『ファイナルファンタジーV』と「ダッシュ」


<画像はWii Uバーチャルコンソール版『ファイナルファンタジーV』より引用
© SQUARE ENIX
LOGO ILLUSTRATION:© YOSHITAKA AMANO
「記載されている会社名・製品名・システム名などは、各社の商標、または登録商標です。」>



 もう2ヶ月前の記事なんですが……
 最近お気に入りの『枯れた知識の水平思考』というサイトさんで、興味深い話がされて。この2ヶ月、91~92年辺りのスーファミゲームについて語りたい熱が高まってしまっているので今日はこの話です。



 ドラクエのレベルが織りなすミニマルな心地よさについて

<以下、引用>
 おそらくファイナルファンタジー5というソフトは、SFCというハードで出たゲームタイトルで、もっともほかのタイトルに影響を与えたソフトだと僕は思っています。たとえば、ファイナルファンタジーのアビリティの一つ、「ダッシュ」、ファイナルファンタジー5以前にも早く移動できるRPGはあったような気もしますが(ないかも)、ファイナルファンタジー5以後は、皆こぞって移動速度あげましたよね。
</ここまで>



 引用部分だけじゃなくて、記事全部読んでもらった方がイイかも。
 『FF5』のアビリティシステムについては、卒論が1本書けるんじゃないかというほど大きなテーマだと思います。元々スクウェアは非ドラクエ的成長システムを模索していて(『FF2』『サ・ガ』『ロマサガ』などなど…)、『FF5』で行き着いた形が「レベル」と「アビリティ」の二軸の成長要素だったという。


 でもまぁ、正直それらを全部語れるほどの時間も知識もないので……
 とりあえず今日は「ダッシュ」について語りたいと思います。


 『FF5』以前にも、移動速度が速いRPGというのは存在していました。 
 『FF5』発売の前年である1991年に、当時自分の周りで『SDガンダム外伝 ナイトガンダム物語2 光の騎士』というファミコンのRPGが話題になりました。RPGなのに移動が速いぞ!と。
 いや、実際にどのくらい速かったかは微妙なんですけど、当時のRPGの水準としては異例なほど速かったんですよ。キャラがデカかったのでそれを上手く利用したとかだったんですかね。友達間でゲームを見せ合い、「ホントだ!超速ぇ!俺も買おうっと!」と多くのクラスメイトが購入したんですよ。僕も買いました。


 逆に言うと……当時のRPGは「移動が遅い」ことが「仕方がない」と思われていたんですよね。RPGとはそういうものなんだ。よく分からんけど、技術的にそれは仕方がないことなんだと。イライラするのならやらなければイイのだと。子どもながらに諦めていたのです―――


 で、『ファイナルファンタジーV』ですよ。この記事では、略して『FF5』で統一します。
 このゲームの発売直後、当時のチビッ子達にとって超カリスマだった坂口博信さんが雑誌のインタビューで「おすすめのアビリティはありますか?」と訊かれ「ダッシュ」と答えていたのです。あれは衝撃的でした。

 RPGの移動速度が遅いのは「仕方がない」ことだと思っていました。
 『FF5』も通常の移動速度は遅いんです。当時の普通のRPGと一緒でした。でも、「ダッシュ」のアビリティを装備すれば2倍の速度で移動が出来るのです。


 何が衝撃的だったかって。
 ゲームの技術としては「2倍のスピードで移動」が出来るのに。このスタッフは敢えて、アビリティ欄を一つ消費して「ダッシュ」を装備しなければ「2倍のスピードで移動」が出来ないようにしていたことですよ。
 技術が向上して「2倍のスピードで移動」が出来るようになったなら、普通は通常の移動スピードを常に2倍にすると思います。後々のRPGはそうしていますし、『FF5』『FF6』もリメイク版ではそうなっているそうです。

 でも、敢えて『FF5』はアビリティ欄を消費しなければ「2倍のスピードで移動」が出来ないようにしたワケですよ。しかも自信満々に「ダッシュのアビリティがオススメですよ」とか言っちゃう。オススメなら、アビリティ装備しなくてもダッシュ出来るようにすればイイじゃんか!小学生の自分はそう思っていました。



● 計算された『FF5』の序盤
 しかし、結果的には。
 『FF5』ほど「ダッシュ」のありがたみを感じるゲームはないんですよ。

 ここからは序盤のネタバレが含まれるので気を付けて下さいね。
 『FF5』は近い内にバーチャルコンソールで配信が決まっていますし、そこで初めてプレイしようと思っている人は読まない方がイイかも。




 まず、「ダッシュ」アビリティを持っている“シーフ”は最初のクリスタルで手に入るジョブの一つです。
 つまり、ゲームを始めた直後は「ダッシュ」は出来ないんですけど、最初のダンジョンをクリアした直後のジョブチェンジで「ダッシュ」のあるジョブを選択することが出来るんです。「ダッシュ」にこだわる人は、ここからずっと「ダッシュ」を使えるワケです。

 “シーフ”というジョブは、戦闘ではあまり役立ちません。
 最初に手に入るナイトやモンクほど攻撃力があるワケではないし、白魔道士・黒魔道士のように魔法が使えるワケではない。ただ、「ぬすむ」「かくしつうろ」「ダッシュ」などのアビリティを持っているので、戦闘以外では役に立つ“通好み”なジョブなんです。

 なので、最初のジョブを選ぶ際に―――
・効率的に戦闘が出来る磐石な布陣(例:ナイト・モンク・白・黒)にするのか
・戦闘以外の要素にも気を配るのか(シーフで「ぬすむ」「ダッシュ」、青魔道士で「ラーニング」)

の選択を迫られるワケですよ。強いだけが全てじゃない、こちらを選べばこちらが選べないというこのゲームの特徴を、ここの選択で気付かせるんです。「ダッシュ」もその一要素ですね。




 んで、今思い出してみると……このゲームってアビリティの習得順番とか、すげー計算されているんですよね。
 シーフが「ダッシュ」を覚えるのは3番目―――個人差はあるでしょうが、シーフをずっと使い続けて普通にプレイしていると2つ目のクリスタルを手に入れた頃に「ダッシュ」を覚えている計算になっているのです。

 つまり、「新しいジョブ手に入れたー!ジョブチェンジしようっと」→「あ…シーフいなくなると移動遅くなるんだっけ」→「あ、ダッシュのアビリティ覚えてんじゃん。これ装備すりゃイイや」―――新しいジョブにチェンジすることで失うものがあること&それをアビリティの装備によって補えることを教えてくれるんですよ。

 これはナイトの「りょうてもち」もそうですね。
 ナイトが「りょうてもち」を覚えて→魔法剣士やバーサーカーに装備させるというタイミングで成長できるようになっています。


 シーフの話で更に補足をすると……
 「ダッシュ」の次が「ぬすむ」なんですよ。「ダッシュ」は覚えたけど「ぬすむ」は覚えていない頃に2つ目のクリスタルを手に入れた場合、もうちょっとシーフで頑張って「ぬすむ」を覚えるか、「ぬすむ」を諦めて他のジョブにチェンジするのかという二択が迫られるのです。ホント、物凄く計算して作ってあるんですよね。




 ついでに『FF6』の話も。これも序盤のネタバレあり。
 『FF6』も「ダッシュ」のアビリティ(「ダッシューズ」というアクセサリ)を装備しないと「ダッシュ」が出来ないようになっているのですが、お店で買えるので『FF5』ほど苦労もせずに装備出来るわー……と油断をしていると。
 『FF6』は局面が目まぐるしく変わり、プレイキャラも変更されるので。「げ!このキャラ、ダッシューズ持ってないじゃん!」ということが起こりがち。これもまた「ダッシュ」のありがたみを感じさせてくれるゲームでした。



 『FF5』『FF6』以降、RPGの移動速度は速くなりました。
 「起源」はこの2作品ではないと思いますが、「普及させた」のはこの2本を含むスクウェアのRPGだったんじゃないかと僕も思います。『ロマサガ2』は確か、「ダッシュは最初から出来る」「でも、ダッシュ中は視野が狭くなる」みたいな要素があったはず(未プレイなので自信はないです)。

 ゲームは便利な方、便利な方に進化していくのでそこに不満はありませんし歓迎しているのですが……その契機となった当時のスクウェアRPGは、「ダッシュ」にリスクを背負わせていたのは興味深い話ですね。



◆ 相変わらずの余談。
 「スーファミのRPG」と「ダッシュ」でもう一つ思い出したソフトがありました。


 『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』。
 これもまた序盤のネタバレですけど。
 ディスクシステムで話題になった『ゼルダの伝説』がスーファミでパワーアップして戻ってくるというこの作品は、多くの「スーファミでしか実現できなかった(=ファミコンでは出来なかった)要素」を含んでいました。その内の一つが、まさに今回の記事で話題になっている「ダッシュ」だったと思います。

 『神トラ』もまた、最初は「ダッシュ」が出来ません。
 (発売は『神トラ』の方が『FF5』よりも1年早いです)
 しかし、本格的なダンジョンを一つクリアした直後、かなりの序盤で「ダッシュ」が出来るようになります。そこで「ダッシュ」のトンでもないスピードを体感するとともに、「スーファミってすげええ!!こんなことまで出来るのかよ!」と実感出来るのです。

 恐らく、これは意図したことだと思います。
 喩えばこの次の作品である『夢をみる島』は中盤まで「ダッシュ」が出来ないんですよ。逆に、序盤で覚えるのは「ジャンプ」。「今度のゼルダはジャンプが出来るんだ!」と驚かせるんですね。



 これは「ゼルダイズム」というか「宮本イズム」というか。
 『トワイライトプリンセス』の「奥義」の取得順番を変更させた経緯―――当初は「盾アタック」を1番目に覚える順番だったのだが、宮本さんが「そんな地味な技を1番目にするなんて!」と「とどめ」に変更させたという話からも、こういうところを重視しているのだと分かります。

 「一番見せたいもの」は出し惜しみをしない、と言いますか。




 スーファミ初期って夢がありましたよね。
 この新しいゲーム機はこんなことが出来る!こんなことも出来るんだ!と、遊ぶ側も驚きの連続でした。別に僕は懐古主義者でもないですし、今のゲームも凄く面白いと思いますが……
 『枯れた知識の水平思考』さんの表現を借りるなら、当時はレベル5がレベル10くらいに上がる衝撃度だったのに対して、今のゲームの進化はレベル80がレベル90くらいに上がったけどそれを実感出来る人は限られているみたいなところがあるのかなぁと。


 つーか、前回の記事が『ドラゴンボール』で、今回の記事が『ファイナルファンタジー5』って。
 このブログは一体いつの時代を生きているのだと思いますよね。




―2025年追記―
 2009年当時、どうして書かなかったのかイマイチ覚えていないのですが……
 『FF5』よりも『ナイトガンダム物語2』よりも前に、ファミコンのRPGで「移動速度が速い」ゲームはありました。

 カプコンの『天地を喰らう』(1989年)です。
 私は自分ではプレイしていないのですが、兄がプレイしているのを後ろから見て驚いたのを覚えています。
 ただ、続編の『天地を喰らうII 諸葛孔明伝』(1991年)になると、通常時は他のRPGと同じくらいの移動速度で、あるアイテムを装備すると前作と同じくらいの移動速度になれるという仕様に変わりました。

 当時はその仕様を「悪くなった」と兄が言っていたし、ゲームカタログにも「改悪」と書かれているのですが……意図としては、『FF5』や『神トラ』に近いところを狙っていたと思うんですね。
 ただ、それが「装備したキャラが一時離脱すると移動速度が遅くなる」仕様だったために、「移動速度が速くなった嬉しさ」よりも「移動速度が遅くなったストレス」の方が印象強くなってしまったのかなぁと。


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