壮絶の極み!『無敵超人ザンボット3』全23話を完走したので感想を残しておきます

※ この記事は2023年に旧ブログに書かれたものを幾つか手直しして2025年に移行した記事です


 サンライズのYouTubeチャンネルでは過去の名作を週に1話ずつ配信してくれていて、無事に『無敵超人ザンボット3』を最終話まで観ることが出来ました! 『3』って書いてあるけど3作目じゃなくて、3機のメカが合体して巨大ロボになるって意味の『3』ね。


 第1話は現在でも配信中みたいですね(1話で真価が分かる作品じゃないと思いますが……)。




 数年前、Amazonプライム会員になっていた時期にプライムビデオで観ていたら、途中プライム対象外になってしまって11話あたりで止まってしまっていました。最後まで観られてサンライズチャンネルには感謝しかありません。

 調べてみたところ、2025年1月8日現在『ザンボット3』が見放題のサブスクはバンダイチャンネルdアニメストアのみみたいです。
 私がバンダイチャンネルの有料会員だったときにはラインナップにはありませんでしたし、2年前にこの記事を書いた時にはdアニメストアにはなかったはずなので、ここも入れ替わりがあるのだと思いますが……もしこの記事を読みながら興味が湧いてきたという人がいましたら、この記事は全体的なザックリとしたネタバレを含むので途中で読むのをやめてでも観てもらえたら嬉しいです。



◇ 後に『ガンダム』を作る富野由悠季監督の作品

 このアニメは、現在のサンライズが東北新社傘下から離脱して「日本サンライズ」という名前になって初めて自社企画で制作したロボットアニメです。監督は富野喜幸さん(1982年以降は富野由悠季というペンネームを使用)で、後に作る『機動戦士ガンダム』の礎になった作品だと言って良いと思います。

 富野さんは恐ろしく多作な人なので、監督・総監督を担当された「アニメ作品」だけを列挙しても以下の通りになります。

・1972年 テレビアニメ『海のトリトン』
 …手塚治虫先生の漫画が原作だけど、オリジナル要素が強くて別物
・1975年 テレビアニメ『勇者ライディーン』
 …ロボットアニメとオカルトブームの融合、色々あって後半は監督を下ろされる
・1975年 テレビアニメ『ラ・セーヌの星』
 …『ベルばら』風のオリジナルアニメ、こっちは後半から監督を任される
・1977~78年 テレビアニメ『無敵超人ザンボット3』
 …この記事で取り上げる作品。衝撃的な展開が続くロボットアニメ

・1978~79年 テレビアニメ『無敵鋼人ダイターン3』
 …前作から一転、コミカルな作風になったロボットアニメ
・1979~80年 テレビアニメ『機動戦士ガンダム』
 …ロボットアニメで「人間同士の戦争」を描き、社会現象になった
・1980~81年 テレビアニメ『伝説巨神イデオン』
 …とてつもないスケールのロボットアニメ。打ち切りなので突然終わる
・1981~82年 劇場用アニメ『機動戦士ガンダム』三部作
 …基本的には総集編だけど、『III』は特に新規カットが多い
・1982~83年 テレビアニメ『戦闘メカ ザブングル』
 …西部劇のようなロボットアニメ。今で言うポストアポカリプス?
・1982年 劇場用アニメ『伝説巨神イデオン』二部作
 …前編は総集編、後編は打ち切りになった後を描く「真の完結編」。これも壮絶
・1983~84年 テレビアニメ『聖戦士ダンバイン』
 …異世界召喚から始まるファンタジー世界を舞台にしたロボットアニメ、革新的すぎる
・1983年 劇場用アニメ『ザブングル グラフィティ』
 …総集編+新規カットだけど、尺が短いので回想形式で進むらしい
・1984~85年 テレビアニメ『重戦機エルガイム』
 …新人:永野護さんをキャラ&メカ両方のデザインに抜擢したロボットアニメ
・1985~86年 テレビアニメ『機動戦士Ζガンダム』
 …『ガンダム』の7年後を舞台にした新作。政治や経済の要素を取り込んだ
・1986~87年 『機動戦士ガンダムΖΖ』
 …『Z』の最終決戦直後から始まる新作。こども向けの分かりやすい作風に
・1988年 劇場用アニメ『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』
 …完全新作で、『ガンダム』から続くキャラ達の最後の戦いを描く
・1991年 劇場用アニメ『機動戦士ガンダムF91』
 …『逆シャア』から30年後を舞台にして、キャラクターを一新した完全新作
・1993~94年 テレビアニメ『機動戦士Vガンダム』
 …『F91』から更に30年後を舞台にした新作。この後の『Gガン』以降は別監督になる
・1996~97年 OVA『バイストン・ウェル物語 ガーゼィの翼』
 …『ダンバイン』と同じ世界を描いた作品だけど、オーラバトラーは出ないらしい
・1998年 テレビアニメ『ブレンパワード』
 …5年ぶりに一線に復帰し「第二のデビュー作」と本人が言うロボットアニメ
・1999~00年 テレビアニメ『∀ガンダム』
 …ガンダム20周年で作られた、すべてのガンダムのうんと未来を描いた作品
・2002年 劇場用アニメ『劇場版∀ガンダム』二部作
 …総集編+新規カットの劇場版
・2002~03年 テレビアニメ『OVERMANキングゲイナー』
 …「戦争」ではなく「脱出」「逃避行」を描くロボットアニメ
・2005~06年 WEBアニメ『リーンの翼』
 …『ダンバイン』と同じ世界を描いた作品、小説版とは別物
・2005~06年 劇場用アニメ『機動戦士Ζガンダム A New Translation』
 …総集編+新規カットの劇場版だけど、監督なりの『新訳』と言える作品
・2009年 イベント公開用アニメ『リング・オブ・ガンダム』
 …ガンダム30周年で作られた、数分の短編アニメ
・2014~15年 テレビアニメ『ガンダム Gのレコンギスタ』
 …宇宙世紀の1000年以上後の世界で、宇宙を舞台にした少年少女のロードムービー
・2019~22年 劇場用アニメ『劇場版Gのレコンギスタ』五部作
 …詰め込み過ぎて難解になってしまったテレビ版の再編集・新訳


 多い!
 途中から何をまとめているんだろうと分からなくなってしまったほどに多いです。『ザブングル』~『ガンダムZZ』まではほとんど休みなくテレビアニメを作り続けていたのか。これ以外にも小説や漫画原作もやっていたりするんでワケが分かりません。

 アニメの歴史の話をすると、1972年から『マジンガーZ』のアニメが始まって(パイロットが乗りこむタイプの)ロボットアニメが流行し、「ウチもロボットアニメを作ろう!」と企画されたのが『勇者ライディーン』だったり。1974年に『宇宙戦艦ヤマト』のアニメが始まって宇宙を舞台にした戦争SFアニメがスタンダードになったことが、『ザンボット3』や『ガンダム』に繋がったりしているところはあると思います。


 ゲームもそうなんですけど、アニメも「無から名作が生まれる」のではありません。他作品からの影響や、その作品を受け入れられるだけの土壌が既に出来ているからこそ、名作が生み出されるのだと思います。
 『ザンボット3』や『ダイターン3』がヒットしたからこそ、『ガンダム』ではある程度自由にやらせてもらえたなんて話もありますし。『ザンボット3』には『ガンダム』に繋がる要素が多々見られます。そもそも、その『ザンボット3』もアニメ版『海のトリトン』からつながっている要素があるらしいんで、いつかそっちも観てみたいですね。



◇ 「敵」でも「味方」でもなく、「一般人」の描き方が凄い

 『ザンボット3』の敵は、宇宙からの侵略者「ガイゾック」です―――

 『マジンガーZ』(1972~74年)の敵はDr.ヘルというマッドサイエンティストで、『勇者ライディーン』(1975~76年)の敵は海底に眠っていた妖魔帝国と、黎明期のロボットアニメは「世界征服を目論む敵」が多かったのですが……
 恐らくは1974年の『宇宙戦艦ヤマト』の影響か、『UFOロボ グレンダイザー』(1975~77年)以降は、『大空魔竜ガイキング』(1976~77年)も『超電磁ロボ コン・バトラーV』(1976~77年)も『超電磁マシーン ボルテスV』(1977~78年)も、敵は「地球侵略を目論む宇宙人」なんですね。

 つまり、この当時のロボットアニメのトレンドに乗っ取っているんです。


 ちなみに、『ザンボット3』の主人公側も宇宙人の末裔で、かつて「ガイゾック」に滅ぼされた星の生き残りだった―――という設定も、異星人の王子が主人公だった『UFOロボ グレンダイザー』(1975~77年)や、『ザンボット3』の数ヶ月前に始まって同じ日本サンライズが制作していた『超電磁マシーン ボルテスV』(1977~78年)の「異星から逃げ延びた男の息子達が主人公」の影響があるように思えます。

 主人公達の一族が海底を探索して、ご先祖様が残してくれた移動要塞と巨大ロボを引き揚げて戦う……という「考古学的な存在のロボット」も、富野監督のデビュー作『海のトリトン』から『勇者ライディーン』を経て『ザンボット3』に継承されているもので、それは後の『伝説巨神イデオン』や『∀ガンダム』に繋がっているように思えます。
 『ガンダム』を「リアルロボットアニメの祖」という立ち位置で捉えている人は、「ガンダムにオカルト要素は要らない」的に言う人も多いのですが……富野さんの作風は、元来「よく分からない超常的な力に頼って、不安定な状態のまま戦う代償」を描いているんですよね。



 ちょっと話が脇道に逸れてしまった気がする。
 要は、『ザンボット3』は当時のスタンダードだった「地球に攻め込んでくる宇宙人」を「宇宙人の末裔である主人公達」が撃退していくという話なんですね。そのテンプレートに乗っ取った上で、衝撃的なことをやっているので……1話だけ見て「テンプレみたいなロボットアニメだなぁ」と思って観るのを辞めちゃうともったいないと思います。

 では、「敵」も「味方」もスタンダードなこの作品の、どこが凄くてわざわざ「みんな知ってくれ!」とブログに書いているのかというと……それは、「敵」でも「味方」でもなく、その他大勢の「一般人」の描き方にあります。


 主人公の勝平は、「ガイゾック」が攻め込んでくるまで自分が普通の地球人だと思って普通に生活していました。仲の良いガールフレンド(2人)もいたし、いっしょにバイクを乗り回す悪友もいました。よくよく考えると、この悪友ポジションって『マジンガーZ』におけるボス・ヌケ・ムチャなのか。
 宇宙から「ガイゾック」が攻めて込んできて、主人公である神ファミリーがザンボット3に乗って戦っているのを見て、こうした「一般人」が応援してくれたり、いっしょに戦ってくれたり……なんかはしません!


 まず、町が壊滅します。

 そして、住むところのなくなった大勢の「一般人」は家族ともはぐれ、日本中を逃げ惑い、なんとか避難民が集まるキャンプに身を寄せ合って生きていくのだけど、世界中が「ガイゾック」の攻撃を受けているのでそこも追われ、安息の場所などなく、ひたすら逃げ続けるのです。
 太平洋戦争時に東京が定期的に空襲に合い、田舎へと疎開する者も少なくなかったですが、それがもっと徹底的に町を破壊されて、ありとあらゆる場所が攻撃され続けるみたいなものです。

 この「住むところを失った避難民」の描写は『機動戦士ガンダム』でも出てきて、「戦争がありとあらゆるものを奪う」ことを視聴者に突きつけてきたのですが……まだ『ガンダム』の描写は優しかったんだなと思いました。あちらの避難民は、こどもを人質に立てこもったくらいですもの(それもどうかと思う)。


 『ザンボット3』の人々は、「ガイゾック」が攻めてきたのは「主人公達(神ファミリー)のせい」だと主張して、「ガイゾック」と「主人公達」はグルなんじゃないかとか、「主人公達」を無視して「ガイゾック」と和平交渉するべきじゃないかという話をしていきます。実際、主人公達もルーツ的には宇宙人らしいんでね。

 そのため、『ザンボット3』の主人公達は、守っているはずの地球人から常に迫害され続け、石を投げられ、罵倒されて、孤立無援のまま戦い続けることになります。仲の良かったガールフレンドや悪友も、容赦なく「迫害する側」に回ってしまいます。
 確かに、『イデオン』でも『ダンバイン』でも「一般人」から追い回されるシーンがあったけどさ! ショウ・ザマなんて母親から銃で撃たれたけどさ! アレがマシに思えるレベルですよ!


 んで、この辺の流れを踏まえると……『機動戦士ガンダム』終盤の、ララァ・スンの「あなたには守るべき人も守るべきものもないというのに」の意味が分かりやすくなった気がするんですね。本来なら「社会の中で爪はじきにされるポジションの主人公」が、どうしてその「社会」を守るために戦わなくちゃならないんだ―――と。

 富野さんはそれをずっと描いていて
 その影響を受けた人達が描く後の作品、『新世紀エヴァンゲリオン』(1995~96年)とか、現在の『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(2022~23年)にまでつながっている命題だと思いますね。





◇ 「一般人」が兵器に替わる「人間爆弾」

 しかし、そんな『ザンボット3』の「一般人」達もストーリーが進むにつれて、「ガイゾックはマジでやべえぞ」「主人公達(神ファミリー)があんなにボロボロになってまで戦っているのに……」と、少しずつ理解してくれるようになります。あぁ、良かった。勝平、キミは一人じゃないんだよ。

 というところで出てくるのが、「人間爆弾」です。


 このアニメを観る前から、「ザンボット3と言えば人間爆弾」という話は聞いていたので、どんなすごい回なんだろうと身構えていたのですが……「1回」じゃなくて「中盤ずっと」人間爆弾でした。


 「人間爆弾」とは。
 「ガイゾック」が生け捕りにした地球の「一般人」の体内に爆弾を埋め込み、記憶を消去した上で解放し、町や難民キャンプに帰ったところで爆破―――同時多発的に地球人のコミュニティを破壊する恐怖の兵器です。もちろん爆弾にされた人間は死亡、その周りも一斉に死んでしまいます。ロボットアニメだろ! ロボットで戦えよっ!

 『ガンダム』シリーズにおける「強化人間」がまだ人道的に思える鬼畜の所業で、「ガイゾック」に和平交渉など聞かず、ヤツらは地球人を根絶やしにすることしか考えていないことが分かります。手口が害虫駆除のソレだもの……


 そして、この「人間爆弾」―――
 主人公達を迫害していた「一般人」達が、主人公達に理解を示してくれるようになったタイミングで出てくるのがたちが悪いんですよ。
 「人間爆弾」にされた人は直す手段がなく、そして「人間爆弾にされると星形のアザが出来る」と判明した後は、自分が人間爆弾になっていることを自覚してしまい、なるべく人がいないところに移動してそこで爆破されるのを待つしかありません。主人公達もそれを遠くから眺めるしかなく、ロボットに乗って戦うだけでは救えない命があると視聴者に突きつけてくるのです。

 こども向けロボットアニメで、どうしてそんなことするの!?
 でも、当時これが大ヒットしたんですよね……すげえな、当時のこども達。



◇ 面白かったですか?

 むちゃくちゃ面白かったです!
 私は『機動戦士ガンダム』を始めとした富野アニメを結構観ている方だと思うので、「後の作品」→ 「前の作品」と遡って観たことによって「あー、○○ってコレが元ネタなのか」と理解できたところが多々ありました。

 「富野作品、1作だけ観ようと思うんですがどれから観るのオススメです?」と言われてファーストチョイスで『ザンボット3』を選ぶことはないと思いますが(笑)、富野作品をたくさん観ている人ほどいろんな発見のある作品じゃないかと思います。

 ちなみに「富野作品、1作だけ観ようと思うんですがどれから観るのオススメです?」をマジメに考えるなら、『聖戦士ダンバイン』か『機動戦士ガンダム』かなぁ。
 『ガンダム』はもちろん面白いのだけど、初代だけ観て「ガンダム面白かったです!」と言うと「『○○』も観ろ」「いいや、『××』だ」と言ってくる人がわんさか湧いてくるのが難点なんですよね……

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