『クインティ』レビュー/流行に逆行した姿勢が、色褪せない傑作を生む!


<画像はWii Uバーチャルコンソール版『クインティ』より引用>


※ この記事は2014年に旧ブログに書かれたものを幾つか手直しして2025年に移行した記事です

【三つのオススメポイント】


『クインティ』
・開発:ゲームフリーク/発売:ナムコ
 ファミリーコンピュータ用ソフト:1989年6月27日発売
 Wii Uバーチャルコンソール用ソフト:2014年7月2日発売(2020年6月25日配信終了)
 Nintendo Switch版ナムコットコレクション):2020年6月18日配信開始
・アクション
・セーブ機能なし

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○ ゲーム好きが集まって作ったインディーズ制作のファミコンソフト

 このゲームを制作したのは、後に『ポケットモンスター』シリーズを開発して世界規模の大ヒットを成し遂げるゲームフリークです。
 当時のゲームフリークはまだ法人化する前―――同人誌として「ゲーム攻略誌」などを作成していた“ゲームが大好きな集団”でしかなかったのですが、ファミコンの開発機材から自作して、完成したロムカセットを「好きなメーカーだったから」という理由でナムコに持ち込み、製品化。そうして発売された『クインティ』の印税を資本金に株式会社ゲームフリークを設立、そこから『ポケットモンスター』の開発が始まるという。

 この辺の経緯は今回のバーチャルコンソール化に合わせたGAME Watchさんのインタビューでも語られているので、興味のある方は是非どうぞ。

 ついにファミコンの名作、あの「クインティ」が帰ってきた!

 なんというシンデレラストーリーだとか、アメリカンドリームだとか、何十年後かにハリウッドで映画化されそうだとか、そういう話もすごく面白いのですが……今日の記事は『ポケットモンスター』の紹介ではなく、『クインティ』の紹介なので、今の話の中で重要なところは“後の大成功”ではありません。


 このゲームは“ゲームが大好きな集団”が作ったインディーズ制作のゲームだったというところです。
 最近ではダウンロード専売ソフトだったりスマホ用のアプリだったりで、パッケージソフトで発売するような規模のソフトではないゲームでも“アイディア勝負”のゲームを発売する道はありますよね。言ってしまえば、『クインティ』はそんな道がなかった時代にそこを先駆けたようなゲームで、ゲーム会社が商業作品として開発するゲームでは出来ないようなことをやっていたのです。

 先ほどのインタビューで、こんなことが語られています。

<以下、引用>
編集部「流行に逆行したゲームとは?」

杉森氏「当時はやはり、「スーパーマリオブラザーズ」がヒットしたので、横スクロールのアクションゲームとか多かったですね。あるいは、ロムカセットが大容量化しているような時期で、テキストがいっぱい表示されて会話をするとか、ストーリーが語られるとか最後に巨大なボスキャラクターが出てくる派手な演出とか、そういったゲームの表現が盛んになっていた時期だったんです。
 (ほかのゲーム制作者が)みんなそっちに行ってたので、僕らはなんか逆にみんながしないことをやろうって。「昔のゲームセンターのゲームはそうじゃなかったよね」っていうことで、流行ってるゲームがあるんだったら、絶対にそれはやらないようにしようと話していました。ちょっと反骨魂みたいな感じだったんですよね。
 「クインティ」にはでかいボスキャラは出てこないし、画面は1画面固定ですから、そのせいでナムコさんに持って行ったときに「古臭い」とか言われたらしいんですけど。確かにメジャー感はないので、今考えるとまあ随分な作りだなとは思いますね。
 でも、その反骨魂みたいなものがあるところがゲームフリークの基礎になっていると思うんです。人と同じことやってもしょうがない。あるいは、みんな右にならえと同じことやるけど、そこは「なぜ?」っていうことに疑問を持ったり。

</ここまで>
※ 改行・強調など引用者が一部手を加えました


 確かに……思い出してみると……
 私はこのゲームを発売後すぐにプレイしたワケではなくて、数年経ってから友達の家に転がっていたのをプレイしたのですが。当時の自分は「ファミコン初期のゲームなのかな」と思っていました。画面の華やかさや後に知るゲームの奥深さからするとありえないのですが、固定画面の2人同時プレイということで『マリオブラザーズ』(1983年)くらいの時期のゲームなのかなと子どもの頃は思っていました。

 実際にこのゲームが発売されたのは1989年。
 前年の1988年に『ドラクエ3』『スーパーマリオ3』『FF2』『ロックマン2』などが発売されていることを考えると、子どもの頃の私がそう信じられなかったのも仕方がないことが分かると思います。「色んな世界を大冒険」「重厚なストーリー」「自由なパワーアップ」などが流行している時代に、『クインティ』を見せられたら「古臭い」と思ってしまうかもしれません。


 しかし、ですよ。
 今、2014年に“1989年に発売されたゲーム”を遊ぼうとしたら―――『スーパーマリオ』の後追いで出された横スクロールアクションを遊ぶ気になりますか。いっぱいのテキストでストーリーが語られるゲームを遊ぶ気になりますか。巨大なボスキャラクターなどの派手な演出をするゲームを遊ぶ気になりますか。

 私は結構遊んでいるような気もしますが……(笑)。


 そうした“当時の最先端の流行”を追いかけたゲームって、今遊ぶと「昔のゲームだなぁ」って強く思ってしまうじゃないですか。
 最近のゲームを遊べば、もっと多彩なステージの横スクロールアクションゲームがありますし、もっとたくさんのテキストとユーザーが使いやすいUIのアドベンチャーゲームがありますし、もっとド派手でカッチョイイ演出のゲームがありますもの。そうしたものと比べてしまえば、1989年のゲームは古臭く思えてしまいます。


 しかし、『クインティ』はそうではありません。
 1989年時点で「古臭い」と思われたゲームですが、その後に似たようなゲームが出ていないことで、2014年に遊んでも全く色褪せない「斬新なゲーム」と思えて遊べるのです。


 ゲーム会社だってビジネスやっているワケですから、「他所が作っているから」や「これが今の売れ線だから」といったゲームを作るのも当然のことだと思います。
 しかし、当時のゲームフリークは「売れること」なんて一切考えてなくて、「面白いもの作ろうぜ」と純粋に面白いゲームを作ろうとした。その結果、流行に捉われない“普遍的な面白さのゲーム”を作ることが出来た―――というのは、後の『ポケモン』大ヒットに比べれば地味ですけど、これはこれで感動的なストーリーじゃありませんか。
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○ 「めくる」「歩く」という二つの操作だけで遊べるのに、ちっとも“単純なゲーム”ではない

 『枯れた知識の水平思考』のhamatsuさんの記事で、『スーパーマリオブラザーズ』というゲームは「ジャンプ」という一つのアクションでたくさんのことが出来るゲームだという記事があります。なるほど、確かに『スーパーマリオブラザーズ』は「ジャンプ」の操作を覚えるだけで色んなことが出来るようになっていますね。

・敵を飛び越えて「回避」する機能
・敵を踏んづけて「攻撃」する機能
・頭上のブロックを叩いてアイテムを出現させる「探索」機能
・上の足場などに飛び移る「移動」機能


 これは『スーパーマリオブラザーズ』という1本のゲームで全て生まれたワケではなくて、『ドンキーコング』の4つのステージと、『マリオブラザーズ』を経て、『スーパーマリオブラザーズ』でようやく到達した境地なのですが……この話は、需要があればいつか他の記事で書きたいと思います。


 この考え方で『クインティ』を見てみると、このゲームは「めくる」という操作に色んな機能を持たせているゲームだと分析できます。


<画像はWii Uバーチャルコンソール版『クインティ』より引用>

 このゲームの面は、全ての面が「7×5」マスのパネルで構成されています。
 プレイヤーがパネルを「めくる」と、その上にいた敵はふっとばされ、壁に激突させると敵が消滅します―――「めくる」には“攻撃”の機能があることが一つ。
 そして、このパネルは複数枚で重なっていて、パネルを「めくる」と下のパネルが現れるようになっています。こうしてめくったパネルには特殊な効果を持つ“アイテムパネル”があるので、「めくる」には敵を攻撃する機能だけでなく、隠されているアイテムを“探索”する機能があるのです。


 アイテムパネルには「100枚集めると1機アップ&スピードアップ」してくれるスターパネル、「制限時間を延長してくれる」タイムパネル、「画面上の全てのパネルをめくってくれる」サンパネルなどがあって―――是非とも入手したいパネルなのだけど、例えばそれらのパネルの上を敵が移動している場合、そのパネルをめくるとアイテムパネルは一番下に隠れてしまうというジレンマもあります。

 序盤の面は、先ほどのスクリーンショットのように「何もないパネル」が大半で敵を攻撃し放題なのですが……



<画像はWii Uバーチャルコンソール版『クインティ』より引用>

 逆に、こんな風にアイテムパネルだらけの面だと「敵を攻撃した分だけスターパネルが隠れてしまう」という葛藤を生むのです。


 このゲーム……こういう「プレイヤーを葛藤させる」要素が絶妙で。
 例えば、先ほどアイテムパネルの一つとして紹介した「スターパネル」。100枚集めるとプレイヤーキャラの移動速度を上げてくれる重要アイテムなのですが、このゲームは「コンティニューしても上昇した移動速度は変わらない」という仕様なので、序盤でとにかくスターパネルを収集して移動速度を上げる必要があるのです。

 この要素を、「ゲームとして」更に面白くしてくれるところが……面の全てのスタ-パネルを獲得すると「最後の1枚は光るスターパネル」で10枚分の効果があるというところ。
 「1つの面ごとに全てのスターパネルを集めてね」という仕様なので、なるべくスターパネルを集めてから面をクリアしたいのだけど……各面には制限時間が設定されていて、この制限時間はプレイヤーには見えないのだけど制限時間を越えると敵キャラクターが凶悪化してプレイヤーを殺しにかかるという。

 なので……「後々のためにスターパネルを集める」べきか、「さっさと敵を倒して先の面に進む」べきかでプレイヤーを悩ませてくれるという。ホント、操作は「十字キーで歩く」「Aボタンでめくる」の2つしかないのに、よく考えられたゲームだと思いますよ。
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○ “9種類の敵”と“5×7マスのパネル”でこんなにも多彩なステージが作れるのか!

<画像はWii Uバーチャルコンソール版『クインティ』より引用>


 このゲームは、攻略するステージを自分で選べる『ロックマン』タイプのゲームですね。
 『ロックマン』のようにプレイヤーキャラの装備が増えるワケではありませんが、前述したように序盤はとにかくスターパネルを集めてプレイヤーキャラの移動速度を上げる必要があるので、得意な順でプレイするのがイイと思います。

 最初に選べるのは8ステージ。これらを全てクリアすると中央の城に挑めます。
 各ステージにはボス戦を含めて10面用意されているので、全部で90面以上という大ボリュームのゲームになっています。しかし、単にステージ数を水増ししているワケではなくて、1面1面よく考えられているなぁって思います。

 それぞれのステージは、それぞれ違う特色を持った敵キャラが出ます。
 「レストランステージ」は、ただ歩くだけの「ウォークマン」。
 「コテージステージ」は、吹き飛ばされると四股を踏んでパネルをめくってくる「プランプ」。
 「シアターステージ」は、回転しながらどんどんスピードを上げてくる「バレリーナ」。

 どのキャラも個性的なだけでなく、面が進むと強化型とも言える「色違い」が出てきますし。何より面によってパネル配置が違うので、「最初は四方を壁に囲まれている面」とか「攻撃すればするほどエネミーパネルで敵が補充される面」とか、バラエティ豊かな面がどんどん出てくるので飽きさせられません。


 欲を言うと……ラスボス以外のボスキャラは、ちょっとあまり面白みがなかったかなぁというところはあるんですが。それでも通常ステージのバリエーションは凄まじく、特殊コマンドを使うと稼ぎプレイが難しくなった「裏面」が遊べますし、書くのをすっかり忘れていましたがこのゲームは「二人同時プレイ」が遊べるので協力し合ってもイイし脚引っ張り合ってもイイし。
 子どもの頃に友達の家で遊んだ時は「ファミコン初期のゲームなのかなぁ」なんて侮っていましたが、色んな遊びが詰め込まれたファミコン後期の傑作だと今なら言えます!
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○ 総評
<画像はWii Uバーチャルコンソール版『クインティ』より引用>

 ということで、「このゲームにしかない魅力」を持ちながら「大ボリューム&二人同時プレイ可能」などで幅広い遊びが出来る見事なゲームでした。このゲームを作った人達が後に『ポケットモンスター』を超特大ヒットさせると聞いても、何も不思議はないくらいです。

 難点を挙げるなら……これだけの大ボリュームのゲームながら、「パスワード」も「セーブ」もないため最初から最後まで一気にプレイしなければならないこと。
 私はコンティニューをしまくってプレイしたため、通常クリアまで4時間くらいかかりました。「上手くなれば1時間もかからずにクリアできますよ」というコメントも頂いたんですが、時間を縮めるには隠されたパネルの配置を覚えたりする必要がありますし、そもそも1時間セーブなしでも長い(笑)。

 まぁ、バーチャルコンソールやナムコットコレクションならば「いつでも中断」「まるごとバックアップ」があるんで何も問題はないですけどね!
 決して簡単なゲームではないので「何度もコンティニューして突破していく」のが苦手な人にはオススメしませんが、今のゲームと比較しても見劣りしない「このゲームにしかない面白さ」がちゃんと詰まったゲームになっていると思います。アクションゲーム好きならば是非オススメ!

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