『Poppin'Park Harmony! ~音と笑顔のちいさな奇跡~』
・形式:WAVファイル(約47分)
2025年5月27日発売
・原作:ブシロードによるメディアミックスプロジェクト『Bang Dream!』アニメ、スマホゲーム、声優によるライブなど
・シナリオ:はるじお
・イラスト:美和野らぐ
・声優:
愛美(戸山香澄)
大塚紗英(花園たえ)
西本りみ(牛込りみ)
大橋彩香(山吹沙綾)
伊藤彩沙(市ヶ谷有咲)
・ASMR性:「俺」がいらない世界で、誰視点のASMRを作るのか
・キャラクター性:キャラの特性を活かした納得のシナリオ
・総括
↓popiasmr-1↓
◇ 時代性:どうして今『Bang Dream!』のASMRが出るのか
『Bang Dream!』初のASMR作品が出ました!
しかも、アニメが放映されたばかりのMyGO!!!!!やAve Mujicaの作品ではなく、Poppin'Partyの―――ということで、『Bang Dream!(以下、『バンドリ』表記で統一します)』に詳しくない人は「なんでやねん」と思っていそうなので説明します。
『バンドリ』は2015年1月からブシロードが展開しているメディアミックスプロジェクトです。最初の最初は雑誌「月刊ブシロード」での連載ですが、2015年2月28日に声優の愛美さんのワンマンライブで「声優でバンドを組む」と発表したことで、2月28日が「バンドリの日」となりました。
そこから約2年間は「声優さんのライブ」がメインで、4月の1stライブで西本りみさんと伊藤彩沙さんの加入が発表され、6月の2ndライブで大塚紗英さんの加入が、10月の4thライブで大橋彩香さんの加入が発表されました。このバンドが、『バンドリ』最初のバンドであるPoppin'Partyです。
ということで、2025年は『バンドリ』プロジェクト10周年なことに加え、Poppin'Party結成10周年なんですね。
テレビアニメが始まったのが2017年1月、スマホゲームが始まったのが2017年3月なため、他のバンドの活動は2016年や2017年がスタートとなります。つまり、今年10周年を迎えるのはPoppin'Partyだけなんですね。
そのため、この2025年はPoppin'Partyで様々な展開がされることが発表されていました。
5月26日に3度目となる武道館単独ライブが行われ、
4月から不定期でショートアニメ『つれづれポピパ』が配信され、
5月24日からこれまで(有料でも)配信がなかった劇場版アニメ2本がサブスク等で配信開始になって、
【速報📢】
— バンドリ! BanG Dream! 公式 (@bang_dream_info) May 22, 2025
劇場版「BanG Dream! FILM LIVE 2nd Stage」
劇場版「BanG Dream! ぽっぴん'どりーむ!」
各配信プラットフォームにて配信開始が決定🌟
5/24(土)0:00以降順次配信開始!
▼詳細はこちらhttps://t.co/fu1tn1q3qZ#バンドリ #バンドリTVLIVE #バンドリフィルムライブ2 #ぽぴどり pic.twitter.com/ti9vIK6jL9
そして、このASMR作品の発売があるんですね。
つまり、「2025年はPoppin'Party尽くし!」という展開の1つなのです。
つまり、「2025年はPoppin'Party尽くし!」という展開の1つなのです。
まぁ、DL Siteのサークル名が「バンドリ!ASMR」なので、今後他のバンドもASMR作品を販売していく可能性は十分にありますが。
『バンドリ』プロジェクトはビジネスモデルの中核にあったスマホゲームがあまり儲かっていないようで、でもライブやイベントは好調らしいので、こういう形の「キャラクター性を前面に押し出した商品」で収益を上げる&日の目を見させることでライブとライブの間を埋めていく展開は全然あると思うんですね。
◇ ASMR性:「俺」がいらない世界で、誰視点のASMRを作るのか
「そもそもASMRって何?」という人もいらっしゃると思うので、そこから説明します。
「autonomous sensory meridian response」=「自立感覚絶頂反応」の略で、人間の五感(特に聴覚と視覚)への刺激で脳が「なんか気持ちいい」と心地良さを感じさせるもののことを言います。
例えば、コップに飲み物を注ぐ音みたいな、日常のなんか気持ちいい音が分かりやすいですかね。
「ASMR動画」から流行り、「主に音を扱うコンテンツ」ということで声優さんを使った「ASMRの音声作品」も多数作られるようになり、それ以前から存在した「ラジオドラマ」とか「ボイスドラマ」のポジションにすっかり置き換わってしまいました。
2025年現在、この『バンドリ』の他にも様々なIPがASMR作品をDL Siteで販売しています。
【アズールレーン】
【ブルーアーカイブ】
【俺妹】
もちろんオリジナル作品もたくさんありますし、女性向け作品もたくさんあります。
しかし、上に載せた作品達を見ると、『バンドリ』はかなり……「異物」ですよね。
『アズールレーン』と『ブルーアーカイブ』は「プレイヤー=主人公」が指揮官や先生となるスマホゲーが原作で、『俺妹』は男主人公のライトノベルが原作です。
ASMR作品も、聴いている人が「その男主人公」のポジションになりきって楽しむコンテンツだと思われます。だから、ギャルゲーやラブコメ作品のIPとの親和性が高いのです。
それ以前の「ラジオドラマ」「ボイスドラマ」と、「声優さんによるASMR作品」の大きな違いは、「ダミーヘッドマイク」を使った“位置”の表現をしているところです。声優さんがダミーヘッドマイクの右耳の近くで喋れば私達の右耳から聴こえるし、声優さんがダミーヘッドマイクの左耳の近くで喋れば私達の左耳から聴こえる……と言ったように、対象との距離感が音で表現できるんですね。

DL Siteの無料音声作品の中から分かりやすい例がないかなーと、『バンドリ』声優の加藤英美里さんが出ている作品を例に出します。
修学旅行中に見回りの先生から隠れるため、男主人公=俺と、ヒロインが押し入れに隠れるというシチュエーションです。ダミーヘッドマイクのおかげで「押入れの中の密着感」が表現できるからこそのストーリーとなっているんですね。
なので、「声優さんによるASMR作品」って基本的に「俺」が必要なんです。
「俺」というキャラがいるから「俺」との距離感が表現できるのだし、それを表現しなければダミーヘッドマイクを使う必要もないし、ASMRである必要もなくなりますからね。
しかし、『バンドリ』でASMR作品を作るとなるとここが問題になります。
同じスマホ向け作品が元となっている『アズールレーン』や『ブルーアーカイブ』のように、「プレイヤーのポジション」を「ASMR作品の俺」にしてイイかというと……『バンドリ』のプレイヤーは誰だ問題が出てくるのです。
「ガチャでキャラを集めて編成するタイプのスマホゲー」は、プレイヤーがそのキャラ達を指揮するポジションに就くことが多いです。『デレステ』だったらプロデューサー、『アズレン』だったら指揮官、『FGO』だったらマスターといったカンジに、集めたキャラクターに命令を下すポジションを「プレイヤー=俺」が担うんですね。
ところが、『バンドリ』に登場するバンドは学校もバラバラ、「友達同士で組んだ仲良しバンド」も「芸能事務所が組んだプロのバンド」も存在しているため、“顧問の先生”とか“プロデューサー”みたいな全バンドを統括するポジションが存在しないんですね。
では、スマホゲーム版となる『バンドリ!ガールズバンドパーティ』での「俺」は誰なのかというと……全部のバンドが共通で出入りしているライブハウスの「新人スタッフ(年齢・性別不詳)」なのです。それ、「他人」では……?
なので、『バンドリ』の「俺」君はストーリーにほぼ出てきません。
出てくるのはチュートリアルとなるメインストーリーと、ガチャ等でキャラを手に入れると読めるエピソードくらいなのですが……
このゲームが始まったばかりの頃、このゲームは自分のことを「ギャルゲー」だと勘違いしていたみたいで。キャラのレベルを最大まで上げると読める「メモリアルエピソード」で、「俺」とキャラがイチャイチャする話を読ませられたんですよ。

<画像はiOS版『バンドリ!ガールズバンドパーティ』より引用>
たまたま図書館で「俺」と会ったので、誰もいない自習スペースでいっしょに勉強したり、おすすめの小説を教えてくれたりしたりみりん。「俺」、何歳くらいの想定なんだ???
『バンドリ』、アニメもスマホゲーム版のストーリーも「女のコ同士の絆」を描くものが多いので……言ってしまえば「俺」が「百合に挟まる男」みたいになってしまい、「俺いらねええええええ!」と大不評で、この路線はあっという間になくなります。
その後「メモリアルエピソード」は、「俺」が「ライブハウスの先輩であるまりなさん」といっしょにいるとたまたまキャラに出会うというシチュエーションが主になり、まりなさんとそのキャラが会話しているのを横でただ黙って聞いているだけになりました。
この歪な構造を受けて、
同じプロデューサーが後に作る『プロジェクトセカイ』(2020年~)は、プレイヤーは「別の次元からキャラクター達を眺めて応援する謎の存在」になり。
同じブシロードが立ち上げた『D4DJ』(2020年~)は、プレイヤーのポジションが完全になくなります。
この話……「ハーレムアニメは、“誰とくっつくのか”ではなく“たくさんいる女のコ同士の関係性を眺める”のが楽しいのでだから男主人公はいらなくない?」→ 「男主人公がいなくなった日常ものが流行る」構図に似てますね。
話を戻します。
というワケで、「俺」のポジションがいらなくなった『バンドリ』で、「俺」の存在が不可欠なASMR作品を作ろうとするのは無謀では??と初報では思ったのですが……
今回のこのPoppin'PartyのASMRは、遊園地でのライブに呼ばれた5人が「迷子のこども」を見つけてしまい、ライブの時間まで「迷子のこども」といっしょにお母さんを探してくれる―――というシチュエーションになっています。
つまり、「俺」は幼児!
天才か?
ASMR作品は「距離」が重要なのだけど、『バンドリ』キャラは男性との接触がNG。
しかし、ブシロードの基準では「お父さんと男児ならOK」で、実際に沙綾の弟など小学生の男児と絡むシーンは今までにもありました。
視聴者は「おじさん」だったり「おねえさん」だったりするのだろうけど、どんな大人も昔は幼児だったのだから、性別不詳の幼児を主人公にすれば、誰もが童心に帰って感情移入できるはず――――――!
そう思って聞いていたら……
りみりんが「幼児の俺」とイチャイチャしながら「なんだか妹ができたみたい」と言い出したので、
「あれ? 俺、女児なの???」
と、ビックリしました。
だってほら、俺……人生の中で女児だったことなんてないし……
ま、イイか!
人間誰もが心の中に女児を飼っているはずなので、みんな、自分が女児になったつもりでこの作品を聴けばイイと思いますよ!
◇ キャラクター性:キャラの特性を活かした納得のシナリオ
この作品のトラック数は7+購入特典のボーナストラック1の計8つ。
「購入特典」って何だ……?
今はDL Siteでの販売しかしていないけど、後にサブスクで配信とかする予定なのか?
本編の7トラックの内、最初は「プロローグ」、最後は「エピローグ」で、間にはさまる1~5話が「俺=女児ちゃん」とPoppin'Partyのキャラが絡む本編となっています。このプロローグ、1~5話、エピローグの構成は、スマホゲー『ガールズバンドパーティ』のイベストと同じ構成なんですよね。
シナリオを書かれている「はるじお」さんという方、恐らくはアニメ版やスマホゲーム版の『バンドリ』に関わってきた方ではなく、フリーのシナリオライターみたいです。DL Siteの人物名をクリックすると男性向け・女性向け問わず、たくさんのえっちな作品が出てきますね……
でも、キャラの個性と特性を活かしつつ、ASMR作品ならではの良さもちゃんと入っていて、アニメ1期からずっとPoppin'Partyを見てきた私としても納得のシナリオになっていました。
1.おたえ編
お母さんとはぐれて迷子になってしまった「俺=女児ちゃん」に、楽屋に残されたおたえがギターを弾いてあげるというシチュエーションです。
弾き語りやギターの音が聴けるのは『バンドリ』のASMRならではだし、こどもとギターを通じて触れ合うのはおたえらしい。ゲーム版のイベストでも、沙綾の弟・妹相手に似たようなことをしていたし。
ゲーム版で同じようなことをやろうとしても汎用の効果音で済ませられるだろうから、しっかり演奏してくれるところとか。向き合ってギターを弾いてくれる状況から、近くに来てくれると「声の位置が変わる」ところとか。ASMR作品ならではの良さがあったのがとても良かったです。
2.りみりん編
「俺=女児ちゃん」のほつれてしまったスカートをソーイングセットで直してくれるところは、衣擦れの音がASMR作品らしさですね。
りみりんは2人姉妹の妹で、他のキャラからも「みんなの妹みたい」に可愛がられることが多いのだけど……実は年下のキャラと絡むときは「お姉さんぶろうとする」ので、それをちゃんと表現しているシナリオが良かったです。
また、りみりんといえば「チョココロネ」ですが、甘いもの全般が好きなので……ジュースを買いに行く(もちろんコップに注がれる音つき)シーンで、ついでにわたあめを買って食べさせてあげるところもりみりんらしくて納得の解釈でした。
3.沙綾編
リアルお姉ちゃん。流石に女児の扱いが上手い。
疲れてお眠になっている「俺=女児ちゃん」を抱っこしてくれるのだけど、抱っこされることによって声のする位置が変わるのがASMR作品らしいですね。
抱っこしたまま歩くその音が、心臓の音と重なって、それに合わせて体をトントン叩く音で「ドラムのセッションみたい」にするのも、ドラムキャラをASMR作品で表現していて面白いです。
でも、回想シーンのようにして「食卓の音」を出してきたの、「ASMR作品だからってノルマみたいにせんでも……!」とちょっと笑ってしまいました。
4.有咲編
一番こどもとか苦手そうな有咲だけど、まぁ……高1の頃とちがって、高3の現在ならこどもの世話くらいできるようになってるか。
ポピパの頭脳キャラなので「観覧車からならお母さんが見つけやすいぞ!」と提案、「俺=女児ちゃん」といっしょに観覧車に乗ります。
狭い空間で2人っきりというのは「声優さんのASMR作品」の定番なのだけど、そのシチュエーションでいきなり香澄の話をし始めたの笑ってしまいました。「香澄のいないところで香澄の話をする有咲」を盗み聞いたみたいで、これはこれで……
5.香澄編
お母さんが全然見つからない「俺=女児ちゃん」のために、ライブの前でステージからお母さんに呼びかけようとする香澄―――コイツなら、絶対にそうする……! という納得感の強い展開です。今までのイベストでも既にやっていると言われても疑わないくらいの解釈一致……!
そして、そこでギターで奏でる曲が……あぁっ……マジ!?
これ、Poppin'Party最終回では??
「俺=女児ちゃん」との距離がちゃんと表現されているところもASMRらしくてイイですね。
◆ 総括
権利の関係でPoppin'Partyの曲を使ったりは出来ないんだろうけど、その中でできるストーリー、かつアニメでもスマホゲームでも表現出来ないストーリーで、個人的には大満足でした。
私は作画作業しながら音声作品をぶっ通しで聴くことが多いので、時間はもうちょっと長くしてくれても……と思ったのだけど、ボーナストラックも含めた長さはイベスト1本分くらいでしょうし、このくらいがちょうどイイのかな。
Poppin'Partyに思い入れがない人が聴いて楽しめるものではないと思いますが、Poppin'Partyの新しいイベストが読みたい人なら十分に楽しめると思います!
最初に「バンドリのASMRが出る」と聞いたときは、『アズレン』や『ブルアカ』みたいに1キャラずつじゃなくて、5人セットのバンドごとなんだ……と思ったのだけど。
『バンドリ』に求められているのは「俺とキャラの絡み」よりも「キャラとキャラの絡み」なんでしょうし、実際に聴いてみたらこれで良かったんじゃないかと思いました。
ただ、もし他のバンドのバージョンも出すとしても、同じ手は使えないですよねぇ。毎回毎回「迷子のこどもを見つけました」ってワケにはいかないだろうし。
いや、むしろ毎回毎回「迷子のこどもを見つけました」って言い張る展開をしていくか。その方が各バンドの差異が見えて面白いかも知れない。Afterglowも「迷子のこどもを見つけました」、パスパレも「迷子のこどもを見つけました」、Roseliaも「迷子のこどもを見つけました」、ハロハピも「迷子のこどもを見つけました」、モニカも「迷子のこどもを見つけました」、RASも「迷子のこどもを見つけました」、そしてMyGO!!!!!が「迷子のこどもを見つけました」でオチをつけよう。
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