テレビアニメ『殿と犬』レビュー/「Live2Dでもアニメが作れる」のではない、「Live2Dだからこんなアニメが作れる」んだ


<画像はテレビアニメ版『殿と犬~わんわん!~』第十五話より引用>



<2025年4月1日現在『殿と犬』が見放題になっているサブスク>
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『殿と犬』
・形式:テレビアニメ(全24話で完結×4バージョン)
    2024年10月~2025年3月に放送
・原作者:西田理英(Twitter
・原作:漫画(COMICポラリスで連載中
    2021年3月~連載中、コミックスは現在4巻まで発売

・制作:OLM × Live2D Creative Studio
・監督:春日森春木(Twitter



【苦手な人もいそうなNG項目の有無】
※ 苦手な人もいそうなNG項目があるかないかを、リスト化しています。ネタバレ防止のため、それぞれ気になるところを読みたい人だけ反転させて読んでください。
※ 記号は「◎」が一番「その要素がある」で、「○」「△」と続いて、「×」が「その要素はない」です。

・シリアス展開:×(終始平和)
・恥をかく&嘲笑シーン:×
・寝取られ:×
・極端な男性蔑視・女性蔑視:×
・白人酋長もの:×
・動物が死ぬ:×
・人体欠損などのグロ描写:×
・人が食われるグロ描写:×
・グロ表現としての虫:×
・百合要素:×
・BL要素:×
・男女の恋愛:△(男児が女児にときめく描写はある)
・ラッキースケベ:×
・セックスシーン:×



◇ 作品性:犬かわいい!猫かわいい!女児かわいい!殿もかわいい!作品のすべてがかわいい!

 このアニメは2024年秋から放送されていたショートアニメ(5分枠で放送されていた1話2分半くらいのアニメ)です。
 全24話で、後述しますが4バージョン放送されているので、全部観ようとすると96話にもなります。内容はいっしょなので、自分にしっくり来た声優さんのバージョンだけを観る―――というので構わないと思います。

 このアニメ、アニメとして「革新的なこと」をやっていたのでそこについて語りたいのですが……ですが、それを語る前にまず大前提として。


 「話と設定が面白い」という原作の力は語っておかなくちゃなりません。



<画像はテレビアニメ版『殿と犬~わんわん!~』第三話より引用>


 主人公は、没落した戦国大名の「殿」十文字重虎―――
 かつては多少の領地と信頼できる家臣を持っていたみたいですが、現在は泰平の世で貧乏長屋で暮らしています。この厳つい顔をした男が、




<画像はテレビアニメ版『殿と犬~わんわん!~』第八話より引用>


 なんか変な犬を拾ってしまって、いっしょに暮らすというお話です。
 この作品の舞台は、恐らく戦国時代が終わった後の江戸時代初期くらい(特に明言はされていませんが)。こういう足の短いコーギー犬は非情に珍しい存在だったと思われます。


 この手の「おじさん」×「動物」の組み合わせは一つの鉄板と言えます。
 ドラマ化もされた『おじさまと猫』(2017年~)や、アニメ化もされた『佐々木とピーちゃん』(2018年~)など、媒体を問わず多く描かれていると思います。

 「見た目のギャップ」が面白いのが1つと、
 もう1つには、「既に人生経験を積んだおじさんの包容力」×「自由奔放かつ本能に忠実なケモノ」の組み合わせがベストマッチでいろんな話が作れるからなのかなぁと思います。キャラ配置の構造的には『よつばと!』とかに近いカンジ。


 この『殿と犬』もそうした魅力を持っているのですが、それだけでなく……
 時代劇のキャラのような「殿」と、現代風な見た目の「犬」の、時代も国も飛び越えている感のある組み合わせも面白いんですね。
 「殿」みたいな人は現代日本では流石にもういないだろうし、こんな牧歌的な暮らしはもう出来ないだろうけど、「犬」はいつの時代も「犬」なので、現代に通じる動きをするのがイイのです。

<画像はテレビアニメ版『殿と犬~わんわん!~』第十話より引用>




 「でも、私……犬より猫派なんで……」という人も安心してください!

<画像はテレビアニメ版『殿と犬~わんわん!~』第十四話より引用>

 猫もかわいいんです!
 動物同士は「会話」をするのだけど、故あって「犬」だけは台詞がありません。この「犬は何を考えているのか人間には分からない」は、「殿」の気分なのでこれが正しいと思います。




<画像はテレビアニメ版『殿と犬~わんわん!~』第五話より引用>

 幼女もかわいい!
 貧乏長屋には「殿」以外にもたくさんの住人がいるのだけど、みんな明るくて元気で、活気に満ちているのがイイです。




<画像はテレビアニメ版『殿と犬~わんわん!~』第十五話より引用>

 犬好きの男もかわいい!
 そして、出てくる登場人物のほとんどが、(この時代の人達からしたら)珍妙な見た目の「犬」にメロメロなのもイイところ。




<画像はテレビアニメ版『殿と犬~わんわん!~』第十六話より引用>

 そして、もちろん「殿」が一番かわいい!
 見た目は厳ついけど奔放な犬に振り回されている姿がまず愛らしいし、戦国大名だった頃は「家臣想い」だったからか妙に面倒見がイイし、キャラクターとしてむちゃくちゃ魅力的なんですね。

 アニメとして劇的な何かが起こるワケではないけど、ずーーっとこの世界を眺めていたい作品でした。




◇ 革新性:ほとんどがLive2Dで作られた初めての商業アニメ

 さて、このアニメ……
 商業作品としては初めてと謳われる「全編Live2D制作」のアニメーションです。


 Live2Dとは何ぞや?という人もいらっしゃるでしょうから、1から説明しましょう。
 株式会社サイバーノイズ(現在は株式会社Live2D)が開発した、2Dのイラストをアニメーションのように見せる技術、またそれを行うソフトのことです。

 ゲーム業界では2011年のPSP用ソフト『俺の妹がこんなに可愛いわけがない ポータブル』に採用されたことで注目を集め、その後多くのソフトに採用されることになります。
 時代的にも、その後にスマホのゲームが主流となるのですが、「立ち絵を動かす」ことのコストと効果のバランスが良かったのか、私ががっつりとプレイしたスマホゲーの半分くらいはLive2Dを採用していたんじゃないかと思います。

・バンドリ! ガールズバンドパーティ!
・アズールレーン
・プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク
・D4DJ Groovy Mix
・東方ダンマクカグラ

 『バンドリ』は特に、『殿と犬』を制作したLive2D Creative Studioが制作に関わっていたそうで感謝しかない!


 更に、近年ではYouTubeの配信画面にアバターを表示する人も多いと思いますが、2Dの立ち絵を動かす技術にLive2Dを使っている人もたくさんいますね。こちらでも「夢限大みゅーたいぷ」が制作実績に載っていました。ま、マジで感謝しかない……!

 ということで、私としてはひじょーーーーーに馴染み深い、毎日のように見ているLive2Dなのですが。『殿と犬』のアニメを観ていても、しばらくは「Live2Dで作られている」だなんて分かりませんでした。
 「やけに動物の動きが可愛いアニメだな……」くらいで、他のアニメと同じような作り方をしているのだと思っていました。


 しかし、制作会社の欄を見ると、アニメーション制作の大手「OLM」(『ポケモン』や『アイプリ』を作っているところ)といっしょにLive2D Creative Studioの名前が載っていて「ん?」と思ったんですね。
 Live2Dは、株式会社サイバーノイズ(現在は株式会社Live2D)が開発した技術やソフトのことであって、その気になれば私でもLive2Dを活用したモデルを作ることが出来ます。みなさんにイメージしやすい例えで言うと、「ボーカロイド」とか「初音ミク」みたいなものですね。ソフトを買えば、誰でも初音ミクさんに歌わせることが出来る。


 Live2D Creative Studioは、株式会社Live2Dの中にあるスタジオです。
 Live2Dを活用することに誰よりも詳しい立場の「Live2Dのプロ」によって様々な創作活動をして、Live2Dってこんなことも出来るんだぜと活用方法を見せているスタジオだと思います。
 先の例えで言うと、「初音ミク」のソフトを販売しているクリプトンが、自ら自分達で作曲して初音ミクに歌わせている―――みたいなことをやっているんですね。


 この『殿と犬』も、「Live2Dでアニメが作れる」という技術デモのような側面もあったのだと思いますし……全身モフモフの毛で覆われたコーギー犬が、Live2Dで表現するのにピッタリだったのだと思います。
 普通の手描きアニメだったら、毛の動きを1枚1枚ちゃんとアニメーターが描き分けなくちゃならないのでしょうが。Live2Dならばパーツごとに描き分けて、後からパラメーターでそれぞれのパーツの動きを調整できるため、より自然な毛並みの動きが表現できているのだとか。


<画像はテレビアニメ版『殿と犬~わんわん!~』第四話より引用>



 手描きアニメしかなかった頃、楽器の演奏シーンをアニメで表現するのは不可能だと言われていた(だからこそ、それをやってのけた京都アニメーションはすごかった)のだけど……3DCGアニメの技術が向上してテレビアニメでも普通に使われるようになって、「音と映像を合わせる」ことのハードルが下がって、『バンドリ』や『ガルクラ』が生まれたように。

 Live2Dアニメのノウハウが溜まっていくと、今まではアニメーションには向いていなかった動きを表現できるようになるのかも知れませんし……この『殿と犬』は、そのブレイクスルーになるのかなと思いました。



◇ 話題性:「殿」の声優さんは4人!それぞれ放送枠も番組名も違っていた!なんで!?

 さて、このアニメにはもう1つ大きな特徴があります。
 それは……主役とも言える「殿」の声優さんが4人いることです。全話観終わった後でも、「どうしてこんなことしたの??」とよく分かりません!



『殿と犬~わんわん!~』:「殿」の声優さんは大塚明夫さん
 東京MXだと毎週木曜21:54~
 MBSだと毎週木曜26:30~
 U-NEXTだと毎週木曜22:30~

『殿と犬~ぽてぽて!~』:「殿」の声優さんは杉田智和さん
 東京MXだと毎週金曜19:26~
 MBSだと毎週金曜27:23~
 U-NEXTだと毎週金曜20:00~

『殿と犬~くんくん!~』:「殿」の声優さんは武内駿輔さん
 東京MXだと毎週日曜18:55~
 MBSだと毎週月曜27:15~
 U-NEXTだと毎週日曜19:30~

『殿と犬~もふもふ!~』:「殿」の声優さんは相葉雅紀さん
 東京MXだと毎週月曜25:00~
 MBSだと毎週火曜28:00~
 U-NEXTだと毎週月曜25:30~



 んで、この4人の主役声優さん……全員めっちゃ豪華!


 全部を確認したワケではないのですが、恐らく「主役の声優」さんがちがう以外は内容はいっしょだったと思われます。

 ゲームとかだと、キャラクターの声を「複数いる声優さんの中から選ぶ」ことが出来るものはなくはないです。
 例えば、東方Projectの二次創作ゲーム『東方LostWord』は、「原作には声がないので、プレイヤーの数だけキャラの声のイメージはちがうだろう」ということで、声優さんが3人設定されていて、その誰かorボイスなしで自由に選べました。


 しかし、アニメで……しかも、新作アニメで声優さんが複数設定されていて、好きな声優さんのバージョンを選んでイイよという作品は聞いたことがありませんでした。
 『ポプテピピック』はAパートとBパートで声優が変わること&それが事前に明かされていないことで、「この声優は誰だ?」とSNSで話題になることを狙っていたのでしょうから……『殿と犬』のケースとはちょっとちがうと思うんですね。


 個人的には、「全部のアニメに採用して欲しい」とは思わないんですが、『殿と犬』では割と当たりだったかなと思います。
 1話2分半のアニメで「繰り返し何度も観たい」魅力を持った作品なので、観返すたびに「今日は相葉さんのバージョンにするか」「今回は武内さんでいくか」と選べる楽しみがあると思うんですね。比較するというより、ループごとに主人公が変わっている感覚というか。



 ただ、サブスクだとこういう作品って扱いが難しいみたい。
 U-NEXTは最速配信だったため、4つのバージョン(大塚明夫 Ver.杉田智和 Ver.武内駿輔 Ver.相葉雅紀 Ver.)がそれぞれ別番組扱いになっていました。

 HuluAbemaプレミアムなどは、同じ番組扱いですが、それぞれのバージョンごとに分かれて並んでいるので観やすいですね。これは理想の形。

 FODは大塚明夫さんのバージョンを1~24話まで並べた後、杉田智和さんのバージョンを1~24話まで並べる……という構成。まぁ、悪くはないけど、大塚さんのバージョン以外を観ようとすると面倒だしネタバレを踏みそう。

 あまり良くないのはAmazonプライムビデオdアニメストアDMM TVなど。
 これは「1話(大塚明夫 Ver.)」「1話(杉田智和 Ver.)」「1話(相葉雅紀 Ver.)」「1話(武内駿輔 Ver.)」「2話(大塚明夫 Ver.)」「2話(杉田智和 Ver.)」「2話(相葉雅紀 Ver.)」「2話(武内駿輔 Ver.)」と並んでいて、すっげー観づらい! そういう順番で観たいやついねえだろ!

 最悪なのはTELASAです。
 他のサブスクだと1話2分半くらいの尺なんですが、TELASAだけ1話10分強でどういうことなのかと思ったら……1話の中で「大塚明夫 Ver.→杉田智和 Ver.→武内駿輔 Ver.→相葉雅紀 Ver.」と4つのバージョンが続けて再生されるようになっているんです。
 例えば相葉さんのバージョンだけ観たいって人は、その前に同じ話を3人のバージョンで観てからじゃないと再生されないんです。これをヨシとした担当者、三徹くらいしていて眠すぎて何も思考できない状態でこうしちゃったんじゃないかと心配になるレベルですよ! 寝ろ!




◇ 総括

<画像はテレビアニメ版『殿と犬~わんわん!~』第十三話より引用>


 新しいことをしようとした革新性だけじゃなく、牧歌的でかわいい世界観を見事にアニメで表現した良作でした。ものすごく話題になる「覇権アニメ」とかではないと思いますが、繰り返し何度も観たい大切なアニメになりました。

 1期24話でもキレイにまとまっていますが、原作はまだまだ続いているので、アニメ2期もやって欲しいし、原作も買っちゃおうかなーと思っています。犬かわいい! ずっと観ていたい!




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