『ゼルダ』も『マリオ』も『Splatoon』も―――3Dアクションは「壁を登る」ようになった

※ この記事は2016年に旧ブログに書かれたものを幾つか手直しして2025年に移行した記事です


 Twitterでは「書いても炎上するだけだろうからブログには書かない」と言っていたんですが、当時考えていたアプローチとはちょっと方向を変えて書いてみようと思います。


 先月のE3で任天堂は、Wii UとNX(仮)用に発売を予定していた『ゼルダの伝説』最新作の正式名称を『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』と発表しました。



 「ゼルダの当たり前を見直す」と宣言されていた今作は、「オープンエアー」と呼ばれる広大な世界での自由度の高い冒険が特徴で、様々な服に着せ替えられたり、様々な武器を使っていたり(槍を使うリンクにびっくり!)、料理をしたり……映像だけでも今までとは違う『ゼルダ』になっていることが一目瞭然だったのですが。


 私が一番「あ、そうか。そうなるんだ」と注目したのは、「壁を登れる」という要素です。

 2025年3月13日現在の公式サイトの「冒険の手引き」のページを開くと、右に大きく「崖を登っているリンク」の絵が写ります。上に貼った映像でも、リンクが木や寺院(?)の壁面や崖を登っている姿が映っていますし……「今度の『ゼルダ』の見どころは壁を登れるところですよ!」と言わんばかりの推しっぷりです。

 20年前に『スーパーマリオ64』を発売して以降、「3D空間を舞台にした3Dアクションゲーム」を作り続けてきた任天堂が行き着いたのが「壁登り」だったという話は今このタイミングで書いておかなければならないと思ったのです。



◇ 『ゼルダ』も『マリオ』も『Splatoon』も「自由に壁を登れる」ように
 「3Dアクションゲーム」で「壁を登れる」というのは、もちろん『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』が世界初というワケではありません。『ブレス オブ ザ ワイルド』のように「どこにでもつかまって登れる」ゲームは稀有かも知れませんが、「つかまれるところがあればポンポン登れる」ゲームはたくさんあると思います。
 『アサシンクリード』シリーズは「壁登り」などのエクストリームなアクションが有名ですし、日本では任天堂から発売された『レゴシティアンダーカバー』シリーズも「つかまれるブロック」から建物の上に登って屋上から屋上に移動みたいなことを頻繁に行うゲームでした。


 なので、「任天堂がすごい画期的なことをやろうとしているよ!」という話をしたいワケではないのです。
 「何故、今このタイミングで『ゼルダ』は壁を登れるようになったのか」という話をしたいのです。



 正直なことを言うと……「壁を登れる」のが『ブレス オブ ザ ワイルド』だけだったら私は何とも思わなかったと思います。それこそ『アサシンクリード』などのオープンワールドのゲームがそうしているのだから、オープンエアーの『ゼルダ』新作でも真似してそうするのかなくらいに思ったかも知れません。

 しかし、最近の任天堂は様々な作品で意図的に3Dアクションゲームに「壁を登れる」機能を組み込んでいるのです。



 2013年に発売された『スーパーマリオ 3Dワールド』では「ネコマリオ」に変身した際に、壁を登れるようになります。この「ネコマリオ」を見て、「『アサシンクリード』のパクリだ」と言う人はいませんよね多分(笑)。
 『マリオ 3Dワールド』に影響を受けたのか、宮本さんの指示なのか、それとも任天堂の中に「3Dアクションゲームのブレイクスルーは壁登りだ」という共通の認識があったのかは分かりませんが……『マリオ』と『ゼルダ』が同時期に「壁を登れる」ようになったのは偶然ではないと思うのです。


 当時の「社長が訊く」には、「何故壁を登れるようにしたのか」は書かれてはいないのですが……


<以下、引用>
元倉「今回はもともと「走る」「ジャンプする」といった気持ちよさを求めた検証を先にしていて、その過程で通常のマリオにはない「4本の脚で駆けるアクション」と「壁を登るアクション」のネタが、きっかけになっているんです。」

岩田「ということは、もともと別だった2つのネタを、くっつけてひとつにしたんですね。
 それで「これが当てはまるのはネコだ」になったんですか?」

元倉「そういうことですね。」

岩田「ああ・・・「機能が先」なんですね!
 そうだ、忘れてましたよ、ここはそういうチームでした。
 ネコという表現自体は、機能が決まったあとで決まるんですね。」

</ここまで>
※ 改行・強調は引用者が行いました

 「ネコ」ありきではなくて、まず先に「壁を登るアクション」ありきでアイディアが練られていったことが語られています。当時は特段何も思わずにここを読んでいて、私は『マリオ 3Dワールド』をプレイしていないのですっかり忘れていたのですが、『ゼルダ』の新作が「壁を登るアクション」をしているのを見て真っ先にこれを思い出したのです。






<写真はWii Uソフト『Splatoon』より引用>

 任天堂と「壁登り」という話をするのなら、2015年に発売された『Splatoon』も忘れてはいけません。このゲームは、自軍のインクに塗った壁ならばイカになってそこを泳ぐことが出来るというアクションがあります。このゲームをプレイするには知っておかなければならない基礎中の基礎のアクションです。
 「インクが塗れる壁」と「インクが塗れない壁」があるというのは要注意なのですが、このアクションによってこのゲームは「床を横に移動する」のも「壁を縦に移動する」のも同じスピードで移動できるので高台への移動がスムーズになっただけでなく、壁に潜伏したり、逆に壁が塗られているかどうかで相手の位置を考えたりすることが出来ました。

 こちらも当時の「社長が訊く」を読んでみましょう。

<以下、引用>
野上「はい。「イカ」は、ずっと前からキャラクターの案としてはあったんですが、「これでいこう」と言える形にはなっていませんでした。
 で、ちょうどこのころ、ひとつのキャラクターにするのではなく、“インク生命体”と“ヒューマン体”を切り替えられるようにしようという話が出てきたんです。」

岩田「つまり、変身できるようにしようと。」

天野「そうです。“インク生命体”というのはその名のとおり、ぺったんこのインク状になって、同じ色のインクの上に乗ると・・・。」

岩田「豆腐のときと同じく保護色で見えないんですね。」

天野「で、“ヒューマン体”のほうはインクを発射するといったアクションができたり、ヒトのような形をしていて、ファッションをカスタマイズできるようにすれば思い入れのあるキャラクターになるだろうと考えていました。」

阪口「そこで、散らかっていた機能を“インク生命体”でできること、“ヒューマン体”でできることを整理しなおすことにして、ZLボタンで“インク生命体”になり、ZRボタンで“ヒューマン体”がインクを発射する、というように機能を振り分けました。
 “インク生命体”でインクのなかに入ると、速く移動するようにしようとか、“ヒューマン体”で敵のインクを踏んだら、足が取られるようにしようとか、トレードオフになるようにしました。」

野上「さきほど「壁は塗るべきだ」「塗るべきじゃない」ということで議論をした、という話をしましたけど、“インク生命体”でインクのなかを移動できるわけですから、壁をインクで塗って、のぼれるようにすれば・・・。」

岩田「壁を塗る意味が出てくるんですね。」

野上「そうなんです。壁問題はその時、一気に解決しました。」

</ここまで>
※ 改行・強調は引用者が行いました

 『Splatoon』の話で面白いのは、このゲームはまず「インクを塗り合うゲーム」というところから始まって、「床は塗った面積で勝敗が決まるからイイけど、壁は塗っても意味がないの?」という議論が行われて、“ヒト”と“イカ”を切り替えるゲームにしようという話になった時に「塗った壁は登れるようにすればイイんじゃない?」と行き着いたところです。

 つまり、「壁を登る」というアイディアありきではなくて、「壁を塗る」というアイディアから「壁を塗ったら登れるようにしよう」ということになって――――それで恐らくああいう立体的なステージが出来ていったのであろうということです。


 部署が違うので『マリオ 3Dワールド』の影響を受けているのかは分かりませんが(時期としては既にこの議論が行われている時点で『マリオ 3Dワールド』は発売されているみたいです)……
 2013年の『マリオ』、2015年の『Splatoon』、2017年の『ゼルダ』がそれぞれ「壁を登る」アクションを取り入れてるというのは、やはり任天堂の中にそういう意識があったからなのかなと思うのです。



 しかし、ですよ。
 3Dアクションゲームにおいて「壁を登る」アクションを入れるというのは、本来なら御法度になりかねない要素です。
 極端な例を考えると、『ゼルダ』のダンジョンは「1階を解く」→「2階に上る」→「2階を解く」→「3階に上る」と一つずつ攻略していくものなのですが、外壁を登っていきなり最上階から入ることだって出来てしまいかねません。それを防ぐためには、一つ一つの建物の「壁」をしっかり計算して登れないように設計したり、入れる窓・入れない窓をちゃんと考えたりしなければならず……今まで気にしていなかったことまで考えてマップを設計しなければならなくなるんですね。

 「壁を登れるようにする」と「3Dアクションゲーム」はガラッと変わってしまうのです。
 ましてや、『ブレス オブ ザ ワイルド』は登れるポイントが決まっているワケではなくて、「どこにでもつかまって登れる」ゲームみたいですからね。



◇ 「そんなことしたらゲームにならへん」がブレイクスルーを起こす
 ちょうどこの頃『スペランカー』をプレイしていたこともあって、私はこの時に『マリオブラザーズ』のことを思い出していました。

 宮本茂さんは『ドンキーコング』の頃から「地形を作る人」だと私はずっと思っています。遊びがいっぱい詰まったアスレチックな地形を作って、そこを通過するだけで楽しい―――そういうゲームを作るのがものすごく上手い人だと思うのです。
 『ドンキーコング』も『ドンキーコングJr.』も、『スーパーマリオブラザーズ』もそうですし、『ゼルダ』シリーズだってそうですし、宮本さんはそれほど関わっていないらしいですがそのイズムが継承された若手によって作られた『Splatoon』だってそうだと思うのです。


 そんな宮本さんの作品において、『マリオブラザーズ』はかなり異質なゲームだと思うんですね。『ドンキーコング』ですら宮本さんが直訴して「地形のちがう全4面のゲーム」だったのに、『マリオブラザーズ』は全ステージが同じ地形です。どちらかというと横井軍平さんのイズムが強い作品だと思います。

 宮本さんは以前の「社長が訊く」でこのように仰っています。

<以下、引用>
宮本「はい。『マリオブラザーズ』も横井さんとのコラボなんです。横井さんが「対戦タイプのゲームをつくろう」という話をして開発をはじめました。
 『ドンキーコング』ではマリオが自分の背よりも高いところから落ちると、グギッとなって、ミスになっていたんです。で、横井さんから「もっと高いところからピョンと落ちられてもいいのになあ」と言われて、「そんなことしたらゲームにならへん」と思ったんです。

 けれど、考えているうちに「そのくらいスーパーなことができてもいいか」と。そこでモデルをつくって、ピョンピョン走ってみたら、これがけっこう楽しかったんです。」

岩田「そこで、『ドンキーコング』よりもさらに高いところまでジャンプできるようになったんですね。」

</ここまで>
※ 改行・強調は引用者が行いました

 『ドンキーコング』や『ドンキーコングJr.』のキャラはジャンプ力が低く、自分の背丈より高いところから降りると死んでしまうゲームでした。その頃はまだマリオもスペランカーも同じ強さだったのだ!という記事は以前に書きましたね。

 『ドンキーコング』も『ドンキーコングJr.』も『スペランカー』も当然「低いジャンプ力」「自分の背丈より高いところから降りると死んでしまう」というキャラ性能を元にステージが設計されています。だからこそゲームとして成立していたので、「「もっと高いところからピョンと落ちられてもいいのになあ」と言われて、「そんなことしたらゲームにならへん」と思ったんです。」という宮本さんのお気持ちはすごく自然なことだと思います。

 極端な例を言いますと……
 『スペランカー』を全然進めない時、私も「このスペランカーの性能が『スーパーマリオブラザーズ』のマリオくらい高かったら良かったのに……」と思いましたよ。でも、そうしたら超簡単になってしまって全然面白くなくなると思うのです。キャラの性能を上げてなんでも出来るようになったら、それで歯ごたえのあるステージをどうやって作るのだと。


 しかし、実際に横井さんの提案通りに作ってみたら「けっこう楽しかったんです。」というものが出来て、『マリオブラザーズ』も大ヒットしました。『マリオブラザーズ』以降はピョンピョン飛び回れるゲームもたくさん出てきて、「高いところまでジャンプできるようになったマリオ」+「『ドンキーコング』以上のアスレチックなステージ」が合わさった『スーパーマリオブラザーズ』は全世界的な社会現象ソフトになります。

 キャラの性能が上がりまくった『スーパーマリオブラザーズ』ですけど、そのキャラ性能に合わせた歯ごたえのあった面白いステージはちゃんと作れましたし―――そのブレイクスルーは「マリオシリーズ」のみならず、「アクションゲーム」の基準を大きく変えたと思うのです。




 「3Dアクションゲーム」における「壁登り」もそれに近いと思うのです。
 「そんなのでゲームになるの?」とか「それをやるとマップ作るの超大変にならない?」という要素だし、そもそもあんなにポンポン登れるのは現実的ではないのかも知れませんが……「そのくらいスーパーなことができてもいいか」と、3Dアクションゲームを新たな領域に引き上げてくれると思うのです。

 ということは……「壁登り」の出来る「3Dアクションゲーム」を既に遊んでいる人にとっては「今更何を言っているんだ」と分かりきった話かも知れませんが(笑)。しかし、あまりこういう話が言語化されているのは見たことがないなぁと思ったので、今日はこの話を書いているのです。


◇ 『スーパーマリオギャラクシー』の憂鬱
 さて、『ゼルダ』の前に『マリオ』の話から。

 2010年に発売された『スーパーマリオギャラクシー2』の「社長が訊く」にて、宮本さんはこんなことを仰っていました。


<以下、引用>
岩田「世の中には「2Dマリオと違って、3Dマリオだと迷う」とか「3Dマリオは2Dマリオより難しいので自分の手には負えない」というような声があるようなんですけど、宮本さんはそういった声に対して、「いつかオレが何とかしてやる」と考えているんじゃないかとわたしは以前から感じていたんです。」

宮本「そうですね。でも、3Dマリオが抱えている問題に関しては前作の『マリオギャラクシー』でかなり解けたと思っているんです。球状地形なので、走っていると必ず元の場所に戻りますから。」

岩田「だから迷いようがないんですね。」

宮本「はい。で、今回の『マリオギャラクシー 2』をつくっていて、気がついたことがあるんです。
 よく3Dマリオって言いますけど、実は3Dでつくられた世界で遊んでいるだけで、遊び自体は平面が面白いんです。

岩田「平面が面白いというのはどういうことですか?」

宮本「つまりフィールド自体は3Dでできていても、そこにモノがあって、マリオがいて、上から見ると実は平面の遊びなんですよ。」

岩田「なるほど。
 つまり、カメラが真上や真横にあれば2Dのゲームのように遊びやすくできるんですね。」

宮本「そうなんです。
 しかも、2Dのマリオゲームでは横からのシーンだけですが3Dでは奥行きがある平面の遊びが新鮮です。」

岩田「そういった平面的な遊びにしようという意識は、前作より強くなったんですか?」

宮本「ええ。前作のときよりも、ハッキリ。
 前作のネタを見直してみても、追っかけ合いとか、やっぱり平面で遊んだほうが面白いものが多いという結論になったんです。」

</ここまで>
※ 改行や強調は引用者が行いました


 この話を読んだ当時の私は「……え?」と思ったんですね。
 確かに『スーパーマリオギャラクシー』の遊びは「平面の遊び」だったと私も思いました。カメラアングルが場面によって変わるだけで、遊び自体は「見下ろし型の2Dアクションゲーム」に近いと思いました。ファミコンとかスーファミとかゲームボーイの頃の『ゼルダ』みたいな感覚。

 しかし、じゃあ「3Dにする意味」がなくない?と思ったのです。

 『マリオギャラクシー』も『マリオギャラクシー2』も、そしてその後の2011年に発売される3DSの『スーパーマリオ 3Dランド』も、「2Dマリオは遊べるんだけど3Dマリオはちょっと難しくて……」という人のために、「2Dゲームのように遊べる3Dアクションゲーム」の方向に進んでしまっていて……確かにこれらの作品は大ヒットしたし、私のように3Dアクションゲームが好きじゃない人にはありがたい方向性だったのですが、「2Dゲームのように遊べる3Dアクションゲーム」を遊ぶくらいだったら「2Dアクションゲーム」を遊べばイイのでは?と思ってしまっていました。



 マリオが3Dアクションゲームになったのは、1996年の『スーパーマリオ64』です。
 1981年の『ドンキーコング』以降「ゲームに合わせた地形」を作り続けてきた宮本さんですから、『スーパーマリオ64』は「アクションゲームが3Dという立体空間になって出来る遊び」をたくさん組み込んでいました。その一つが「高さ」の概念です。

 最初のステージからして「山の頂上まで登る」ステージですし、逆に「雪山から滑り下りる」ステージとか、「地上と空中のリフトを行ったり来たりして仕掛けを解く」ステージとか、高さを意識するステージが多かったんですね。「高いところに登る」のは大変だけど、足を踏み外したりすると「下まで一瞬で落っこちる」みたいなことを痛感するゲームでした。



 しかし、それ故に「2Dマリオは遊べるんだけど3Dマリオはちょっと難しくて……」という人をたくさん生み、その後のマリオは「どうしたら3Dアクションゲームも遊んでもらえるんだろう」というテーマが中心になっていきます。
 そこから10年が経過した『マリオギャラクシー』『マリオギャラクシー2』『スーパーマリオ 3Dランド』といった作品はそれほど高さを遊びに組み込んだゲームではなく、「一本道」でかつ「平面の遊びが中心」のゲームになっていました。

 3Dになって「高さ」を手に入れた『スーパーマリオ64』からガラリと変わり、2D寄りのゲームになっていって「平面の遊び」に特化していった『マリオギャラクシー』以降というのは……確かに「2Dマリオは遊べるんだけど3Dマリオはちょっと難しくて……」という人を取り込むことには成功したのだけど、2Dのゲームに近づけていった結果それは「3Dアクションゲームならでは」の面白さなのか?とも思うのです。



 んで、2013年の『マリオ』、2015年の『Splatoon』、2017年の『ゼルダ』がそれぞれ「壁を登る」アクションを取り入れているという話に繋がるのです。
 2010年の『スーパーマリオギャラクシー2』や2011年の『スーパーマリオ 3Dランド』は「3Dであっても2Dのような感覚で遊べる」でしたが、それを複雑化させることなく、でも「高さ」の概念を加えて高低差のあるステージを楽しめるようにしよう―――というのが、「壁登り」なんじゃないのかと思うのです。

 つまり、「床」という平面と、「壁」という平面を合わせて、立体的なステージが出来るのだろうと。


 『マリオ64』でせっせと山を登っていたことを考えると、「壁登り」なんか出来ちゃったら「そんなことしたらゲームにならへん」となりかねない要素です。「登るのは大変、落ちるのは一瞬」なことで“高さ”を意識させていたのに、「壁を登る」のも「床を走る」のも一緒となってしまったら“高さ”の意味がないだろうと思われるかも知れません。

 ですが、『マリオ64』以降、3Dだからと毛嫌いしてきた人達を何とか取り込もうと『マリオギャラクシー』や『マリオ 3Dランド』で「高さを捨てた平面の遊び」に特化してきた歴史を考えると、「壁登り」によってようやく「2Dゲームのように楽しめる高さのある遊び」にたどり着いたと言えるのではないかと思うのです。


 
◇ 2Dなのに3Dのような感覚で遊べる『神々のトライフォース2』
 あぁ……ようやくここまで話がたどり着きました。
 この話を書きたくて走り始めたのですよ、今日の記事は。

 『マリオギャラクシー』『マリオギャラクシー2』『スーパーマリオ 3Dランド』といった作品は「3Dであっても2Dのような感覚で遊べる」ゲームとして、高さを活かした遊びというより平面の遊びが中心になっていきましたが……その逆で2Dアクションゲームなのに立体空間の遊びを取り入れたのが、2013年の3DSソフト『ゼルダの伝説 神々のトライフォース2』でした。


<画像はニンテンドー3DSソフト『ゼルダの伝説 神々のトライフォース2』より引用>

 このゲーム、ゲームとしては完全に2Dアクションゲームで……ファミコンやスーパーファミコンなどの『ゼルダ』と同様の見下ろし視点でボタン操作のシンプルな『ゼルダ』となっているのですが。



<画像はニンテンドー3DSソフト『ゼルダの伝説 神々のトライフォース2』より引用>

 「壁を登る」どころか、「壁画になる」ことが出来ます。



 このシステムによって、このゲームは「壁を意識する」ゲームになっているんです。
 壁画になっても上に登ることは出来ず横に移動するだけなんですが、「あの遠い足場は壁伝いにで行ける」とか「壁を移動すればあの窓から外に出られるな」といったカンジに、ダンジョンやマップの「壁」を意識するようになったのです。

 2Dアクションゲームは、言うまでもなく「平面の遊び」です。
 壁は移動を邪魔する障害物でしかなく、プレイヤーは「床」だけを見ていれば良かったのです。


 それは言ってしまえば、「平面の遊び」と言われた『マリオギャラクシー』などもそうだったし、カメラアングルが3Dになっても歩く場所が「床」である以上は3Dゼルダだってそうだったのかも知れないのですが――――『神々のトライフォース2』は「壁」を意識して、このダンジョンやマップの「壁」がどう繋がっているいるのかを見なければならず、私が今まで遊んだどんなゲームよりも「立体的な空間把握」が楽しめるゲームでした。2Dのゲームなのに。


 「社長が訊く」を読むと、この「壁画になるリンク」というアイディアは2010年に出ていて、その後に開発チームは一時解散状態になるのでソフトとして形になるのは2013年になるのですが……「壁を登る」ネコマリオと同じ年に出てきたというのは、何たる運命なのかと。



 『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の「壁登り」も、『ゼルダの伝説 神々のトライフォース2』の「壁画リンク」と同様かそれ以上の面白さになるだろうと期待しています。
 今まで見てこなかった「壁」を意識して、壁がどうつながっているのかを観察して、ダンジョンやマップがどういう構造になっているのか立体的に把握するのが楽しいゲームになるのだろうと思います。「壁画リンク」は横にしか動けなかったけど、「壁登り」は縦にも動けますから、これを活かしたダンジョンの仕掛けが用意されていることは間違いないでしょうし。今からワクワクしています。


 というか……ホント、ダンジョンはどうなるんですかね?
 「壁を自由に登れる」なんて、アクションパズルとして考えたら「超チート能力」だと思うんですが、それでちゃんと歯ごたえのあるダンジョンが作れるのか(単に敵が強いとかじゃなくて、仕掛けを解くのが面白いダンジョンが作れるのか)―――『ゼルダ』シリーズにとって正真正銘「当たり前が見直される」一作になると思います。

 とか言って、実際にふたを開けてみたら「ダンジョンの中だと壁は登れません!」とかだったらどうしましょう(笑)。


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