マリオのジャンプは如何にして「多機能」になっていったのか


<ファミリーコンピュータNintendo Switch Online版『スーパーマリオブラザーズ』より引用>


 『クインティ』の紹介記事にもチラリと書いた話。
 『枯れた知識の水平思考』のhamatsuさんの「マリオのジャンプはなぜ優れているのか?そしてスプラトゥーンはなぜ「面白そう」なのか?」という記事で、『スーパーマリオブラザーズ』の「ジャンプ」について語られています。

<以下、引用>
 「スーパーマリオブラザーズ」における「ジャンプ」というアクションは、目の前の障害物や落とし穴を乗り越えるという機能以外に、頭上のブロックを叩く、「ジャンプ」からの落下地点にいる敵キャラクターを踏んづけるという機能を持っている。だから「ジャンプ」で障害物を乗り越えた先にいる敵を踏むという複数の行為を一つのアクションの中で行うことが出来る。
 一つのアクションに対して複数の機能(ファンクション)を持たせることで、プレイヤーの目の前に立ちふさがる複数の問題を一気に処理することが出来るのが「スーパーマリオブラザーズ」における「ジャンプ」なのである。
</ここまで>
※ 改行・強調など引用者が一部手を加えています


 『クインティ』の紹介記事でこのことを中途半端に紹介してしまったために、「少ないボタン数で遊べるゲーム」と解釈をされてしまった人がいたみたいなのですが、私が言いたかったのはボタン数の話ではなく「一つのアクションに複数の機能を持たせているゲーム」という話でした。

 他のゲームで言えば、例えば『ボンバーマン』ならば「爆弾」という一つのアクションに「壁を壊して移動可能範囲を広げる」という機能と「敵をやっつける」という機能を持たせているのです。
 もし『ボンバーマン』が「壁を壊すのは爆弾」「敵を倒すのは銃」というゲームだったら、こんなにも愛されるゲームにはなっていなかったと思います。




 ……ん?




 さて、本題。
 インターネット上には、『ドラゴンクエスト』の話をすると『ウィザードリィ』『ウルティマ』の話をふっかけてくるbotが存在してんじゃねえのかと同様に、『スーパーマリオブラザーズ』の話をすると『パックランド』の話をふっかけてくるbotが存在してんじゃねえのかと思うことがあります。案の定、hamatsuさんのその記事にも「そんなの『パックランド』の方が先じゃん」というコメントを付けている人がいました

 『スーパーマリオブラザーズ』の発売は1985年9月、アーケード版『パックランド』の稼動開始は1984年8月―――私はリアルタイムを経験している世代ではないので、「横スクロールアクション」とか「青空をバックにしたステージ」とか「空中制御の出来るジャンプ」が『パックランド』以前に存在しなかったのかを知りませんし、『スーパーマリオブラザーズ』が『パックランド』からどれくらい直接学んだのかも分かりません(同様のゲームが他にもたくさんあったのならパクリではなく流行だと思いますしね)。

 ただ、「マリオのジャンプは『パックランド』のパクリ」という説だけはリアルタイム世代でない私でも「おかしい」ことは分かります。







 だって、マリオは『ドンキーコング』(1981年7月稼動開始)の時点でジャンプしてんじゃん。

 『スーパーマリオブラザーズ』の「ジャンプ」のルーツについて語るのなら、1984年の『パックランド』のパクリと語るよりも、1981年の『ドンキーコング』の進化だと語る方が自然だと思うんですけどね。同じ作者なワケだし。特に今回hamatsuさんが語っていた「一つのアクションに複数の機能を持たせている」という点については、1981年の『ドンキーコング』の時点で明確に「狙ってそうしている」ことが分かりますから。
 ちなみに『ドンキーコング』に出てくるハンマーは『パックマン』のパワーエサの変化形だろうと私も思いますけど(笑)。



 ということで、本日の記事はマリオのデビュー作『ドンキーコング』から『スーパーマリオブラザーズ』までの間に「マリオのジャンプ」にはどんな機能が持たされていたのかを振り返っていこうと思います。


○ 『ドンキーコング』25m (1981年7月)

<画像はアーケードアーカイブス版『ドンキーコング』より引用>

 「回避」=転がってくるタルをジャンプして飛び越える機能
 「アイテム取得」=頭上にあるハンマーを手に入れる機能

 この時点で既に「ジャンプ」に複数の機能を持たせているのは興味深いですが、未プレイの方に説明しますと「途切れているハシゴにジャンプしてしがみつく」ことは出来ません。この時点の「マリオのジャンプ」には「ジャンプをして上の階層に上がる=移動」機能はなかったんですね。ちなみに、この時点の「マリオのジャンプ」は空中制御が出来ませんし、「マリオ」も高いところから落ちたら死んでしまいます。


 さて、満を持して「社長が訊く」です。
 Wiiの『NewスーパーマリオブラザーズWii』の発売の際に、任天堂の岩田社長が宮本さんにインタビューをしていて、「マリオ」のルーツである『ドンキーコング』がどうやって生まれたのかから話しているんですね。そこで「何故マリオはジャンプするようになったのか?」が語られているので、引用させていただきます。

<以下、引用>
岩田「つまり、もしその筐体にボタンがついていなかったら、マリオはジャンプしてなかったんですか?マリオと言えば、ジャンプがつきものだと思っていたのに(笑)。」

宮本「そうかもしれません。もともとはあみだくじのなかを抜けていくゲームでしたから、戦略的にはジャンプしてよけられたらダメなんです。でも、「前からタルが転がってきたとき、あなたならどうする?」と。」

岩田「当然、跳び越えます(笑)。」

宮本「跳びますよね(笑)。
じゃあ、ボタンを使ってジャンプさせようと。それを試しにつくってみたら、とてもよかったんです。そもそも跳べなかったら鬼のように難しいゲームになっていたと思いますし。」

</ここまで>
※ 改行・強調など引用者が一部手を加えています


 元々は、マリオはジャンプする予定ではなかったという(笑)。
 ちなみに「ゲームの中に“ジャンプ”という概念を初めて取り入れたゲーム」が『ドンキーコング』なのかは調べてもよく分かりませんでした。同じ1981年稼動の『ジャンプバグ』というアーケードゲームがあるけど、どっちが先なのかは分かりませんし、お互いに影響を与えているとは言えないような別ゲーですし(笑)。



○ 『ドンキーコング』50m (1981年7月)

<画像はアーケードアーカイブス版『ドンキーコング』より引用>

 「回避」=流れてくる障害物(アレって何?)をジャンプして飛び越える機能
 「アイテム取得」=頭上にあるハンマーを手に入れる機能
 「移動」=左右の足場にジャンプして飛び移る機能


 またしても「社長が訊く」から引用させてもらいましょう。

<以下、引用>
岩田「『ドンキーコング』が4面あるのはスクロールしたかったことの名残なんですか?」

宮本「そうなんです。
その当時の技術責任者に「あなた、何を考えてるの?ふつうはゲームは1面で十分なのに、4面つくるということは4つのゲームをつくることなんですよ」と言われたんですけど・・・。」

岩田「宮本さんとしてはどうしてもやりたかったんですよね。」

</ここまで>
※ 改行・強調など引用者が一部手を加えています


 今となっては信じられない話ですが、当時は「1つのゲーム辺り1面で十分」と言われていたという(笑)。宮本さんが「どうしてもやりたかった」という4面構成は、なるほど、それぞれの面で別の遊びになっていて―――後の『スーパーマリオブラザーズ』が各ワールド4面構成になっていることと繋がっているのかもと思いますね。

 1面から2面に上がることで、「ジャンプ」の機能にも「隣の足場に飛び移る」という機能が加わります。1面で覚えた「ジャンプしてタルを飛び越えるアクション」を使うことで、2面では「敵を引きつけておいて自分は隣の足場に飛び移る」ことが出来るんです。使うアクションは同じなのに1面から2面にステージが変わることで、プレイヤーに「アレを使えばこんなことも出来るんだ」と気付かせる見事な構成。宮本さんが4面構成にこだわったのも納得です。

 まぁ、この面はファミコン版ではカットされているんですけどね!


○ 『ドンキーコング』75m (1981年7月)

<画像はアーケードアーカイブス版『ドンキーコング』より引用>

 「移動」=移動しているリフトにジャンプして飛び移る機能

 『スマブラX』にも登場したステージの元ネタ。
 『スーパーマリオブラザーズ』のステージ構成が「1-1:地上」「1-2:地下」「1-3:アスレチック」「1-4:敵の城」となっていることを考えると……なるほど、『ドンキーコング』の3面もアスレチック面だったのかということが分かります。1面で基本操作を覚えさせ、2面で応用をさせ、3面でそれらの発展系――――移動するリフトに飛び移ることと、プレイヤーによって違うルートが選べるという特徴があります。

 三度目の「社長が訊く」の引用に行きましょう。

<以下、引用>
宮本「跳びますよね(笑)。
じゃあ、ボタンを使ってジャンプさせようと。それを試しにつくってみたら、とてもよかったんです。そもそも跳べなかったら鬼のように難しいゲームになっていたと思いますし。」

岩田「転がってくるタルからひたすら逃げて、我慢に我慢を重ねてあみだくじをのぼっていくわけですからね。」

宮本「それに、スティックの上入力で跳んでいたら「ジャンプボタン」という名前も生まれなかったでしょうし。 あと、2面で垂直リフトをつくったんですけど、これにどうやって乗り移るか悩んでいたんです。でもジャンプをすれば・・・。」

岩田「カンタンに乗り移れるじゃないですか(笑)。」

宮本「これは運がいいと。そこでジャンプを使うことになったんです。」

岩田「ジャンプをさせることで、複数の問題を同時に解決することができたんですね。」

</ここまで>
※ 改行・強調など引用者が一部手を加えています

 「2面」というのは宮本さんの記憶違いで、アーケード版では「3面」だと思いますが……
 「1面」のタルの「回避」方法と、「3面」のリフトへの「移動」方法を、同時に解決するのが「ジャンプ」というアクションだったという。hamatsuさんが仰った“一つのアクションに対して複数の機能(ファンクション)を持たせることで、プレイヤーの目の前に立ちふさがる複数の問題を一気に処理することが出来るのが「スーパーマリオブラザーズ」における「ジャンプ」なのである。”という説は、決してhamatsuさんの妄想でもなんでもなく、任天堂が5年前にちゃんと公式発表しているのです。

 まぁ……岩田社長が「アイディアとは複数の問題を同時に解決することだ」という話にやたら持っていこうとするところはあるので、ひょっとしたら宮本さんとしては「そこまでのことじゃないんだけどなぁ」と思っているかも知れませんけど(笑)。

 1984年の『パックランド』よりも前に、1981年の『ドンキーコング』の時点で「マリオのジャンプ」には「複数の機能」が持たされていたことが分かると思います。
 『パックランド』のことを悪く言うつもりはありませんし、『スーパーマリオブラザーズ』に何の影響も与えていないとも思いませんけど、『スーパーマリオブラザーズ』の全ての要素が『パックランド』のパクリだと言うのは『パックランド』に対しても失礼でしょうよ。


○ 『ドンキーコング』100m (1981年7月)

<画像はアーケードアーカイブス版『ドンキーコング』より引用>

 「回避」=向かってくる敵をジャンプして飛び越える機能
 「アイテム取得」=頭上にあるハンマーを手に入れる機能
 「移動」=ボルトが外れて穴が開いた左右の足場にジャンプして飛び移る機能


 『ドンキーコング』の最終面であり、自分が一番好きな面です。
 これまでの「ドンキーコングの位置まで昇ったらステージクリア」ではなく、「ステージにある8つのボルトを全て抜いたらステージクリア」で。これまでのステージで使ってきたジャンプの「回避」「アイテム取得」「移動」という3つの機能を全て活用して攻略する必要があるという……今となっちゃ大した面でもないのですが、「ジャンプするゲーム」自体を初めてプレイする人が多かったリアルタイム当時としては「1面」「2面」「3面」「4面」と徐々に「ジャンプ」の特性を習得できるようになっていたんだなぁと思います。



○ 『マリオブラザーズ』 (1983年7月)

<ファミリーコンピュータNintendo Switch Online版『マリオブラザーズ』より引用>

 「回避」=向かってくる敵や火の玉をジャンプして飛び越える機能
 「アイテム取得」=空中にあるコインを手に入れる機能(ボーナスステージ)
 「移動」=上部の足場にジャンプして飛び移る機能
 「攻撃」=上部の床を叩いて敵を気絶させる機能


 『ドンキーコング』から2年後、マリオが主人公の実質的な続編『マリオブラザーズ』が世に出ました。「ジャンプする」というアクションは前作と変わらないものの、マリオのジャンプ力が飛躍的に上がったことで前作では出来なかった「上の床に飛び移る」と「上の床にいる敵を攻撃する」という2つの機能を得ることが出来ました。

 四度目の引用の「社長が訊く」によると、横井軍平さんのアイディアが元になっているみたいですね。

<以下、引用>
宮本「『マリオブラザーズ』も横井さんとのコラボなんです。横井さんが「対戦タイプのゲームをつくろう」という話をして開発をはじめました。
  『ドンキーコング』ではマリオが自分の背よりも高いところから落ちると、グギッとなって、ミスになっていたんです。で、横井さんから「もっと高いところからピョンと落ちられてもいいのになあ」と言われて、「そんなことしたらゲームにならへん」と思ったんです。けれど、考えているうちに「そのくらいスーパーなことができてもいいか」と。そこでモデルをつくって、ピョンピョン走ってみたら、これがけっこう楽しかったんです。」

岩田「そこで、『ドンキーコング』よりもさらに高いところまでジャンプできるようになったんですね。」

宮本「そうです。でも、どんな遊びにするかというところで行き詰まってしまったんです。
 すると、横井さんも原理で考える人で、せっかく床があることだし、床の下から叩いて敵を床越しにやっつけられるようにしようと。でも、実際にやってみたら、すごくカンタンなんです。あっと言う間に敵がいなくなってしまって。」

岩田「自分はぜんぜんリスクを冒さずに下から叩くだけでやっつけられるわけですからね。」

宮本「ですから、すごく卑怯なゲームになってしまうんですね。そこで、下から叩いて、上にあがって、そこで決定打を与えるようにしようと。」

</ここまで>
※ 改行など引用者が一部手を加えています


 とても興味深い話。
 『マリオブラザーズ』の最初のアイディアは「(前作と違って)高いところから落ちても大丈夫にしよう!」で、そこから「だから高い足場まで上がれるジャンプ力にしよう!」となり、「せっかく足場があるんだからそこの上にいる敵を攻撃できるようにしよう!」となり、「そのままだと簡単だから、その上の足場まで上がれないとトドメを刺せないようにしよう!」となる――――

 「前作では出来なかったことをしよう」という割と普通のアイディアから、「じゃあそれで出来る楽しいことは何だろう」と逆算で考えられたゲームなことが分かります。
 『ドンキーコング』のマリオもハンマーを手に入れれば敵を攻撃できましたが、高いジャンプ力を手に入れたことで常に敵を「攻撃」できるようになりました。『ドンキーコング』では主に「回避」機能として使われた「ジャンプ」が、『マリオブラザーズ』では「攻撃」機能としても使われるようになったのです。


 そうそう。
 『パックランド』と『スーパーマリオブラザーズ』の話で、「『パックランド』で“敵の上にジャンプして乗っかる”ことができたことが、『スーパーマリオブラザーズ』の“敵の上に乗っかって倒す”ことにパクられた」という説をネット上で読んだことがあるんですが……

 『パックランド』(1984年)よりも前の『マリオブラザーズ』(1983年)の時点で、「敵の上にジャンプして乗っかる」という機能は既にあるんです。



<画像はWii Uバーチャルコンソール版『マリオブラザーズ』より引用>

 ルイージという、このゲーム最大の“敵”をな!


 まぁ、これが言いたかっただけなんですけど(笑)。
 踏んづけられた方は「2秒間行動不能になる」ことで「相手をやっつけるテクニックの一つ」となっていたので、割とマジで『マリオブラザーズ』の「ルイージの頭を踏んづける」ことが『スーパーマリオブラザーズ』の「敵キャラを踏んづけて倒す」ことに繋がっているのかもなぁと。


――2025年追記――
 当時、この「ルイージを踏んづけるアクション」をオチに使ったせいで、「ルイージは敵ではない」「やはり当時"敵に触れても大丈夫"なアクションゲームは『パックランド』しかなかったから、『スーパーマリオブラザーズ』は『パックランド』のパクリじゃないか」というコメントがついてしまい後悔しました。

 「敵に触んづけて攻撃するゲーム」は『スーパーマリオブラザーズ』以前からありました。


<ファミリーコンピュータNintendo Switch Online版『バルーンファイト』より引用>

 『バルーンファイト』は1984年11月にアーケード版が、1985年1月にファミコン版が発売された任天堂のアクションゲームです。このゲームは、敵の頭上から風船に触ることで風船を割り、地上に降下した敵に体当たりをして倒します。
 「2度攻撃する」のは『マリオブラザーズ』に通じるものがありますし、「頭上から攻撃する」のは『スーパーマリオブラザーズ』につながるものを感じます。

 アーケード版をプログラムしたSRDはこの数ヶ月後に『スーパーマリオブラザーズ』のプログラムも行っているので、『スーパーマリオブラザーズ』に直接影響を与えたのは間違いないでしょう。

 稼働順・発売順に並べてみると……

・1984年8月『パックランド』
・1984年11月『バルーンファイト』
・1985年9月『スーパーマリオブラザーズ』

となるので、じゃあ『バルーンファイト』が『パックランド』をパクったのかというと、これはありえません。何故なら『バルーンファイト』は、1982年7月にアメリカで出た『ジャウスト』というゲームのパクリですから。

 いや、パクリ……というと、ちょっとちがうか。
 元々『ジャウスト』をファミコンに移植しよう任天堂とHAL研究所が開発してROM完成まで行っていたものの、そこで権利者と折り合いがつかずに発売中止になってしまいます。そのため、そのゲームをアレンジして作ったのが『バルーンファイト』なんですね。

 要は、『ジャウスト』→『バルーンファイト』→『スーパーマリオブラザーズ』なんです。

 その『ジャウスト』、その数年後の1987年にHAL研究所からファミコン移植版が発売されるので……「オマエらが出したバルーンファイトはジャウストのパクリじゃねえか!」みたいにはならなかったみたいですね。



 この『ジャウスト』、『バルーンファイト』はもちろん『マリオブラザーズ』にも影響を与えたと言われます。原作では「空中を飛ぶゲーム」だったのを、「ジャンプアクションのマリオ」に当てはめたのが『マリオブラザーズ』というか。




 ちなみに、この「社長が訊く」には……『マリオブラザーズ』以後のゲーム業界について宮本さんがこんなことを語る場面があります。

<以下、引用>
岩田「ファミコンの『スーパーマリオブラザーズ』は、最初にどんなことを考えてつくりはじめたんですか?」

宮本「『マリオブラザーズ』のあと、いろんな会社さんからジャンプするゲームがいくつか出てきたんです。で、僕はジャンプするゲームというのは自分たちのアイデアだと思っていたんですね。」

岩田「『ドンキーコング』でジャンプをし、『マリオブラザーズ』でもジャンプをしていたから我こそがジャンプゲームの元祖だと。」

宮本「ええ。ジャンプというのはユニークなもので、特許があるんだ、というくらい。
「これは、他のゲームには負けられへん」と(笑)。」

</ここまで>
※ 改行・強調など引用者が一部手を加えています


 名指しはしていませんが……時系列としては『マリオブラザーズ』(1983年)があって、『パックランド』(1984年)が出て、「他のゲームには負けられへん」と1984年の年末から『スーパーマリオブラザーズ』の制作が始まるのですから。
  これを読むと『スーパーマリオブラザーズ』(1985年)は『パックランド』のパクリとも無関係とも言えず、任天堂が『パックランド』から刺激を受けて「俺達こそが元祖なんだ!」という強い対抗意識を持って作ったゲームなんじゃないかと私は思うのです。

 もし「それこそがパクリじゃないか」と言われたのなら、ゲームクリエイターは絶対に他の人が作ったゲームをプレイ出来ませんね。



――2025年追記――
 この記事を書いた当時、「飯野賢治さんがインタビューした『スーパーヒットゲーム学』という本で、宮本さん御本人がパクリだと認めているんですよ」と言われました。なので、その本をちゃんと買って読んでみたのですが……

 その部分だけ引用したいと思います。




<画像は飯野賢治著『スーパーヒットゲーム学』より引用>

 この文章を読んで「宮本さん御本人がパクリだと認めているんですよ」と要約するんだから、インターネットの言説なんて信用できねえええええええええって思いました。

 全然認めていないよ! 
 むしろ、「あっちが先に真似してきた」「(パックランドへの対抗心で)自分達がジャンプゲームの決定版を作ろうと思った」と言っているじゃないですか。インターネット怖い。インターネットの情報なんて伝言ゲームでしかないんだ。




○ 『スーパーマリオブラザーズ』 (1985年9月)

<ファミリーコンピュータNintendo Switch Online版『スーパーマリオブラザーズ』より引用>

 「回避」=敵や障害物をジャンプして飛び越える機能
 「アイテム探索」=空中にあるブロックを叩いて中身を出現させる機能
 「アイテム取得」=空中にあるコイン等を手に入れる機能
 「移動」=上部や左右の足場にジャンプして飛び移る機能
 「攻撃1」=上部の床を叩いて敵を倒す機能
 「攻撃2」=敵の頭上に着地することで踏んづけて倒す機能


 さて……『マリオブラザーズ』から『スーパーマリオブラザーズ』の2年間、他の会社からだけでなく任天堂からも「ジャンプアクション」は発売されています。『アイスクライマー』(1985年1月)はそうですね、『バルーンファイト』(1985年)はどうだろう……『レッキングクルー』(1984年)はマリオとルイージなのにどうしてジャンプしないんだ。

 でもまぁ、「マリオのジャンプ」に関係のない話なのでそこは端折ります(笑)。


 私は「『スーパーマリオブラザーズ』なんて『パックランド』をパクッただけのゲームじゃん」と言うのは“創作”に対する侮辱だと思っていますが、同時に「宮本茂は天才だから『スーパーマリオブラザーズ』みたいな完成度の高いゲームを突然生み出せたんだ」と言うのも“創作”に対する侮辱だと思っています。
 この記事が書いてきたように、『ドンキーコング』で「回避」と「移動」を同時にこなすアイディアとして「ジャンプ」を思いつき、『マリオブラザーズ』でそこに「攻撃」の機能を加え、そうした積み重ねの末に『スーパーマリオブラザーズ』は生まれているのです。

 先ほどまでの「社長が訊く」は2009年の『NewスーパーマリオブラザーズWii』発売の際のインタビューでしたが、こちらは2010年の「スーパーマリオ25周年」の際の「社長が訊く」からの引用です。
 Wii版『スーパーマリオコレクション』に同封されている「スーパーマリオブラザーズの仕様書の1枚」らしいですね。1985年2月に書かれたものとか。

<以下、引用>
スーパーマリオ実験仕様

本ゲームはドンキーコング以来連作してきた“ジュニア”“マリオブラザーズ”のアスレチックの部分を利用し、大型のマリオキャラクターによって再構成するためのゲームである。

</ここまで>
※ 改行・強調など引用者が一部手を加えています

 仕様書の時点で思いっきり書かれているんですね。
 『スーパーマリオブラザーズ』は、『ドンキーコング』『ドンキーコングJR.』『マリオブラザーズ』のアスレチック部分を集めて再構成するゲームだと―――


 ……


 ……あ


 『ドンキーコングJR.』について言及するのを忘れていました。
 『ドンキーコングJR.』とは1982年にアーケード版が稼動した『ドンキーコング』の続編で、主人公は前作のラスボス:ドンキーコングの息子です。前作のジャンプアクションに加え、ツルの上り下りという新たなアクションが特徴的ですね。
 主人公がマリオじゃないんで、「マリオのジャンプ」の考察に考えなくてイイですよね!そうです、決して忘れていたワケではなくて、「今日の記事には関係ないな」と省いていたのです。そうに決まっています!



以下、引用
宮本「はい。ただ、2倍の大きさのキャラクターを動かすことは、『デビルワールド』ですでに実現させていました。」

岩田「つまり、『エキサイトバイク』からは画面の一部だけをスクロールさせる部分スクロールの技術を、『デビルワールド』からは、2倍の大きさのキャラクターを動かす2キャラモードの技術をそれぞれ持ってきた、ということですね。」

宮本「そうなんです。それまでのいろんなソフト技術を総結集しました。」

中郷「少し細かいことになりますけど、たとえば『ドンキーコングJR.』のジャンプ台、あれをつくったSRDのメンバーが『スーパーマリオ』のプロジェクトにも参加していたので、そのまま持ってくるようなこともできたんです。」

岩田「この仕様書を見ると・・・
 「『ドンキーコング』のスロープ、リフト、ベルトコンベア、はしご、
 『ドンキーコングJR.』のロープ、丸太、ジャンプ台、
 『マリオブラザーズ』の敵の攻撃、敵の動き、氷った床、パワー床、などを中心として改良を加える」・・・と書いてありますね。」

宮本「ですから、まさに“集大成”のソフトでした。
 当時はディスクシステムが出る前年でしたし、カセットで出す最後のソフトのつもりだったんです。「さすが任天堂はカセットのことをよく知ってる」とか、「これ、どうやってるの?」と言われるようなものをできるだけいっぱい入れようと思いました。」

岩田「いまのゲーム機では、総合的な処理能力の範囲であればどんな映像表現もできるようになったので、ゲームのなかの表現で、「これ、どうやっているの?」という話は、ある意味、プロの目でしかわからない時代になりましたよね。
 でも、ファミコンソフトのあの時代は、ハードの制約がとても厳しくて、あまり多彩な映像表現はできませんでした。ハードの制約をかいくぐることで、新しい表現が実現できると、それはおそらく一般の方にとっても見たことのない表現でしたから、お客さんも、ほかのゲームでは見たことのない新しい表現は、「これ、どうやっているの?」というようにとても魅力を感じていただけたところがありましたよね。」

宮本「そうだったんですよね。そんなふうにいろんなソフトのいい部分を取り入れようとしたんですが、やっぱりおおもとになったのは『エキサイトバイク』でした。たとえばワープの発想はそこから来ています。」

岩田「それはどういうことですか?」

宮本「業務用の『エキサイトバイク』には3レベルあって、遊びはじめる場所を選ぶことができたんです。「じょうずな人は早く上級のレベルを遊べたらいいよね」ということで。
 もちろん、『スーパーマリオ』でいきなりワールド7からはじめようとすると難しすぎるんですけど、「じょうずな人はワールド1からワールド8まですいすい行けたらいいのにね」と。」

岩田「へえ~、そこからワープの発想が来てるんですか・・・。確かに当時のカセットはセーブができませんでしたからね。」

宮本「そうなんです。毎回はじめから遊ぶしかなかったんです。
 でも、最後まで遊びたい人のためにワープができるようにして、そのワープを究めるとすぐにワールド8に行けるようにしました。それは『エキサイトバイク』でどのコースからはじめるかを選ぶのに近いものなんです。」

岩田「ああ、だから本当にいろんな意味で“集大成”なんですね。」

</ここまで>
※ 改行・強調など引用者が一部手を加えています

 岩田社長が当事者だったから敢えてその話にはならなかったみたいですが、これ以前の「社長が訊く」にて『バルーンファイト』の技術も『スーパーマリオブラザーズ』の水中面に影響を与えているという話がありましたね。

 『デビルワールド』は1984年10月、ファミコン版の『エキサイトバイク』は1984年11月、ファミコン版の『バルーンファイト』は1985年1月――――『ドンキーコング』や『ドンキーコングJR.』『マリオブラザーズ』ももちろんそうですが、それらのどのゲームが欠けても『スーパーマリオブラザーズ』はあんな形にはならなかったと思います。

 『スーパーマリオブラザーズ』は1作でいきなり完成したワケではなくて、1980年代前半の任天堂の様々なソフトの要素が集まって完成したゲームなんです。



 「マリオのジャンプ」の「多機能」性について、話を戻します。
 「回避」機能は、『ドンキーコング』の頃からある機能です。
 「移動」機能は、『ドンキーコング』のリフト移動や『マリオブラザーズ』の上部の足場に飛び移る機能などを総合した機能だと言えます。
 「攻撃」機能の内、敵を下から叩くのは『マリオブラザーズ』から。
 「攻撃」機能の内、敵を踏んづけて倒すのは『マリオブラザーズ』のルイージを踏んづけられる機能から(笑)。

 ……と考えると、実は『スーパーマリオブラザーズ』の「ジャンプ」は過去作品のいいとこどりで、それこそ「ダッシュジャンプ」や「空中制御可能なジャンプ」は『パックランド』の影響なのかも知れませんし、『スーパーマリオブラザーズ』自体は何も発明していないように思えるかも知れませんが。

 「アイテム探索」=ブロックを下から叩いてアイテムを出現させる機能こそが、『スーパーマリオブラザーズ』における「マリオのジャンプ」の特徴なのですね。
 この「隠されているアイテムを探し出す」という要素は、『ゼビウス』(1983年)だったり、『ドルアーガの塔』(1984年)だったりが大人気になった要素で、当時の「流行」と言っても過言ではないと思うのですが。『スーパーマリオブラザーズ』も、それをゲーム内に上手く取り込んだということなんだと思います。

(関連記事:昔の名作ゲームを今遊んでも100%の面白さを味わえるワケがない


 んで、重要なのは「ジャンプしてブロックを下から叩いてアイテムを出現させる」という部分。
 それこそこの元の発想は『マリオブラザーズ』の「下から叩いて敵を倒す」機能や、POWブロックを叩く機能にあるのだと思うのですが……“ジャンプして床を叩いて何かを起こす”ということ自体が気持ち良いんですよね。加えて『スーパーマリオブラザーズ』では「隠されたアイテムを探す」という機能が加わりました。
 プレイヤーは、アイテムを探すために手当たり次第にブロックを叩くのですが、それ自体が気持ち良いんです。これは『ゼルダ』の「草を刈ること自体が楽しい」に通じるものがあるかも知れません。

 「マリオが1機増える1UPキノコ」「立て続けにコインが手に入る10枚コイン」「空のルートを突っ切らせてくれる豆の木」など、出現するアイテムに“出てきたら超嬉しいもの”をちゃんと用意しているところも抜かりがないです。


<画像はWii Uバーチャルコンソール版『スーパーマリオブラザーズ』より引用>




 最初は「ジャンプ」する予定ではなかったマリオ。
 たまたまタルを避けるために「ジャンプ」することを与えられ、それでリフトへ移動したり、空中のアイテムを取ったり出来るようになり。「高いところから落ちても大丈夫なようにしよう」とした結果、上の足場に飛び移ったり、上の足場にいる敵を攻撃したり出来るようになり。ルイージを踏んづける機能から、クリボーを踏んづける機能になり。当時流行していた「隠しアイテム」の概念を取り込むことで、「探索」の要素もジャンプが担うことになった――――


 宮本さんは天才だと思いますけど。
 天才だって「無」からいきなり『スーパーマリオブラザーズ』を作れるワケではないんです。たくさんのゲームを作り続けたことで、1作目、2作目、3作目と様々な要素を生み出すことが出来て、他のゲームの要素を取り込んで……それで『スーパーマリオブラザーズ』が生まれたのだし。

 それこそ『パックランド』だって「無」から生まれたワケではないでしょうよ。


 『ドンキーコング』だって『マリオブラザーズ』だって今でも遊べることが出来る超有名ゲームなのに、どうしてか存在を無視されて「『スーパーマリオブラザーズ』は『パックランド』をパクッただけのゲームだ」なんて言われてしまうのが納得いかないんです。

 少なくとも「ジャンプ」の「多機能性」については、『ドンキーコング』にこそルーツがあるだろうって思うのです。



○ 余談
 つか、ここまで書いてくると『パックランド』を遊んでみたくなりますね。
 1985年11月に発売されたファミコン版は子どもの頃に遊んでいましたけど、『スーパーマリオブラザーズ』以前に作られた1984年のアーケード版はリアルタイム世代じゃないので私は触れたことがないんです。任天堂には「バーチャルコンソールアーケード」をWii Uでも始めてもらって、バンダイナムコにはアーケード版『パックランド』を配信してもらいたいです!

 「どのくらい『スーパーマリオ』が『パックランド』からパクッたのかを確認したいのでバーチャルコンソールで配信してください!」なんて言ったら配信してくれなさそうですけど(笑)。


 『ドンキーコング』のアーケード版を特別なソフトとして配布したこともあるんだから、任天堂のアーケードゲームもバーチャルコンソールで配信して欲しいですよねぇ。『マリオブラザーズ』のアーケード版とかもやってみたいですよ。



――2025年追記――
 2022年にアーケードアーカイブスで『パックランド』が配信開始されました!

 既に購入済みなので、近い時期に実況しながら遊びたいなと考えています。

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