漫画『サチ録〜サチの黙示録〜』全5巻レビュー/「小学生の頃は毎日がこんなに楽しかった」→ 「いや、全然こんな日常じゃなかったわ!」


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『サチ録〜サチの黙示録〜』
・巻数:全5巻
・掲載:少年ジャンプ+
    2023年7月7日~2025年4月25日
・作者:茶んた(X



【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
※ 苦手な人もいそうなNG項目があるかないかを、リスト化しています。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番「その要素がある」で、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:△(重い設定はあるけど終始明るく展開していく)
・恥をかく&嘲笑シーン:○(授業中に間違えて恥をかくシーンとかはある)
・寝取られ:×
・極端な男性蔑視・女性蔑視:×
・白人酋長もの:○(純粋なこどもと触れ合って考え方が変わる話だからね)
・動物が死ぬ:×
・人体欠損などのグロ描写:×
・人が食われるグロ描写:△(ヒマちゃんの描いた漫画の中でそういう描写が)
・グロ表現としての虫:×
・百合要素:×
・BL要素:×
・男女の恋愛:○(主人公ではないクラスメイトが、明確に悪魔のことを好き)
・ラッキースケベ:×(下ネタも序盤の「いけないホテル」くらい)
・セックスシーン:×



◇ 独自性:人類が滅亡するかどうかを賭けた人間神判……のことはとりあえず忘れよう!

 この漫画は、2023年から集英社のWEBコミック配信サイト「少年ジャンプ+」で連載されていたギャグ漫画です。
 昨年のバレンタインに当時出ていた4巻までをプレゼントしてもらったのですが、読んでみたらムチャクチャ面白かったので7月に出た最終巻(5巻)も自分で買って読んだくらいにハマりました。


<画像は『サチ録〜サチの黙示録〜』1巻より引用>

 主人公は6歳の少女:上野サチ。
 これから小学校に入学する、小学1年生です。

 いたずら好きで、サボリ魔、天邪鬼という……どこにでもいるクソガキなのですが。



<画像は『サチ録〜サチの黙示録〜』1巻より引用>

 なんと、「人類は滅ぶべきか否か」を審査される人間神判の人類代表に選ばれてしまいます。




<画像は『サチ録〜サチの黙示録〜』1巻より引用>

 サチが良いことをすれば天使が「+1」と加点、悪いことをすれば悪魔が「-1」と減点します。最終的に持ち点がプラスならば「人類存続」で、マイナスなら「人類滅亡」と……人類の命運は、サチの一挙手一投足にかかっているのでした。








 という設定は、もう忘れてイイです!

 小学1年生のクソガキと、彼女が「良いことをするのか/悪いことをするのか」を監視するためにやってきた天使と悪魔―――この3人で毎日楽しく暮らしている日常を描いているギャグ漫画です!



<画像は『サチ録〜サチの黙示録〜』2巻より引用>

 天使代表として送り込まれているのが「ラン」。
 サチを立派な大人に導かなければならない立場なのに、彼女自身が「人間界の食べ物が大好き」で、欲に任せてぐうたらと過ごしています。




<画像は『サチ録〜サチの黙示録〜』2巻より引用>

 悪魔代表として送り込まれているのが「ボロス」。
 サチを悪の道へと導かなければならない立場なのに、根がマジメなので家事全般をこなして、しっかりとサチの保護者をやってくれる善い悪魔です。


 キャラ設定だけ見ると、サチ(ロリ)、ラン(おっぱいの大きい天使)、ボロス(半裸の悪魔)と、女女男という組み合わせで同居しているのだけど……ボロスの見た目とマジメさのおかげで、ムフフ展開には一切なりません。
 この3人以外のキャラだと恋愛感情を持っているキャラも出てくるので恋愛要素が皆無というワケではないのですが、それも片想いだし、どっちかというと「家族愛」の方が重要視されている作品だと思います(ほとんどのキャラは家族の話が描かれる)。




<画像は『サチ録〜サチの黙示録〜』1巻より引用>

 また、メイン3人以外も……
 というか、「出てくる小学校」からこんなカンジだし、サブキャラクターや登場する施設とかも全部ぶっ飛んでいて楽しいし、みんな好き。ずっとずっとこの世界を眺めていたい魅力がありました。


 あと、個人的な好みでいうと「負の感情」で揺さぶってこないところが好きでした。

 登場人物は基本的にみんな「いいひと」なので、「イヤなアイツをこらしめてすっきり」みたいな話は少ないです。嫌がらせをしてくるキャラも秒で心を入れ替えるし。
 「お金がないからアレは買えない」とか「○○はガマンしよう」みたいな話もなくて、好きなだけ楽しいことをして、好きなだけ美味しいものを食べて、でも宿題もやらないとダメかーくらいのバランスの話なので。

 世知辛い現実のことを忘れて、下らないことでゲラゲラ笑える漫画なんですね。




 いや、そうしてゲラゲラ笑いながら欲望のままに過ごしていたら、「-1」の減点が積み重なって人類は滅亡してしまうんですが! まぁ、イイか!

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◇ 作家性:「あるあるネタ」の中に潜む、「そんなことある!?」な非現実

 作者の茶んた先生についても語っておきます。

 元々「映画」が大好きな方らしく、映画に出てくる「死亡フラグ」などのイラストをTwitterに投稿していたことから、そうした「あるあるネタ」をまとめた書籍化作品『明日から使える死亡フラグ図鑑』(2020年)、『明日から使えるトキメキフラグ図鑑』(2021年)を宝島社から発売していました。

 そうした知識と興味を活かし、初めて漫画を連載したのが月刊少年チャンピオンの『死亡フラグに気をつけろ!』(2021~2022年)です。豊富な「映画のあるあるネタ」の引き出しを活かして、それを漫画に落とし込んだ作品だったそうで……


 作風としては、「あるあるネタ」をパロディとして描ける作家さんなんだと思います。




 そこから、2023年―――
 少年ジャンプ+に活動の場所を移し、最初に掲載されたのがこの読み切りです。



 誰もが経験したことのある「小学校のポスターコンクール」を題材にしたあるあるネタ―――から発展させたギャグ漫画になっています。




 こちらは『サチ録』終了後の2025年に掲載された読み切りで、職業体験でトンデモない体験をする小学生の話です。


 どちらも身近な「あるあるネタ」を導入にしながら、「こんなことあったらイヤだなぁ」や「こんなことしちゃダメだよなぁ」とみんなが不安に思う非日常へと展開させていく作品なんですね。



 んで、この『サチ録』もそう。
 題材自体は「あるあるネタ」が多いんですよね。

 例えば、これ。

<画像は『サチ録〜サチの黙示録〜』2巻より引用>

 こどもキャラの身長が過剰なほどディフォルメされているのは、例えば『クレヨンしんちゃん』とかでも普通に行われている漫画特有の表現なんですが、それを「あるあるネタ」としてギャグ漫画に落とし込んでいるんですね。



 また、さっきの「小学校のポスターコンクール」のように、題材となる話は「みんなが経験したことのある小学生の日常」のネタが多いです。



<画像は『サチ録〜サチの黙示録〜』2巻より引用>

 かくれんぼをしたり。



<画像は『サチ録〜サチの黙示録〜』3巻より引用>

 遊園地に行ったり。



<画像は『サチ録〜サチの黙示録〜』1巻より引用>

 日記の宿題をしたり。



 題材的には、『よつばと!』みたいな「大人になったら忘れがちな、こどもの頃の楽しかった毎日を描くノスタルジー作品」のようで、実際そういう楽しみ方もできる作品だと思います。
 ですが、『サチ録』の場合は更にそこに「天使と悪魔」に代表されるぶっ飛んだキャラがいるので、「そう言えば、こどもの頃はそんなことあったなぁ」から「いや、そんなことねえよ!」となっていくという。




<画像は『サチ録〜サチの黙示録〜』1巻より引用>


 いや、一番ぶっ飛んでいるのは「ただの小学生」のはずのサチな気もします!
 なんだかんだ、こどもが一番「非常識」なことをするからね!



 「映画のあるあるネタ」で本を出したように、この作者さんは題材がなんであっても「あるあるネタ」をしっかり見つけてくるのが上手くて。そして、「あるある」が分かっているからこそ、そこからぶっ飛んだ「そんなことある!?」に発展させられるんだと思います。

 その「あるある」(日常)から「そんなことないだろ」(非日常)の境界線があいまいで不思議な感覚になっていくのは、私の大好きな「真空ジェシカ」の漫才味があります。ツッコミもしっかりしている。


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◇ 総括

<画像は『サチ録〜サチの黙示録〜』1巻より引用>

 元々「あるあるネタ」が得意な作家さんが、「小学生が主人公の日常まんが」を題材にして「あるあるネタ」(日常)と「そんなことないだろ」(非日常)をないまぜにしたギャグ漫画を描いたところ……

 「小学生の日常って、こんなに楽しいことにあふれているんだ!」という作品にもなっている、奇跡のようなバランスの漫画だったと思います。



 元々「ファンタジー世界の詳細な設定」を考えるのが得意だった九井諒子先生が、「モンスターの生態系を描く」ためにモンスターを倒して食べる『ダンジョン飯』の連載を始めたのにちょっと近いかもしれませんね。
 作者の得意分野を活かしつつ、それがネタ切れにならないよう長編向けの設定を上手いこと見つけた―――というか。


 ということで、すごく私好みだったし、すごく面白かったです!
 全5巻で完結しちゃったのは「もっとコイツらを見ていたかった」感はあるのだけど、「短い巻数でまとまってきっちり完結している名作」になったと思います。

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