アニメ『響け!ユーフォニアム』各話感想メモまとめ(1話~最終話)



※ この記事は2015年に旧ブログに書かれたものを幾つか手直しして2025年に移行した記事です

 春アニメ感想まとめ、最後はこちらです!
 最後の最後にとてつもないのが来てしまいました!果たして夏アニメが始まる前に書き終わっているのでしょうか、この記事は!

<ルール>
・1話から最終話までの感想ツイートを貼り付け
・“最終話まで観終っている”現在の自分のコメントを補足
・なので、基本的に最終話までのネタバレを含みます
・「まとめ」という記事タイトルですけど、まとめるのは「私の感想」だけです。「みんなの感想」をまとめるのが目的の記事ではありません
・私はまだ原作を読んでいないので、コメント欄などに原作のネタバレを書き込むのはやめてください
・思うがままに書いた感想なので、ところどころに間違いがあったりするでしょうが優しく許して下さいな


第一回 ようこそハイスクール

 第1話から全開に「面白かったー!」という感想を書いていますけど、この頃にはまだこの作品の真髄がどこにあるのか全然分かっていなかったと思います。『けいおん!』の京アニが今度は吹奏楽部を舞台に描くのね、くらいのカンジで。

 このアニメが1クール13話かけて何を描いていたかと言えば、まず表のメインストーリーとしては「吹奏楽もユーフォも何となくで続けていた久美子が、心の底からユーフォを大好きと言えるようになる話」だったと思います。この作品のほぼ全てはそれを描くために用意されていたと言っても過言ではないほどに。麗奈との確執も、夏紀先輩との距離も、葵ちゃんの退部も、久美子が12話で「上手くなりたい」「私、ユーフォ好きだもん」と言えるようになるためにあったのだと思います。

 そう考えると、最初と最後は『けいおん!』と一緒とも言えますね……(笑)。
 何にも夢中になることが出来なかった平沢唯が「夢中になれるものが見つかるから!」というモノローグに繋がる話。

 第1話で入学式に向かう久美子と、最終話でコンクールに向かう久美子のカット……第1話ではスカートを上げて、最終話ではスカートを下げているんですよね。絵コンテ描いている人が同じなので敢えてそう対比させているのだと思います。恐らく、ここで久美子の心の変化を描いているのでしょう。ポニテもそうなんですけど、「何かを変えたい」と思った久美子が、「もう変える必要はない」というところまでたどり着いたのが最終話だろうと。



 ということで、表のストーリーとしては「久美子の成長物語」という超王道な青春賛歌なアニメだったのですが……最終回で度肝抜かれちゃって、「うわ……これ、どうやって感想まとめ書いたら良いんだ……」と途方に暮れてしまった裏ストーリーがありました。あすか先輩は、この1クール13話通して何を考えていたのだろうか?



第二回 よろしくユーフォニアム

 最終話まで観た上で当時の感想を読むことの何が面白いかって、こういうところですよ。「久美子がユーフォをやる意義」はこの時点では分かりません。「何となくでやらせちゃってイイの?」と正直思っていました。実際、葵ちゃんもこの回で「(テナーサックスを)何となく続けているだけ」と言っていましたからね。
  しかし、その久美子が12話では「私、ユーフォ好きだもん」と言えるようになったのです。麗奈と山に登り、夏紀先輩からメッセージを受け取り、初めて悔し涙を流した彼女は、もう「何となく」でユーフォをやっているワケではないのです。


 という……表のストーリーは置いといて。
 この回の私の感想ツイート間違っていますね。滝先生は「多数決」など提案していません。滝先生はあくまで「生徒の自主性を尊重する」と言って生徒達に任せたのです。「多数決」を提案したのは、実はあすか先輩なのです。
 晴香先輩は「多数決で決めること」をすごく嫌がっていたのに、それを押しきるなんてあすか先輩は流石天才肌なだけあって何も考えていない―――とずっと思っていたのですが、最終話の彼女の表情を見るに彼女は「何も考えていない」のではなく「自分の考えを見せていない」だけなんだと思います。

 例えば、最終話でコンクールに向かう前の晴香先輩の挨拶を聞いている時のあすか先輩の表情は悲しげで、でもその後にふっと笑顔に変わってみんなを鼓舞しているのです。“副部長”という仮面を被っているかのように―――
 そう言えば、第2話での「多数決」にはあすか先輩は参加していませんし、彼女は徹底して「自分の意見を言うこと」を拒否しているんですよね。基本的には茶化して答えていて、唯一チラッと見せた相手は久美子だったので、それが最終話のコンクール直前の台詞に繋がるのかなと思うのですが……その辺は、また後で。



第三回 はじめてアンサンブル

 最高に大好きな第3話が来ました!
 この回は自分だけじゃなくて、放送後のTwitterrタイムラインも凄かったですね。

 はてさて。第3話の時点でボロボロだった吹奏楽部がここからどうやって持ち直すのか、ですが……実は第4話から滝先生が熱血指導を始めるからなんですね。んで、第3話の時点では突き放していた彼がどうしてそう変わったのかというと、この回のラストで高坂さんが吹いた『新世界より』を聴いたからなんじゃないかと私は思っています。
 というのも……高坂さんは「滝先生は私の気持ちなんて知らない」と言っていましたが、1クール通して観ると滝先生の方も割と高坂さんを意識しているシーンがあるのです。第1話では久美子や高坂さんの中学時代の演奏をスマホに入れて聴いていましたし、最終話ではコンクールに行く前に幼少期の高坂さんらしい写真を眺めていましたし、この第3話でも高坂さんの演奏を聴いてハッとする様子が描かれているのです。

 まぁ……中学の演奏って久美子や高坂さんだけじゃなくて秀一もそこにいたはずですし、滝先生はやたら秀一に絡むので、ひょっとしたら秀一目当ての可能性もありますが(笑)。



 それはそうと、あすか先輩チェック。
 この回はかなり顕著なんですが……あすか先輩って「文句を言わない」んですよね。夏紀先輩がやる気がなくても文句は言わない、むしろ理子先輩と後藤先輩がケンカしそうなのも止めるし、部員みんなが滝先生への不平を言っているのもまとめているのです。
 すっごい完璧超人な人格者っぷりを見せていますが、これは恐らく「表の顔」。みんなの不平をまとめた後、ムシャクシャしたから一人で夜まで吹いていた―――という話を聞くに、誰にも見せてないけどあすか先輩はあすか先輩で思うところはあったのだと思います。



第四回 うたうよソルフェージュ

 この回も好きな回!
 私、さっきから「あすか先輩は誰にも自分の考えを見せない」と書いてきましたけど、それって実は久美子もそうなんですよね。いや、あすか先輩や久美子だけじゃない。人間ってみんなそうだよね―――ということを、2話の葵ちゃんも言っていました。そうしなければ集団の中ではいられないのだから。

 この『響け!ユーフォニアム』というアニメが1クール通して描いてきた「久美子の成長」の中に、「(サボテン以外には)本音を言えない」久美子が徐々にみんなに本音を言えるようになっていく……というポイントがあると思います。その第一歩がこの回。本音をガシガシ言いまくる高坂麗奈を見て、久美子もちゃんと高坂さんに「ありがとう」と言えたし、夏紀先輩に声をかけられました。ここから久美子は変わっていくんです。

 というか、高坂さんが久美子に惹かれていったのはきっとここなんですよね。彼女は本音を隠して集団の中で馴れ合う人間が嫌いで、久美子はポロッと本音を言っちゃうので、そこが「久美子って性格悪いよね(だから信じられる)」という発言に繋がるのだろうと。



 さて、恒例のあすか先輩チェック。
 晴香先輩と香織先輩は第3話で「あすかはパーリー会議で味方してくれるはず」と言っていたのに、ここでは「どっちの考えも分かる」と味方をしてくれません。彼女はどっちにも与さないんですね。自分の意見を言わないし、誰の味方もしない―――音楽に一生懸命になっている葉月をアドバイスはするけど、練習しない夏紀先輩を注意したりはしません。

 そもそも彼女、ものすごい実力者でありながら、部がムチャクチャ下手くそだった第1話や第2話の頃から楽しそうだったですもんね。逆に、部が上手くなっていっても特に嬉しそうでもなんでもない。彼女にとっては音楽そのものが目的であって、「誰かと競うこと」とか「全国を目指すこと」とかを目的に音楽をすることには興味がないのかもなと思います。



第五回 ただいまフェスティバル

 この回、最終話まで観た後に見返すと発見の多い回ですねぇ。
 分かりやすいのは、この回の久美子は目覚まし時計が鳴っていてもしばらく起きないんです。最終話の久美子はパッと起きてタッと目覚ましを止めていたのに。ここは久美子の成長を分かりやすく見せているところかなぁと思います。京アニ、目覚まし時計、成長とは、『けいおん!』を思い出す演出です。

 それと、梓ちゃんのシーン。
 すっげえたたみかけるように喋って、みんなに会いに行こうと久美子を誘ってくるシーン……これまで「何となく」生きてきた久美子だったら付いていったと思うんですね。だから、付いてこない久美子に梓ちゃんもビックリしたワケで。
 でも、久美子はもう「何となく」ではいられないのです。高坂さんとのやり取りで彼女は「一歩を踏み出す」ことが出来るようになりました。だから、夏紀先輩のことも誘ったし、梓ちゃんにも付いていかなかった―――最終話の彼女に比べるとまだまだ成長途中の久美子ですけど、この時点でもう彼女は変わりつつあったんですね。


 さて、恒例のあすか先輩チェック。
 夏紀先輩から部長と副部長の関係が語られます。あすか先輩はリーダーに「向いている」けど、「好き」ではないという話。この回のあすか先輩はドラムメジャーをやっているので葉月のことも厳しく指導していたけど、本来なら彼女はそういう仕事はしたくはないんだろうなと思います。夏紀先輩のことも放っておいたくらいですもんね。

 それはそうと、香織先輩は本当にあすか先輩のことばっか気にしているんだなぁとこの頃から分かりますね。



第六回 きらきらチューバ

 葉月メインの日常回で、メインストーリー的には「なくても構わない回」だとか当時は思っていたんですけど……この回、久美子に「楽器を始めた頃」の気持ちを思い出させる回なんですよね。久美子より先に葉月が「上手くなりたい」と言っていて、この時の葉月が12話までの久美子に影響を与えていたのかなぁと思います。

 そう言えば……序盤からちょいちょいそれっぽい描写はありましたが、4話の久美子との会話以降、5話~6話と高坂さんの久美子への視線が熱っぽくなってまいりました。こう見るとやっぱり4話で「久美子が勇気を出して一歩を踏み出した」ことが、高坂さんにとって久美子が特別な人になったっぽいんだなと思いました。


 さて、恒例のあすか先輩チェック。
 この回は、悩める葉月への熱血指導で暴れまくる回でした。4話のところで“彼女にとっては音楽そのものが目的であって、「誰かと競うこと」とか「全国を目指すこと」とかを目的に音楽をすることには興味がないのかもな”と書いたのですが、この回は葉月に対して「オーディションなんだから上手くならないと」と熱く語るシーンがありました。

 この辺の真意はよく分からんのですよね……
 高坂さんと香織先輩の再オーディションには「心の底からどうでもいい」と言っていた彼女なので、葉月がオーディションに受かるかどうかもどうでもいいと思っているんじゃないかと思うのですが。最初から諦めて上手くなろうとしない考えには厳しいことを言うってカンジですかね。



第七回 なきむしサクソフォン

 今見返すと、当時は気付かなかったことにたくさん気付くテクニカルな回です。

 まず、この『響け!ユーフォニアム』というアニメが1クール通して「久美子がユーフォを大好きと言えるようになる話」だという視点で見ると、この回は「葵ちゃん」と「晴香先輩=部長」の対比だということが分かります。色んなものを犠牲にしてまで吹奏楽を好きだとは言えなかった葵ちゃんは部を去り、それでもやっぱり吹奏楽が好きだから戻ってきた晴香先輩―――この作品自体、「色んな人の好き」を描くことで「久美子が好きを見つける」話なんですね。

 んで、こうして3年生2人の動向を描くことで「3年生の立ち位置」が見えてくるという。
 これまで「マドンナ」「エンジェル」として描かれてきた香織先輩の等身大の魅力を描くことで、今後高坂さんと対決していく彼女をこの時点で掘り下げてあったんですね。香織先輩も応援したくなるように描かれていたのです。


 そして、いよいよ持ってあすか先輩の本性に気付き始める久美子―――
 この回は、夏紀先輩や、秀一や、晴香先輩と香織先輩など、たくさんの人が「あすか先輩について」語ることになります。「どこまでも中立」で「真意が見えず」「演奏以外のことはストイックに切り捨てる」存在。2話の多数決の際も、高坂さんと香織先輩の再オーディションの際にも、彼女は何も言わなかったのだけど……それは1年前もそうだったという。

 高坂さんはそうなりたいと思って「特別な人間」になろうと努力しているけれど、あすか先輩はその努力すら周りに感じさせない真の意味での「特別な人間」なのかもって思います。だから、久美子はその両方から好かれているのか……?「特別な人間」に好かれるオーラでも出ているのでは……?



 さて、そんな高坂さん。
 は、置いといて――――久美子はこの回の葵ちゃんの退部以降、スランプにハマります。葉月が「何でも相談してよー」と言った割に、この次の回で葉月は葉月で久美子に不義理を果たすワケで、ますます久美子を追い詰めていくことになります。それを救うのが高坂さんで、久美子は高坂さんという「何でも相談できる特別な相手」を得ることでスランプを脱出することになるのです。

 加藤葉月と高坂麗奈、どうして差がついたのか…慢心、環境の違い。
 という懐かしいテンプレはともかく、初見では「高坂さんと久美子、いきなり距離詰めすぎだろ!」と思っていたのですが、こう振り返ってみると4話以降の高坂さんはかなり久美子を意識していたことが分かりますし、唐突感はそれほどありませんでした。何より、久美子が一番苦しい時期に支えてくれたのが高坂さんなんですよね。



第八回 おまつりトライアングル

 神回来たぜ!
 この回の放送終了後、Twitterのタイムラインは「何が……何が起こったんだ!」と騒然としていました。単純に映像の美しさ、演出の巧みさだけでも大満足な回なのですが、こうして1クール振り返っている自分がどうしても語りたいのは「カタルシス」について。

 この回、これまで不思議な存在でしかなかった高坂麗奈が初めて自分の気持ちを吐露する回なんですね。久美子としても、視聴者としても、この回で初めて高坂麗奈という人物を知ることが出来たのです。まず、ここに「カタルシス」があるのです。

 そして、ここで語られる高坂さんの台詞―――ザックリ要約すると、「普通の人は誰かと同じだからって安心したり出来る」「久美子は性格が悪いからイイコちゃんのフリしているけど本当は冷めていて、そういうところが気になっていた」「私は特別になりたい」。
 まとめると「元々の意味での中二病」感が凄いのだけど(笑)、でもここで重要なのは「久美子の二面性」だと思います。つまり、高坂さんは久美子のことを「普通の人ではないのに普通の人の中にムリヤリ溶け込もうとしている」と見ているんですね。


 それまでサボテンにしか本音を話せなかった久美子が、ようやくここで本心で笑えるようになりました。本音で喋れる相手ができました。だから、この後ユーフォにも本気になれるようになるのかなと思います。1クール通して考えると、この回で一番重要だったのはこの久美子の変化の「カタルシス」だったのでしょう。


 さて、恒例のあすか先輩チェック。
 他人の恋路には興味津々なあすか先輩、しかしオーディションのことを神頼みする香織先輩には「そんなの自分次第でどうにでもなるのに」と厳しいことを言います。こう見ると、6話で葉月に怒っていたのは「オーディションに消極的だから」ではなく「自分の力で上手くなろうとしないから」だったみたいですね。この次の9話も「恋愛がどうこう」というより、「それが原因で演奏に身が入らない」ことに怒っていたように思いますし。



第九回 おねがいオーディション

 オーディション回ですが、1クール通して見るとポイントなのは「サボテン」。
 久美子が第1話ぶりに「サボテンに本音を言うシーン」が来ます。しかし、その後に緑ちゃんから電話があって、緑ちゃんに「久美子ちゃんは大人っぽくなりましたね」と言われます。そのカットでサボテンが映るんですね……これまではサボテンにしか本音を喋れなかった久美子が、本音を喋ることが出来るようになって、もうサボテンを必要としなくなった。そう感じられるシーンでした。

 それ故に、夏紀先輩の想いが分かってしまい。
 だからこそ苦しんでしまう久美子のところに麗奈が駆けつけ、それが最後の最後に久美子の支えになる――――1クール通して考えると、「久美子の成長」と「成長したからこその葛藤」が見事に描かれた回だったと思います。オーディションの結果だけ見ると「まぁ、予想通りだったな」というものなんですけど。


 恒例のあすか先輩チェック。
 葉月の失恋の原因になってしまった緑ちゃんに怒り、原因を知って本気で怒る―――8話を見るに「恋愛を下らないと思っている」ワケではないと思いますし、序盤の夏紀先輩を放っておいたくらいなので「練習に本気にならない人を許せない」ワケでもないと思うんですけど。久美子や葉月や緑ちゃん達1年生が気を抜いていると、結構本気で怒るんですよね……

 オーディションについては緊張している様子もなく、むしろ楽しそう。
 それは単に「受かる自信があるから」というだけではなくて、彼女にとって「演奏は他人に評価されるものじゃないから」と思いました。オーディションもコンクールも彼女にとっては、「楽しい楽しい演奏の場」でしかないというか。




第十回 まっすぐトランペット

 とりあえず、まずは久美子の話から。
 中1の頃のオーディションで先輩を蹴落としてしまったトラウマ回想で、彼女は落ちたユーフォに「痛っ」って叫ぶんです。楽器=自分の体の一部になっていて、これは9話にも同じようなシーンがありました。わざわざ9話と10話に同じようなシーンを中1の久美子と現在の久美子で描いているんですね。

 恐らくなんですけど……久美子が「何となく」生きて、「誰にも本音を言わず」「何にも一生懸命にならず」という冷めた人間になったのは中1のこの出来事があったからなんじゃないかと思います。そうして、高校生になって、色んな出来事があって、またユーフォに一生懸命になれるようになって、中1の頃と同じように今の久美子も“楽器=自分の体の一部”と考えられるようになったんじゃないかと思われます。
 だから、夏紀先輩とのシーン、夏紀先輩の台詞も感動なんですけど……それに涙を流せるようになった久美子の変化も感動でした。「何となく」生きていた頃の彼女には出来なかったことです。


 それと、この回……松本先生が優しいんですよね。
 二者面談で久美子を励ますような言葉をかけているし、滝先生を導くような言葉もかけています。公式サイトを見ると、松本先生も音楽の先生で滝先生のお父さんのことも知っているみたいですし……松本先生も吹奏楽部出身なんだろうなと推測します。

 「音楽の前で嘘はつけない―――」

 松本先生のその言葉を受けて、滝先生は再オーディションを提案します。
 ここまで本音と建前で「何となく」進んでいたこの部活の仮面を剥がし、本音を白日の下に晒そうということなんだと思います。そう考えると再オーディションの結果というのは、2話の多数決とは対照的な結果なんですよね。


 さて、恒例のあすか先輩チェック。
 とうとう久美子はあすか先輩の「闇」を見ます。「正直言って、心の底からどうでもいいよ」

 久美子の「あすか先輩の仮面は剥がせない」という台詞は、麗奈が久美子に言った「イイコちゃんの仮面をぺりぺり剥がしたい」という文言から繋がっているんだと思います。また、夏紀先輩があすか先輩のことを「あの人は“特別”だから」と評するシーンもあります。“特別”というのは、この作品においては麗奈と久美子が目指している特別なワード。それをわざわざ使うということは、あすか先輩はある意味ではもう既に「麗奈と久美子がなりたいもの」になっているのだろうと思います。

 この回のラスト、香織先輩が再オーディションを希望すると宣言した時に、あすか先輩が微笑むカットが入ります。「心の底からどうでもいいよ」と言っていた彼女が、このシーンは微笑むんです。ここだけは彼女の真意じゃないかと私は思っています。


第十一回 おかえりオーディション

 麗奈と香織先輩の再オーディション回なので、やはりこの回の主役は二人+優子先輩ってところ。
 麗奈に関して大事なキーワードは、彼女はまだ「特別な存在」ではないんですね。だから、香織先輩がいい人なことにやりづらさを感じるし、優子先輩の言葉にも動揺してしまうし、久美子という支えがあって初めて「特別な存在」に近づけるんです。「特別な存在」ではない彼女が一生懸命「特別な存在」になろうとしているのが分かる回でした。

 で、実はそこと比較されているあすか先輩。
 麗奈の演奏シーンで、あすか先輩のアップが長々と映るというのには何か意味があるんだと思います。あすか先輩は人に遠慮しないし、動揺もしないし、誰かの支えがなくても「特別な存在」でいられる―――それはやっぱりブレない「音楽が好き」という気持ちを持っているからで、それ以外は全て切り捨てて考えられているからなのかなぁと思います。

 つまり、「特別な存在」になろうとしている麗奈の演奏を、「特別な存在」であるあすか先輩が見ているという構図だったのだろうと。


 それはそうと「粘着鬼畜イケメン悪魔」こと滝先生の提案したこの再オーディションですけど、拍手の量に関係なく、始めから滝先生は香織先輩に決めさせるつもりだったんじゃないかなと私は解釈しました。松本先生の「音楽の前で嘘はつけない―――」という言葉を受けての再オーディションなのだから、香織先輩は嘘をつけないだろうし、香織先輩自身に決めさせるつもりだったんじゃないかなと。まー、それでも鬼畜なのは変わりませんが。



第十二回 わたしのユーフォニアム

 大大大大っ好きな回です!
 1クール13話全部すごい回だったけど、その中でもこの回が一番好きな回でした。

 このアニメが何を描いてきたのか……第1話で描かれた麗奈の涙の意味を、ここで久美子が分かるというのが「カタルシス」なのですが。それを例えば麗奈の口から台詞で説明するとかじゃなくて、12週かけて「久美子の成長」を描いて、何にも本気になれなかった彼女が本気になっている姿を描いて、それでいて挫折して―――というドラマを見せられたからこそ、視聴者にも「あの涙の意味」が分かるというのがとてもとても好きでした。これがアニメーションの力なんだ――――!


 とまぁ、当時の感想ツイートでも今の感想まとめでも同じことを言ってどうするって話なので、恒例のあすか先輩チェック。あすか先輩はやっぱり「一生懸命がんばっている人」は好きなんでしょう、久美子にも特訓をつけてあげようとしていました。しかし、その直後に滝先生の指示で久美子はそこを諦めることに……この滝先生からの指示のシーンで、流石のあすか先輩も戸惑って返事が遅れるんですね。

 何が本心だか分からないあすか先輩ですけど、香織先輩が再オーディションを申請した際の微笑み、ここでの戸惑い、関西大会出場が決まった時の憂いの3つは確実に本心だと思います。“誰かに見せる仮面の姿”ではありませんから。

 ……と、すると。
 2つは分かりやすいんですよね。「音楽に一生懸命な人は好き」なんだと思いますし、だから音楽に集中していない時の葉月や緑ちゃんには厳しかったんだろうって思います。でも、最後のはよく分かりませんし、そもそもやる気のなかった頃の夏紀先輩や、「何となく」でユーフォを続けていた頃の久美子のこともあすか先輩は責めなかったんですね。
 いや、もっと言うと……夏紀先輩の話では、部が分裂してた1年前も「やる気のなかった上級生」のことも批判していなかったし、滝先生と麗奈のことで部がバラバラになっていた時もまとめようともしていなかったワケで。「あすか先輩は中立を貫く」という夏紀先輩の言葉があったように、誰かに加担はしないし、自分の意志を押し付けることもしないんですね。


 そう考えると……夏紀先輩が「やる気のなかった上級生」を語った時に言っていた、「ハッキリしない評価に振り回されるコンクールなんかは本来の音楽の楽しさとは違うんじゃないか」という言葉がヒントのような気がしてきました。アレはキツイ練習をしたくない言い訳でしかなかったけど、練習も好きだし実力もあるあすか先輩も根っこの部分ではそう思っていたんじゃないのかって。


最終回 さよならコンクール

 ということで……この直後から急いで第1話から見返して「あすか先輩の物語」を確認してきたのですが。

 その前に久美子の話から。
 お姉ちゃんとも、夏紀先輩とも、秀一とも、あすか先輩とも、麗奈とも、しっかりと絡んでそれぞれの話に決着をつけました。秀一のことは全然好きじゃない私ですけど、グータッチのシーンはグッと来ました。でも、ラストシーンで麗奈とは恋人つなぎをしていたので、流石だなと思いました(笑)。

 久美子自身の物語は12話で決着がついているとも言えるのですが、色んな人とのやり取りの中で成長してきた久美子ですから、最終回でしっかりとそうしたものに区切りを付けたのは良かったと思います。



 さて、あすか先輩の言動。
 コンクールで吹くことがイヤだったワケじゃないし、もちろん金賞を獲って関西大会に進むのがイヤだったワケじゃないでしょう。でも、彼女は演奏前に「これで終わりなんて寂しい」と言い、関西大会への出場が発表された時は俯いて終わります。それは何故か?

 ……

 ………これが「実は家庭の事情でアメリカに引っ越さなくちゃならないので、あすか先輩が出られる大会はこの予選が最後だったのです」みたいな理由だったら「ベッタベタだな!」としか言いようがないのですが(笑)、それはないとすると。彼女にとって「コンクールで評価される」ことは必ずしも音楽の目的ではなかったのかなと思うのです。

 私はまだ原作は読んでいないので、原作のあすか先輩がこうなのかは分かりませんし(今から読むつもりなのでネタバレはしないで下さいね!!)、もし原作からこうなのだとしたら「原作の2巻・3巻・4巻」と続きで描かれる話でしょうし、アニメでは「アニメの2期や劇場版」で描かれるのかも知れませんが……

 私は、アニメ単体としてこの作品を観ても「視聴者にはあすか先輩の真意は分からない」ラストはそれほど悪くはないと思いますし、続きで正解を明らかにして欲しいとは思いません。だって、久美子にだってあすか先輩の真意は分かっていないんですから。
 視聴者は推測することが出来る、でも確実な正解なんて分からない―――久美子と麗奈のような関係とか、晴香先輩と香織先輩のような関係でもなければ、人間は他人の考えていることなんて分からないワケです。ましてや、あんな「特別な」あすか先輩が考えていることなんて分かるワケがありません。


 私がこの作品の最終話で思ったのは、「それで良かったんだ」ということでした。
 青春に全てをぶつけて、みんなが一丸となって、コンクールで評価されて、やったー!みんなハッピーだー!!というまとめ方だって全然ありだと思うし、久美子や麗奈に感情移入して観ればそういうラストだったと思えると思うんです。

 でも、私はそこにちょっと怖さを感じてしまうんです。
 60人も人間がいれば、色んな考えの人がいて当然だと思います。それこそ8話で高坂麗奈が言っていた「周りに流されるだけの普通な人にはなりたくない」のように、その輪の中に入れない人間もいると思うんです。

 それが、誰でもない。
 「周りに流されない」「特別な存在」である、あすか先輩だったのでは―――


 麗奈がなりたかった「周りに流されない」「特別な存在」は、ちっとも嬉しそうではなかった。誰にも心を許さないあすか先輩は、麗奈と打ち解ける前の久美子のようでもあるし、久美子と打ち解ける前の麗奈のようでもあります。ラストシーンで俯いた彼女は、そうした彼女の孤独を表現していたんじゃないかなと私は思いました。


 もちろんこれは私の解釈ってだけです。
 「視聴者にはあすか先輩の真意は分からない」のだから、確実な正解なんてないと思いますし、それでイイんだと思います。その正解を明らかにするだなんて無粋だと思いますもの。そういうラストで締めくくったこの作品は、「分かりやすいエンターテイメント」ではなかったかも知れないけど、「そういう分からないものがあってこそ集団だよね」と思うので個人的には最終話のこのシーンで一層この作品のことを好きになりました。


 これで原作読み始めて思いっきり書いてあったらどうしましょう(笑)。


 ということで、最高に大好きな作品でした。
 もっと前向きで、もっともっと分かりやすく、もっともっともっとエンタメに徹するという方法もあったとは思うんですが……私はこうやって考えさせるあすか先輩のシーンでこの作品を更に好きになったし、「色んな人間がいる」という深みを最後の最後に加えられたと思っています。

 今季のアニメの中というだけでなく、これまで見てきたアニメの中でもトップクラスに心に残る作品でした。京アニ、流石である。


 2期があるのか、劇場版があるのか分かりませんが、アニメシリーズもここで終わりではなくて続きそうな気配があるので……とりあえず原作小説は1巻だけ読んでみようかなと思います。



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