小説『BanG Dream!』&漫画『BanG_Dream![星の鼓動]』全2巻レビュー/設定は別物、でもしっかり『バンドリ』!

 
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小説『BanG Dream!(バンドリ)』
・巻数:全1巻
・発売:2016年8月25日(アスキー・メディアワークス)
 文庫化:2019年1月10日(電撃文庫)

・原作:中村航/イラスト:ひと和
・シリーズの位置づけ:↓の漫画版[星の鼓動]のノベライズ


漫画『BanG_Dream![星の鼓動]』
・巻数:全2巻
・掲載:月刊ブシロード
    2015年2月号~2016年1月号

・原作:中村航/漫画:石田彩
・シリーズの位置づけ:『バンドリ』プロジェクト最初の作品


【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
※ 苦手な人もいそうなNG項目があるかないかを、リスト化しています。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番「その要素がある」で、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:×(アニメ版などと比べてもギスギスは弱め)
・恥をかく&嘲笑シーン:◎(序盤に、授業中に笑われるシーンがある)
・寝取られ:×
・極端な男性蔑視・女性蔑視:×
・白人酋長もの:×
・動物が死ぬ:×
・人体欠損などのグロ描写:×
・人が食われるグロ描写:×
・グロ表現としての虫:×
・百合要素:×(後のシリーズほど要素は強くない)
・BL要素:×
・男女の恋愛:×(花咲川は共学っぽい……!)
・ラッキースケベ:×
・セックスシーン:×



◇ 独自性:「原典」故にキャラ設定は全然ちがう!なのに、ストーリー展開は共通!

 『バンドリ』にハマって8年―――
 今まで頑なに読まなかった2作ですが、「いつバンドリが終わるか分からない」「終わらなくても私が離れていくかもしれない」ので、その前にしっかり読んでレビューを書き残すことにしました。


 今回レビューするのは「小説」と「漫画」です。

 元々、小説家の中村航先生が原作を担当した「漫画」版が、2015年1月~12月に月刊ブシロードで連載をされていました。しかし、この「漫画」版はしばらくは単行本化されず、ようやく3年後の2018年1月に単行本化されたかと思いきや、イベント及びブシロードの通販サイトで販売されただけでした。

 んで、なかなか単行本化されなかった「漫画」版を尻目に、「漫画」の連載が終わった後の2016年8月に同じストーリーを小説にした「小説」版の方が単行本として発売されます。もちろん作者は中村航先生。

 ということで、しばらくの間は「漫画」版は入手困難で、「小説」版は手軽に入手できたという状況だったため……「小説」版の方を原典と捉えているファンは多いんですよね。
 テレビ版の『ガンダム』はなかなかVHS化されなかったけど、劇場版の『ガンダム』はVHS化されてレンタルビデオとかでも観られたので、劇場版しか観たことがなかった世代がいた―――みたいな話(この例えで通じるの特定世代過ぎない???)


 実際に読んでみると、先に中村航先生の「小説」とひと和先生の「キャラクターデザイン」があって、それを漫画に落とし込んだのが「漫画」版じゃないかという印象はあります。すごく「小説のコミカライズ版」感が強いんですよね。先に世に出たのは「漫画」版ではあるんですが。

 ということで、この2作品は「同じキャラクター」「同じストーリー」です。
 私は両方を並行して読みましたが、どっちか片方だけ読むのなら小説版の方が描写が細かい分だけオススメかな。



 ここまで説明してこなかったので、
 「え? そもそもこの作品って何? アニメとかゲームとかになってる、あの『バンドリ』でイイの?」という人もいらっしゃることでしょう。「小説」と「漫画」は同じ話という情報を先にお伝えしたかったので、プロジェクト全体の歴史を簡単にですがここから説明します。


―「バンドリ」プロジェクト初期の年表―
・2014年12月8日…月刊ブシロード1月号に、香澄のイラストが掲載される
 ※ こちらのサイトのバナーになっているヤツ
 ※ 漫画版の下巻にカラーイラストで、小説版にも白黒イラストで掲載されています
・2015年1月8日…月刊ブシロード2月号から、漫画『BanG_Dream![星の鼓動]』連載開始
・2015年2月28日…声優:愛美さんのワンマンライブで「バンドリ」への参加と、1st Liveの開催が発表される
 ※ そのため、この日を「バンドリの日」と公式は呼んでいる
・2015年4月18日…BanG_Dream! 1st Liveが開催される
・2015年12月…月刊ブシロード1月号で、漫画『BanG_Dream![星の鼓動]』は最終回を迎える
・2016年2月24日…1st シングルCD「Yes! BanG_Dream!」発売
・2016年4月28日…月刊ブシロード5月号から、アニメ版準拠の漫画『BanG Dream!』の連載開始
 ※ 恐らくこれ以降、『BanG_Dream!』からアンダーバーが外れて『BanG Dream!』という名称に統一される
・2016年8月25日 [星の鼓動]の方の漫画のノベライズ、小説版『BanG Dream!』が発売される
・2017年1月21日…テレビアニメ1期『BanG Dream!』が放送開始
・2017年3月16日…スマートフォン向けゲーム『バンドリ!ガールズバンドパーティ』配信開始


 青い字が、現在展開されている『BanG Dream!』で。
 赤い字が、今日紹介する『BanG_Dream!』です。

 小説版の発売が2016年8月で、アニメ版のコミカライズとなる漫画版の開始が2016年4月と前後しちゃっているで、ちょっとややこしいのですが……(そのため、小説版のタイトルにはアンダーバーが付いていない)


<プロトタイプ版となる『BanG_Dream!』:2015~2016年まで>
 

<現在も展開されている『BanG Dream!』:2017年~>



 という認識でイイんじゃないかと思います。
 この2つは設定が大きくちがっているため、この記事では分かりやすくするため[星の鼓動]や小説版を『2015~2016年版』テレビアニメ版やそのコミカライズ版、スマホゲーム版を『2017年~版』と表現して区別していきます。実際には2016年は両方が混在している時期ではあるのですが。


 『2015~2016年版』と『2017年~版』でどのくらい設定がちがうのか……メインキャラとなるPoppin'Partyの5人を見ていきましょう。

【戸山 香澄】
<2017年~版>


 Poppin'Partyのギターボーカール。
 超アクティブで、超ポジティブ、常に明るく元気で誰とでも友達になろうとする。星が大好きで、尖がった独特の髪型は「星をモチーフにしている」らしい。

<2015~2016年版>


 Poppin'Partyのギターボーカール。
 こどもの頃は歌うのが大好きだったけど、男子にからかわれたことがトラウマになって歌えなくなり、友達も作れなくなってしまった。高校でもずっと孤独で、クラスメイトには友達が1人もいない。妹がいない代わりに、お姉ちゃんが2人いるっぽい。更に、中学まではメガネっ子だったらしい(高校からコンタクトレンズを入れている)。


 髪型以外マジで共通点がなさすぎる。
 テレビアニメ1期の頃は、後先考えずに行動してみんなを巻き込む香澄がかなりのヘイトを買っていたんですが……『2015~2016年版』の香澄は、どっちかというと『ぼっち・ざ・ろっく』のぼっちちゃんなんですよね。超コミュ障で、でもギターを持った時だけ元気になるという。

 みかんの段ボールの中にも入るし。


<画像は漫画『BanG_Dream![星の鼓動]』上巻より引用>

 ただ、『ぼざろ』はぼっちちゃんの周りのメンバーはアクティブで、ぼっちちゃんをムリヤリ表舞台に連れ出してくれるのだけど……『2015~2016年版』のポピパは香澄以外もコミュ障ばっかりという。


【市ヶ谷有咲】
<2017年~版>


 Poppin'Partyのキーボード。
 成績優秀だけど、学校に友達がいないために最低限しか出席していなかった。香澄がアレなコなのでツッコミの口調が荒くなるけど、本当は猫を被って生きていたい。

 質屋の娘で、その蔵の地下室がPoppin'Partyの練習場所になっている。

<2015~2016年版>


 Poppin'Partyのキーボード。
 成績優秀だけど、学校に友達がいないため退学寸前になるくらい出席していないガチ引きこもり。こっちの香澄は大人しすぎるくらいなので、「育成ゲームのヒロイン」のように香澄をプロデュースしていく。
 ザンジとバルという猫を飼っている。

 質屋の娘で、その蔵の2階かなにかがPoppin'Partyの練習場所になっている。


 質屋や蔵の設定はだいぶ残っていますが……有咲は「香澄と対応するキャラ」なので、香澄の性格が正反対になった分、有咲の性格も同じくらい変わっている印象です。

 『2017年~版』でも「初対面の相手には猫を被る」という設定がありましたが、こちらも「蔵の外ではマトモに喋れない」という設定でした。
 『2017年~版』では一切描写されない両親についても説明があって、『2015~2016年版』は有咲の父親が伝説のバンドのギタリストだったけど早くに亡くなっていて、その父のランダムスターを香澄が受け継ぐという設定でした。これはこれでエモイ。


【牛込りみ】
<2017年~版>


 Poppin'Partyのベース。
 引っ込み思案で大人しく、人前に出るのが苦手だったけど、香澄と出会って大きく成長していく。チョココロネが好き。関西出身で、興奮するとつい関西弁が出てしまう。チョココロネが好き。姉がGlitter*Greenのギターボーカルで、お姉ちゃんのことが大好き。チョココロネも好き。

<2015~2016年>

 Poppin'Partyのベース。
 関西からやってきた裸足の忍者で、変わり身の術が使える。一人暮らしで金欠だが米だけは実家から送られてくるため、炊飯器を持ち歩いて「温かいゴハン」と「弁当のおかず」の交換をクラスメイトに申し込んでいる。


 誰やねんコイツ。
 まさか「バンドリ」にも「炊飯器を持ち歩くキャラ」がいたとは……
 一応設定的には「好物はチョコ」らしく、後半に沙綾のパンに餌付けされるシーンはあるものの、チョココロネは出てきません。当然「私の心はチョココロネ」の曲も出てきません。

 『2017年~版』には他バンドに「ブシドーを志すキャラ」がいるためか忍者要素は受け継がれませんでしたが、なんと『D4DJ』の方で同じ声優さんのキャラ:原口莉亞瑠が「忍者の末裔」という設定で出てきました。一度消えた忍者設定が復活することあるんだ……


【花園たえ】
<2017年~版>


 Poppin'Partyのリードギター。
 独特の空気を持っている天然ボケタイプだけど、こどもの頃から音楽とギターが大好きで、ライブハウス「SPACE」でアルバイトをしている。ウサギが好きで、家で20羽飼っているらしい。


<2015~2016年版>


 Poppin'Partyのリードギター。
 理由は分からないけど、「自分、不器用ですから」「恐縮です……!」と高倉健みたいな喋り方をする。自己肯定感が低いせいか、香澄達のことを(同学年なのに)センパイと呼ぶ。


 忍者だったりみりんの影に隠れているけど、おたえも結構な属性渋滞キャラでした。「一番の実力者なのに子分キャラみたいに喋る」のは、パスパレの麻弥さんっぽいかもしれないですね。
 ウサギ好きは変わらないらしく、小説版ではウサギの絵が描かれたピックを使い、漫画版ではウサギの人形を持ち歩いていました。


【山吹沙綾】
<2017年~版>

 Poppin'Partyのドラム。
 パン屋「ヤマブキベーカリー」の看板娘で、みんなのお姉さん。中学時代にバンドを組んでいたが、初ライブの直前に母が倒れたことで脱退した。病気の母や、幼い弟と妹の世話をするため、もうバンド活動をする気はなくなっていた。

<2015~2016年版>

 Poppin'Partyのドラム。
 パン屋「ヤマブキパン」の看板娘で、こちらは既に母を病気で亡くしている。中学時代にバンドを組んでいたが、コンテストの直前に父が倒れたことで脱退した。精神が参ってしまった父や、三つ子の弟の世話をするため、高校は定時制に通っている。


 5人の中では、性格・設定共に「そのまま残っている」のだけど……
 母はいないわ、弟達は一人多いわ、父が役立たずなので一人でパン屋を切り盛りしているわ、そのために高校は定時制に通っているわで……人生ハードモードすぎる。彼女に比べたら、『2017年~版』の沙綾は楽なものでは?とか思ってしまう。

 でも、香澄との関係は『2017年~版』よりエモイと思います。




 ということで、『2015~2016年版』と『2017年~版』は別物なのです。
 高校の制服のデザインもちがいますが、恐らく『2015~2016年版』の花咲川高校は共学みたいです(漫画版の文化祭のシーンを見ると同じ制服を着た男子がいる)。
 『2015~2016年版』の設定が今も引き継がれていると思って、「香澄のギターって有咲の父親が使ってたものなんでしょ?」とか「りみりんって関西出身だから忍術を使えるんでしょ?」とか言ってしまうのは、ニンテンドー3DSの知識で最新のゲームを語っているみたいな人になってしまいます。


 『2015~2016年版』の[星の鼓動]の漫画が長らく単行本化されなかったのも、恐らくはアニメ版準拠の方の漫画版と混同されないようにするためでしょう。

 現在も続く「バンドリ」にとって、『2015~2016年版』は“原案”であって“原作”ではないんですよね。それは、テレビアニメ1期の頃から中村航先生のクレジットでしっかり記載されています。



<画像はテレビアニメ版『BanG Dream!』(1期)オープニングより引用>



 こんな風に「テレビアニメ」と「それ以前」で設定が一新されているのは『ラブライブ!』とかもそうですし、もっと以前になると「アニメとゲームと漫画で全部設定が別」みたいなメディアミックスも多かったですよね。決して『バンドリ』だけが特殊な例ではありません。

 私が8年以上「2015~2016年版」から目を背けていたのは、テレビアニメ1期から入った私には「キャラクターのちがい」が受け入れられないだろうと思っていたからで……実際に読んでみても、忍者りみりんのことは1ミリも好きになれなかったんですが。

 ストーリーは『2015~2016年版』も『2017年~版』(テレビアニメ1期の前半まで)もほぼ同じ展開をしていくんですね。

 例えば、香澄にできた最初の友達が沙綾なところとか。
 有咲が道に貼った星のシールに導かれて、香澄がランダムスターに出会うところとか。
 Poppin'Partyのメンバーが仲間になる順番とか。

 キャラクターの性格はちがうからもちろん細部のストーリーは変わっているし、その行動の理由が違っていたりするのですが、「起こる出来事」は共通なんですよ。これ……何かに似ているなと思い、しばらく考えて分かりました。



 『弟切草』だ!

 あのゲームはサウンドノベルの元祖と言いつつ仕様がかなり特殊で、どのエンディングに向かうルートなのかは最終盤まで行ったり来たりするため、「どのルートに進んでも前振りが効くように同じ展開をしていく」んですね。

 今日はこれだけ覚えて帰ってください。



◇ オマージュ性:8年アニメ&ゲーム版を観てきて、やっと意味が分かった要素がたくさん

 さて、『2015年~2016年版』と『2017年版~』は話がつながっていないし、設定も別物なことは前項で語ったのですが……『2017年版~』のスタッフが『2015年~2016年版』を蔑ろにしたワケではなくて、実は結構ところどころにオマージュが散りばめられているんですね。

 私は『2015年~2016年版』から目を背けて8年間、『2017年版~』の「バンドリ」のみ観てきました。そのため「何だこのシーンは……?」と意味不明だったところがあったのですが、それが『2015年~2016年版』のオマージュだったのと今回初めて分かったんですね。



<画像はテレビアニメ版『BanG Dream!』(1期)第2話より引用>

 例えば、コレ。
 有咲がランダムスターをネットオークションで売っぱらおうとした際の値段「30万円」は―――


<画像は漫画『BanG_Dream![星の鼓動]』上巻より引用>

 有咲が自分ちの店でランダムスターに付けた値段「30万15円」のオマージュだったんですね。

 この「300015円」という数字は『BanG_Dream!』にとって大事な数字なので、1st Liveのチケット代も「3015円」にしたのだとか。





<画像はiOS版『バンドリ!ガールズバンドパーティ』より引用>

 例えば、コレ。
 Glitter*Greenのひなこ先輩が有咲のことを「蔵弁慶」と呼ぶシーン―――どうしてひなこ先輩がそのことを知っているのか、そもそも言うほど蔵弁慶か、とずっと疑問に思っていたら。


<画像は漫画『BanG_Dream![星の鼓動]』上巻より引用>

 『2015年~2016年版』では有咲はガチで「蔵」と「学校」では声の大きさがちがうくらいだったので、りみりんに付けられたあだ名が「蔵ベンケー」でした。その後、りみりんは有咲のことずっと「ベンケー殿」って呼ぶほど。




<画像はショートアニメ『BanG Dream!ガルパ☆ピコ』第2話より引用>

 例えばコレ。
 ギャグマンガ時空の作品ですが、『ガルパ☆ピコ』で沙綾が「私、三刀流でドラムが叩けるよ」とか言い出すシーン―――



<画像は小説版『BanG Dream!』より引用>

 『2015~2016年版』の沙綾は3月3日生まれで、3つ子の弟がいるので、3という数字が好きなので、某ロロノア・ゾロのように3本目のスティックを咥えて練習しているらしい(実際に叩くのは2本)。




 そもそも『BanG Dream』というタイトルが何を表しているのか、『2017年~版』ではまったく説明されないまま始まります。
 3年ずっと謎のまま展開されて、2020年のテレビアニメ3期で「BanG Dream!Girls Band Challenge!」という大会が開かれて初めて名前が出てくるのですが……



<画像は漫画『BanG_Dream![星の鼓動]』上巻より引用>

 『2015~2016年版』では、「BanG Dream!」という謎の言葉と未完成の曲が5人を繋ぐ重要な要素になっていて……更には、「バンドリ」全体のテーマである「歌は残る」「バンド文化は継承されていく」を体現しているんですね。



 その未完成の曲を完成させたものがPoppin'Partyの1stシングル「Yes!BanG_Dream!」です。
 ジャケット画像やMVに出てくるPoppin'Partyの5人のキャラデザは『2017年~版』のものですが、歌詞は『2015~2016年版』の作中で作られたものなので、そちらの出来事が込められています。「教室の机の上に~」のくだりなんかはまさに。

 そして、これは発売時期がそうだからという理由でしょうが、タイトルの「BanG_Dream」にはアンダーバーが付いていますね。



<画像はテレビアニメ版『BanG Dream!』(1期)第2話より引用>

 続く2ndシングル「STAR BEAT!〜ホシノコドウ〜」は、テレビアニメ1期の作中で香澄が初めて作詞した曲でしたが……このシーン、当時も最近も「どうして?」と思ったんですよね。作詞に煮詰まった香澄が、当時はまだメンバーではない沙綾の家に泊まりこんで作詞する理由がよく分かりませんでした。




<画像は漫画『BanG_Dream![星の鼓動]』下巻より引用>

 『2015~2016年版』を読むと、その展開は『2015~2016年版』のオマージュなことがよく分かりました。
 香澄が有咲に「小心者のテーマ」を作詞・作曲しろと命じられ、紆余曲折あった上で沙綾の家で沙綾に助けてもらいながら香澄が完成させた曲が「STAR BEAT!〜ホシノコドウ〜」なんですね。

 なので、歌詞を見ると『2017年~版』の香澄からは出てくるワケがない、『2015~2016年版』の香澄の想いが込められているんですね。「聞こえないふり続けていた」とかがそう。


 ちなみに、小説版では(沙綾加入前の)4人がそれぞれオリジナル曲を作ってくるという課題に取り組むことになります。
 香澄が作ったのが、今説明した「小心者のテーマ」改め「STAR BEAT!〜ホシノコドウ〜」で、2ndシングルとして発売されるもの。
 有咲が作ったのが、「じゃんぴん・しゃっふる」改め「ぽっぴん'しゃっふる」で、1stシングルのカップリング曲になるもの。
 りみりんが作ったのが、「りみりん夏の三三七拍子」改め「夏空 SUN! SUN! SEVEN!」で、2ndシングルのカップリングになる曲で。
 おたえが作ったのが、「ルイテキ革命」改め「ティアドロップス」で、両A面の3rdシングルになる曲で。

 そして、文化祭のために沙綾が作った曲が「走り始めたばかりのキミに」で、両A面の3rdシングルのもう片方の曲です。
 作詞は基本的に香澄が担当しているのだけど、「走り始めたばかりのキミに」だけは沙綾が作詞しているので……この「キミ」ってのは『2015~2016年版』版の香澄のことなんですよね。何もできなかった「あのカスミちゃん」が走り始めたから……という曲。



<画像はiOS版『バンドリ!ガールズバンドパーティ』より引用>

 テレビアニメ版から入った私は、テレビアニメ1期のオープニングが4thシングルで、エンディングが5thシングルで、「アニメが始まる前から3枚もシングル出してたの!?」と驚きました。全部スマホゲームに実装されていても全部知らない曲だと思っていたのですが……3枚とも全部「2015~2016年版のストーリーに基づいたもの」だったのが分かって良かったです。

 ジャケット絵は『2017年~版』のキャラデザなので、8年以上もそれに気付いていませんでしたが……




<画像は漫画『BanG_Dream![星の鼓動]』下巻より引用>

 曲の話ついでに、カバー曲についても。
 『バンドリ』のスマホゲーム版が大ヒットした要因の一つに、版権曲のカバーを導入して「(オリジナル曲だけでなく)みんなが知ってる曲で遊べるよ」としたことがあります。これは元々リアルライブの方で、持ち曲が少ない時代にカバー曲をライブで披露したことがゲームへの実装につながったと言われているのですが……

 版権の問題があるからか、テレビアニメ版、スマホゲーム版ともにストーリーの中で版権曲のカバーを演奏する場面って(私の記憶している限りだと)一度もないんですね。あ、きらきら星は除いてね。

 しかし、『2015~2016年版』ではカバー曲がガッツリとストーリーの中に組み込まれているのです。
 漫画版では商店街のお祭りのライブで『妖怪ファイター』(言うまでもなく『妖怪ウォッチ』のパロディ)の曲を歌っているし。
 小説版では、練習のために蔵の中から発掘した『Get It On』や『Helter Skelter』、『Detroit Rock City』をコピーしたり、書店で日本のアニメソングなどのバンドスコアを探したりしていたみたい(この内の何曲かは後にスマホゲーム版にもカバー曲として実装されている)。中村航さんが同じように学生時代バンドをやっていたこともあり、小説版はこの辺の描写が細かいのがイイですね。



 なので、「ストーリーを追う」だけでなく「オマージュの元ネタを探す」楽しさがあって、なんだか宝探しみたいな感覚でした。



◇ リアルタイム性:「漫画」と「リアルライブ」と「CD発売」がシンクロしていた

 『バンドリ』一番の特徴と言えば、「アニメ」と「スマホゲーム」と「リアルライブ」が並行して展開されて、それぞれが連携し合うところだと思います。
 例えば、「テレビアニメ」で初披露されたオリジナル曲が、その日の内に「スマホゲーム」で実装されてリズムゲームで遊べるようになるとか。「テレビアニメ」の曲を実際に声優さんが「リアルライブ」で演奏する―――みたいなことをずっとやり続けてきたのが『バンドリ』の凄いところだと思います。

 長くテレビアニメ紹介配信とかやってきた身としては、「テレビアニメ」が終わってから2年後に「スマホゲーム」が配信開始になる―――みたいなケースも見てきたワケですからね。



 しかし、この「メディアをまたいだ連動要素」は、実は「テレビアニメ」や「スマホゲーム」が始まる前から行われていたんですね。この[星の鼓動]の漫画の展開に合わせて、リアルイベントが行われ、Poppin'Partyのメンバーがそろっていったのです。

 再び年表を出しますが、今度は[星の鼓動]の漫画の展開と、リアルライブを中心にピックアップし直しました。


―[星の鼓動]とポピパのリアルイベント年表―
・2014年12月8日…月刊ブシロード1月号に、香澄のイラストが掲載される
・2015年1月8日…月刊ブシロード2月号から、漫画『BanG_Dream![星の鼓動]』連載開始。香澄がランダムスターと有咲に出会う。
・2015年2月…[星の鼓動]2話、香澄がりみりんと出会う
・2015年2月28日…声優:愛美さんのワンマンライブで「バンドリ」への参加と、1st Liveの開催が発表される
・2015年3月…[星の鼓動]3話、香澄・りみりんで仮のバンド結成
・2015年4月…[星の鼓動]4話、有咲がキーボードを始めて仮のバンドに演者として入る
・2015年4月18日…BanG_Dream! 1st Liveが開催される、りみりん役:西本りみさん、有咲役:伊藤彩沙さんが発表される。「Yes! BanG_Dream!」のCDが配布される
・2015年5月…[星の鼓動]5話、バンド名が「Poppin'Party」に決まる(これが作中4月18日という設定)。おたえ登場
・2015年6月…[星の鼓動]6話、おたえの正体が分かる
・2015年6月14日…BanG_Dream! 2nd Liveが開催される、おたえ役:大塚紗英さんが発表される。「Yes! BanG_Dream!」のCDが配布される
・2015年7月…[星の鼓動]7話、おたえがバンドに加入
・2015年8月…[星の鼓動]8話、商店街のお祭りイベントで初ライブ(漫画版のみ、ここで「夏空 SUN! SUN! SEVEN!」が演奏されている)
・2015年8月14日…BanG_Dream! 3rd Liveが開催される、「夏空 SUN! SUN! SEVEN!」初披露
・2015年9月…[星の鼓動]9話、香澄が沙綾とようやく出会う
・2015年10月…[星の鼓動]10話、香澄が沙綾とようやく喋る
・2015年10月11日…BanG_Dream! 4th Liveが開催される、沙綾役:大橋彩香さんが発表される。生産限定盤の「Yes! BanG_Dream!」のCDが販売される(沙綾のいない4人バージョン)
・2015年11月…[星の鼓動]11話、沙綾がバンドに加入
・2015年12月…[星の鼓動]最終話、「BanG Dream」の謎が明らかに
・2016年2月24日…1st シングルCD「Yes! BanG_Dream!」発売
・2016年4月24日…アンダーバーが外れた1st Live『BanG Dream! First☆LIVE 』が開催される
・2016年4月28日…月刊ブシロード5月号から、アニメ版準拠の漫画『BanG Dream!』の連載開始
・2016年8月3日…2nd シングルCD「STAR BEAT!〜ホシノコドウ〜」発売
・2016年8月25日 [星の鼓動]の方の漫画のノベライズ、小説版『BanG Dream!』が発売される


 漫画の方で、有咲がキーボードを始めて正式にプレイヤーとして加入したタイミングで、リアルライブの方にも有咲役の人が参加するようになったり。
 漫画の方に出てきたオリジナル曲が、翌週のリアルライブで実際に演奏されたり。
 「STAR BEAT!〜ホシノコドウ〜」のシングルが発売されたタイミングで、小説版が発売されたり。

 2015年の時点で、メディアを横断した連動展開をしていたんですね。
 これをちゃんと全部追いかけるには、毎月「月刊ブシロード」を買って漫画を読んで、毎回のライブに行っていかなくちゃならないので……これをちゃんと味わえた人というのはそんなに多くないのだと思いますが。

 間違いなく『2017年~版』にも引き継がれている要素で、私の好きだった「バンドリ」はここから始まっていたんだと感動しました。



◇ 総括

<画像は漫画『BanG_Dream![星の鼓動]』上巻より引用>

 最初の作品だからと言って、今から『バンドリ』を履修し始めようという人がこれから読むことはオススメしませんが……
 既に『バンドリ』を履修済で、ポピパのメンバーを知っている人なら、「もう一つの可能性」として楽しめるんじゃないかと思います。

 
 惜しむらくは、謎を残したまま「私達のバンド活動はこれからだ!」と終わってしまい、その後プロジェクトは『2017年~版』に完全移行してしまったため。『2015~2016年版』の続きが描かれることはもう絶対にないということです。

 いつか遠い未来、ブシロードオールスターズの格ゲーが出たら、コイツらも参戦させて『2017年~版』のポピパと殴り合えるようにして欲しいですね。手裏剣を投げるりみりん vs チョココロネを投げるりみりん、勝つのはどっちだ!

コメント

  1. バンドリは柏原先生版のマンガしか知らなかったので、その前にも展開があることは知りませんでした。長寿コンテンツは歴史があるのが羨ましいです。

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