 富野監督の次作『伝説巨神イデオン』(1980年~)は、更にその構造を分かりやすくしています。
 イデオンは移民星から発掘した謎の巨大ロボで、量産なんて出来ない代物です。それを奪おうとバッフ・クランが大量の量産機で攻めてくるので、イデオン1機でそれを撃退していくしかないという作品です。

 「リアル兵器で攻めてくる敵」を「スーパーロボットに乗った主人公」が撃退していく構造を、より分かりやすくしたのが『イデオン』なのです。




 それが、『ザブングル』が企画される1981年頃になると状況が変わってきます。

 初代『ガンダム』の放送終了から6ヶ月後、1980年7月に「ガンダムのプラモデル」ガンプラが発売されます。同時にアニメの再放送、総集編劇場版の制作決定→公開などが重なり、1981年前半から一気に火がついたそうです。

 つまり『ザブングル』の頃のアニメは、「ガンダムが社会現象を起こしている」ことを前提にした企画になっているんですね。日本サンライズとしても1981年10月から『太陽の牙ダグラム』を開始していて、『ガンダム』よりさらにリアリティを増した、より兵器感の強いロボットアニメになっていたのだとか。


 という流れで作られた『ザブングル』なので―――序盤から「それまでのロボットアニメがやってこなかった」展開が続きます。



<画像はテレビアニメ『戦闘メカ ザブングル』第9話より引用>

 まず、主人公ロボが2体出てくるんです。
 「もう1台あったのか!?」と主人公もビックリ。

 ガンダムも3機作られたけど、その内の1機だけを使っている……という設定でしたが。こちらはしばらくずっと主人公機が2体のまま戦います。一応、序盤で片方の羽が折れて、羽がない方が主人公機、もう片方を他のキャラが使うという設定ですが。


 「主人公ロボ」は1体でなければいけないという固定概念が崩れ、これ以降の富野監督のアニメでは「主人公が乗るロボットと同じものが複数ある」作品が続きます。




<画像はテレビアニメ『聖戦士ダンバイン』第1話より引用>

 富野監督の次作『ダンバイン』でも、ダンバインは3体ありますし。




<画像はテレビアニメ『機動戦士Zガンダム』第4話より引用>

 『Zガンダム』でも、ガンダムMk-IIは3機作られています。




 そして、「ロボットアニメの歴史」を語る際に『ザブングル』の名前がよく挙がるのはコレです……!


<画像はテレビアニメ『戦闘メカ ザブングル』第26話より引用>

 作品の後半、主人公が「別の機体」に乗り換えて、以後こちらが新しい主人公機になるところです。
 それまでのロボットアニメでも、新しい作品に切り替わると同時に新しい機体に乗り換えるというものはありましたが(『ゲッターロボG』など)。作品の途中でロボットを乗り換えるのは、(少なくともロボットアニメでは)史上初の出来事だったそうです。

 しかもコイツ、「ザブングル」って名前じゃなくて「ウォーカー・ギャリア」って名前で、作品名とかすりもしていないという。


 元々ロボットアニメは、スポンサー商品の玩具を展開するため、中盤でパワーアップメカを投入することが多かったのですが(初代『ガンダム』におけるGメカなど)。
 当時はガンプラブームなので、新しく始まるロボットアニメにもプラモデルがスポンサー商品になったため(※2)、物語の中盤で「パワーアップメカ」ではなく「新型機」を投入するようになったのかなぁと思います。

(※2:『ザブングル』のスポンサーは、プラモデルを作るバンダイと、ガンダム同様の玩具を作るクローバーの両方が付いていた)


 この「序盤に主人公が乗る機体は、複数ある内の1機」→ 「中盤に1機しかない特別な機体に乗り換える」展開は、『ダンバイン』(1983年~)や『Zガンダム』(1985年~)にも引き継がれます。



 また、同じ時期のアニメで言うと……
 1982年10月から始まる『超時空要塞マクロス』でも、主人公:一条輝の機体は「たくさんある量産機の一つ」でしたし。1983年4月から始まる『装甲機兵ボトムズ』の主人公は、「その辺にある機体を次々と乗り換える」と……ちょうどこの時期、「主人公の乗るロボットは特別な1体」ではなくなった時代なんですね。

 マクロスは戦艦の名前であって、主人公の乗るヴァルキリーの名前ではないし。
 ボトムズは「この作品におけるロボットの種類の俗称」と「そのパイロット」のことを指す言葉であって、特定の1機を指す名前でないというのも象徴的ですね。




<画像はテレビアニメ『戦闘メカ ザブングル』第1話より引用>

 『ザブングル』における機体「ウォーカーマシン」は、元々は採掘作業などに使われる作業用の機械です。だから、見た目は「重機の延長」っぽい。
 そんな中、主人公達が乗るザブングルだけは戦闘用に特化したウォーカーマシンとして作られていて、それ以降は戦闘用のウォーカーマシンが作られていくようになるという設定だったみたい。

 この辺の設定は、かなり『ガンダム』っぽいですよね。




<画像はテレビアニメ『戦闘メカ ザブングル』第35話より引用>

 そのため「ロボットに乗らない戦闘要員」もかなり多いです。
 スクショのような小型のメカやバギーのような乗り物にのって砲撃したり、ウォーカーマシンのコックピットに手りゅう弾を投げ込んだりして、しっかり活躍します。

 ちなみにこのコが私の推しの「ビリン・ナダ」ね。
 『ガンダム』のミハルと同じ声優さんで、こっちでは元気に戦っています。




<画像はテレビアニメ『戦闘メカ ザブングル』第46話より引用>

 また、逆に運転席から銃やバズーカで砲撃したりもします。


 『ガンダム』や『イデオン』にもゲリラ戦のシーンがありますが、『ザブングル』はずっとゲリラ戦をやっているようなアニメなんですね。これがロボットアニメとしては独特の味で好きです。『ボトムズ』以上に、土臭いアニメでした。



◇ 連続性:実質アナハイムに強化人間? 『Zガンダム』につながる原型の一つ

<画像はテレビアニメ『戦闘メカ ザブングル』第1話より引用>

 さて、この『戦闘メカ ザブングル』の世界は「かつて文化があったけれど遠い昔に滅んだ」惑星ゾラを舞台にしています。葬式のやりかたもみんな知らないし、「盗み」も「殺人」すら「3日逃げ切ればチャラになる」3日限りの掟があるやりたい放題の無法者の世界です。

 今で言う「ポストアポカリプス」ものの世界で……

 なるほどー、『北斗の拳』とか流行っていたもんなーと思いきや、『北斗の拳』の連載開始は1983年なので『ザブングル』の方が1年以上早いのです。
 『北斗の拳』の元ネタと言われる『マッドマックス2』も1981年12月末に公開しているらしいので、1982年2月に始まっている『ザブングル』が影響を受けるには難しい時期です。


 ということで、元ネタは1978年の『未来少年コナン』の方みたいです。
 『未来少年コナン』も最終戦争によって現代文明が崩壊した20年後を舞台にしていて、富野さんも絵コンテで関わっているし、『コナン』を参考にしていると思われるアクションも多々見られました(高いところから落ちて足が痺れる、とか)。
 私の推しの「ビリン・ナダ」のモデルは、漫画版が始まったばかりのナウシカだった―――という説も見かけたけどどうだろう。顔や髪型の造形はそんなに似てないと思うけど、小型のメカに乗って戦場を駆けるところは……似てなくもない、かなぁ。




<画像はテレビアニメ『戦闘メカ ザブングル』第12話より引用>

 『未来少年コナン』におけるインダストリアのように、『ザブングル』の世界にも「前時代の文明を引き継いでいる特権階級」イノセントがいます。
 彼らは専用のドームに暮らし、主人公達のような庶民階級シビリアンをコントロールしています。ザブングルのようなウォーカーマシンはイノセントにしか作れないため、シビリアンは専用の石をイノセントに上納することによってウォーカーマシンなどを受け取っているのです。

 経済によって庶民を支配しつつ、シビリアン同士の抗争を敢えて激化させようと両陣営に新型のウォーカーマシンを供与したりしていて……なんでそんなことしているのかという理由は後半明らかになるので、ここには書きませんが。

 やってること、アナハイムじゃん!!!

 『Zガンダム』以降の宇宙世紀ガンダムシリーズに登場する企業アナハイム・エレクトロニクスは、自分達が生き残るために両陣営にモビルスーツを提供するなどしてファンの間からは「死の商人」と呼ばれているのですが……その元ネタとも言えることを、『ザブングル』でやっていたんですね。

 『Zガンダム』って、初代の『ガンダム』以降に富野監督が作った『イデオン』『ザブングル』『ダンバイン』『エルガイム』の要素を踏襲しているため……
 リアルタイムにそれらを全部観ている人ならすんなり入れるのでしょうが、後の時代の人が『ガンダム』→『Zガンダム』の順で観ちゃうと「要素が増えすぎていません!!!?」ってなるんですよね。『スマブラ』を1作目から順々にプレイしているのではなく、いきなり『SP』から始めた人は「キャラ多すぎじゃありません!!!?」と覚えきれないみたいな話。




<画像はテレビアニメ『戦闘メカ ザブングル』第32話より引用>


 強化人間じゃん!!!!

 『Zガンダム』以降のガンダムシリーズの定番となる「人為的にニュータイプを作り出す」強化人間ですが……これも、元ネタは『ザブングル』なんですよね。

 しかも、『Zガンダム』の強化人間よりえげつないのは、中盤までWヒロインの一角として主人公とイチャコラしてたキャラを誘拐して、記憶を消して洗脳して、主人公を抹殺する兵士として送り出してくるところです。

 ほぼ人間爆弾(『ザンボット3』)じゃん!
 
 でも、これで『Zガンダム』の謎が解けた気がします。
 新訳の劇場版で『Zガンダム』と和解した私ですが、それでも意味わかんねえと思っていたのが「カミーユの妹だと偽物の記憶を植え付けて(写真まで持たせている)強化人間を送り込んでくる」回だったんですよ。ティターンズも追いつめられて気が狂ったのかと思っていたのですが。

 「ヒロイン格のキャラが洗脳されて、ムリヤリ敵になる」をやりたかったのかと。
 でも、それをファでやっちゃうと『ザブングル』といっしょだから、とりあえず一旦「妹ですよー」と潜り込ませてヒロインムーブをさせてからの「敵になっちゃう……!」って形になったのかなぁと。


 富野監督は「過去に使ったネタを同じ味にならないように味変して出す」ことが多いのだけど、何度目かの味変でよく分からなくなっているものよりも、最初に出されたヤツが一番美味しいんですよねぇ……

 経済要素と強化人間のくだりは『ザブングル』が一番よく出来てると思うし、政治要素とハイパー化のくだりは『ダンバイン』が一番よく出来ていると思います。
 あ、でも「仮面の敵」は『ダンバイン』の黒騎士が一番好きです。しかし、これは私が『ライディーン』を観ていないからで、観たら「やっぱりシャーキンが一番!」ってなるのかなぁ。


 ちなみに、こちらの「強化人間」を作る研究者ポジションの人。


<画像はテレビアニメ『戦闘メカ ザブングル』第32話より引用>


 ほぼ『Zガンダム』のナミカー(フォウを研究してた人)じゃねえか!




 ということで……富野監督作品の中では『イデオン』や『ダンバイン』に比べて言及されることが少ない『ザブングル』ですが。実は結構、プロトタイプ『Zガンダム』だと思うんですね。『Zガンダム』につながる部分が多く、これを観ていると『Zガンダム』が理解しやすくなる……気がしなくもないです。

 そして、監督が関わった時期を考えると偶然なんでしょうが、『伝説巨神イデオン』の次の作品が、「文明が崩壊した世界でたくましく生きる新しい人類」の話なのが激熱だと思うんですね。『ザブングル』放送中に『イデオン』の映画が公開されているので、当時リアルタイムに両方を観ていた人はその(テーマ的な)つながりに感動できたのかも知れません。




◇ メタフィクション性:「悪ふざけ」も許せてしまう「ザブングルのたくましさ」

 さて……
 ここまでの項で、「リアルロボット路線を進めた作品」「ポストアポカリプスを舞台にしていて」「Zガンダムの原型にもなっている」と書いてきたので、恐らく誰一人そうは思っていないでしょうが……

 このアニメ、コメディです。



<画像はテレビアニメ『戦闘メカ ザブングル』第21話より引用>

 だって、主人公の見た目はこんなだし。




<画像はテレビアニメ『戦闘メカ ザブングル』第32話より引用>

 宿敵キャラはこんなだし。



 実際には死ぬキャラもいるのですが、それまでの富野監督の作品から一転して「誰も死なない作品にする」意思のもとで作られたそうで……「この状況でよく生きているな」の連続です。そう簡単に死ぬかよ、アニメでさ!



 手塚治虫先生の漫画のように、登場人物が「これがアニメである」ことを理解した発言をしたり、「最終回が近い」ことを話題にしたり、メタフィクション要素も結構あります。特にナレーション(ギレン・ザビと同じ声優さんの銀河万丈さん)がイイんですよねぇ。



 そして、極めつけは総集編映画の『ザブングル グラフィティ』です。
 『ダグラム』の総集編映画とセットになることが決まっていたため、90分以内に尺を収めなければならず……50話のアニメを90分になんか収められるワケがないので、「テレビ版の魅力を伝えよう」なんてことは早々に諦めて、テレビ版以上にやりたい放題しています。



<画像は劇場用アニメ『ザブングル グラフィティ』より引用>

 敢えて「間に合わないとこうなっちゃう……」と色を塗っていないシーンがあったり。



<画像は劇場用アニメ『ザブングル グラフィティ』より引用>

 テレビ放送時、関西地区のみ「高校野球の延長」のせいで27話が放送されなかったので……総集編映画で27話に登場するトロン・ミランが出てくるシーンで、こうやってネタにしたり。



<画像は劇場用アニメ『ザブングル グラフィティ』より引用>

 テレビアニメ版では『ザブングル』の主題歌を歌いながらペンキを塗っていたチルのシーンが、劇場版では『ダンバイン』の主題歌を歌っているように変更されたり。


 やりたい放題の悪ふざけ満載なんですが、これが許せちゃうのが『ザブングル』なんですよね。
 世界が崩壊したポストアポカリプスを舞台にしながら、そんな荒野でたくましく生きている人々を描いた作品なので……こういうネタも「無法者のアイツららしいな」って思えちゃうんです。


 そういや、余談なんですけど……
 「まだこどもだから主人公からは恋愛対象として見られない」「でも、主人公といっしょに操縦席に乗って戦う少女」のチルって、『ダンバイン』のチャム・ファウの原型なんですかね。



◇ 総括

<画像はテレビアニメ『戦闘メカ ザブングル』第9話より引用>

 『ガンダム』はもちろん、『イデオン』や『ダンバイン』などと比べても大きく知名度が落ちる作品だとは思うのですが……

 「ロボットアニメとして」も、「富野監督のアニメとして」も、ターニングポイントになったのは間違いないでしょうし。それがまた、「文明が崩壊した後の世界で、たくましく生きる新しい人類」を描いた作品というのがなんとも象徴的だなぁと思うんですね。

 個人的には、『ガンダム』におけるランバ=ラルのゲリラ戦とかが大好きだったので、ずっとゲリラ戦みたいなことをしている戦闘シーンも好きだったし。女性キャラがみんな生き生きとしているのも良かったですね。
 あと、すっごいイヤらしい話ですが、「宮崎駿監督へのコンプレックスを隠そうとしない富野監督の作品」という点でもものすごく貴重に思えます。


 観てよかったです!
 「富野監督のアニメ全部観る」旅も、残り5作……いや、6作かな。次はdアニメストアに入ったときに『海のトリトン』を観たいですね。


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