母が『逆転裁判』を楽しめなかった理由

 
<画像はNINTENDO 64 Nintendo Switch Online版『ゼルダの伝説 時のオカリナ』より引用>

※ この記事は2010年に旧ブログに書かれたものを幾つか手直しして2025年に移行した記事です


 書かねばなるまい。
 先日の「ゲーム紹介」でDSソフト『逆転裁判 蘇る逆転』を紹介しまして、あの記事では“僕の視点”から大絶賛に近い紹介をしました。自分が今年遊んだゲームの中で「面白かった順」に並べれば1位か2位になるソフトだと思いますし、そのことに何ら変わりはないのですが……




 自分の後にこのソフトを遊んだ母親は、あまり楽しめなかったみたいです。
 アクションゲームが苦手で『ドラゴンクエスト』シリーズが大好きな母ですから、新規開拓としてアクション要素のないアドベンチャーゲーム『逆転裁判』を薦めてみたのですが……
 途中「もう進めなくなっちゃったから、やることなくて、とりあえず家の大掃除を始めた」とのことでした。おかげで1ヶ月近く前倒しで年末の大掃除が終わってしまいました(笑)。うむ、これで母はゆったりとした年末が過ごせそうだぜ!



 自分は「色んな人がいるから世界は面白い」と思っているので、自分が『逆転裁判』を楽しんで、母が『逆転裁判』を楽しめなかったその違いこそが面白いと思うのです。
 自分とは違う母を見ることで、自分が自分の“好み”を知ることが出来るというか。




 『逆転裁判』シリーズのように「コマンドを選んで進んでいくアドベンチャーゲーム」のルーツは、堀井雄二氏による『オホーツクに消ゆ』『ポートピア連続殺人事件(ファミコン版)』にあります。
 その後、堀井さんは『ドラゴンクエスト』シリーズを大ヒットさせて、ゲーム業界は「アクションやシューティングゲームが苦手な人でも楽しめる」方向に広がっていくので……現代でも、アクションゲームが苦手な人にオススメするゲームとして、コマンド選択式アドベンチャーゲームや『ドラクエ』式RPGや挙げる人は多いです。というか自分もそう思ったから『逆転裁判』を薦めたワケですしね。

 でも、時間軸の順番に考えれば……
 堀井さんが『ドラゴンクエスト』を作ったのって、コマンド選択式アドベンチャーゲームの欠点を知り尽くしていたからとも言えるんですよね。その欠点を解消したのが『ドラクエ』式RPGだったというか。

 同じように「アクションゲームが苦手でも楽しめる」と思っていた二つのジャンルですが……
 その二つの間にも大きな差異があったのです。



 そんな当たり前なことも、ゲームにどっぷりハマっている自分は気付きませんでした。
 『逆転裁判』を楽しめなくて、『ドラゴンクエスト』を楽しんでいる母を見てようやく気付けたんです。



 『ドラゴンクエスト』から「戦闘」を取り除くと、コマンド選択式アドベンチャーに戻ると僕は思っています。
 やっていることは、「○○に行って」「情報を聞き込みして」「××のアイテムを手に入れて」「それを持って△△に行くと」「◆◆が現れて」「ストーリーが進む」―――と、『ドラクエ』も『逆転裁判』もほとんど一緒だと思うんです。ただ違うのは「戦闘があるか」という点のみ。


 発想は逆か。
 『ポートピア~』に「戦闘」要素を加えたのが『ドラゴンクエスト』ということか。


 話を横道に逸らしますが……
 そんなアドベンチャーゲームにマルチシナリオの要素を加えた『弟切草』は92年発売、RPGにフリーシナリオシステムの要素を加えた『ロマンシング サ・ガ』も92年発売。興味深い事例です。




 閑話休題。
 なので、自分はRPGが億劫に思えてしまう時期があります。
 ゲーム内世界で動き回りたい、ストーリーを味わいたい、手頃に爽快感と達成感を得たい、でも戦闘は面倒くさいからしたくない―――と。色んな要素が詰め込まれているジャンルだからこそ、RPGが面倒くさいなぁと思う時があるのです。




 というのが僕の意見。
 「RPGに戦闘なんかなければイイのに…」→「じゃあアドベンチャーゲームやればイイんじゃね?」→「逆転裁判おもしれー!!」。こんな流れ。自分の場合、唐突にRPGをやりたくなる時期が来るので常にそうだってワケではないんですけどね。



 でも、母は逆なんですよ。
 『ドラクエ』シリーズをやっている時も、『逆転裁判』をやっている時も、母はしょっちゅう「手詰まり」になります。「どこに進めば良いのか分からない!」「ストーリーが進まない」事態になります。
 そんな時でも「とりあえずレベル上げでもするっか!」が出来る『ドラクエ』が母は好きなんですよ。詰まった時でも「レベル上げ」は出来て、それが蓄積されて後で活かされるのが『ドラクエ』。

 『逆転裁判』のような一本道のアドベンチャーゲームだとそれが出来ないんですね。
 「どう進めば良いのか分からないし、やることがなくなった」と。仕方ないから掃除でもするか。




 実は母の場合、同じように挫折したゲームが過去にあったんです。
 バーチャルコンソールでスーパーファミコン用ソフト『はじまりの森』を薦めてみたところ、序盤で「同じことばかり言われて腹立ってやめた」と投げ出しました。ゲームボーイアドバンス用ソフト『ゼルダの伝説 ふしぎのぼうし』も「ここの進み方が分からない」と辞めてしまいました。

 それを自分は、『はじまりの森』はあまり出来の良いアドベンチャーゲームではなかったのかもなと思っていましたし、『ゼルダ』は母がアクションが苦手だからなと思っていましたが。実はこの「やることがなくなった」手詰まり感こそが本当の理由だったのかも知れません。



 「手詰まり」したなら『ドラクエ』もそこから先に進めなくなるんじゃないの?と思われるかも知れませんが……母は『ドラクエ』なら、数日経ったら攻略サイトを見ます(笑)。
 でも、『逆転裁判』ではそれはしたがらなかったんですよ。アドベンチャーゲームで「次にするべき行動」を調べちゃうと、自分で出来る要素がなくなってしまうから。答えの通りに行動するだけですから。

 『ドラクエ』の場合「次にするべき行動」を調べても、戦闘は自分でしなければなりませんし、その際には「やることないから」とやっていたレベル上げが活きるワケで―――無駄に過ごす時間がないんですよね。無駄なように思えた時間でも積み上げられるというか。



 い、いや……!
 別に「経験値」とか「レベル」みたいな数値化がされていなくても、ゲームに無駄な時間はないんですけどね。「何もない、があるのよ!」ですよ。無駄に思えた時間こそが成長に繋がっているのは、ほとんどのゲームで当てはまることなんですけどね!



○ 「手詰まり感」をどうするのか?
 例えば、『脳トレ』とか『Wii Fit』って……「このゲームモードで遊ぶためには、こっちのゲームモードをクリアしなければならない」みたいのがないんですよ。「遊んだ回数」とかでゲームモードが解放される仕様になっています。『Wii Sports』に至っては最初から全てのモードが選べるようになっています。


 この手の「色んなゲームが入っているゲーム」の場合、「このゲームで遊ぶためには、こっちのゲームモードをクリアしなければならない」みたいな仕様のゲームって結構ありますよね。そういうゲームだと「どうしてもコレはクリア出来ない!」ってゲームがあるともうそこで手詰まりになってしまいます。


 『脳トレ』や『Wii Fit』がヒットした要因の一つにコレがあると思いますが……
 この違いって、「初心者でも安心して楽しめる」のと「やり応えがない」の表裏一体なんだろうって思います。「手詰まり感」をなくそうとする流れと、「手詰まり」したのを突破するのが面白いんじゃないかよ!的な流れ。だから別にどっちが正しいとか言うつもりはないです。オイラは『逆転裁判』も『ゼルダ』も好きですから。



 元を辿れば、『ロックマン』で好きなステージから始められるのも、『スーパーマリオ3』で自分の好きなルートを進めるのも、「手詰まり感」をなくすためで―――ゲーム業界ってこの相反する「手詰まりさせない」「手詰まりさせる」の二要素の間で必死にバランスを取ってきたのかなぁと思うのです。


 ちなみに『レイトン教授』も「手詰まり感」の少ないゲームでした。
 アドベンチャーゲームの要素は「次は○○に行こう!」と教えてくれるのでそこで手詰まりになる人はほとんどいなくて、要素としては「今までに何個以上のナゾを解いているか」というチェックポイントがあるくらいでした。攻略必須のナゾもありますが、そのナゾは難易度抑え目ですしヒントメダルもあるし……

 「ゲームに不慣れな人でも楽しめるためには」を、本当によく研究しているなぁと感心します。
 母も『レイトン教授』は自力でクリアしましたからねぇ。ただ、そっちはそっちで「色んなところをタッチしなくちゃいけなくて面倒くさい」と文句を言っていましたが(笑)。性格の問題な気がするぞ、やっぱり。




 そろそろ話をまとめます。
 「ゲームに慣れていない人」にゲームを薦める際、この「手詰まり感」の要素に気を配ると違うんじゃないかと思うのです。『ゼルダ』より『マリオ』が万人受けするのは(この理由だけじゃないけど)、この要素が大きいのかもですね。

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